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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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ああ麗しき友情って素敵やん

 カンクワンの話はこうであった。グロースィンセル工務部長の事を心の底から尊敬しているカンクワンであったが、当の本人グロースィンセルは生徒会執行部のヤスミーナの事をライバル視して自分の事は何も見てくれていない。カンクワンは工務部の仕事を完璧にこなし、自分がいかに有用かわかって貰えればきっと自分を見て貰える、そう信じて工務部活動に尽力してきたがグロースィンセルが見ているのはいつだってヤスミーナの事だけだった。

 こんな事では執行部に笑われる、執行部はこんな事を企画したうちも負けてられない、執行部が執行部に……。

 心から敬愛するグロースィンセルはどうすれば自分だけを見てくれるのか?

 カンクワンはそれだけを毎日考えていた。

 そんな時にグロースィンセルがこぼした一言がカンクワンに一条の光を見せた。


 「……部長はこう言ったんです。ドギューズに負けるなんて事があってはいけない、負けないために工務部に出来る最高の仕事をしましょう、と。だから思ったんです、私にできる事をすればきっと振り向いてくれるはずだって。だからお願いしたんです、なんとかドギューズに勝つ方法はないかって」


 「誰に?誰にお願いしたの?」


 「マッケンジー・バスティンさんに」


 「そんな、なぜ…」


 カンクワンの言葉にグロースィンセルが絶句する。


 「どちらさんです?そのお方は」


 俺はヤスミーナさんに尋ねる。


 「生徒会風紀委員長です、クルースさんも会った事があるはずですよ、合同祭の初顔合わせの時に」


 「マジっすか?」


 「ええ、因みにあの時、私も居たんですけどね。クルースさんは覚えておられないようでしたけど」


 「いや、おかしいなあ。こんな美人忘れるはずないんだけどなあ。あの時は慣れない環境に舞い上がってたから」


 「うふふ、別に責めてはいませんよ。あの時、クルースさんはだいぶ緊張されていたようですしね。それより、これが風紀委員長のマッケンジーさんです」


 ヤスミーナさんは笑いながら抱えていたリストをめくり俺に見せた。

 え?このリストって。

 マッケンジー・バスティン、生徒会風紀委員長。ジェニファー・スプレーン理事にとても目をかけて貰っておりスプレーン理事の秘蔵っ子と呼ばれている。スプレーン理事のためにかなりグレーな仕事もこなしているとの噂あり。

 注意書きの上に画像が添付されている。


 「あっ!この子!知ってる!」


 「可愛い子ですからねえ。やっぱり記憶に残ってましたか」


 「違う違う!あの日の夜、この子に案内されてスプレーン理事と会ってるんだよ俺」


 俺はヤスミーナさんに説明した。あの日の夜、立食パーティーで俺に話しかけ外の空気が吸いたいから付き合ってくれと言って誘い、ジェニファー・スプレーンの元にいざなったあの彼女だ。

 結局、名前もわからなかったがそうか、やっぱりスプレーンの子飼いだったのか。

 俺はヤスミーナさんへスプレーンに地下に落とされた事までは言わなかったが、邪魔をするなと釘を刺された事は伝える。


 「そうですか、理事とそんな事が。だからあの夜クルースさんは途中でお帰りになったのですね。スプレーン理事の言い分ではファルブリングから呼び出されて急遽帰ったとの事でしたが、あの日、夜市で買い物をしているクルースさんの姿が目撃されていましてね。急用にしてはと違和感があったんですよ。それで納得いきました」


 むむむ、ただの生徒会のおまけみたいなもんだったはずの俺の行動をそこまでマークしているとは。

 ヤスミーナさん恐るべし。


 「そうでしたの、気づいてあげられなくてごめんなさいね。ヤスミーナさん、今回の件はわたくしが全面的に悪いのです。どうか、彼女の事は罰せずわたくしを罰して下さいませんか」


 「わっ!」


 そう言って優しく抱き寄せたグロースィンセルの言葉に、弾けるように泣きだすカンクワン。


 「今回は被害者に遭われたファルブリングの生徒さんも怪我は無く、咎めだてするつもりはないと仰っていますので特に罰するような事はないだろうと考えています」


 「ありがとう。しかしながらこれはわたくしの至らなさが招いた事件ですので、責任を取って」


 「ちょい待ち」


 俺はグロースィンセルさんの言葉を途中で切る。


 「なんですの?」


 「本当の意味での責任の取り方はやめる事ではなく続ける事ですよ。そしてあなたの後輩に本当のあなたを見せるんです」


 「本当のわたくし、ですか?」


 「そうです。人と言うのは三つの自分があるんですよ。自分が認識している自分、他人が認識してる自分、そして」


 「本当の自分ですか?」


 グロースィンセルさんが俺に言う。


 「そうです。今回の事件の根っこは自分で認識してる自分と他人、つまりカンクワンさんの認識している自分の乖離によって起こった事だと思いませんか?カンクワンさんはあなたのライバル心が手段を問わず結果が出れば良い、そんな軽い程度のものと思っていたわけです」


 「それは軽い程度、ですか?」


 「そうです。あなたの抱くライバル心はそんなに軽いものではないはずです。ライバルと認めたからには正面から正々堂々挑み相手に認めさせたい、あなたのライバル心にはそうした重みが伴ったはずです。違いますか?」


 「確かにそうですが…」


 グロースィンセルさんは俺を見てそう言った。


 「しかし、その思いはカンクワンさんには伝わらなかった。カンクワンさんがあなたの事を強く慕っていた事には気付いていましたよね?」


 「勿論ですわ」


 「だったら、あなたももっとカンクワンさんの事を見てあげるべきでした。いや、今からでも遅くはないのです、これからもっとカンクワンさんの事を人として見てあげる事。自分を偽らず見せ、そして自分を慕ってくれる人に恥じない自分であり続ける事。それが、それこそが今のあなたに最も求められている事なんだとは思いませんか?」


 「うわっ!わーーーっ!」


 「………」


 俺の言葉を聞いてなのどうかわからんが更にヒートして泣くカンクワンを抱きながら、ゆっくり静かに頷くグロースィンセル。


 「行きましょうか」


 俺はヤスミーナさんに声をかける。


 「ええ」


 ヤスミーナさんは短く答えて休憩ルームのトビラを開いた。


 「すいませんね、出過ぎた真似をしました」


 休憩ルームを出た俺はヤスミーナさんに言う。責任取って辞めるなんて言葉を聞きたくなくってつい、出しゃばった真似をしちまった。自分が恥ずかしいわ。


 「いえ、私から言うのもなんでしたので正直助かりました。さすがはケイトモの創設者ですねクルースさんです、含蓄がありました。お見事です」


 「いやいやいやいや、口から出まかせですよ。お恥ずかしい限りです」


 俺は激しく手を振ってヤスミーナさんに言う。マジで恥ずかしすぎるよ。


 「まあ御謙遜」


 ヤスミーナさんは笑っておばちゃんのように手を振りながらそう言った。軽く流してくれるのは俺がガチで照れ臭がってるのを配慮してくれたのか。さすができる人は違うぜ。


 「さてと、では改めましてクルースさんの思い人に会いに行きましょうか」


 「誰が思い人やねん」


 笑うヤスミーナさんに俺は軽くツッコんどく。


 「バスティン風紀委員長についてですが、お会いになられる前に幾つかの情報を共有しておきましょう」


 「よろしくお願いします」


 歩きながら真面目な口調で言うヤスミーナさんに俺は返事する。

 

 「クルースさんは学園裁判制度をご存知ですか?」


 「そういうものがあるという事は知っていますが、あまり詳しくは」


 俺はそう答える。学園裁判制度とは、学園内で起こる様々なトラブルを学園規則に基づいて公平な立場で解決する仕組みであり、まあ普通の裁判の学園版って感じのものだ。勿論、帝国法に触れるようなものは帝国法で裁かれるので、そこまでいかないが当事者同士では解決できないトラブルについて行われるのが学園裁判であり、ファルブリングではなかなか見る機会がなかったので俺は詳しくはないのだった。


 「そうですか。まあ、普通はあまりお世話にならないシステムですからね。バスティン風紀委員長はこの学園裁判を多用する方として知られています」


 「多用ですか?」


 係争ざたが多い人って嫌だなあ。


 「ええ。係争内容は多岐にわたりますが、ほとんどの場合において争点となっているのは彼女の信念や活動が学園法によって保護されるべきものなのかどうか、という事ですね。彼女は風紀委員長ですから学園内の風紀を守る立場にあります。ところが彼女の場合、学園法を逸脱した自分の基準を生徒に押し付けそれに反したものを罰するという事を常習的にやっています。罰せられた生徒が教師に泣きつくたびに彼女は学園裁判を起こすので、ついたあだ名が係争の女帝です」


 「嫌なあだ名ですねえ」


 「なにしろ学園を相手取る事もありますからねバスティン風紀委員長は」


 「マジっすか?学園相手に学園裁判を起こすんですか?」


 「ええ。学園が生徒に対して行った学園内における学園法を逸脱した規則に関するアンケートについて無効撤回を求めて裁判を起こしたんですよ」


 「どんな理由でなんですか?」


 「このアンケートは風紀委員に対して学園法を逸脱した規則を作る集団というレッテルを張り風紀委員に深刻な差別をもたらしているとの主張です」


 「それはそれは。学園側も大変ですねえ」


 「まったく厄介ですよ、生徒会全体の評判も悪くなりますしね。そして、これはとある筋からの情報なんですけどね、そうした事は全てジェニファー・スプレーン理事からの指示ではないかというのですよ。スプレーン理事が強く関わっているラザインの告知者という団体がとっている手法と彼女のやり方は驚くほどに通っているんですね。例えばラザインの告知者では近年になって最高指導者メンバーを頻繁に顔出しさせて信者に対して親近感を抱かせる戦略をとっています。風紀委員もメンバーが学園のイベントに積極的に顔出しし始めています。その他にもラザインの告知者もかなり多くの係争を抱えていますが、その対策としてそれまで使っていた規律用語をマイルドなものに言い換えています。これも風紀委員で同様の事を行っています。またラザインの告知者では近年になってある程度の規制の緩和を行っています。これはメンバーの離脱を防ぐための策だと言われていますがこちらも同様に風紀委員が行っており、今までのはなんだったんだと不評を買っています。風紀委員はラザインの告知者と同じ危機管理マニュアルを用いているフシがあり、裁判の多用もそのうちのひとつであると我々は見ています」


 「それはまたいかがわしいですなあ」


 「我々がもっとも懸念しているのは風紀委員が非常に差別的になっているという事なんですよ。自分達の規則に従わないものを悪とみなし忌避するように強く求める傾向が現れているんですよ。これもまたラザインの告知者の教えや活動に酷似しているんですが自分達の規則に従わないものばかりでなく、特定の種族や職業、性的指向などについても非常に偏狭で差別的な発言をしており、そうした事も係争が増える一因となっています。女性の権利に対しても非常に前時代的な発言をしており多くの生徒から顰蹙を買っているんです。女子校なんですから当然ですよね」


 「ラザインの告知者みたいな団体にはありがちな事ですけど、それを生徒会活動に適用するのは無理がありますよねえ。ああゆう団体って他と差別化するために極端な事しがちですから」


 「ですよねえ。このままだと風紀委員自体がなくなってしまう可能性だってありますからね。同じ生徒会としてそれは避けたい所ですよ」

 

 ヤスミーナさんはため息をつきながらそう言った。


 「ヤスミーナさんもご苦労耐えませんなあ」


 「お互い難儀ですねえ」


 俺とヤスミーナさんは笑い合った。

 ってあんまり笑いごっちゃないんだけどなあ。


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