建物探訪ドライブって素敵やん
「トモ、用意しとけよ」
「了解」
キーケちゃんはそう言ってサンルーフを開けるので俺は短く答えてベルトを外す。
「速度を落とさなくて良いのかね?」
「大丈夫大丈夫」
俺はバケットシートの頭に尻を置き、足でシートを挟み腰をルーフに押し付け身体をホールドしながらザクフォードに答えた。
これなら最悪、車から放り出される事はない。
コーナーを抜けた先に樽や荷車や丸太を組んで道を塞いでいるのが目に入る。
「きっひっひ、あれでバリケードのつもりかい」
俺はバリケードの前に立つ男達の足元に向けて空雷弾を連射。足元でバチバチと弾ける空雷弾に慄き男達が左右に逃げる。
間髪入れずサイドブレーキを引いたキーケちゃん。
ケツを振った魔導車は道の中央に置いてあった荷車を跳ね飛ばし、そのまま一回転すると進行方向を向く。
「ぐうっ」
「お粗末様じゃ」
ザクフォードが唸りキーケちゃんは笑ってアクセルを踏み込む。魔導車はロケットのように加速していく。
俺は樹上にいる弓兵に向かって空雷弾を連射する。
魔導車はすさまじい速さで次のコーナーを曲がるので着弾したかどうかはわからないが、脅しくらいにはなったろう。
「奴らも割に合わない相手だって気づいたんじゃない?」
「そんなに頭の良い連中じゃあなさそうだね。窓を開けて貰っても良いかね?」
俺の言葉にザクフォードが答える。キーケちゃんがハンドルについてるボタンを操作しリアウィンドウを開けた。
「手助けしないんじゃなかったのかい?」
「あんな事されたらたまらんからな」
笑いながら言うキーケちゃんにザクフォードは答えると窓から右手を出した。
『バッシュゥゥゥゥゥゥゥ!』
ザクフォードの右袖から複数の火花が走り、煙の筋を出しながらうねって空に散った。
そして散った火花は空中でいったん止まるとそれぞれ煙の尾を引いて落下する。
火花は進行方向右側崖上に見えた複数の人影にヒットする。
「おおー!凄いじゃん!さすが」
「ストップ。それ以上は慎んでくれたまえ」
悪の幹部って言おうとしたが機先を制されてしまった。
ちぇだぜ。
だが、へこんでばかりもいられない。
進行方向の道に複数の石が転がされておりこちらの速度が落ちる。
後方からは馬に乗った山賊が押し寄せ、崖上からは道に転がっているようなサッカーボール大の石が降って来る。
こちらに身体を見せると狙い撃ちされると気づいてか、姿を隠しての投石なので狙いが不安定なのがせめてもの救いだが、それにしても数が多い。
「上は私が受け持つ、後方は君が頼む」
「あいよ」
ザクフォードに言われた俺は風魔法で小型竜巻を複数発生させバラまく。
小型の竜巻に突っ込んだ馬は竿立ちになりねじれ飛んだ。
仲間の馬を乗り越えながら近付いて来るしぶとい奴もいたが、体勢を崩してるので空雷弾の良い的だった。
ザクフォードの方はどうかと様子を見る。
『ブイィィィィィィィィィィィィィィィン』
ザクフォードは窓から片手だけ出し、その手には太い筒があった。そしてその筒は甲高い音をたて回転しており、筒の先から凄い勢いで何かが発射されていた。
その発射物は崖の上へと連続して放たれ、崖の上からの投石はみるみるうちに消えて行く。
「何それ何それ?凄くない?カッコ良くない?」
俺はザクフォードに言う。
「ふふ、秘密兵器は君だけの得意技ではないのだよ」
得意顔のザクフォード。
しかし得意顔になるのもわかるよ、ありゃガトリングガンみたいだもんなあ。こちらからは良く見えないが恐らく先端には幾つかの細い筒があり高速回転しながら多数の弾丸を発射しているんだろうな。
仕組みについてツッコんで尋ねてもいいんだけど、ザクフォードの奴は妙に勘が良いとこあるからな。変な勘繰りされるのも面倒だから素直に感心しとくか。
「素直にすげぇー」
「君がそんなに素直だとかえって気持ち悪いね。ボンパドゥも似たような兵器を持っているのか?すでにこれにも搭載されているのかね?」
「おいおい、素直に感心してんだから素直に受け取れよ」
「どうも君の言葉は額面通り受け取れんね」
ザクフォードはガトリングガンもどきを連射したままそう言った。
このままじゃここの山賊全滅しちゃうんじゃないか?
「きっひっひ、山の大掃除と言った所かのう」
ハンドルを握るキーケちゃんは上機嫌だ。荒事好きだもんな~。
魔導車は異常なスピードで峠道を疾走する。
道を塞ぐようにして現れた山賊は、こちらに攻撃を加える暇もなく呆然と通り過ぎるか魔導車にふっ飛ばされるかふたつにひとつだった。
崖上の敵はザクフォードが後方の敵は俺が退治しているうちに山賊の姿は見えなくなる。
「こんなものか」
ザクフォードはそう言うとガトリングガンもどきを車内に戻す。
ガトリングガンもどきはカシャカシャとメカニックな音をたて自動的に分解されザクフォードのスーツ内に隠された。
「おおーー!かっちょいいーー!」
俺は車内に戻りながら言う。
「そうかね?私はすこしスマートじゃないと思うのだが」
言いながらもまんざらではない様子のザクフォード。お?何よ?ちょっと嬉しかったのか?
「つまらん事に時間をとられた。ペースアップするぞい」
キーケちゃんはそう言って更に加速する。
さっきまでの速度もとんでもなかったが、それでもキーケちゃんにしてみれば抑えた走りだったって訳か。
う~む、キーケちゃんとケイトで領外遠征チーム作って公道最速理論打ち立てちゃうか?
後ろでザクフォードが石でも噛んだような顔をしてるのがルームミラー越しに見える。
ニシシシシ、笑っちゃ悪いけど笑っちゃうよ。
コマネズミのように目まぐるしく動いていた車の動きは道が平坦になり落ち着いて来る。
「ふぅ、峠を抜けたか」
「きっひっひっひ、お疲れさん」
額の汗を拭くザクフォードにキーケちゃんが労うような声をかける。
さすがのザクフォードもキーケちゃんの言葉には嫌味のひとつも返さない。
窓の外の風景に民家が混じり始めたなあと思ったらあっという間に市街地に入った。
「マサライズの公園はもうすぐだが」
「もうか。では公園から北西へ向かうと大きな杉が三本生えている分かれ道がある。そこを左に曲がり真っ直ぐ海の方へ向かってくれ。近くに行ったらまた教えよう」
「心得た」
キーケちゃんはニヤリと笑う。
さすがに市街地は人通りも多いのでそこまで速度は出していなかったが、市街地を離れて人気のない街道に入ったとたんまさに水を得た魚といった感じの高速クルーズに入るキーケちゃん。
その後はザクフォードの道案内が上手かった事もありスムーズにマルギシャス邸が一望できる山の上に辿り着く。
「ほう、あれがマルギシャスの屋敷か。確かに要塞と言っても遜色ないの」
キーケちゃんが言うようにここから見える屋敷はまさに天然の要塞と言うにふさわしい様相だった。
切り立った崖に囲まれた屋敷の出入口は深い森に伸びる道ただひとつ。
「山側から飛んで侵入すればいいんじゃない?」
「それは難しいな。遮蔽物がなにもないから屋敷から丸見えだ」
俺の言葉にキーケちゃんが答える。
「その通り、崖側に向かっては飛び道具が多数用意されており警備も厳重だ。逆に森側への警備は薄くなっている」
「魔物が居るから、か」
今度は俺が答える。
「その通り。あの森に放たれているのは危険度Aに該当する魔物ばかり。山側から入れば飛び道具の格好の的、森側から侵入すれば魔物の格好の餌食。さて、どうするね?」
ザクフォードは楽しそうに言う。
「そうだのう、トモはどうしたい?」
「俺はそうだな、やっぱ正面から?」
「だな」
俺の答えにキーケちゃんは嬉しそうな顔をして運転席に戻る。
「なぜ正面からなのか教えて貰っても?」
ザクフォードは興味深げに俺を見た。
「なぜって、人の家尋ねるのに裏からって事はないっしょ。それに魔導車を屋敷の前にビタづけしたいじゃん」
「は?それだけ?」
ザクフォードは呆れたような顔をする。
「そ」
俺は短く答えて助手席に入る。
「はっ!まったく君達には恐れ入るよ」
ザクフォードは呆れたような口調でそう言うと肩をすくめるのだった。




