制作者の性格が透けるって素敵やん
「スマン、恐ろしかったのだ。今も手が震えている」
少し落ち着いたのかザクフォードが震える声でそう言った。
「わかるよ。いいから、休んでな」
「私はいいから、彼女を助けてやってくれ」
「キーケちゃんを?御冗談を」
俺は思わず笑ってしまう。
「冗談などではない、君も見ただろあれを。あれは邪悪な意思をもっている、まるで邪神だ。そうだ、あれは人工邪神だ」
ザクフォードはすっかりビビっちまっている。きっと仕事柄、今まで数々の魔物を見て来たんだろう。そしてその中には狂暴で醜悪な魔物もいただろう。だからこそ、こいつらの異質さが際立ち恐ろしいんだろう。いわゆる、知っているからこその恐ろしさってやつだな。
俺もそこそこ魔物は見て来たが、それ以上に見て来てるんだよな。
「来た!来たぞ!早く助けに行かねば!」
ざくふぉーどが気力を振り絞って立ち上がろうとするが、俺はその肩を押さえる。
「何をする!見捨てる気か!」
「バカ言っちゃいけないよ。まあ、見てなって」
俺はザクフォードに言う。
そうだ、俺はよく見て知ってるんだよ。
キーケちゃんの半端じゃなさをな。
羽猿の群れは先攻と後攻に分かれて攻撃を仕掛けて来た。
波状攻撃か!
おっそろしい猿だぜ。
だが。
「ホウホウホウホウホウッ!!」
先攻猿が半円状に並んだ状態でキーケちゃんに躍りかかり、後攻の猿が狂暴な雄たけびを上げる。
「ホキャッキャ!」
先攻猿の群れがキーケちゃんに覆い被さり、後攻猿が勝利を確信したような声を上げる。
『バンッ!』
衝撃音が鼓膜を刺激しキーケちゃんに被さっていた先攻猿の群れが吹き飛んだ。
『ドスドスドスッ!』
すっ飛んで行く先攻猿は間髪入れず躍りかかった後攻猿の群れにぶち当たる。
後攻猿の群れは凄い勢いで吹っ飛んできた仲間を身体に喰らい次々に地面に落ちる。
「ホッ!」
と、一匹の猿だけは飛んできた仲間の身体を両手を組んだ状態で振り下ろし跳ね返した。
「ホッキャァァァァァァァァァ!!!」
大気が震えるような絶叫。
地面に降り立った羽猿は自分で自分の羽をむしり取った。
「なんだ?あの行動にどんな意味があると言うのだ」
ザクフォードが青い顔をして言う。
「ブチ切れたんでしょ、それか気合を入れたのか。いずれにしても普通じゃないよ」
俺は肩をすくめる。
唯一生き残った羽猿は倒れた仲間の足をつかんで振り上げた。
「喝っ!!」
先攻猿を弾き飛ばしたキーケちゃんは腕を組んだまま大きな声で一喝した。
羽猿は仲間を振り上げたまま固まってしまった。
「どうなった?」
「決着したみたいね」
俺がザクフォードに答えるのと固まった羽猿が後ろに倒れるのとほぼ同時だった。
「何をどうしたのだね?まさか声で相手を倒したとでも言うのかね?」
「そうじゃないの?知らんけど」
「仲間の手の内は教えられないという事か、致し方あるまい」
ザクフォードは勝手に納得するが、実際のところ俺にも良くわからない。
なにかしらの魔術なのかもしれないし、案外、ただの気合なのかもしれない。キーケちゃんならなんだってあり得ると思っちゃうよ俺は。
「さて、行くぞ」
「ウィッス!」
あっさり言って運転席に乗り込むキーケちゃんに俺は敬礼して助手席へ。
ザクフォードもきびきびした動きで後部座席に入る。
あはは、体育会系のノリに乗せられてんな。
「しかしマルギシャスの奴め、完全に違法な魔物ではないか」
ザクフォードが吐き捨てるように言う。
「そうなの?」
「ああ、軍事目的での魔物合成は国際法違反だ」
「ふ~ん、でも権力があればどうとでもなるんじゃないの?軍事目的ではなく鑑賞目的だ、とかなんとかさ」
「ふふふ、そんな発想がすぐに出てくる君は、やはりうちのような組織に向いていると思うがな。勿体ない事だ」
「勘弁してくれよ。キーケちゃんからも何とか言ってやってよ」
「トモがそっちへ行くならあたしも行くぞ。シエンとアルスもきっとそう言うだろう。ひとつ、世界征服でもしてやるか?ん?」
「バカ言わんといて。世界征服なんて怠い事、ようせんわ。ザクフォードはんもやめときなはれ、良い事なんてな~んもあらしまへんで」
キーケちゃんのキツイ冗談に俺は思わずおチャラけて答えてしまう。だって、キーケちゃんたちならホントにそれくらいできそうだからシャレになってないんだもん。
「君はたまにオーシャニヤン訛りがでるな。やはり君達はそっちの出なのか?」
「いや、違うよ。昔、そっちの訛りを使う人と一緒に仕事をした事があってさ。って前にも言わなかったっけ?」
「そうだったか?」
ザクフォードは普段のトーンでそう返した。どうやらいつもの調子を取り戻したようだな。結構、結構。
なんて思ってると魔導車の速度が落ちる。
「どうしたの?」
「新手のようだ。今度はトモひとりで対応せい。くれぐれも魔導車に傷をつけるなよ」
「気を付けるよ」
キーケちゃんの声のトーンはマジだったな。こりゃ、車に傷をつけないように気を付けてやんなきゃいけないな。
俺は呼吸を整え周囲の気配を探る。
まだ、近くに気配は感じない。
キーケちゃんのセンサーの凄さを改めて思い知る。
チラとキーケちゃんを見るとゆっくりと前方を指差した。
俺は頷く。
キーケちゃんは仕方ない奴めと口パクしてる。
どーもスイマセン。
改めて呼吸を整え、前方に向けて気配察知を使う。
おっと、反応あり。
前方、約二十メートル。
なるべく車と距離をとって戦いたいので俺からもヤツに近付く事にする。
ゲイルでダッシュして車との距離を十メートルはとる。
「クシュッ」
短い音をたてて現れたのは鎧を着た骨の鳥みたいな奴だった。
なんだか得体が知れない。
こりゃ、早めに決着つけた方がいいな。
最初からトップギアで行く。
俺は鉄鋼散弾を奴に向かって連射する。
『ガキンガキンッ!』
硬質な金属音がして鉄鋼弾は全て弾かれた。
「マジか」
まさか全て弾かれるとは思っておらず俺は反応が遅れてしまう。
「ギョアァァァァ!」
文字通り飛ぶように距離を詰めて来た鎧骨鳥が至近距離で口を開く。
「ぬおっ!」
激しい音波に襲われて俺は吹っ飛ばされてしまう。
風魔法のゲイルで衝撃を吸収し体制を立て直す。
しかし、相手の追撃速度の方が断然速い。
俺は防戦一方になっちまう。
こりゃマズい。このままじゃじり貧で魔導車に近付いちまう。
鎧骨鳥の攻撃を防御しながら俺は頭の中で後方にある魔導車との距離を測る。
今ならヤツの音波攻撃もまだ魔導車にまでは届くまい。
俺は地面に足を食いこませるようにしてヤツの近接攻撃を防御する。
翼の攻撃は大したことはないのだが、時折繰り出される蹴りは大きな爪があるだけに怖い。
逆に言えば、蹴りだけ気を付けていればこっちにダメージはほとんどないようなものだ。
「カッ!!」
業を煮やした鎧骨鳥が口を開いた。
待ってました!
俺は地面に倒れ伏すようにして音波を避けると同時にヤツの足をつかみゲイルで駆け抜ける。
繁茂する木々を無視して突き進む。
俺の盾にされた鎧骨鳥は最初こそくちばしで俺を突こうとしたり抵抗していたが、羽が木にぶつかり鈍い音を立てるたびに抵抗する動きが減り、周囲の三周する頃には首に力がなくなりぐったりとしてしまった。
「どうする?食べるとこ少なそうだけど」
鎧骨鳥の足を持ったまま魔導車のところに戻った俺はふたりに声をかけた。
「相変わらず不細工な戦い方をするのう。もちっとどうにかならんかったのか?」
キーケちゃんが不機嫌そうな顔をする。
「うーん、すんませんです。ところでこいつは?なんて魔物の合成魔獣?」
「素体はグルルだな。大陸にはいない種で確か絶滅危惧種だったと思う。生体の移動はおろか骨や羽の移動も禁じられていたはずだ。マルギシャスめ、これでツーアウトだ」
ザクフォードが言う。
「ツーアウトと言えば試合結果が気になる所だな。早いとこ済ませて闘技場へ帰ろう」
「だね。さすがに試合終わって居なかったら怒られちゃうからね」
俺はグルルを捨てながらキーケちゃんにそう答え助手席に座った。
「この期に及んで試合結果の心配か。まったく、たいしたものだよ」
ザクフォードは肩をすくめるが、こんなもんでしょ?
キーケちゃんは再び魔導車を走らせる。
低いエンジン音を森の中にとどろかせて魔導車は走る。
時折キーケちゃんは車を停め俺に向かって無言で頷くので俺は頷き返して車を降り、やってくる魔物と戦うを繰り返した。
どういう訳か羽の生えた合成魔獣が多かったが、これもどういう訳か空中戦は好まず接近戦を仕掛けてくるやつが多かった。
そして、どういう訳か低い体勢からの足元攻撃に弱いヤツが多かった。
ザクフォードは合成魔獣の製造者の癖が出ているのではないかと言った。
キーケちゃんは羽の用い方と言い戦闘スタイルと言い品性の卑しさが滲み出ていると言った。
まあ、なんてったってマルギシャスの家だからな。さもありなんと俺は思うのだった。
「なんだか段々合成魔獣の動きも読めて来たし、なんか作業みたいになってきたね」
魔物撃退もスムーズになって来た俺は窓の外を眺めながらポツリと言う。
「油断せぬことだな、なにしろ相手はあのマルギシャス、根性のひねくれた嗜虐心の強い男だからな」
「ザクフォードの言う通りだな」
キーケちゃんはそう言って魔導車を停めた。
俺はそれまでのように助手席から外に出ると、なんとキーケちゃんも一緒に外に出て来た。
「どうしたの?」
「この先の奴は尋常ではない」
キーケちゃんは道の先を睨んでそう答えた。
マジで?
「どうしたのかね」
おかしな空気を感じ取ったのかザクフォードも車を降りてきた。
「どうやらこの先にとんでもないのが待ち構えているみたい」
「中で待っていても良いぞ?」
俺に続いてキーケちゃんがザクフォードに言う。
「そんなにか?」
「ああ、尋常ではないな」
短く尋ねるザクフォードにキーケちゃんが答える。
「そうか、君がそれほどまでに警戒する相手なら待つより一緒に行った方が良かろうな。待っていてそんな奴とひとりで対峙するのは敵わんからな」
ザクフォードはそう言った。
「好きにせい。トモよ、体内を魔力で満たせ。そして初っ端から全力で行けよ。わかったな」
「うん、わかった」
俺はそう答えて深呼吸をする。
キーケちゃんがここまで言うとは、いったいどんな相手だ?




