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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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拝啓怪しい団体殿って素敵やん

 「で?そのまま帰ってきちゃったの~?」


 ドギューズの連中がプロのトレーナーによるケアを受けている横で、ヤスミーナさんから経緯を聞いたコラスが楽しそうな顔をしてそう聞く。


 「まあなあ、あれ以上は逆効果かなと思って」


 俺は答える。


 「クルポンらし~な~。まあクルポンがそれで良しと判断したならそれでいいんだろうけどねえ。僕、人の事ってまだまだ良くわからないし~」


 「コラスさんがわからないのなら私なんて余計わからないですよ」


 俺の言葉にコラスが答えクランケルが肩をすくめた。

 

 「いや、それで良かったと思いますよ。と言うか、これ以上ないほど大きな釘を刺したのではないでしょうかね」


 そう言ったのはケイトだった。

 

 「なんでそう思うの~?」


 コラスは興味深そうに聞く。


 「話を聞く限り、バスティンさんと言う方はスプレーン理事から強い影響を受けているようです。いや影響と言葉では生易しい、ほら以前に言っていた術式や暴力や脅迫を使わず長期にわたる情報と環境の操作で相手の価値観や行動を誘導するテクニック、あれの事を」


 ケイトが俺を見る。


 「マインドコントロールね」


 「そう、それです。あれは確か、自分で選択したと思い込んでしまうそうですね。本当は何者かによって誘導された考え、行動なのに」


 俺は頷く。


 「だとするならば、正面からの言葉は届かないでしょう。相手は何者かによって情報をコントロールされその者が不利になる情報は敵の情報であると教え込んでいる訳ですから、正攻法では余計に反発するだけでしょう。いわば、野生の獣を手なずけるようなもので本来であれば時間をかけるべき事なのでしょう。今は、こちらが敵ではないと認識して貰い、自分で考える事の重要さを知って貰えれば良しでしょう」


 ケイトは落ち着いた口調でそう言った。ケイトとはなんだかんだでラザインの告知者みたいな団体と一緒に関わる機会が多かった。だからそうした団体について話し合う機会も少なくなかった。そうしてそのやり口、抱えがちなトラブルについてケイトもそれなりに知る事となったのだ。

 

 「これはあれかな、僕たちもある程度はそうした団体について知っておく必要があるのかな?」


 「そうですね、少なくともそうしたコントロール下にいる人の心について、ある程度の知識がないといけませんね」


 「まあ俺で良ければいくらか説明はできるよ」


 俺はコラスとクランケルに言う。


 「でしたら、私もお聞かせ願えませんか?」


 ヤスミーナさんもそう言うので、俺はドギューズのメンバーが専門トレーナーによるケアを受けている横でみんなにそうした団体の問題点やトラブル、マインドコントロール下にある人の心理状態や気を付ける点についてザックリと説明した。

 しかし、前世で散々悩まされてきたものへの知識ががこっちに来てから役に立つとはな。前世で散々悩まされてきたものがこっちでも俺を悩ませるって事なのかね。

 いや、前世での俺はなんの力もなかったけどこっちでは頼りになる仲間が沢山いるんだ、ただ悩まされてばかりじゃあないぞ。

 

 「なるほどねえ、スプレーンの場合は悪意があるからわかりやすいけど、そうでない団体は対処に困るね。」


 俺の話を聞いたコラスが面倒くさそうに言う。


 「ジミーさんの場合は子供がひどい目にあっているかどうかが大きなポイントですね。そうした視点で良いのではないですか?」


 「つまり、どういう事です?」


 ケイトの意見にヤスミーナさんが尋ねた。


 「つまり、目に余るかどうかという事ですね。そのポイントは人それぞれ色々とあるでしょうが、看過できないという境界線はあるはずです。それを越えた場合は介入していく、それで良いのではないですか?」


 「確かにそれならわかりやすいですね」


 「義を見てせざるは勇無きなり、ですね」


 ケイトに答えるヤスミーナさんの言葉を継ぐようにクランケルが呟いた。


 「クランケルの場合はその基準が義って事か」


 「そう言う事なんですかね」


 「パッとその言葉が出て来たって事はそうなんだろうよ。ま、繰り返しになるけど組織に絶対服従で疑問を抱く事も許さない、批判的意見を一切受け付けない、不安や恐怖を煽る、外部の人間関係を遮断しようとする、生活が破綻するレベルで経済的に搾取する、なんてのはわかりやすい問題点ではあるな」


 「それだけ聞くと独裁悪党領主のやり口ですね」


 「まあ、似たような所はあると思うよ。だから逆に言えば独裁悪党領主の元ではこうした団体が成長する余地はないわけで、そうした団体が跳梁跋扈するって事はその領その国のトップが独裁的悪党ではないって事にもなるんだけどね」


 「皮肉なものですね」


 クランケルがアゴの下に手をやりそう言った。美青年がそれをやると凄みがあるな。


 「でもスプレーン理事は国を弱体化させるために利用していると言ったのですよね?やっぱりそれを放置していると国益を損なう事になるんですから放置はできないんじゃあないですか?」


 ヤスミーナさんが難しい顔をして言う。


 「そうは言ってもそれで助かっている人もいるんだよね。俺の地元のある偉人はそう言う団体は民にとっての麻薬みたいなものであると、そう言ったんだよね」


 「だったら尚更蔓延させてはマズイんじゃないですか?」


 「もう麻薬しか救いがないって人もいるんだよ。例えばもうどうする事もできず只々強烈な痛みと共に死を待つしかない病にかかっている人とかね。そうした人にとっては麻薬は痛みを緩和してくれる唯一の救いなんだよ」


 「……自分の力ではどうにもならない環境で生きている人、ですか。確かにそうした人がいる事はわかります」


 ヤスミーナさんはしょんぼりとしてそう答えた。


 「だからそんな立場の人がなくなるような社会を目指して若い人が頑張る事ができればいいなと俺は思うんだよね。若い子が自分の夢を追いかける事ができて尚且つ弱者に目を向ける事ができる、そんな世の中になればさ」


 「ケイトモはまさにそうした場なんですね。卒業したらケイトモで雇って貰えませんか?」


 俺の言葉を聞いたヤスミーナさんが少し明るい顔になる。


 「うちは大歓迎だけど、ヤスミーナさんみたいに有能な人は引く手あまたでしょう?うちで独占したら各所の恨みを買いそうだよ」


 俺の言葉にヤスミーナさんがそんな事ないですよーとクスクス笑った。


 「だからこそ子供の夢と将来を踏みにじり頑張ろうという心を折るそうした団体のやり口が許せないんですねジミーさんは」


 「ジミーさんは優しいですからね」


 「クルポン、やさすぅーーいーねぇー」


 「よせやい!」


 ケイトの後にクランケルが言いそれをコラスが茶化すので俺はさらに茶化して流す。ううむ、冷静に言うケイトに真っ直ぐ言うクランケルの言葉は照れ臭すぎて死にそうになるからコラスのキャラは助かるよ。


 「失礼します。委員長、こちら風紀委員からです」


 部屋に入って来た女子生徒がヤスミーナさんに花束を手渡した。


 「これを?風紀委員から?」


 「ええ、バスティン委員長から直接受け取りました」


 「……わかりました、ありがとうございます。それではお返しに青いネメシアの花束をバスティンさんへ送ってください。お願いできますか?」


 「わかりました」


 花束を持って来た女生徒は短く返事をすると退出して行った。


 「それをバスティンさんが?」


 「ええ、そうです」


 紫色の花束を抱えたヤスミーナさんが嬉しそうに言う。


 「紫のクロッカス。花言葉は愛の後悔、愛の懺悔。青いネメシアは包容力、偽りのない心、平和、を意味します」


 クランケルが表情を変えずに言う。


 「にゃるほどね、ってお前、花言葉とか良く知ってるね」


 「港街育ちですから」


 「にゃるほどね、ってなんでやねん!なんでも港育ちって言えば説得できると思うなよ」


 俺は殊更おどけてツッコミ皆が笑った。

 ふとヤスミーナさんを見ると少し目が潤んでいた。

 クランケルの奴め、ヤスミーナさんを気遣ってわざとボケた事を言ったな?こいつ、そんな小技まで覚えたらそれこそ女子がほっとかないぞ?悪い虫がつかないかおじさん心配だよ。

 しっかし、さすがお嬢様学園フルポアの生徒だな。花言葉でやりとりとはなあ。俺じゃ思いつきもしないよ。

 小粋ねフルポア。


 「でも良かったよね~」


 「なにがよ?」


 呑気な声で言うコラスに俺は尋ねる。


 「だってこれでバスティンさんは今回の件にもう絡んでこないでしょ?良かったじゃんねえヤスミン。これで彼女は安全圏だよ」


 コラスのその言葉を聞いて俺たちはサーっと血の気が引いた。

 そうだ、今回の件はスプレーン側の参戦を明確に示すものだったんだ。

 スプレーンサイド、つまりチョーズン派がこの場所を使って正式にモミバトス右派へ向けて宣戦布告したようなもんだ。

 

「ショーもねー連中のつまんねープライドでせっかくの合同文化祭をしっちゃかめっちゃかにされてたまるかっつーの!なあ!」


 なんつーか逆にムカついてきちゃったよ俺は。こういうのって嫌な目に遭うのは下っ端なんだろどうせ。どっちの勢力も上の人間は現場になんか顔出しもしねえんだろうし。いや、現場に顔出してる偉いさんいたな、ザクフォードの奴にこのうっぷんをぶつけてやろうか?

会場プラプラしてたら嫌味のひとつくらい言ってやろうか。

 と完全に八つ当たりモードに入る俺なのだった。


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