出た出たまたそれかって素敵やん
松葉杖の男が杖を俺の方へぶん投げる。
近くにいた別の男が同時に刃物を持って俺に向かって突き立てる。
俺は飛んできた松葉杖を蹴りで返し突きかかって来た刃物男にぶつける。
刃物男の喉に松葉杖がヒット、男はカウンターで喰らいとんぼ返りするようにして倒れた。
予想外の事に他の男達が固まる。
「どうする?まだ続ける?」
「ビビってんじゃねー!まぐれだまぐれ!いっぺんに行け!」
「威張ってないでまずお前から来いっつーの」
俺は叫ぶ恫喝男にツカツカと近寄りデコピンを食らわす。
『ゴン』
重い音がして恫喝男は目を白くし前のめりに倒れた。
「どうすんの?まだやる?俺のデコピンは痛いぞ~」
俺はデコピンシャドーをしながら残りの男達に言う。
「じょっ、冗談じゃねー!」
「つきあってられっか!」
「俺はかんけーねーからな!」
男達は手に持った刃物を投げだし逃げ去って行く。
「おーーい、こいつも連れてけーー」
俺は松葉杖を喰らって昏倒してる男を抱きかかえ逃げてく男達に向かってぶん投げる。
昏倒男は逃げてく男達に見事ヒット。
男達は大きなアクションで前につんのめった後、投げられた仲間を担いでそそくさと逃げ去って行く。
「かっかっか!あの慌てっぷり!笑っちゃうね」
俺は逃げてく奴らを指差してポッツさんを見た。
「あの、私、どうなるのでしょうか?」
「それは、事情を聴いてからって事になるかな。聞かせて貰える」
「……はい…」
決心したような表情になったポッツさんは事の次第を話し出した。
合同学園祭でファルブリングとの親善試合が決まった日、ポッツさんはその事を家族に知らせようと馬を走らせていた。ポッツさんの父と母は仲が悪く、普段一緒に居てもほとんど口を利く事もなかったのだと言う。そんな不仲な両親の様子に心を痛めていたポッツさんだったが、元々ベリンボールを始めたのも両親が好きなスポーツだったからであり、ベリンボールを頑張っているのも両親を喜ばせたいという気持ちが強かったからなのだ。
相手校はザ・セブンのひとつに数えられる名門校で、両親の若い頃にはベリンボールの強豪校として名を馳せていたとも聞いていたのでこれは報告すれば絶対喜ぶに違いないと、そしてきっとふたりが昔のように笑い合う姿が見られるはずだと、高揚した気分でポッツさんは帰路を急いでいたのだ。
そんな時、急に飛び出して来た男と接触してしまった。
驚き動転しているうちに男の知人と名乗る別の男達が現れる。
パニック状態にあったポッツさんはそれでもなんとか気力を振り絞って衛兵を呼ぼうとした。
すると知人の男がポッツを見て、その制服はフルポアの制服だね?と問うた。
そうですとポッツさんが答えると、輝かしい未来がある若者の経歴に傷をつけるのは憚られる、ここは私が納めておくので連絡先だけ教えて欲しい、そして念のため事故同意書にサインして下さいと男から言われた。冷静さを失っていたポッツさんは連絡先を教え同意書にサインし、その場は解散という事になった。
そして翌日、身体中に包帯を巻いた男とサインを求めた自称知人がポッツさんの家にやって来た。
両親に知られる事を恐れたポッツさんは慌てた。
そして、なんとか自分の家から離れた所で話せないかとお願いする。
男達はそう言う事なら静かに話せる所に移動しましょう、と馬車を呼んだ。
そして男達に連れられて行った場所には先ほど逃げて行った男達がたむろしており、暴力を匂わす恫喝で同意書のサインを盾に法外な慰謝料を請求されるに至った。
それ以来、ポッツさんは彼らの指示に従いぼったくりバーの客引きや美人局まがいの事をさせられる事となったのだった。
「…そして、昨日の事です。この男から新たな指示がありました。その指示はドギューズさんの宿泊している部屋の水道を夜間出しっぱなしにせよというものでした。なぜそんな事をする必要があるのか尋ねると、たいした事ではないから気にしなくて良い、誰も傷つかないし迷惑もしない、ただのちょっとしたイタズラだと言われました。いつもなら、お前には関係ないとかいちいち煩わすなと激高するのに、急に猫なで声で言われ私は怖くなりました。これは、いつもよりも何か重大な悪いことに違いない、これをやったら自分だけじゃなくチームのみんな、そしてドギューズさんにも何か大きな迷惑がかかる事に違いないと思ったので、怖かったですけど私は指示に従いませんでした。そしたら昨日あんな事が…」
ポッツさんは唇をかみしめる。
「なるほど、さっきこいつがやってくれたなと言ってたのはそう言う事でしたか」
俺は納得する。
「私、ベリンボールにだけは嘘をつきたくなかった。だって、それは父と母の今となってはたったひとつの共通点だから。もう、母は昔の母じゃなくなっちゃったけど、それでも心の奥にはきっと昔の母が残ってるはずだから……」
ギュッと握られたポッツさんの手が白くなる。
今回の件の根本原因は両親の不仲にあるようだが、母が変わってしまったと言うのは気になる。
「お母上の変化に何か心当たりは?」
「母が変わっていったのは待ち人教会に行くようになってからです。あれから母は変わってしまった…」
嫌な名前が出て来たな。だが、これで薄っすらとだが絵図が見えて来た。
「なるほどね、もしかしたらお母上の事も含めて君を取り囲むトラブルは解決するかも知れないよ」
「本当ですか?」
俺の言葉にポッツさんはすがるような目をこちらに向ける。
「確実とは言えないけど、高い確率で解決すると思うよ。おい、起きろ」
俺は昏倒している男の肩に軽く電撃を喰らわす。
「ぎゃっ!!」
「大袈裟だなお前は」
大きな声を上げて飛び起きた男の頭を叩いて俺は言う。
「ううう、本当に驚いたんだよ」
「お前に驚く権利なんてないんだよ。お前に出来るのは、これから聞かれた事に正直に答える事だけだ。嘘だとわかったらわかってるよな」
俺はそう言って右手に纏わせた電気を見せつける。
「わっ、わかった。なんでも言うから、そいつはやめてくれ、たのむ、死んじまう」
「じゃあ、素直に話して貰うおうか。まず、昨日彼女に対して出した指示だが、ありゃ誰からの指示だ?」
「うう、それだけは勘弁してくれ、それを言ったら俺の命が危ないんだ」
男は顔を青くして震え出した。
「こっちは薄々見当はついてるんだ。お前らが彼女を当たり屋のターゲットにしたのもそいつの指示なんだろ?いや、その団体の、と言った方が良いか」
「言えねえ、言えねえ、言ったら消される、俺が消されちまう」
男はブルブルと頭を振りそう繰り返した。
「お前の答えによっちゃあ、そのおっかないクライアントはお前どころじゃなくなっちゃうかもよ…」
俺は男に話をする。
待ち人教会の幹部であるヘダシェスが改心し捕縛された事。ヘダシェスの口から待ち人教会の暗部は明らかにされるであろう事、更には最高幹部のひとりアリエル・バリバが捕縛された事。
「……待ち人教会は急いでアリエル・バリバを除名処分し危機を回避したつもりでいるが当局はそんなに甘くない。それに待ち人教会がやった事を右派勢力がやらないと何で言える?」
俺は男の顔を見る。
「ど、どういう事だ」
「待ち人教会がバリバを切った様に右派が待ち人教会を切るだろうという事だよ」
「うう、そんな、まさか。待ち人教会は大きな集金力を持つ組織だぞ?そう簡単に切り捨てられるわけがない」
「バリバだって待ち人教会内ではとてもとても大きな力を持つ存在だった。しかし、組織に不利になる存在だと認識されるや否やいとも簡単に尻尾切りされたんだ。それと同じ事が待ち人教会に起きないと本気で言えるか?」
「………」
「お前はどっちに乗るんだ?沈みかけの船か勝ち馬か。今ならお前次第だぞ?」
「か、勝ち馬に乗るにはどうしたらいいんだよ」
男が言う。
「そいつは簡単だ、まずポッツさんの件は忘れろ」
「それだけでいいのかよ」
「後は、衛兵詰め所に自首して待ち人教会の悪行を洗いざらいゲロっちまう事だな」
「で、でも、そんな事したら俺ら当分外に出てこれなくなっちまう」
男は焦った様子で言う。この期に及んで往生際の悪い男だな。
「なにも今までやった事をすべて言えってんじゃねーよ。待ち人教会絡みの事を洗いざらい言えとそう言ってるんだよ」
俺は少しだけイラつく。
「でっ、でもよう、俺たちゃ衛兵から睨まれてる、それだけで済むとは思えねえ」
ったく、セコイ悪党だなこいつは。仕方ない、少し知恵つけさせてやるか。
「だったら不当な扱いを受けないように俺の知り合いの新聞記者を紹介してやるうから、そっちも絡めて話を進めると良い。バッグゼッド新聞の記者さんなんだけどな、信用できる人物だよ…」
俺はサイマーのアニキさんであるバビエルさんの事を教えた。彼は裏社会の情報に通じているから今回のような話しには持ってこいの人選だろう。
ついでに捜査に協力する見返りに処分を軽くして貰える制度についても教えてやる。
「…その辺りの事もその記者さんはよーく心得てるからね。彼に任せれば悪いようにはしないと思うぜ。とにかくだ、これはスピード勝負だからな。待ち人教会が体勢を立て直しお前らに手を伸ばすのが早いか、お前らの証言の後押しで奴らにその隙を与えずダメージを与えるのが早いか。いずれにしても奴らは沈みゆく船だ、お前らの証言がなくても沈むことには変わりないんだから、これはお前らが助かるか消されるかの戦いに過ぎないんだぞ?ただ俺としてはこうして知り合った人間が闇に葬られるんじゃ寝覚めが悪いから、こうしてアドバイスしてやってるだけの話なんだからな」
「わかった、わかったよ。あんたの言う通りにする、この足で仲間と一緒にバッグゼッド新聞商会に行って洗いざらいぶちまける。それで、衛兵詰め所にも行く。それで、ホントに俺たちは助かるんだな?」
「ああ約束する。ただしさっきも言ったように」
「時間との勝負ってんだろ。わかったぜ、恩に着る」
男はそう言って俺に頭を下げ走り去って行った。
「あの、本当に大丈夫なんでしょうか?」
走り去る男を見てポッツさんが俺に尋ねる。
「あの慌てようじゃ大丈夫だよ、もう、ポッツさんに関わるような事はないさ。それとも、やつらから金を回収した方が良かったかい?恐らく、あまり残っちゃいないだろうけど」
「いえ、そんな事じゃないんです。彼らの命が本当にこれで助かるのか、という意味です」
「あんな事されたのにポッツさんはいい人だねえ」
「いえ、そんな事じゃなくて、ただ、あの人達、私に乱暴したり身体を売れと言う事はなかったから…」
「少しは情が移っちゃった?」
「そこまでの事ではないんですけど、クルースさんが言ってたみたいな」
「寝覚めが悪い?」
「そんな感じです」
ポッツさんが俺を見て恥ずかしそうにそう言った。この子はちゃんとした子なんだな。俺はそう思った。
「大丈夫だよ、実際、現状でも待ち人教会に彼らを何とかする余裕なんてないと思うよ。なんせふたりも大物幹部がしょっ引かれてるからね。そっちの対応で手一杯だろうし当局からガッツリマークされるからね、下手なことすりゃ自分の首を絞める事になる。彼らもそこまで愚かじゃないさ」
「良かった」
ポッツさんが心底ホッとしたような顔をする。あんな目に遭ってもその加害者の心配するとはな。こりゃ、もっと根っこから安心させてやりたくなるよ。
「それからお母上の事だけどね。恐らく、今回の件で教団は大きな係争を抱える事になると思う。そして、今までの悪行や問題点は明らかにされそれは連日報じられるようになるだろう。そうなれば多くの人がその団体の本質に気づき離れて行く事になると思う。君の母上もきっとそうなるよ。それに求心力を失った団体が次に打つ手は信者の離脱防止と悪評対策と決まってるからね。今まで信者に課していた多くの戒律を緩め、自分達は社会にとって敵ではなく良き隣人なんだとアピールするようになる事はまず間違いない。すでにそうした路線変更をしている団体は幾つもあるからね。母上が父君と不仲なのは教団の教義に寄る所が強いはずだ。ああした団体は自分達以外は悪であり敵であると教えるからね。でも今後はそんな反社会的な思想を強く前面に出す事はなかなか難しくなるだろうからね。いずれにしても母上の父君に対する態度も変化するはずだ。そうすれば自然と父君との仲も元に戻るはずさ」
「………ありがとう…本当にありがとう…」
ポッツさんはうつむき静かにそう言った。
俺はポッツさんの肩を叩き、シューマーさんの元に送ってやった。
シューマーさんは静かに涙を流すポッツさんを優しくハグし、何度も何度も背中をさすった。
「んじゃ、いこっか」
「いいの?何か話したい事もあるんじゃないの?」
さっぱりとした表情で肩を叩いてきたメイに俺はそう返す。
「いいのいいの、後は若いふたりに任せて朝ごはん食べに行こ」
「またまたそんなに年も変わらない癖に。でも良かったの?あのふたり、後顧の憂いがなくなって更に手ごわい相手になっちゃったけど」
「望むところよ」
そう言って颯爽と歩くメイの後ろ姿はカッコよかった。
そうして俺たちはそれぞれの仕事を終えて食堂へ向かったのだった。




