結局何の妨害やねんって素敵やん
ヤスミーナさんに居場所を聞いた俺はジェニファー・スプレーンの元へ急いだ。
大胆にもザクフォードのとっていたビップ席のすぐ近くだった。
「こちらは指定席です」
スプレーンのいるビップ席前には生徒の警備ではなく屈強な男がふたり立っており、入ろうとする俺を制した。
「スプレーン氏の招待でね」
「お名前は?」
「クルース、トモ・クルース」
短く答えると警備の男のひとりは部屋の中に入る。
残った一人は俺の方を見ず通路を見ている。
俺の事なんて歯牙にもかけていないのか、それともハッタリ半分で言った招待客だというのを信じてるのかな。
「どうぞ、お入りください」
戻ってきた男がそう言って俺を促す。
言ってみるもんだね。
「ありがとさん」
俺は警備の人に挨拶をして部屋に入る。
ビップ席にはジェニファー・スプレーンと見知らぬ男がおり優雅にグラスを傾けていた。
「どうされました?うちに来る気になったのかしら?」
スプレーンは俺の方を見ると微笑みながらそう言った。
猫被りやがって。
「いや、今日はちょっと話し合いたい事があってね」
スプレーンの横で鋭い目つきでこちらを見ている男を一瞥して俺は言う。
「こちらはスティーブンソン伯爵。伯爵、彼が例のクルース君」
「どうも、大バッグゼッド帝国中央覇道連合研究所北バッグゼッド支部長ネイサン・スティーブンソンです。お噂はかねがね」
スティーブンソンは挑戦的な眼差しで俺に言う。
まったく、大胆不敵、盗人猛々しい、厚かましいにもほどがあるぜ。
「トモ・クルースです。これはこれは、かの名高き覇連研の大物幹部さんとお知り合いになれて光栄ですよ」
俺はスティーブンソンの目を真正面から見据えて言ってやった。
「それで、どういったご用件で?」
スプレーンがニヤツキながら言う。
「外のバカ騒ぎを何とかして貰おうと思ってね」
「外で何か起きているの?ベリンボールファンが熱くなっちゃてるのかしら?」
「またまた、おふたりさん程の情報通なら知らない訳はないでしょう」
すっとぼけているふたりの顔をしっかり見ながら俺は言ってやる。
「知っていたとして、なぜここに?」
スティーブンソンが粘着質な目で俺を見る。
お前らが後押ししてんだろうが!と心の中で思ったがこいつの目はその言葉を待っているように見える。
どうせ動かぬ証拠がある訳でもなし、しらばっくれ続けて場合によっては名誉を傷つけられたと声高に叫んでも良い、いずれにしても下手につつけばお前の不利になるぞ、と言わんばかりの目をしているスティーブンソン。
こりゃ、ストレートで責めるのはやめとくか。
「いやね、あんた方は顔広いでしょ?ラブート商会さんとも知り合いかなと思ってね」
「知り合いだったら何だと言うのだね?」
こちらの失言を手ぐすね引いて待っているのがありありと伝わって来る。
その手に乗るかよ。
「知り合いなら警告して貰おうかと思ってさ」
「何を警告するのかね?」
スティーブンソンが勝ちを確信したような笑みを浮かべる。
「おたくの評判を落としますよってね」
「評判を落とす?」
スティーブンソンが怪訝そうな顔をする。俺が脅しと取れるような事をこぼすと思っていたんだろう。
お前の思う通りには進まないよ。
「ええ。外の人達はベリンボールの親善試合を妨害したいようなんですけどね」
「彼らにも言い分があるんだろう。この国では集まって声を上げる事は禁止されているのかね?それとも、持たざる者の声は封殺すべきとでも言うのかい?」
スティーブンソンが嫌な目で俺を見て言うが、ちょっと先走っちまったな。
「あなたはそう考えるのかも知れませんが私はそうは考えません。でも今日、言いたいのは彼らに資金提供をしている商会さんの不利益になりますよと、そう言う事なんです」
「なぜ商会の不利益になるんだい?」
「今回、ベリンボール親善試合に関して数多くの妨害がありました。明確な犯罪行為として既に衛兵に検挙されている者も出ています」
「それがどうかしたのかね?」
「つまり、今、外で行われている行為もこれまでの犯罪行為と繋がりがあると思われてもおかしくないという事です」
「君は我々がその犯罪行為に加担していると言うのか」
スティーブンソンの目と声に怒気が混じる。怒った怒った。怒ったら負けよ。
「なぜそこにあなた方が出てくるんです?何か思い当たるフシが?」
俺はふたりを見る。
スティーブンソンは怒りに震え、スプレーンは苦々し気な顔をしている。
「今しているのはラブート商会さんの話でしてね。今一度言いますけど、あなた方は顔が広いでしょうからお知り合いなら警告して貰えないかと思ってこうして顔を出した訳ですよ。これまでにあった妨害行為の背後関係が一部わかっていましてね。そちらさんとは先ほど話し合いをさせて貰いまして、納得も得心もして頂いたんですよ」
「何を納得して貰ったと言うのだね?それは誰の事なのだ?」
スティーブンソンの表情が曇る。誰だかは薄々わかってるだろ?
そして、その相手はそう簡単に罪を認めるような奴じゃ無い事も賢しい(さかしい)スティーブンソンにはわかってるはずだ。
という事はどういう事だ?よーく考えろよ?
「それは倫理的に口外できませんね。ただひとつ言える事は、先ほど話し合いをさせて頂いた団体さんとしては、ラブート商会さんとそこに関わる各種団体の名前がここで出てくるのは歓迎すべき事だと思いますよ。矛先が多いと攻撃が分散しますからね。ですからラブートさんにはこう警告して頂きたいんですよ、ここでわざわざ矢面に立つ事はないでしょう、とね。そうだ!どうせならもっと叩きがいのある事がありますよ。ファルブリング無差別爆破事件覚えてます?あれで、下街のシンボルだった大杉が焼けたのご存知ですか?その大杉はバッグゼッド文化遺産にも登録されてましてね。なんでも樹齢千年とも言われているとかで七百年前の戦の跡も刻まれているんですって。それで平和のシンボルだと市民に親しまれてきたものだそうですよ。これはまさに世界の調和と保護を求める団体さんの腕の見せ所じゃないかな~。あれも結局、どこの団体が何のためにやったんだがハッキリしなかったけど、今こそ市民の声を上げてきちんとするべきじゃないのかな~?フレッシュな世界を創造する会さんとしてもやりがいのある仕事だと思うな~」
俺の言葉にスティーブンソンの顔が青くなり赤くなりと色を変えた。
そりゃそうだ、ファルブリング無差別爆破事件を裏で糸引いていたのは覇連研なのだからな。
「おふたりさんが知り合いじゃないんなら仕方ないですね。ちょっくら彼らのリーダーのところに行って話をつけてきますよ」
俺は軽く手を上げ退出しようとする。
「ちょっと待って。ラブートと懇意にしている人を知ってるから、今の事を伝えてやめさせるわ」
スプレーンが肩をすくめて言う。
どういう訳かスプレーンの表情には余裕と言うのか何と言うのか、とにかく悔しさみたいなものがなかった。あの、プライドの高いスプレーンがなぜなんだ?
俺は疑問に思ったが退出間際にスプレーンがスティーブンソンにかける言葉が耳に入り納得する。
「…わかったでしょ?手こずる理由が…」
そう言う事か。
俺は退出し通路に出て改めて思い返す。
部屋に入って早々スプレーンが浮かべた笑みの理由。
そして紹介しろとも言わぬうちに半ば食い気味にスティーブンソンを紹介してきた事。
更には俺を指して、例の、と言った事。
恐らく、スティーブンソンとスプレーンは俺の事について話し合っていたのだろう。
そして、スプレーンが俺とスティーブンソンの話し合いに口を挟まなかった事、もっと言えばスティーブンソンの援護をしなかった事を踏まえて考えてみる。
推測に過ぎないが、スティーブンソンはスプレーンの事を責めに来ていた。
そして、スプレーンがやれないなら自分がやるとフレッシュな会を使った妨害工作をしてみせた。
スプレーンは面白くなかっただろうし、無駄な事だと思ったろう。
俺とは因縁浅からぬ仲だ、俺がそんな事でへこたれて黙り込むとは夢にも思っちゃいないだろう。
しかし、自分の失態は事実。
苦々しい思いでスティーブンソンの話を聞いていたそんな時に俺が現れた。
そう考えると、あの場でのスプレーンの態度は腑に落ちるものがある。
まあ、何度も言うがこれは推測に過ぎない。
後は結果が語るってなもんだ。
俺はヤスミーナさんの元に戻った。
「どうでしたか?」
戻った俺にすがるように問うヤスミーナさん。
「一応、話はつけて来たよ…」
俺はビップ席であった出来事をヤスミーナさんに聞かせる。
「…てなわけで向こうさんにもご理解いただけたと思うけどね」
「覇連研の幹部と一緒だったんですか。やはりと言うかなんと言うか…」
俺の話を聞いたヤスミーナさんは顎の下に手をやって難しい顔をした。
『ピュゥゥゥゥピルピルピルピルピルゥ――』
「撤収ぅ~~!撤収!撤収!」
けたたましいホイッスルの音に続き女性の声が響き渡る。
こんかいの活動のリーダーなのであろう女性が、困惑する他の運動員に強く撤収を指示し始めた。
集まった者達の中には疑問の声を上げる者や圧力に屈するなと声を上げる者もいたが、腕章をした屈強な男に有無を言わさず引っ張られて他のメンバーと共に連れていかれてしまった。
プラカードの破片や撤収に抵抗したメンバーのちぎられた衣服や脱げた靴が地面に転がっている。
乱暴な団体だなあ。
「ふぅ~、なんとかなったね」
「ありがとうございます!本当に助かりました!」
『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』
ヤスミーナさんの言葉に被せるようにサイレンが鳴る。
「もしかして」
「ええ、ゲームセットの合図ですね」
「マジか。結局、ほとんど見れなかった」
俺はがっくりと首を垂れる。
「クルースさんは頑張ったんですからそう気落ちされず。さあ、試合結果を見に行きましょうよ」
「うん、ありがと」
俺はヤスミーナさんに励まされながら闘技場内に戻ったのだった。
ったくマルギシャスと言い、スプレーンと言い、さっきの奴、スティーブンソンの野郎と言い、結局のところ奴らの妨害ってのは俺の試合観戦の妨害だったな。




