俺たちのプレイボールって素敵やん
「ふふふ、今日は楽しい一日になりそうだねえ」
カクテルグラスを傾け余裕しゃくしゃくの表情を浮かべるザクフォード。
「いつまでそんな余裕でいられるかな」
俺はニヤニヤしながらザクフォードの顔を見る。
「今のところ私はターゲットではないようだよ。しかし、さっきのあれはなんだい?ビリヤードのキューを構えていたが」
ザクフォードは楽しそうに笑って言う。
「あれはなんつーか、術の精度を高めるための儀式みたいなもの」
「ふうん、そう言えば君は東方の小国家の出だとか。なんて言ったっけ?」
「レインザー王国ね」
「そうそう、そのレインザー王国は魔学が遅れている、いや、失礼、魔学後進国だと言う話しだったね。だから術式を使わず儀式を用いるのかね?非常に興味深い。魔学における実験プロトコルや術式が儀礼やまじないに取って代わられた。ある意味、法則を理解し活用しようと言う姿勢は共通なのだな」
「一定の法則に基づき自然や対象を操作しようとする。時や場所が変わっても人はそれを望むんだろうさ」
盛んに感心したような顔をするザクフォードに俺は言ってやる。まったく、術式を使わない魔法はザクフォードに言わせれば呪術のようなものなのか。俺に言わせればどちらも呪術のようなものだけどな。
『カッキィィィィィィィン』
「お!君のトコが打たれたぞ!入るか、入るか、取られたか~。なかなか手堅い守備だね~。そうだ、ひとつ握るかね?確かオッズが出てたはずだ」
「は?これ、ギャンブルの対象になってるの?」
「なってるなってる」
ザクフォードは笑顔で言いカクテルを一口飲む。
「ふうん、じゃ、試合の方は大丈夫そうだな」
「何がだね?」
「いやさ、賭けの対象になってるのならさ試合が壊されるような事はないでしょ?そんな事をされたら胴元がこまるじゃない?どこがケツ持ってるのか知らないけど、そういう事はそれなりの力を持ってないとできないでしょ?」
「なるほどな。確かに胴元やってる所は大手の二次団体だ。チョーズン派や右派の中でもそこの世話になってる者は少なくないな。ふふっ、まったく君は抜け目がない」
「んじゃ、そう言う事だから失礼しますよ」
俺はそう言って席を立つ。
「ちょっちょっちょ、ちょっと待ちたまえ。だったらゆっくり試合観戦をすれば良かろう」
ザクフォードが慌てて俺を制止する。
「いや、そう言う事なら俺は試合会場にいない方がいい。それとも何かい?俺をここに足止めしておきたい理由でもあるのかい?」
俺はザクフォードをちょっとキツイ目で見る。
「そう言う事でもないが」
「じゃ、ビールとナッツの代金、ここに置いとくよ」
俺はカウンターにそれなりの銭を置く。
カウンターに立つバーテンさんが苦い顔をする。
「いやいや、金はいい。ってそうではなくてだね」
ザクフォードがそう言って俺についてこようとする。
「じゃあそこのバーテンさんのチップにしといて」
バーテンさんの表情が柔らかくなる。
俺はビップルームのトビラに手をかけ外に出る。
「待ちたまえと言うのに」
「なんであんたも出てきちゃうのよ?せっかくのビップ席なのに」
「どうやら今日一番のビップ席は君の隣りのようだからね」
ザクフォードは乙な事を言ってやったみたいな顔をして俺を見る。
「崖っぷちかもしれないけどな」
「それこそスリルがあって面白いというものだよ」
「まあ好きにすればいいけど、場合によっちゃかばいきれないかもよ?」
俺は歩きながらザクフォードに言う。だいたい味方じゃねーし、助ける義理じたいないんだからな。
「自分の身ぐらい守れるよ。それより、どこに行くつもりだね?」
「とりあえず外だね」
俺は答える。連中は賭けの胴元に気を使って大きな行動はしてこないとは言え、さっきみたいに俺をピンポイントでちょっかいをかけてはくるからな。闘技場はお祭り騒ぎだ、中に居ればそのとばっちりが誰かに及ぶ可能性は高い。とにかく、人の少ないところで時間を潰す。そして、ちょっかいをかけてくる相手を片っ端からシメるスタイルで行こうと考えている。
「お仲間に声をかけなくても良いのかね?」
「そんなことしたらついて来るって言いかねないからね」
「ふふふ、お仲間思いな事で」
ザクフォードが嫌味な笑みを浮かべる。甘ちゃんだって言いたいんだろう。だが、ついて来たら闘技場の警備が薄くなる。胴元のニラミで試合をぶち壊すような事はしないと思うが、スプレーン個人はわからない。あいつは色んな組織に身を置いているが、どこが本命なのかイマイチわからないから行動が読めないところがある。
それに、スプレーンの奴は表面的には冷静に振る舞っちゃいるが、根っこのところは感情まかせなところがあるからな。
そんな事もあって闘技場の警備も薄くするのは心配だ。
「俺はそういう人間なのよ」
だが、ザクフォードにそこまでそこまで説明する義理はない。俺は軽く返した。
含み笑いをしながらついて来るザクフォードを後ろに、俺は闘技場を出て人の流れに逆らって歩く。
闘技場からは歓声が聞えてくる。だいぶ盛り上がっているようだ。
俺は暇そうにブラブラと歩いて路地裏に入る。
町の人は皆闘技場に行ってるんだろう、人っ子一人いない。
襲撃には絶好のポイントだ。
俺はゆっくりと路地裏を歩く。
「誰も襲ってこないね。目論見が外れたかな」
「そんな事もあるよ」
面白そうに言うザクフォードに俺は答える。いちいち説明されると恥ずかしいよ。やっぱ、連れてこなきゃ良かったか。
『ザッッッッ!!!』
突然地面から触手が伸びてきて俺の足に絡みついた。
俺はバランスを崩し倒れこむ。
視界の隅に映ったザクフォードが驚きの表情を浮かべ宙に浮いている。ザクフォードの背中には小さなランドセルのような物が見える。飛行の術式具か。なるほど、自分の身くらいは守れるか。
「んなろ!」
俺は触手に鉄鋼散弾をぶち込む。
足をつかんでいた触手は千切れるが次々と新たな触手が地面から湧き出て俺に襲い掛かる。
「しつこいな!」
俺は鉄鋼散弾を連射し次々襲い掛かる触手を粉々にする。
「おっと、本体のお出ましだよ」
頭上でザクフォードが言う。
路地裏の地面が盛り上がり触手の群体が現れ無数の触手をこちらに向けて伸ばした。
「ぬおっ!キモッ!」
「ほっほ、こりゃあ珍しいキングアネモニーじゃないか。敵さんもおごったねえ」
「楽しんでる場合かよ!」
俺はゲイルで飛行しザクフォードに並ぶ。キングアネモニーってのはイソギンチャクの魔物だ。
路地裏を埋め尽くしたイソギンチャクのバケモノはゆっくりと建物を這い上りこちらに迫って来る。
「確かにこのままにはしておけぬか。この辺り一帯燃えてしまうが仕方あるまい」
ザクフォードはそう言うと右腕をキングアネモニーに向ける。ザクフォードのスーツの袖口からノズルのような物がにゅっと現れる。
「おい、なにするつもりだよ?」
「なにって、焼き尽くすんだよ」
「バカ、よせって」
俺はザクフォードの袖口をグッと押し下げる。
「なぜだね?このままだと、辺り一帯がこいつに消化されるぞ?」
「だからって火の海にしてどうすんだよ」
「そうでもしないと、こいつは倒せないぞ?」
「ちょっと任せてくれって」
俺はこちらににじり寄るキングアネモニーに組んだ両手の人差し指を向ける。
「何をするつもりだね?」
「いいから見てろって」
俺は答えながら深く呼吸をする。魔力を体内で循環させて練り上げ指先に集中する。
「喰らえ!!」
俺は叫びながらめいっぱいの魔力を込めた空雷弾を放つ。
『バチバチバチバチ!』
ボーリングの球サイズの帯電した空気弾が渦を巻きながらキングアネモニーにぶつかる。
「バッッッッッ!!!!」
大きな爆発音がし周囲が閃光に包まれる。
「うっ」
ザクフォードが唸り、俺は一瞬目を閉じる。
「どうよ」
目を開けた俺は煙を上げ崩れ落ちるキングアネモニーを見てザクフォードに言う。
「こういう事はあらかじめ言ってくれないか?目がチカチカするよ」
「かばいきれない事もあると言ったろ?」
俺はザクフォードに言ってやる。
ザクフォードは肩をすくめる。なんだよ、さほどダメージ受けて無さそうじゃないか。
複数の術式具で武装しているとはいえ、こいつ自身戦闘力もそこそこあるとみえる。
これは本格的に気を使わなくて良さそうだな。




