勝っても負けてもって素敵やん
ここまで来たら試合結果よりも、やり抜いた事に価値がある。
人数も足らない弱小チームが仲間を見つけ、ここまでやって来たんだ。
俺はそう自分に言い聞かせながら試合会場へ戻る。
勝っても負けても良くやった。
そう自分に言い聞かせないと怖くて仕方がない。
自分事より緊張する。
グラウンドが見える客席へ足早に近づく。
観客の拍手と歓声が音波のように身体を打つ。
グラウンドでは両選手が並びお互いをたたえ抱き合う姿が見える。
ああ、これだけで十分だな。
俺は満足するが、やはりスコアを見ない訳にはいかないよな。
恐る恐るスコアボードに目をやる。
五対四。
ドギューズの勝利だった。
「やった!やった!」
俺は思わず喜んではしゃぎ、ヤスミーナさんの手を取ってしまう。
「あ、スイマセン。ヤスミーナさん、フルポアでしたね」
俺はすぐに気づいて手を放し謝罪する。
「いいんです、今回の試合を完遂するためにお互い頑張りましたもんね」
ヤスミーナはそう言って握手を求めた。
「ですよね」
俺はそう答えて差し出された手をぎゅっと握った。
ふと周囲を見るとフルポアの生徒とファルブリングの生徒が握手しハグし合っている姿が目に入る。
「ほとんど試合は観られなかったけど、良い試合だったって事はわかりますね」
俺はヤスミーナさんに言った。
「ええ。本当に」
「先輩!試合を観た両校の理事がいたく感動され、選手を招いたチャリティーパーティーを開くと言っています」
俺を見ながらしみじみと言うヤスミーナさんの元にひとりの女生徒が走り寄り声をかけた。
「わかりました、すぐ行きます。ではクルースさん、パーティー会場でまたお会いしましょう」
「ええ、また」
やって来た女生徒とあわただしく去って行くヤスミーナさんに俺は軽く手を上げて挨拶する。
忙しい人だなあ。
俺は観客席にとどまり感動冷めやらぬ試合会場の空気にしばし浸る。
なんとか無事に終える事ができたな。
「ご来場の皆さまにお知らせいたします。本日、夕刻よりスタンバドル庭園にて両校の健闘を称えパーティーを行います。入場料金はナルエール騎士団により第六次ジャーグル侵攻戦災復興資金へと寄付されますので皆さま、奮ってご参加ください。お知らせいたします、本日夕刻…」
場内にアナウンスが流れる。
第六次ジャーグル侵攻とは、俺たちも関わったアルロット領、トーカ領、ビリガント領の三領にジャーグルが侵攻した先の戦争を指す。
そりゃいい事だ。
お偉いさん達も粋な事をしなさるじゃないの。
俺は感心するのだった。
「おお!探したぞ!あれからどうなったのか詳しく教えてくれたまえ!」
俺を目ざとく見つけたパニッツが興奮気味に言う。
「おう、外でな…」
俺は事のあらましをパニッツに伝える。
ただし、抗議活動が収まった理由についてはたまたま居合わせたスプレーンとその友人が誤解を解いてくれためという事にしておいた。
現時点で覇連研の事を必要以上に責め立てるのは悪手だろう。
今後の動き次第では実際の事情をリークする事も考えられるが、まあ、そこまで心配する事はなかろう。
「ふうむ、たまたま偶然ねえ」
パニッツが疑わし気な表情で俺を見て言う。
「まあ、君にも立場というものがあろう、今はそれで良いとしよう。それでという訳でもないのだがドギューズにインタビューをしたいのだがね、君ならなんとかできるのではないか?」
パニッツは愛嬌のある顔でそう言って俺を見る。
「ああ、それぐらいならお安い御用だ」
俺はそう答えパニッツを連れ控室に向かった。
「押さないで下さい!押さないで下さい!ただいま選手は試合直後で非常に疲れているためすぐには出てきません。選手に会いたい方はこの後、闘技場中央広間にて改めて会見が行われますのでそちらの方で願いします!通路にお集まりになると危険です、こちらでは立ち止まる事なくお願いします。あ、そこ!押さないで下さい!」
控室前は人でごった返しており、警備班の生徒が大きな声でアナウンスをしていた。
「う~ん、こりゃ入れそうもないな~」
「え~?そりゃないぞクルース君」
パニッツが残念そうな顔をするが、この状況じゃ仕方ねーだろ?
「ちょっとクルポン!こっちこっち」
通路の角からこちらをひょっこり覗いて手招きするのはコラスだった。
俺とパニッツはそそくさとパニッツに近寄る。
「なにやってんのよクルポーン?ケイトちんが探してたよー?」
「いや、色々あってさ。お前も締め出された感じ?」
「違うよクルポン探しに来たんじゃない。もう、あんまり世話かけないでよね~」
「悪い悪い」
「んじゃ、みんなんとこに戻るよ。パニッツ君も来るっしょ?」
「あ、ああ。いいのかね?」
コラスから突然ふられたパニッツは困惑して答える。
「だって新聞部から頼まれてるんでしょ~?大丈夫だから一緒においで~」
「ありがたい」
パニッツが短く答えるとコラスは笑って通路を先に進んだ。
「おい、控室じゃないのか?」
「こっちから回れるのよん」
コラスは軽い調子でそう言うと通路をスルスルと進み、何のプレートもついてないトビラを開けて中に入る。俺とパニッツも後に続く。
部屋の中は配管むき出しの物置となっていた。
薄暗い物置を進むと新たなトビラが見えた。
コラスはそのトビラを無造作に開く。
「ったな!うち達、本当にやったよね!」
「おらおらおら!もっと飲め飲め!」
「無理無理無理っす!そんなに飲めないっす!」
「これ、マジ注目の的じゃね?」
「モテ期キターー!!」
「誰でもお金貸してくれるに違いない」
「コラコラ、ろくでもない事考えない」
黄色い声がワッと俺たちに襲いかかる。
「うわっ!賑やかだな!」
「コラっちぃ~!どこ行ってたにょ~」
みっちょんがコラスの腕をとりしなだれる。
「敏腕マネージャーと記者さんを迎えに~」
「えっ?どこ?どこどこ敏腕マネージャー?見えないんだけど?」
マーが目の上に手を当ててキョロキョロと周りを見渡す。
「敏腕じゃなくてポンコツならここにひとりいる」
シーボーが俺を指差す。
こいつめ~。
「まあまあ、クルポンだって色々忙しかったんだからさ~、そんなにイジメないであげてね~。それよか、パニッツ君がみんなにインタビューしたいんだってさ~」
コラスが話題を逸らしてくれる。
「何々?インタビュー?マジで~?これでうちらも有名人みたいな~?マジ、アガルんですけど~」
「ややや、ヤバいっす。ヤバいっすよー。そんなの、そんなの無理っす!有名人とか無理っす!」
ベーヤンがケラケラ笑うとソロがビクつく。
「いや、そんなに先走られては困るが。まずは皆さん、親善試合の勝利おめでとうございます」
「「「「「「「あざーーっす」」」」」」」
パニッツの言葉に全員揃っての挨拶をするドギューズメンバーだった。
ったく、浮かれるのもわかるけど、ほどほどにな。




