表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
PR
1216/1222

水源を守れ!って素敵やん

 俺は急いで風魔法で煙を散らす。

 そこに現れたのは鷲程の大きさの鳥であった。

 コバルトブルーの体色に黒の斑点というなんとも言えないカラーリングをした鳥。


 「マズイですねチンですよ」


 「へ?ちん?」


 俺は思わず股間を押えてフーカさんを見る。


 「バカな事言ってる場合じゃないですよ。あれは猛毒の魔物です、羽や糞が水源に入ったら大変です、なにしろチン毒は無味無臭で水に良く溶けるんです」


 ヤスミーナさんが俺に言う。 

 チンは浄水場の水源の真上を飛んでいる。


 「昔から暗殺に用いられてきたので現在帝国では所持が禁じられてるんです」


 「非常にマズイ状況ですよこれは。あいつが水源の上を飛んでる限りこちらから攻撃できないですよ」


 フーカさんの言葉の後にヤスミーナさんが難しい顔をして言う。


 「キョォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 チンがもの凄く不快な声を上げる。

 頭が締め付けれるように痛む。

 なんだ、この声は?

 鼻の下に暖かいものを感じ手で触れると鼻血が出ていた。


 「なにこれ?マズくない」


 俺は鼻血を拭いながら言う。


 「チンの声は破壊的な音波なんです、眼鏡の左のツルのボタンを長押しして下さい。聴覚ガードの術式が発動しますから」


 フーカさんがボタンを押しながら言うので俺とヤスミーナさんも真似をする。


 「聴覚ガードモード発動」


 通信機から音声が聞える。


 「スゲッ!音声解説付きかよ」


 「感心してる場合じゃないです。あいつを何とかしないと、糞でもされたら一大事です」


 ヤスミーナさんがチンを見ながら俺に言う。

 チンは浄水場の水源の上でホバリングしている。

 

 「どうします?」


 フーカさんが俺を見る。


 「やれるかどうかわかんないけど、水源の水を凍らせてみる」


 「そんな事ができるんですか?」

 

 「わかんねーけど、それぐらいしか思いつかなないから」


 俺は水源に向かってゲイルダッシュをする。


 「フキョーーー!!!」


 チンが俺に向かって音波を発する。

 サングラスが小刻みにプルプル震えるが先ほどのような不快さはない。

 よっしゃ、イケるぞ。

 俺は水源に手を付け水魔法の魔力を注ぐ。

 水が冷たくなり手をあてがっている周囲の水がシャーベット状になりモコモコと盛り上がり始める。


 「キョォォォォオ!!!l


 チンが俺に接近し音波攻撃を仕掛けてくる。眼鏡がビリビリと震える。


 「注意、注意、過度な負荷を検知、過度な負荷を検知。セーフモードに入ります」


 眼鏡から警告メッセージが流れ、さっき味わった不快な気分になり鼻の奥が熱くなる。やばっ、こいつの音波攻撃でハイテク眼鏡がセーフモードに入っちまった!やばっ!鼻血が流れ頭が熱くなり圧迫されてるような痛みを感じてきた。

 ぐっ、視界が赤くなってきた。こりゃ、急降下した時のレッドアウトに似た症状が出始めてるぞ。

 手をあてがった周囲の水面が凍り付き始めた。ここで魔法を途切れ差すわけにゃいかない。

 しかし、このままじゃいつまで意識を保てるか?


 「ぎゃはははは!死ね死ね!死ねばみんな覇道楽土に行けるんだ!私に感謝して死ねい!」


 ヘダシェスの声が遠く聞こえる。こなくそっ!俺は奥歯を噛み締める。チンを直接攻撃すれば水源に猛毒の羽が落ちちまう。サンドバックになるしかできる事はないのか。


 「こっちだバケモノ!」


 「こっちのほうが美味しいわよー!」


 ヤスミーナさんとフーカさんの声が聞える。

 どうやら自分達を標的にして俺への攻撃を止める作戦に出てくれたみたいだ。


 「助かる。気を付けて」


 俺はなんとかこれだけ絞り出す。鼻血が鼻を塞いで変な声になっちまった。俺は鼻息と魔法発動してない左手で残った鼻血を外に吹き出す。

 ヤスミーナさんとフーカさんはふたりでチンを挑発し合い、攻撃を分散し上手い事音波攻撃を避けている。

 

 「なぜ、なぜわからないんだ!覇道楽土に行けるのに、なぜ抗うんだ!これだから汚民はダメなんだ!ダメなんだようっ!!」


 ヘダシェスが泣きそうな声で叫ぶ。


 「覇道楽土?汚民?何言ってんだこいつは」


 俺は思わずつぶやいてしまう。


 「覇道楽土とは邪神に支配されたこの世界を神が滅ぼし訪れる新世界の事、汚民というのは邪神に支配された世界で生きる人の事。どちらも待ち人教会用語です」


 ヤスミーナさんがチンの音波攻撃を避けながら言う。


 「うわあ、終末思想に選民思想かぁ。やっちゃってるなあ」


 カルト団体にある問題点の根っこのところに必ずチラつくのがこの二つの思想なんだよな。いい加減うんざりするけど、それだけ利用しがいのある思想って事なんだろうな。

 クソが!

 水面が波立ちボコボコと流氷のようなものが浮き上がる。

 苛立ちが魔法制御を雑にする。

 いかんいかん、今やるべき事は水面の素早い保護だ。

 俺は意識を集中する。

 全体を早く覆うにはなるべくフラットに水面を凍らせなきゃいけない。

 逃げ回ってるフーカさん達のためにも、とにかく早く。

 

 「神の…神の人族に対する働きかけは……比喩や寓話でなく……救済であり栄光の……今は約束の時代だというのに……」


 ヘダシェスの具合がおかしいぞ?

 言葉は途切れ途切れだしなんか目つきもおかしい。

 なんだあいつ?変な薬でもやってんのか?


 「マズイですね、クルーズさん急いでください」


 フーカさんが俺に言う。


 「どした?」

  

 俺は魔法への集中を途切れさせぬよう短く聞く。


 「ヘダシェスの状況、あれは魔力欠乏による離脱症状です、おっと!」


 フーカさんがチンの音波攻撃をギリギリで避ける。チンの攻撃速度も上がっているようで、彼女達も余裕がなくなってきているようだ。

 離脱症状ってのは何かの依存者が依存物質を急速に抜いた時に起きる不調の事だ。あれはとってもキツイもので、ある人はそれを自律神経の嵐と表現した。

 ヘダシェスはうわ言のようなものをつぶやき白目になり口から泡を吹いている。

 ったく、世話が焼けるぜ。

 俺はらせんのイメージで深呼吸し魔力を体内で回す。

 体内に取り入れた魔力を頭頂部まで回しそこから徐々に下げて行く。

 それを丹田まで降ろした時に腹にポッと火が灯ったような温かさを感じた。

 きたきた!魔力の回転が大きな風車のようにパワフルなものに感じ始める。

 凍り付き速度が上がり水面に冷気が漂い始める。

 よし、もう少し。

 俺はスパートをかける。


 「よし!今です!」


 フーカさんが叫ぶ。


 「はい!」


 ヤスミーナさんが返事をし両手に持った術式武具をチンに向けた。


 『バチバチバチバチバチバチ!!』


 ヤスミーナさんの術式武具から稲光のようなものが飛びチンに当たる。


 「キョォォォォォォォォォォ!!!」


 チンが断末魔のような雄叫びを上げ凍った水面に落下した。


 「チンをお願いします!私はヘダシェスを見ます」


 「「了解」」


 フーカさんの言葉に俺とヤスミーナさんは同時に返事をする。

 ゲイルを使って落下したチンに近付く。


 「死んだのかな?」


 「いえ、気を失ってるだけですね」


 ヤスミーナさんはそう言って腰につけたポーチから大きなビニール袋みたいなものを取り出した。

 

 「なにそれ?」


 「フーカさんから借りた危険生物捕獲袋です。もしかしたら、中にもコカトリスがいるかもと手渡されたんですけど役に立ちましたね」


 袋に手を入れ袋越しにチンをつかみそのままクルリと包み込むヤスミーナさん。まるで犬のふんでも拾ってるみたいだ。

 更に腰のポーチからもう一枚袋を出すと周囲に飛び散った羽を回収するヤスミーナ。


 「この辺りの氷を削れますか?」


 ヤスミーナさんは羽を回収した袋の口を結び、更にもう一枚袋を出しながら俺に言った。


 「ああ、できるよ」


 「ではこの袋の中にお願いします」


 俺はチンが倒れこんでいた周囲の氷の表面を風魔法で削り取り袋の中に入れる。

 触るとマズそうなので風魔法を微調整し風の力で袋に入れる。

 俺はヤスミーナさんから袋を受け取りフーカさんの元に向かう。


 「こっちは完了しました。ヘダシェスの具合は?」


 ヤスミーナさんがフーカさんに尋ねる。


 「なんとか大丈夫そうです」


フーカさんは呼吸器のような物をヘダシェスの口にあてがっていたがそれを外して俺たちに言った。


「うう、ここは?覇道楽土なのか?」


うつろな目をしたヘダシェスが消え入りそうな声で言う。


「あなた、魔力吸収阻害症ですね?」


フーカさんがヘダシェスに問う。


「魔力吸収阻害症って?」


俺は小声でヤスミーナさんに尋ねる。


「魔力を取り入れる力が何らかの原因によって減少していく病気です」


ヤスミーナさんが小さな声で言う。魔力を取り入れる能力が少なくなるって事はいずれ魔法を使えないようになるという事か。元々使えないならまだしも、使えていたものが使えなくなるのは辛いだろう。

 フーカさんに問われたヘダシェスはゆっくりと頷いた。


 「そんな状態で召喚術式具を使えばどうなるか、わかってますよね?下手をすれば命に関わるんですよ」


 フーカさんは諭すように言った。

 

 「別に構わん。覇道楽土に行けば全ては良くなるのだから」


 ヘダシェスは暗い目で言う。

 フーカさんが困ったような顔で俺を見る。

 俺も苦い顔をしてた。

 そういう考え、前世でも散々見たんだよ。ホント、うんざりするほど。

 これは俺の出番かな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ