名バッテリーとトラブルとって素敵やん
「なにかあったんですか?」
それまで明るく朗らかな雰囲気を出していたシューマーさんが、メイの一言で急に表情を曇らしたので俺は気になりそう尋ねた。
「いえ、ホントにいいんです」
「まあまあ、そう言わずに。私も気になりますし、なによりハリス君の親戚と聞いたら放っておくこともできませんよ」
遠慮するシューマーさんだったが俺は更に押してみる。メイが俺に向かってサムズアップする。グッジョブってか?
「ホントは試合前にこんな事をお願いするのは、なんて言うか、良くない事だとも思うんですけど。でも、やっぱり、放っとけないんです」
シューマーさんは真剣な表情で俺を見つめてそう言った。
試合前だと支障がある?どういう事だ?試合運びに関わる問題?選手の問題か?捕手がひとりで早朝練習している、それで相手チームの選手と一緒に練習していた?という事は?
「もしかして、ワイルドフェニックスさんとこの投手さんの事ですか?」
「えっ?なんでなんで?もしかして噂になっていたりします?」
俺の予想はドンズバだったかシューマーさんが慌てた様子を見せる。
「ジミっちは勘が鋭いとこあるからね。頼りになりそーっしょ?」
「うん、メイちゃんの言ってた通りみたい。改めて、お願いします」
シューマーさんはそう言って直角に腰を曲げ頭を下げた。
うっ、体育会系!
「ま、ま、ま、そんなに恐縮しないで軽い感じで話してみて下さいよ。軽い感じで」
俺のほうが恐縮しちまうての。
「それじゃあ、お話しします…」
シューマーさんは口を開いた。
彼女の話はこうであった。
ワイルドフェニックスの投手コニー・ポッツとレネ・シューマーは幼馴染で、子供のころからベリンボールチームで活躍する仲だった。いわゆる名バッテリーって奴だな。
公私ともに息の合う名コンビで、初めて彼氏ができたのも同じタイミング、愛想をつかして振ったのも同じタイミングと言うくらい息があっていたのだと言う。それって息が合うってのと関係あるのかと思わなくもなかったが、それは俺の個人的感想なのでまあ良しとする。
そんな仲良しコンビにズレを感じるようになったのがつい最近の事、ファルブリングとの親善試合が決まった頃の事だった。
それまでは、寮から学園に行くのも帰るのも一緒、帰りに買い物をするのも一緒だったのがポッツは用事があると言って登下校をひとりで行うようになった。
シューマーさんが何の用事か尋ねても、今は言えない、全部済んだら話すからそれまでは何も聞かないでくれと言うばかりだった。
「…そこまで言うのならと、それ以上はつっこんで聞く事はしないでいたんですけど、なんだか練習にも身が入らないみたいだし、何かに悩んでいるみたいで随分痩せてしまって。表情も暗くなるし、なにより私を避けているみたいで……それも、私を嫌っているというよりも、何か後ろめたい事があってまともに顔を見る事ができないみたいな、そんな感じで。どういう事なのか話を聞くよと言っても、泣きそうな顔で同じ事を繰り返すばかり…心配で心配で仕方なかったんですけど、今朝になって彼女の様子が更におかしくなってって」
そこまで行ってシューマーさんは言葉を切り、下を向いた。
「どう、おかしかったんです?」
「あの、わかんないんですけど、やけに怯えた様子で警備の子と話をしてて、話を聞き終わったら今度はホッとしたような様子で、それで私に変な事を言うんです」
「変な事?」
「ええ、今までありがとう、迷惑はかけないようにするから何があっても心配しないでって。妙に真剣な顔で言うものだから私まで不安になっちゃって。何かあったの?なんでも力になるから言ってって、私、そう言ったんですけど、ゴメンって謝るばかりで、それで、ひとりにしてって言うもんだから、私…何もできなくって」
シューマーさんはそう言って両手をギュッと握って下を向いた。
「昨日の晩、なんかあったんでしょジミっち?警備の人達は大したことではないって言ってたけど、ホントは何かあったんでしょ?まあ、言えないなら言えないでいいんだけどさ、ジミっちも警備やってたんなら事情くらいは知ってるっしょ?だったらさ、レネちゃんの友達の事も何か心当たりくらいはあるんじゃないの?」
メイが言い、シューマーさんがすがるような目で俺を見た。
「う~ん、心当たりとまではいかないけど、話を聞くことくらいはできると思う。その彼女、ポッツさんはどこにいるかわかる?」
「ええ、外の馬車停留所にいるのを見ました。多分、まだ、そこにいると思います」
「わかりました。それじゃあ、ちょっと様子を見に行ってみますよ」
「すいません、お願いします」
シューマーさんはそう言って帽子を脱ぎ直角お辞儀をした。
俺は会釈をし、グラウンドを出る。
メイが力づけるようにシューマーさんの肩を叩いているのが見えた。
ううむ、ファルブリングとの親善試合が決まったあたりから様子がおかしくなり、昨晩の騒動の後、怯えた様子で警備に話を聞いて、その後にお別れの言葉とも取れるような事を言って闘技場を出た。
ポッツさんは昨晩の騒ぎとなにかしら関係があったと考えるのが自然だよな。
俺は急いで馬車停留所に向かう。
始発の時間前だから停留所はシンと静まりかえっているはずが、何やら人が言い争っているような声が聞える。
俺はゲイルダッシュで声のする方へ急ぐ。
「やってくれたな、お前。この落とし前、どうやってつけるんだ?お前ひとりでケジメつけられんのか?無理だろ?」
「働いて返しますから、だから、許して下さい」
「子供が払える額じゃねーっつってんだよ。親か親戚に頼んでひっぱって来いって言ってんだよ」
「でも、そんな大金なんて言えば…」
「甘えてんじゃねーっつんだよ!それくらいできなくってどうするんだよ!なんならこいつを連れてあんたの家に行ったっていいんだぜ?その方が話が早いや」
「そんな!」
「そんなじゃねーんだよ!だったら上手い言い訳くらい考えろってんだよ!」
五人組の男達がひとりのやせっぽちの女子を恫喝しているようだ。
俺はつかつかと彼女に近付いた。
「なんだテメー!」
「コニー・ポッツさん?」
いきり立つ男を無視して俺はポッツさんらしき女の子に声をかける。
女の子は怯えた様子でコクリと頷いた。
「私はドギューズのマネージャーでトモ・クルースと言います。ファルブリングではトラブル解決屋みたいな事もやってましてね、レネ・シューマーさんからの依頼でこうしてやって来た訳なんですけど、どういう事になっているのかお聞かせ願えますか?」
「トラブル解決屋?だったらよう、こいつの責任をとってくれや!」
男のひとりが俺に向かって唾を飛ばし怒鳴りながらひとりの男の事を指差した。
指差された男は松葉杖をついている。
「何があったんです?」
「このお嬢ちゃんがな、馬でこいつをはねたんだよ。こいつはな、親父さんが死んで病気のお袋さんとふたりの妹を必死に養ってるんだよ。それが、このお嬢様の不注意でこのざまよ。だからお嬢様には責任をとって貰おうとしてるんだよ。何か俺達、間違った事してるか?それともお金持ちなら貧乏人なんてひき殺してもいいってのか?ああん?」
男が俺に顔を近づけて凄んだ。
松葉杖の男をみると、ニヤニヤと笑って俺を見ていた。
「いやー、それは大変だ。それじゃあ、責任取らないといけませんね。どれだけのお金を払えばよろしいのでしょうか?一家四人の一年暮らせるくらいの保証でよろしいでしょうか?」
俺が言うと松葉杖の男は驚いたような顔をし、恫喝してきた男の顔を見た。
「なんて言うと思ったか!この野郎!」
俺は松葉杖の男の胸を突き飛ばした。
「うわっ!何すんだ!」
松葉杖の男はギプスをした方の足でしっかりと踏ん張り俺の胸ぐらをつかんできた。
「へえ、こりゃ重症だねえ?」
俺は松葉杖の男の顔を見てニンマリと笑ってみせた。
「あ!いたたたた」
「今頃遅いんだよバカ!この当たり屋野郎!」
俺は杖男の頭を引っ叩く。
「当たり屋?」
ポッツさんが俺を見る。
「ええ、馬車なんかに故意にぶつかり金銭等を要求する犯罪行為ですよ」
「え?という事は怪我は嘘なんですか?」
「怪我だけじゃない、家族を養ってると言うのも嘘でしょう。仕事なんかしちゃいない、ただのチンピラですよ」
俺はポッツさんに説明する。
「この野郎!嘘だってなんでわかるんだよ!」
恫喝男が俺に凄む。
「杖ってのはな痛い足の反対側の手で持つんだよ!そんな事も知らないで当たり屋なんてやってんじゃねーっつーんだよ!」
俺は松葉杖男を指差して言う。そうなんだ、この男、ギプスをしている足の方の手で松葉杖をついていたんだ。
医者の世話になってりゃ、そのくらいのことは説明されるもんだ。それをそんなミスするなんて、医者にも行ってない証拠だ。
「ちっ、バカが」
恫喝男が松葉杖男の頭を引っ叩く。
「確かにこいつの怪我は嘘だ。だが、よう、だからなんだってんだ?こっちは五人、そっちはお前と後はそこの女ひとり。この状況でどうしようってんだんだよ?あ?」
恫喝男が凄むと他の男達が懐から短刀を出しギラリと光らせる。
「どうもこうもないね。やる事は同じだよ」
俺は肩をすくめる。
「同じ?同じ額じゃ済まねーよこっちは?ん?ここまでコケにしてくれたんだ、そっちの女共々痛い目にあって貰った上で倍額払って貰おうか。おい!やっちまいな」
恫喝男がニヤリと笑う。
「おう、その方が話が早いや。こいよ」
俺もニヤリと笑い返すのだった。




