夜走るふたりって素敵やん
「やっと追いついて来た~」
コラスが嬉しそうな声を出す。
「おい、コラスよう。お前、あいつの行く先わかるのかよ?」
夜の闇を飛ぶように移動するコラスは闘技場を出て駐車場に差しかかっている。
「さっきの配管から追わせてるからね~」
「誰に?」
「眷属に~」
眷属ね。う~む、それ以上詳しくは尋ねない方が良さそうだな。ちょっと背中がゾワゾワする。
コラスは地面の上を滑るように進む。
月明かりに照らされた横顔が妙になまめかしく見える。
夜に生きる種族ってのは嘘じゃないようだな。
俺も負けじとゲイルダッシュを使いコラスを追尾する。
「おい、闘技場から随分離れちまったぞ?」
辺りは建屋も街灯もまばらになり、藪だか林だかわからないが低い木々密集しているのが目に入る。
「う~ん、多分もうすぐだと思うけど~」
コラスは気の抜けたような返事をするが目だけはランランと光っているのが何とも言えず怪しい。
「ここからは気配を消して行くよ」
歩みを止めたコラスが小さな声で俺に言う。
俺はコラスに従いなるべく気配を薄くする。
辺りは不整地で雑草が生い茂っている。
コラスは藪の中にある獣道を静かに進んだ。
周囲の気配に気を凝らしながら進む俺のセンサーに何かが触る。
コラスが手の平をこちらに向け歩みを止め静かにしゃがむ。
俺はコラスに近付きその視線の先を見る。
古い石造りの小さな祠のようなものの前でふたりの男が何やら言い合っているのが見える。
「……無理です、これ以上は無理です」
「何を弱気になっているんだ!向こう側には悪辣な大反逆者、邪神の使いがいるんだぞ!奴らに霊的食物を存分に喰らわせ霊的に目覚めさせるのがどれほど重要な事なのか忘れた訳ではあるまい!」
「しかし、純真基薬がもう尽きます」
「ばかもの!貴様それでもアロジダ聖典学校の教訓者か!早急になんとかせんと特権をはく奪するぞ!」
「そんな事を言われましても、こちらも全力を尽くしており、あああっ!!!」
「うわぁぁぁぁあ!!!」
『ブッシャァァァァァァァァァァァァ』
何かが破裂するような音がして男ふたりは腰を抜かして地面にへたり込んだ。
「しょうがないねえ」
「ったくなあ」
俺とコラスは腰を抜かした奴らの元に歩き出す。
「ぎえぇぇぇ!誰か!誰か助けてくれ!」
「うわぁぁぁ!痛い!痛いよぉぉぉ!!」
ふたりの男は粘液塗れで煙を上げながら転がりまわっている。
「しょうがないねえ」
コラスはそう言ってひとりの男の身体に触れる。すると男の身体を包んでいた粘液が凍り付きポロポロと崩れ落ちた。
「おい、それ何よ?水魔法か?」
俺はもうひとりの男に水魔法で冷気を吹きかけながら聞く。
「秘密だよん。それより、あいつどうする?」
カワイイ口調で言ったコラスは祠の方を見て俺に言う。
祠の横には小山のようなものが出来上がりプルンプルンと震えていた。
『ボキボキボキボキ』
小山のような粘液物体はどんどん大きくなり周囲の木々を包んでいく。
『バヒュッ!』
近付こうとしたコラスの顔に向かって粘液物体の身体の一部が鞭のように伸びる。
コラスはにこやかな笑みを崩さぬままその触手を手で払った。
「おぉぉ~、凄いよこれ。触れただけでこんなになっちゃったよ」
コラスが手を俺に見せる。
月明かりに照らされ見えたその手の甲には溶かされたような深いエグレがあった。
「うおっ!大丈夫かよ!」
「うん、大丈夫。ほら」
月明かりに晒されたコラスの手の甲のエグレはみるみるうちに回復していく。
「夜は僕の味方なんだよ。でも、困ったな。触らないと凍らせられないしなあ」
「あいつの対処は俺がやるから、そこに転がってるふたりを頼む」
「りょうか~い」
コラスの軽い返事を背に、俺は目の前の震える小山に近付く。
「しかし、改めて見てもデケーな」
俺はゲイルで飛び上空から粘液物体の全体像を見るが、その高さは周囲に生えてる木々を越えその半径は優に十メートル以上にはなっている。
「いいよ~クルポ~ン」
コラスが粘液で服が溶けほぼ全裸になった二人組を肩に担ぎ離れた所から言う。
「うし、んじゃいっちょやりますかい」
俺は上空から水魔法で冷たい雨を降らせる。
「パッシュ!バッシュ!」
粘液物体から鞭状の触手が飛んで来るが俺は冷たい雨を途切れさす事なく氷球をぶつけて撃退する。
冷たい雨水に粘液物体全体が十分濡れたのを確認した俺は、次に細かい氷を含んだ強烈な風を奴に吹きつけた。
「うわっ、凄いねクルポン。ほとんど雪男じゃん」
「ふぉっっふぉっふぉっふぉ。風呂入れよ~」
俺はコラスに笑って答えながら細かい氷を含んんだ冷気を吹きつけ続ける。
「なにそれ~?クルポンの思う雪男ってそんななの~?笑えるんだけど~?」
「雰囲気雰囲気、どうよ?ぼちぼち」
粘液物体の全身は霜で覆われ真っ白くなっている。
「ダイジョブだと思うんなら近くで見てみれば~?」
「お前が見てみろよ」
「やだよ~ん、寒そうだし~」
笑うコラス。
「ちぇ」
俺は冷気を発したまま恐る恐る粘液物体に近付く。
『バリバリバリ』
「うおっ!」
粘液物体が小山のような身体を振るわせ氷を払ったのだ。
「だいじょばなかったね~」
コラスがケラケラ笑う。
「マジ、ビビったっつーの!フーカさんの眼鏡借りてくりゃ良かったよ。そうすりゃ、芯まで凍りついてるかわかったのにな」
「今更言ってもしょーがないっしょ~。じっくりコトコト凍らせなよ~」
「シチュー作ろーってんじゃねーんだから」
俺は距離を取って粘液物体に冷気を吹きつけ続けた。
粘液物体を覆う氷は月明かりを浴びて青黒く光る。
「さすがにも~いいんじゃな~い?」
「そうかな?いけるかな?」
「いけると思うけど~?」
「信じちゃうよ俺」
「信じてちょ~」
いまいち信用できないけど、さすがにそろそろじれったい。
俺って結構せっかちなんだよな。
恐る恐る近づいてみる。
奴に動きはない。
「だいじょばなくないよな」
俺は恐々突っついてみる。
何の反応もない。
「得意のやつ撃ち込んでみれば~?」
コラスが呑気な声を出す。
「大丈夫か~?」
「大丈夫じゃない~?」
「また無責任に言ってくれるぜ」
軽く言うコラスに嫌味を言いながらも俺はその言葉を信じて鉄鋼弾をぶち込む。
『ガラガラガラガラガラガラ』
音を立てて崩れおちる粘液物体。
「お見事~」
コラスがパチパチと拍手をする。
お見事じゃないよもう。




