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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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それでも説得って素敵やん

 「ちょっといいですか?」


 俺は一声かける。フーカさんは小さく頷いて俺と入れ替わる。


「えーとヘダシェスさんだよね?」


「そうだ。お前はクルーズだな?この汚民め」


 ヘダシェスは恨めしい目で俺を見る。


「魔力吸収阻害症なんだってね」


「だからどうした」


「それって自分で何かできる事ってないの?」


 俺はフーカさんを見る。


「もう何をしても無駄なのだ!だから覇道楽土だけが希望なのだ!」


 ヘダシェスが叫ぶが俺はフーカさんを見続ける。


「確かに完治はしませんが、適切な処置により進行を遅らせる事はできます」


「適切な処置とは?」


 俺はフーカさんに尋ねる。


「専門の医師に聞かねば詳しい事はわかりかねますが。規則正しい生活、バランスの良い食事、適度な運動と魔力維持の練習などが上げられますね」


 フーカさんが言う。


「そういう事、あんたしてる?」


 俺はヘダシェスに尋ねる。


「そんな事、する必要性がない。なぜなら…」


「必要性はあるだろ?」


 俺はヘダシェスの言葉を切って言った。

 終末思想と選民思想の及ぼす悪影響のひとつに現世での努力をしなくなる、というものがある。

 俺は前世でそれを散々見て来た。

 この世界は終わり新たな世界がおとずれる。だから今は勧誘活動に尽力しなさい、その他の事は新たな世界でやれば良い。良くない団体は信者に繰り返しそう教える。

 すると信者は、やりたい事をやるのは新たな世界に入ってからで良いと考えるようになる。

 そうすると、現状を良く変えようとする気力がわかなくなってしまう。

 結婚は新たな世界で外国の人とするから、とか本当はやりたい仕事があるけどそれは新たな世界に入ってからでよい、などと言っている人を多く見て来た。

 だが結局終末などは来ずただ時間が過ぎ歳をとるばかり。

 それでも悔いはないと胸を張り前向きに生きてるならば良い。

 だがほとんどの場合、ヘダシェスのような暗く人を恨むような目をして同じ信者内で密告者のような事をして憂さを晴らすか、やたらと人を裁くような人になっていたもんだ。

 自分が苦しんだんだからお前も苦しめと言わんばかりに。

 そんなのは自分も他人も不幸にする、誰も得しない事だ。いや、得するヤツが居る事は居るか。それはそんな団体を運営してる奴らだ。

 前世でもそんな奴がうっかりいつもの装いでネットを通じて信者の前に出て、つけてる腕時計や指輪がバカ高価なのを一部でつっ込まれていたりしたのを見た事がある。

 上層部が末端信者の寄付をしっかり養分としていたのが発覚した珍事件だったが、信者たちはそんな事があっても変わらず揺らぎない信仰を維持してるので恐れ入る。


「今の自分を少しでも良い状態にするってのは神様だって望んでる事じゃないのか?」


 俺はヘダシェスに言う。


「そんな事はない!今の世界は邪悪で汚れているんだから!」


 俺の言葉に強い拒否反応を示すヘダシェス。


「それとあなたが今の状況を改善しようとしないのは関係ないですよね?」


「関係ある!神の代理機関たる待ち人委員会がそう言っておられるんだ!」


「待ち人委員会?」


「待ち人教会の最高権力者たちの事です」


 ヤスミーナさんがフォローしてくれる。まったく、教祖ひとりなら責任の所在がはっきりするものを、教祖的存在を無しにして複数の人間を最高権力者団を作るやり方は前世でも良くないカルト団体でたまに見られたやり口だ。

 そうやって責任の所在をあやふやにする事で信者へ科していた規則を変更しても誰も責任をとらないで済ます、非常に無責任なやり方である。


「神様の意見じゃないんですよね?」


「神の意見と変わらない!」


「それはマズいんじゃないですか?神は比類なきお方だと良く言いますよね?比類なきってのは他に比べるものなしって意味ですよ?それじゃ組織崇拝じゃないですか?」


「………」


 ヘダシェスは歯を食いしばり地面を見つめる。


「待ち人教会も経典とするのはモミバトス経典ですよね?確かモミバトス経典にこんなエピソードがありましたよね?」


 俺は例の神の名を騙り息子の命を犠牲に捧げるように言ったその声を、神はそんな事を言わない!と看破した聖人のエピソードを話す。


「現在の人生を精一杯生きないように促す思想は神様の思想ではないと思いませんか?この聖人ならそんな思想を植え付けようとする相手には神の名を騙る不届きものめ!と一喝するとは思いませんか?」


 ヘダシェスは手の色が白くなるほどをギュッと握り歯を食いしばっている。

 こいつもまた被害者なんだよな。

 こうやって人の人生を大きく狂わせるような思想を強く発信しておいて、その事が社会を賑わせ多くの人が白眼視し国がそうした団体の便宜を図る制度を見直そうとすると手のひらを返したように規則を緩和する。

 そんな事も前世では良く見かけたもんだ。それで人生を狂わせられた人達にとってはたまったもんじゃないよな。

 俺にはその気持ちは良くわかるんだよ。

 ヘダシェスよう?お前も本当はそんな生き方したくないんだろ?

 人が生きるって事は、そんな団体が提唱するような軽くて浅いもんじゃないんだ。

 俺は押し黙るヘダシェスの目をじっと見つめるのだった。


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