悪党との交渉って素敵やん
「ふむ、屋敷の真ん前か。都合が良いな」
「さっきまでそこに居たからまだ近くに居ると思うよ」
ニヤリと怖い笑みを浮かべるキーケちゃんに俺は答える。
「まったく冗談じゃないよ。術式具の機能がおかしくなってしまったよ」
ザクフォードのスーツは縮んで身体にぴったりフィットしており、下は半ズボンになっていた。
「ぷっ、ぷぷぷ、カッコイイじゃん」
「バカにしてるな?」
ザクフォードが俺を睨む。
「いや、バカになんてしてないよ」
いや、ほんとに。よく見りゃ前世で好きだった世界的ハードロックバンドのギタリストみたいでカッコイイじゃん。サンダー!!
「マルギシャスに弁償して貰えば良かろう。さ、やつに挨拶しに行こう」
キーケちゃんはそう言って俺が追い出された屋敷のトビラを開いた。
「きっちり取り立てさせてもらうぞ。こいつが幾らすると思ってるんだ、まったく」
「ちなみに幾らぐらいするの?」
俺はプンスカ怒ってるザクフォードに聞く。
「そうだな。この屋敷くらいは買える額とだけ言っておこうか」
「とだけって、そんなにすんの?」
「当たり前だよ君。吊るしじゃないんだぞ?仕立てだぞ?仕立て」
ザクフォードは当たり前だろ?とばかりに言うが、普通のスーツじゃないんだから。
俺は険しい顔をするザクフォードに続いて屋敷に入る。
「トモよ、奴がどこにいるかわかるか?」
「いや、わかんないな」
「だったら、呼びながら捜し歩くか」
「何を悠長な、って」
俺の答えに呑気に答えたキーケちゃんに業を煮やしたザクフォードだったが、次の瞬間、絶句する。
「おーーい、出てこーーーい」
『ゴウゥゥゥウゥゥゥゥゥゥン』
キーケちゃんは笑って叫びながら廊下の壁に軽くパンチをすると屋敷全体が揺れた。
「今のでリブヴォールトにヒビが入ったぞ。早く出てこないと屋根が崩れるぞーー」
キーケちゃんが笑って叫ぶ。
「何?リブなんとかって」
俺はザクフォードに尋ねる。
「リブヴォールト天井の骨組みだ。ほらコウモリが羽を広げたようになってるあれだ。別名コウモリ天井とも言うのだ」
ザクフォードは天井を指差しそう言った。
「へえー、物知りねえ」
「常識だ」
ザクフォードは愛想なく答えたが心なしか頬が緩んでいる様にも見える。もしかして、ちょっと嬉しかったりするのか?
『ズッシィィィン』
腹に響く低音と振動。
「おーーい。出てこいやーー」
そしてキーケちゃんの呑気な声。
非常にシュールな状況である。
「何事だ!」
「よっ」
血相を変えてやって来たマルギシャスに軽く手を上げて挨拶をするキーケちゃん。
マルギシャスは俺達を見て石でも食べたような顔になる。
「ファブニルは…ファブニルはどうしたのだ」
マルギシャスは絞り出すようにそう言った。
「ほい、土産」
俺は手に持っていたファブニルの背骨をマルギシャスの足元に投げる。
『ザクッ』
ファブニルの背骨が床に突き刺さる。
「うわっ、危ないではないか!」
マルギシャスは大げさによろけて叫んだ。
「その危ないヤツをけしかけたのはお前だろうが」
俺はマルギシャスにズイっと近付いて言ってやる。
「それは、君達が無断で侵入するからで」
「はっ?どの口が言ってんだよ。お前は何をしたんだよ?こっちは全部マルっとお見通しなんだ、すっとぼけても無意味だぞ?そんな事をすりゃあ、こっちだって挨拶に来るに決まってるだろ?」
『ゴスッ』
俺がまくしたてると天井がきしみ骨組みに施されていた装飾の一部が落下する。
「これが挨拶かっ!」
マルギシャスが怒鳴る。
「お前から始めた事だろーが!だったらお前がケジメをつけろやっ!おうっ!」
俺は巻き舌で凄む。
「これが彼の本質なのかね?」
「いや。でもトモはこういうの好きだよ」
ザクフォードが問いキーケちゃんが笑って答える。
ちょっと、俺が詰めてんだからさ。空気を軽くしないでちょーだい。
「君は、何が望みなんだね?」
俺の剣幕に気圧されたか、直接的な恫喝など普段喰らった事がないので免疫がないのか、とにかく怖気気味なマルギシャス。
「それはお前さん次第だろう?」
「どういう事なんだ?君達の暴挙にどんな意味があるのか、何か望みがあったからそうしているのだろう?その望みが何かと聞いているのだ」
「暴挙?今。暴挙って言ったか?暴挙ってのはお前、まだ若い学生に対して危ない人間を焚きつけて危害を加えさせようと画策したり、罪のない人達が乗っている列車を爆破しようとしたり、水源に毒を撒いて無差別大量殺人を画策したり、危険な合成魔獣を使って学生の大量死を画策したりとそう言う事を言うんじゃないのか?ん?俺は何か間違った事を言ってるか?ん?どうなんだ?」
俺はマルギシャスに詰め寄る。
「いや、待て。確かに私が指示したものもあるが、全てではない。私が知らない所で動いている案件も沢山あるんだ!すべてが私の責任ではないんだ!」
「いや、上に立ってるんだから下のもんの責任はお前が負うのが当たり前だ。お前が指示してなかろうが知らなかろうが関係ない。下のもんがそう動くような気風を作ったのはお前なんだからお前にすべての責任がある。さっき言った事だけじゃない。お前が関わっている組織の過去の不祥事も現在進行している問題点も責任はお前にあるんだよ」
「ちょっと待ってくれ、それはさすがに言い過ぎだろ。我が宗派にどれだけの歴史があるかわかって言っているのか!」
「積み上げた歴史を利用してこんなデカイ屋敷に住んでんだろ?だったら、過去の問題の責任もお前がとるに決まってるだろ?今までお前の宗派が他の宗派に対して行った対立的行為、そして現在もされている排他的、差別的な教育について、お前の名前で全面的に謝罪をしろ。そして、その害を被った全ての人に損害の賠償をしろ。それが俺の要求だ」
俺はマルギシャスに言ってやる。
「どういう事だ?そんな事のために来たのか?」
「いいから黙ってトモを見ていろ」
後ろで困惑するザクフォードにキーケちゃんが小声で言う。
そうそう、まあ、いいから見てなって。
「待ってくれ、そんな事は無理だ。そんな事をすれば我が宗派のみならず右派全体、いやモミバトス教全体の誤りを認める事となってしまう。そんな事になったら私は、いや我が宗派は業界全体から攻撃を受けてしまう事になる。そんな事になればどんな事態になるのか、君に想像できるか?」
「お前は被害にあった多くの人の気持ちを想像しろ!加害者だという実感をしっかり持て!そしてそれを一生背負い続けろ!それだけの事をお前はやっているんだ!!」
「無理だ、そんな事は絶対に無理だ。そんな事をすれば私の命はない」
マルギシャスが自分の両肩を抱えて震える。
「どうして、こういう事になったんだ?なぜヤツは言い返せなくなっている?」
ザクフォードが不思議そうな顔をする。
「また来るからな。それまでに、自分がこれまで関わって来た団体がこれまで何をやって来たのか。それに対して自分はどう償えるのか良く考えとけ。わかったな」
「う、ううう」
マルギシャスは崩れ落ちた。
「それじゃ、帰ろうか」
「ああ」
俺の言葉にキーケちゃんは笑って答え、ザクフォードは何が起こってるんだと目を丸くしていた。
こういう決着のつけ方もあるんだよ。




