飽きるの警備保障って素敵やん
「向こうさんも意地になってるね」
消し炭のようになっている魔物を見てザクフォードが言う。
「なんでそう思うのよ?」
俺はちょっと意地悪っぽく聞いてみる。
「これじゃあまりに証拠が残り過ぎだ」
「今までだってそうだったよ」
「いや、今までのは君達の対処が想定以上に早かったりしたため、いわば不可抗力で証拠が残るなり現場を押えられるなりしてしまったのだが、今回はもうそんな事は構ってられないといった様子に見えるね」
「確かに攻撃が雑になって来たようには見えるね」
闘技場に、いや人ごみの中にいなくて良かったよ。
「やつらのためにこいつを消す義理もないしここは放置して行こうか」
「金になる素材とかとれないのかね?こいつ」
「本来、これは海に生息する魔物だ。それを陸戦用に弄ったのがこいつなのだよ。つまり、人の手が入っている不自然な存在なのだ、価値ある素材などは取れないよ。ま、この状態じゃあどっちにしてもだがね」
ザクフォードは肩をすくめる。
「まったく、うっとおしい事この上ないなあ。めんどくさいからマルギシャスに直接抗議に行こうかな」
「あっはっはっは!そりゃ傑作だ!是非お勧めしたいねえ」
ザクフォードが笑う。
「なにがおかしいんだよ?」
「そりゃおかしいさ。マルギシャスはな、非常に憶病で用心深い男でね。彼の屋敷は難攻不落の要塞のようになっているのだよ。周囲は山で出入口はひとつだけ。しかもその出入口は深い森になっており狂暴な魔物が放し飼いになっている。出入りを許された者には魔物避けの術式具が渡されるが、それを渡されるのは本当に信用された者だけだ。屋敷内に入れたとしても中は私兵により厳重にガードされている。そんな所にわざわざ行くのは」
「死にに行くようなものだってのかい?あたしはそうは思わないけどねえ」
ザクフォードは突然気配もなく挟まれた声にビクっとして構えた。
「面白そうな話をしてるじゃないか、あたしも混ぜておくれよ」
ゆらりと現れたのはなんとキーケちゃんだった。
「どーしたのよー?なんでここにいるの?」
俺は驚いて尋ねた。
「今日はうちの部員と闘技場の警護をする日だ、聞いてなかったのかい?」
「そういや、アルスちゃんから聞いてたなあ。でも警備の方は大丈夫なの?」
「部員に任せて来たからな。ぬしがそこの男と出て行くのが見えてついて来たのさ」
「だったらこいつと戦ってる時に手伝ってくれれば良かったのにー」
「あたしが出るまでもなかったろう?それより、今の話よ。詳しく聞かせよ」
キーケちゃんは俺とザクフォードを交互に見て面白そうにそう言った。
どうやら闘技場の警備については警備の厚さやら場の雰囲気やらで、自分が居るまでもないと見たんだな。まあ、たんに飽きた言う事もできるが、そんな事は当然言わない。キーケちゃんのゲンコはシャレになんないからな。
そしてザクフォードの顔からは先ほどまでの余裕が消え真剣な表情でキーケちゃんを見ている。
さすがのザクフォードも警戒態勢に入ったのかな?
俺はざっくりと現状をキーケちゃんに話した。モミバトス右派とチョーズン派ロビーの戦いから派生して今はアントワル・マルギシャスの個人的は恨みまで俺に向けられている事。試合への干渉が懸念されていたがどうやらアンダーグラウンドな組織が賭けの対象にしているらしく試合に影響が出るような事態は起きないだろう事。しかし、自分への攻撃は起きているので邪魔にならないように闘技場を出て来たところザクフォードが面白がってついて来た事。
「…したら、この有様でね。このままじゃ行く先々の人に迷惑がかかるからマルギシャスの所に行って、こういう事はやめるように言ってやろうかと思ってさ」
「ほうほう、なるほどな。それは確かに迷惑な事よのう。ザクフォードよ、ぬしはマルギシャスのアジトの場所を教えてくれたらもう帰って良いぞ」
俺の話を聞いたキーケちゃんは笑顔でそう言った。さてザクフォードはどう出るかな?
「あなたのような淑女にそこまで言われて、はいそうですかと帰る訳にも行くまい。私も同行させて頂くよ」
「いや~、キーケちゃんの前だからってカッコつけて大怪我しても知らないよ~?素直に場所だけ教えて後はビップルームに帰って洒落たカクテルとつまみで試合観戦してた方がいいんじゃな~い?」
余裕ぶってたお返しにちょいと煽ってやる。俺は結構意地悪なのだ。
「アリビオ団の戦姫と呼ばれた人の実力、この目で見ておきたいしね」
ザクフォードは余裕を取り戻して言った。ちぇ、キーケちゃんが何者なのかもご存知だったか。だったらキーケちゃんに対する警戒があの程度なのは褒めてやるか。
「なんか焦げ臭いの~?」
「さっき凄い音しとったのと関係あるんか~」
「セオダーのやろう、またカミさんとケンカしてんのか?」
ガヤガヤと声が聞えてくる。
「面倒な事になる前に移動した方がいいかも」
「そうしようか」
俺の言葉にザクフォードが答える。
俺とキーケちゃんはニヤリと笑ってザクフォードの後に続く。
「では駅に向かおうか」
「マルギシャスの家って遠いの?」
俺はザクフォードに尋ねる。
「歩いて行ける距離ではないな」
「ではあたしの愛車で行こうか」
「愛車?専用の馬車で来ていたのかね?」
ザクフォードがキーケちゃんに尋ねる。
「馬車じゃあないがねえ」
キーケちゃんは笑って歩き出した。
俺はザクフォードの顔をちらっと見てキーケちゃんに続く。
ザクフォードはスーツの襟を正してから肩をすくめるとそれに続いた。
どこまでも芝居がかった奴だよ。




