歩きながらトークって素敵やん
俺の力が足りないばっかりにキーケちゃんとザクフォードのふたりがファブニルに飲み込まれて連れされてしまった。
焦りと同時に全身の力が抜けたように感じた俺は深呼吸をし周囲を見渡した。
キーケちゃんが蹴り飛ばしたファブニルの背中のプレートが地面に突き刺さってるのが見える。
大きさはA4サイズくらいか。
もっと大きく見えたが近くで見るとこんなもんか。
拾って手に取ると少し縦長の五角形の底辺に、かすがいのようなコの字型の物体がくっついている。
「まるで取っ手だな」
俺はそこをつかんで振ってみる。
こうして見るといかにも人造物だな。
こいつでマルギシャスの頭をぶっ叩いてやる。
俺はファブニルの背骨?を持ち魔導車まで戻った。
屋敷はすぐそこだが、魔導車をビッチリ横づけして堂々と乗り込んでやる。
俺は魔導車を運転し屋敷の玄関前でバンバン吹かしてから停車する。
屋敷の前に立つ門番は少し顔をしかめる。
「頼もう!」
魔導車を降りた俺はファブニルの背骨を手に門番に叫ぶ。
「主人よりお伺いしております。中へどうぞ」
門番はそう言うと俺を中へと招き入れる。
ちょっと拍子抜けだが、油断は大敵。
周囲の気配に意識を凝らす。
特に殺気は感じられない。
「クルース様ですね、主人がお待ちです。どうぞ中へ」
屋敷の中に入るとベテラン執事のような初老の男が丁寧に言い俺を案内する。
どうなってんだ?
俺など脅威じゃないという事か?
つまり、なめられてるのか。
そう思うと腹が立って来たぞ。
キーケちゃんとザクフォードの事も気にはなるが、キーケちゃんがいる限りは心配はないだろう。
下手をすればぶっ壊れたファブニル引きずって向こうからやって来る可能性もあるもんな。
「どうぞ、こちらへ」
ベテラン執事がトビラを手で示す。
開けてくんないのかよ。
なんか罠でもあるんじゃないだろうな?
俺は呼吸を整えトビラの向こうの気配を探る。
殺気は感じられない。
「邪魔するよ」
俺は勢いよくトビラを開ける。
トビラの向こうは大広間だった。
吹き抜けになっている天井は高く、ただっ広い空間はダンスホールか何かなのか?
「よく来たね」
立派なイスに座り大仰な様子でそう言ったのはアントワル・マルギシャス、その人だった。
俺が来るまでこんな所にわざわざイスを出して待ってたのか?
相変わらずハッタリが好きな男だよ。
「招待状は貰ってないけどね」
「出してないからね。それより、屋敷を案内しよう。ついて来たまえ」
マルギシャスはそう言うとイスを立ち上がり歩き始めた。
勝手な男だよ。
だが、ここはとりあえず従っておく。
キーケちゃんがいないのは、どこかで歓待でもされているのかね。
そうでもなきゃ、屋敷の中は大惨事になっているはずだ。
マルギシャスはその歓待の場に案内しようってんだろうな。
だいたい考えている事はわかるってんだよ。
「こっちだ、ついて来たまえ」
マルギシャスは奥のトビラを開けると振り向きもせずにそう言った。
俺は少しだけ小走りになり奴の後ろに着く。
マルギシャスは長い廊下を黙々と歩いている。
「案内にしちゃ愛想がないな」
「くっくっく、それで精一杯かね?毒づきにもいつもの切れがないようだねえ」
マルギシャスはそう言って含み笑いをする。
意味ありげな事しやがって。
ホント、ファブニルの背骨でぶん殴ってやろうか?
「そうかい。今日は口よりこいつで会話したい気分なんだよ」
俺はそう言ってファブニルの背骨を振って見せる。
「そんな事をしてもお仲間は返ってこないよ。それよりも、目的地まではまだあるからね、意義のある話をしようではないか」
「自分から挑発しといて調子いいけど、とりあえず聞くよ」
「それは賢明な判断だ。では聞くが君は我々のような団体が社会のためにならないと考えているようだが、多くの人を救うためには力を持たねばならないのは理解できるだろ?なぜ、すべてを否定するのだね?悪い面ばかりではなく良い面に目を向けて貰いたいものだね」
マルギシャスが言う。
「悪い面が強すぎるんだよ。どんなに美味しくても致死性の毒があるなら食べる事はできないだろ?そう言う事だよ」
「致死性の毒?具体的にどんな所がそれにあたるのだね?」
「まず政治と社会への影響。政治や法律に宗教的な道徳観を強く反映させようとするのは異なる信条をもつ者の排除につながる。それは社会を極端な自国中心主義や選民思想に走らせ、寛容さや多文化共生を強く妨げるものとなる。次に魔学と教育の対立。極端な宗教的価値観を教育に反映させることは魔学の否定に繋がってしまう。大きな社会の動きとして魔学的根拠より宗教的信念を優先させるのは非常に危険な事だ。そして、人の権利と自由を侵害する事。これは俺が個人的に一番心配している事だ。子供に信仰を強要するのは虐待だ。そして魔族も含め今の世界には色々な価値観を持った多様な人が存在している。そうした人達と認めあい思いやる事をしないのならこれからの世界では認めて貰う事は出来ないだろう。そんな時に君達はどうするんだ?自分を認めない世界を排除するのか?つまるところ君達の思想の先には自分達以外の排除、戦争が待ち構えているんだよ。それを致死性の毒と言わずして何とする」
俺は一気呵成に言ってやる。これは前世でも大きな問題点として語られていた事だった。
「ならば我々はどうしたら良いのだ」
マルギシャスは低いトーンで俺に言う。怒りを抑えている様子だな。それは立派な事だからここはひとつアドバイスをしてやろうか。
「まず新しい価値観に寄り添う事だな。世界は急速に変化してるんだから、それに対応しない組織は淘汰されるのみだね」
「具体的には」
「まず高齢化して頭の固いリーダーを現代的な感覚を持つリーダーに変えちゃう事。排他的な政治闘争をやめ弱者への施しとか社会的弱者救済活動に力を入れる事。このふたつで随分変わると思うよ」
「…それは私にポストを降りろと言っているのかね」
マルギシャスが震えた声で言う。
「あんたが頭の固いリーダーなら、そうした方が良いだろうね」
「無礼なっ!こちらが下手に出ていればつけあがりおって!貴様のような下賤な輩に何がわかる!そんな薄っぺらい理想論で世界が変わるものかっ!私のような選ばれた者に支配された方が無知蒙昧な下民にとっては幸福なのだ!この世界は一部の有能な者が無能なものを支配する事で成り立っているのだ!今までもこれからもなっ!」
マルギシャスが唾を飛ばして言いながら俺の事を突き飛ばした。
俺はよろめき後ろにあったトビラにぶつかり転がってしまう。
転がった先は屋敷の外であった。
「なんたる傲慢!なんたる不遜!貴様のような下賤の輩を仲間にするなど上も焼きが回ったわ!ある意味、貴様の言う通り、頭の固い上を一掃した方が良いのかも知れん。そうだ!それがいい!いい機会だ!そうしてしまおう!くっくっく、あっはっはっは」
「なんだなんだ?錯乱したか?」
俺は落としたファブニルの背骨を拾ってマルギシャスに言う。
「君はもういらない。お仲間と一緒に腹の中で朽ちたまえ」
マルギシャスが言い俺の後ろから禍々しい気配が漂ってくる。
「楽しかったよ。では、さようなら」
マルギシャスはそう言ってトビラを閉める。
俺は後ろを向く。
そこにいたのはファブニルであった。
「ふたりを返して貰うぞ」
俺は気合を入れてファブニルを睨むのだった。




