更なる妨害を跳ね返せって素敵やん
俺は駐車場から闘技場内へ走る。
入り口にいる警備の生徒に軽く手を上げ中に入る。
客席に入ると歓声と熱気がぶわっと顔にぶつかり一気に空気が変わる。
スポーツは良くわからない俺でもこの感覚にはグッとくるものがある。
ある意味、マルギシャスのとこでの戦いよりも非日常感がある。
俺はスコアボードを見る。
どうやらフルポア側の攻撃のようだ。
って事は今の打球は!
「ただいまの打球はファールと認定されました」
アナウンスが流れ場内にホッとした声と悔しがる声がこだまする。
俺が今いる場所は悔しがる声が強い。
周囲を見るとフルポアの学生さんだらけだ。
アウェイ感が半端ない。
俺はコソコソとファルブリング側観客席へ移動する。
ピッチャーマウンドではメイが汗を拭っているのが見える。
改めてスコアボードに目をやると現在の点は三対三の同点、八回の表であった。
観客が盛り上がるのも理解できる。
『ガッギィィィィィン』
鋭い音に思わず首がすくんじまう。
打球は凄まじい勢いのライナーで、内野を軽々と超え外野に届く。
二塁に出ていたランナーが悠々とホームインする。
バッターは一塁を蹴り二塁へ走るがこれはさすがにならず、ライナーを取ったみっちょんの弾丸のような送球に見事アウト。
攻守交替、イニングは八回裏に。
俺はようやくファルブリング側の応援席に辿り着く。
あちらこちらに見知った顔もあるので少し落ち着く。
お?あれはパニッツじゃねーか?
顔なじみを発見し俺はそそくさとパニッツの元に近付いた。
「隣り、いいかい?」
俺はパニッツに声をかける。
「ええ、どうぞって、なんだクルース君じゃないか。君、ベンチに居なくて良いのかね?」
パニッツが答える。
「ああ、ちょっと警備の仕事をかたずけててね。ひと段落したからじっくりと試合観戦しようと思ってさ」
「じっくりとって、君ねえ。勝負はもつれにもつれてたった今、その均衡が敵さんに傾いた所さ。このイニングは残念な事に打順が悪い。あ!」
カキンと軽い音がして打球が高く高くあがる。
フルポアのキャッチャーはそれを危なげなくキャッチ、打席のマーは悔しそうに俯いた。
周囲からため息が漏れる。
「ドンマイドンマイ!落ち着いていこーーー!!」
俺は大きな声を出す。
「そーーだ!落ち着け!!」
「まだまだこれから!!」
「お前らならできる!!」
周りからもポジティブな声が飛ぶ。
次の打席はシーボー。
俺は祈るようにしてその姿を見る。
「失礼、クルースさん」
「おうっ、びっくりした」
突然後ろから肩をつつかれ俺はびっくりして振り返る。
「驚かせて申し訳ありません。至急相談したい事が」
そこに居たのはヤスミーナさんであった。
こりゃ、何かあったな。
「ちょっと、席を立つよ」
俺は隣のパニッツに声をかける。
「ああ、帰ったら詳細を教えてくれたまえよ」
パニッツは心得た顔で俺に言った。
俺は頷き笑顔を返した。
「どうしました?」
俺はヤスミーナさんに尋ねる。
ヤスミーナさんはいつになく緊迫した表情のまま速足で移動している。
「本当に申し訳ありません、私どもでは対処しきれなくて」
「何があったんです?」
「まず、見て下さい」
ヤスミーナさんに連れてこられたのは闘技場外の広場だった。
「僕らの国を守れ!」
「偽善を許すな!」
「金持ちの自己満足につき合えないぞ!」
「欺瞞!欺瞞!欺瞞!!」
「汚ねえ奴らの嘘を暴け!」
広場に集まった大勢の人が叫んでいる。
「なんなんです、これ?」
「あれを見て下さい」
ヤスミーナさんが指さす先に見えたのは大きな横断幕だった。
「フレッシュな世界を創造する会?」
俺は横断幕を読みあげた。
「ええ。ラブート商会が出資している団体で、表向きは世界の調和と保護を謳っていますが実際は揉め事に首を突っ込んで現場を混乱させ金を引っ張る組織です。しかもバックには覇連研がいると言われています」
ヤスミーナさんがうんざりした顔で言う。
覇連研、正式名称は大バッグゼッド帝国中央覇道連合研究所。
バッグゼッド帝国に来た当初からきな臭い所にはちょくちょく名前が出てくる団体だ。
トップにいたナシトダが亡命し鳴りを潜めたと思っていたが、なかなかどうしてしぶとい団体だぜ。
マルギシャスにプレッシャーをかけたから右派勢力からの妨害はないものと安心していたが、そんな所から妨害されるとはな。
いや、待てよ?
スプレーンの奴、覇連研と接点なかったか?
確か、あったはずだぞ。
てことは、この連中を動かしてるのはスプレーンか。
「どうしました?何か名案が?」
ヤスミーナさんが俺を見る。
「名案って程でもないけど、今日、スプレーンは来てる?」
「ええ。もしかして、疑ってます?さすがにそれはどうでしょう」
ヤスミーナさんが俺を見る。
「覇連研とスプレーンに繋がりがあるらしいって噂を聞いた事は?」
「いえ、初耳です」
「そっか。もしその噂が本当だとすれば、この騒ぎの解決のめどもつくと思わない?」
「それはそうですが、もしも、関係なかったら面倒な事になりますよ?」
ヤスミーナさんがいつにない真剣な表情で俺を見た。
「俺個人なら大丈夫。彼女には貸しもあるし」
「お任せしてもよろしいですか?それまで、ここは我々が押さえておきますので」
ヤスミーナさんは広場に集結しつつある警備班の生徒達を見て言う。
「じゃ、彼女の席を教えてくれる?」
「ええ、お願いします」
「任せといて」
俺はヤスミーナさんに強く頷くのだった。




