試合の後にって素敵やん
控室ではパニッツによるインタビューが行われていた。
俺らが来るまでバカ騒ぎをしていた連中とは思えないほど、品位のある受け答えで聞いてて耳がこそばゆくなった。
だからという訳でもないが、俺はインタビューをしてる連中とは少し離れたところで座って一息つくことにした。
テーブルに並べられている飲み物を手に取りベンチに座る。
飲み物を一口飲む。
ノンアルかよ。
あいつらソフトドリンクであんだけはしゃいでたのかよ?
う~む、若いって凄いね。
「それで、そちらはどうだったのです?」
クランケルが俺の隣りにスッと座った。
「ああ、色々あったよ。どこまで聞いてるかわからんけども…」
俺は今日あった事をざっくり説明した。
「…そんな訳でさあ、全然、試合観れなかった訳よ」
「……」
「なに?どした?難しい顔をして」
俺は黙りこくっているクランケルに尋ねる。
「いや、やはりついて行くべきでしたね」
「なんだよ、ファブニルと一戦交えたかったってか?それともキーケちゃんの戦いっぷりを見たかったか?」
「それもありますけどね、一番気になるのは君の話の進め方ですよ。一癖も二癖もある連中相手に駆け引きで勝利する、そのやり方は格闘にも反映されています。私はそのやり方を身に着けたい」
「な~に?真面目な顔しちゃって~?僕、言ったよねえ?真面目に考えてちゃあクルポンの立ってる場所には立てないって。それにクラちんにはクラちんの強みがあるんだから、無理にクルポンのマネしようとすると本来の強みが薄れちゃうよ~」
いつの間にかやってきたコラスがクランケルの背後からしなだれかかる。おいおい、クランケルにそんな事ができるのはお前だけだよ。
これはさすがにクランケルも切れるか?
「そう言って貰えるのは非常に嬉しいのですが、甘い意見にばかり耳を傾けていては成長できませんからね。参考までにとどめておきます」
「まったく、頑固なんだから~クラちんは~」
コラスは軽い調子でそう言いクランケルから離れると俺の隣りに座った。
「で、もう心配はない感じ?」
コラスは俺を見て言う。
「ああ、試合も終わった事だし、チョッカイかけてきた各所には納得も得心もして頂いたからねえ」
俺は言ってやる。
「それですよ、それ。理屈で納得させ尚且つ気持ちでも得心してもらう。力のごり押しだけでなく相手自ら吸い込まれるようにその場所に行ってしまう、そして誘導された事にも気づかない。これはある意味、武の極み、戦わずして勝つに通ずるものがあると思うのですが」
「「ないないない」」
クランケルの意見に対し俺とコラスの声がハモった。
「うっ、そうですか?ううむ、こういう所がコラスさんのいう所の考えすぎて迷走してしまうというやつなのでしょうか」
「少なくとも今の意見はそうだね」
俺の言葉に項垂れるクランケル。
「まあまあクラちん。とりあえず危機は去ったんだし今夜のパーティー楽しんじゃおっ!ね?」
「そうですね、少し肩の力を抜いてみます」
コラスとクランケルの間でおかしなパワーバランスみたいなものが出来上がりつつあるのを横目に、ドギューズへのインタビューは続く。
マー、みっちょん、ベーヤンはわかるけど、ソロ、シーボー、それにメイとジンジャーまでもが浮かれ放題浮かれていた。
まあ、ここまで来るのは長かったからなあ~。
みんな色々あったし浮かれるのも仕方ないか。
「みんな盛り上がってるねえ~」
「これまで皆さん、とても頑張ってましたからね。素直に祝福しますよ」
「まったくだな。さすがにもう何もないだろうし、チャリティーパーティーはゆっくり楽しめそうだなあ」
コラス、クランケルの言葉に俺も気を抜いて言う。
「さあ、それはどうだろうねえ。クルポンのいる所にトラブルあり、トラブルある所にクルポンあり、と言われてるからね~」
「誰がじゃい!」
俺はコラスにツッコむ。
「ふふふ、ですが気を緩めるにはまだ早いかも知れませんね」
「なんでだよ?チョーズン派も右派もなんなら覇連研まで話はついてんだぜ?後、どこが何のためにチョッカイかけてくるってんだよ?」
俺はクランケルに問う。
「それはわかりませんが、なんとなくそんな気がするんですよ」
クールに言うクランケル。
「クラちんの勘は鋭いからね~、ここは気を抜かずにいたほうが良いかもね~」
「お前は常に気が抜けてるだろーが」
「それが僕のチャームポイントだからね~」
頬に指を当ててとびきりのスマイルを見せるコラス。
「かわいくねーっつーの」
俺は毒づく。
コラスはまったく堪えずまたまた~と俺を突っつくのだった。
「いやークルース君、ありがとう。さっそくファルブリングに帰って記事にするよ」
「なんだよパニッツ。パーティーに出ないのかよ?」
「ああ、すぐに記事にしてそのままファルブリング夜会で配るんだ」
「なに?夜会?」
「ああ。フルポアの生徒も来ているからね、懇親会みたいなものだ」
「なるほどな、んじゃパニッツはそっちに出るんだな?」
「ああ。こっちのパーティーにはまた別の人間が来ると思うから、よろしく頼むよ」
「ああ、わかったよ。んじゃ気をつけてな」
「ではまた」
パニッツはメモをカバンにしまうと振り返る事もなく退出していった。
パーティーにはフィールドかブランシェットでも来るのかな?またやかましくなりそうだな。
「うしっ!それじゃみんなホテルに行くよっ!」
嬉しそうなマーの声が室内に響く。
「キャッホーーー!」
「サイコーじゃん!」
「ラッポダリーカですって!」
「信じらんないっす!」
「うっそみたい!」
「ちょっとつねってつねって!」
女子達のテンションがマックスになってる。あのジト目系クール女子シーボーすら頬をつねって貰ってホクホク顔になってるよ。
「なんでそんなに喜んでるの?」
「ラッポダリーカと言えば最高のサービスと最高の施設で知られた一流ホテルです。喜ぶのも無理はないですね」
そう説明してくれるケイトだったが、すでに荷物をまとめてすぐにでも出れる態勢である。
「むむむ、ケイトですら浮かれ気分とは」
「女子はそういうの好きだもんねえ~。ちなみに僕たちは別のホテルよん」
コラスが聞き流せない事を言う。ちょっとちょっと、それどういう事よ?男子差別?許されないんですけど?
「え?マジで?何それ?」
「そりゃそ~でしょ~、選手と監督の特権だもんね~」
「俺らだってマネージャーだってーの」
「でも実際にやってる事は警備ですからね。本当のマネージャーの仕事は一切やってませんから仕方ないですよ」
俺の不満にクランケルが正論で答える。
「じゃじゃじゃじゃじゃあ、俺たちどうするんだよー。まさか野宿とか言わないよな?」
「ぷっ、なにそれ?口尖らせちゃっておっかしー。野宿でいいじゃーーん。男三人で野宿も楽しいよ?夜は焚火囲んで恋バナに花を咲かせよーよ」
切ない事を言うコラス。
「おいおいおいおい、勘弁してくれよ。俺たち、そこそこいい仕事したよな?な?クランケル?な?な?」
俺はクランケルに詰め寄る。
「うっ、凄い圧ですね」
クランケルが仰け反る。
「コラス君の冗談真に受けちゃってジミーさんたら受けるんですけど~」
そう言って俺の背中を叩いたのはフーカさんだった。
「え?冗談だったの?」
「そうですよ。闘技場の宿泊施設は昨晩の騒ぎでメンテ中と言う事で、近くにある別のホテルを学生や関係者向けに解放してくれているので我々はそちらに行きましょう」
フーカさんが笑顔で言う。
「そうなの?なんだよコラス、びっくりさせんなよなー」
「てへへ」
かわい子ぶるコラス。
「しかし、そうなったらそうなったで向こうのホテルの警備が気になっちまうな」
「その心配はないですよ。ラッポダリーカは元老院終身議員を務めるカッシオウス・ラッポダリーカの親族が経営するホテルです。ここでの揉め事は場合によってはラッポダリーカ一族のみならず元老院を敵に回す事になりますからね。裏社会だろうと海外勢力だろうと迂闊に手は出せませんよ」
「ならいいけど」
フーカさんが説明してくれる。そんなホテルなら安心だな。そこでの争いは絶対禁止、厳しい掟によって守られるホテルってのはちょっとそそられるものがある。特別な金貨でなんでもやってくれそうだな。
「それじゃ、とりあえずその解放されてる別のホテルとやらに行こうか」
「そうしましょ、そうしましょ、そうしましょったらそうしましょ」
俺の言葉にコラスが歌うように続ける。
お前は村を出て都会に行こうってのか?都会でベコでも買おうってか?




