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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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ヒューマンだものって素敵やん

ヘダシェスと話すのに熱中して気が付かなかったがどうやらフーカさんが当局に連絡してくれたようで、衛兵隊が緊迫した様子で中に入って来た。

 

 「ご苦労様です、クルースさんとヤスミーナさんで間違いありませんか?」


 衛兵の中でもちょっと立派な格好をした人が声をかけて来た。

 俺たちは頷く。


 「私は隊長のドン・ノートンです。よろしくお願いします…」


 衛兵隊長のノートンさんはそう言って丁寧に挨拶をしてくれた。フーカさんが事情を話してくれていたようで俺とヤスミーナさんは協力に感謝されこそすれ犯人グループとの関りを疑われる事もなく軽い事情聴取のみで帰って良しと言われたのだった。

 

 「ヘダシェスはどうなるんです?」


 俺は引っ立てられるヘダシェスの後ろ姿を見ながらノートン隊長に尋ねた。


 「そうですね、未遂ですので反省の色が見られるのなら一年程で出てこられるでしょう」


 「それは良かった」


 隊長の話を聞いて俺は安堵する。ああした団体はすぐに手の平を返すからヘダシェスの事もさっさと除籍して個人の暴走であり団体はそうした指示を一切出しておらず無関係だと逃げるだろう。信者にもヘダシェスとは接触をするなと命じるだろうし、一年塀の中に居れば良くない団体の影響も薄れる事だろう。

 丁度良いリハビリだな。

 今度こそなりたい自分になれよヘダシェス。

 俺は遠ざかるヘダシェスの背中に心の中でそう声をかけるのだった。


 「さてと、急いで戻りましょう」


 俺にフーカさんが声をかけてくる。

 どうやら感傷に浸っている暇もないようだ。

 俺とヤスミーナさんは頷いてフーカさんに従い浄水場を後にした。

 フーカさんとヤスミーナさんもヘダシェスの事で思う事があるのか、移動中の車内は気まずい沈黙に包まれていた。

 うーむ、ちょっと重い話しだったもんなあ。

 ふたりとも何やら考えているような顔つきなので俺はあえてこの空気を壊すような事はせず、静かに運転に集中する事にした。


 『トゥルルルルットゥルルルルルルルル』


 いきなり車内に妙な音が響き渡る。


 「はい、こちらフーカ。どうしました?」


 助手席のフーカさんはダッシュボードに取り付けてある魔導通話機を手に取り通話を始める。


 「…ええ、一緒に居ますけど代わりますか?…はい、闘技場からです」


 フーカさんはそう言って通話機を後ろの席のヤスミーナさんに渡す。


 「はい代わりました……なんですって!わかりました!今すぐ行きます!」


 通信機からの通話を聞いたヤスミーナさんは血相を変える。


 「どうしました?」


 俺は運転しながら尋ねる。


 「それが、闘技場にヘダシェスらしき男が現れた、と」


 「え?だって今、確保した所ですよ?」


 「ええ、それも同時に三か所で確認されたと言うのです」


 「つまり、ヘダシェスが三人現れたと?」


 「ええ、そう言う事になります。急いでもらえますか?」


 「了解!」


 俺はアクセルを踏み込む。

 街道には人通りもないので遠慮なく飛ばせるな。この辺りは舗装されてないけど、こっちは車高の高いピックアップトラックだ。タフな走りが期待できるぜ。

 

 「どういう事でしょうか」


 ヤスミーナさんが眉間にしわを寄せる。


 「う~ん、これはあくまで私の予想なんですけどね。ああした団体のやり方って姑息ですからね、ヘダシェスの尻尾切りをするつもりなんじゃないでしょうか?」


 「どういう事です?」

 

「今回ヘダシェスが任されてた件は成功していればかなりの大惨事になっていたはずです。ヘダシェスは有能なので上手い事証拠を残さず逃げる算段はついていたことでしょう。だが、そんな大惨事になればいずれ待ち人教会へも捜査の手は伸びます。その前にヘダシェスが犯人であると印象付けるための算段を待ち人教会がしていたとすればどうです?」


俺の考えにヤスミーナさんが考え出した。

 

「ありえます、十分にありえる話ですよそれは。だとすればマズイです!もっと急いで!」


フーカさんにはっぱをかけられる。


「とは言えケイト達もいるし、何とかなるでしょ」


「ヘダシェスがやろうとしていた事を印象付けるためにやる事ですよ」


俺の言葉に静かにそう返すフーカさん。

俺とヤスミーナさんは思わず唾を飲み込んだ。

ヘダシェスがやろうとしていた事、それは水源に毒を入れる事。

それを印象づける事なら毒絡みか?


 「冗談じゃねーぞ!そんな事させてたまるか!」


 俺はアクセルを踏み込んだ。


 「なんて奴らですかっ!あいつらにはモラルってものがないんですか!」


 ヤスミーナさんが憤る。


 「ああした団体は自分達の信じる善のためならどんな事をしても良いと思ってますからね」


 「まさに独善的ってやつですね」


 俺の言葉にフーカさんが続ける。独善的ってのはあいつらのような存在にこそ相応しい言葉だよ。自分だけが正しくて他のすべては間違っていると本気で考えているからな、ああした連中は。


 「そんな人にも真摯に語りかけるクルースさんは凄いですね。私なんてちょっと理解できない異質の人って目で見ちゃって文字通り話にならないと思っちゃいますよ」


 ヤスミーナさんが呆れるような感心するような口調で言った。ちょっと呆れのが強いかな?


 「まあ、普通はそうだよねえ。俺の場合、ああした団体との付き合いが結構長いからねえ」


 なんせ前世からだもんなあ。そんなもんとばかり縁があるってのもトホホだけども。

 

 「ジミーさんは地元でもそんな団体と事を構えてますからねえ」


 「そう言えばクルースさんはレインザーからの留学生でしたね」


 フーカさんの言葉にヤスミーナさんが答える。さすが調べはついてるってか。


 「レインザーでもこうした団体は多かったのですか?」

 

 「多かったよ。ああした団体の集金力ってのは凄いからねえ」


 前世でもああした団体ってのは例外なく多額の資産を抱えていたからねえ。大概ああした団体は資産運用のプロを抱えていたもんだ。ほんでもって信者には金を追い求めるななんて教えてたりするんだから大した面の皮だよな。

 

 「その経験でヘダシェスみたいな人間でも立ち直る余地があると見抜けたんですか?」


 「いや、そんな訳でもないよ。ただねえ、ヘダシェスの奴がチンを呼び出した時の事、覚えてる?」


 俺は未舗装路から舗装路へ移るのを見てアクセルを若干緩めショックを緩和しながら聞いた。


 「なんだか錯乱していたように見えましたけど」


 ヤスミーナさんが答える。


 「うん、そうそう死ね死ねとか叫んでおかしな状態になってたよね。あれって魔力枯渇で意識が朦朧としてたって所もあるかも知れないけど、恐らくヘダシェス自身の心の中に淀んでいた鬱憤みたいなものも多かったと思うんだよね」


 舗装路に乗ったので俺はアクセルを踏み込む。大きなタイヤが路面をしっかり噛んだ感触が伝わって来る。

 

 「鬱憤ですか?」


 「そう。つまり心の中に不満や怒りや恨みが溜まってたって事だよ」


 「え?でも、ああした所の信者ってきっちり思考をコントロールされてるんじゃないんですか?奇妙な事でも正しい事だと心の底から信じ込まされているのではないんですか?」


 ヤスミーナさんがキョトンとする。


 「ヤスミーナさんは幻術って使える?」


 「目くらましの術式ですか?まあ、多少は」


 「俺はその術式を使って口を割らせるのがそこそこ得意なんだけどね、ああした術には限界があるのは知ってる?」


 「ええ、一般的な幻術では自分の命を危険にさらすような方向には効かないですよね。例えば、今あなたは水中にいるとか思い込ませて陸上で窒息させるとかは無理ですよね。あ!つまりああした団体の思考コントロールにも似たような所があると、そういう事ですか?」


 ヤスミーナさんがなぞなぞで答えを見つけた子供のような無邪気な声で言う。


 「俺はそう考えてるよ。ヘダシェスは待ち人教会の中でもかなりの権威を持っていた」


 「だからこそ強固な信仰を、いわゆる狂信的なものを持っているんじゃないかって思ったんですけど」


 「権威を持っている分、一般信者では見えないようなものが見えていたって事もあったと思う。特に彼はダークな仕事ばかりをさせられていたわけだしね。そんな所も彼の心に鬱憤を貯めさせた原因ではあるだろうね。どれだけ思考をコントロールしようとしても良くない事をすれば不快に感じてしまうし、楽しくない事をすれば辛く感じてしまう、これはもう痛みや眠気なんかと同じ人間の抱える自然な反応と言っても言いと思う。彼らはそうした人として当然湧き起こる自然の感情をもコントロールしようとするが、それは結局無理なんだと俺は思うんだよ」


 前世でもああした団体の信者の中にそうした鬱憤を抱えている人を多く見かけたものだった。そうした人は多くの場合、他者に対して攻撃的、批判的になる事が多かった。そうでない人は強い罪悪感を抱え、自分は救われない存在だ、団体内で低い位置にいる人間だと自分を責めて心を病んでしまうパターンが多かった。

 俺はヘダシェスの中にもそれを感じたんだ。

 俺は話を続ける。


 「彼は心の中に強い鬱憤を抱えていたでしょ?つまり、自分が置かれている状況に満足はしていなかった。不満や怒りや恨みが心の中で渦を巻いていた」


 俺はハンドルを握ったまま言う。

 

 「彼は幸せではなかった」


 ヤスミーナさんが寂しそうにつぶやいた。


 「まあ、そういうことだね。そして自分自身それを強く感じながら感じる事に罪悪感も覚えていたんじゃないかな」


 「………彼もまた人だった」


 ヤスミーナさんが呟く。


 「そう簡単に人は人を辞められないよね」


 俺はそう言った。

 本当にそうあって欲しい。

 これは俺の願望でもある。

 でもその一方で人はその一線を越えてしまう事もあるって事実も俺は知っているのだ。

 それは洗脳だけではなく、そうした団体の情報遮断、孤立化策により相談できる人が団体内にしかいなくなってしまう事による強力な同調圧力など他に同時で進行する様々な策により、本当はそんな事をするような人ではない善良な心を持つ人が自分の子供を虐待してしまったりする。

 人ってのはそんなに強くないんだ。

 だからこそ、だからこそなんだ。

 俺はハンドルを持つ手に力が入ってしまうのだった。


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