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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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1209/1221

日頃の感謝を込めてって素敵やん

 とりあえずマーとソロに怪我がなく、部員全員無事であった事を確認すると俺は内線でヤスミーナさんに連絡をした。

 

 「今朝、メンテナンス業者が入っています」


 ヤスミーナさんは警備係をふたり伴いやって来て状況を聞き現場を見ると警備係の女生徒に来訪者記録を確認させた。女子生徒は持っていた書類を確認しすぐにそう答えた。


 「どこの商会ですか?」


 「コアンタム商会です」


 「コアンタムですか?ボンパドゥの製品なのにコアンタムが?なぜです?」


 女子生徒の答えに思わずフーカさんが口を挟む。


 「少々お待ちください……」


 女生徒はそう言うと持っていた書類をペラペラとめくった。


 「……工務部の指示のようです」


 そう言って女生徒は書類をヤスミーナさんに渡した。


 「実行委員ではなく工務部経由ですか。すいません、こちらで統括しきれていないうちのミスです」


 ヤスミーナさんはそう言って頭を下げた。


 「そんなやめて下さいよ~、ただ単に調整ミスってだけっしょ~?」

 「そうっすそうっす、痛かっただけで痣もできてないっすしこっちにきてからフルポアさんにはとっても良くして貰ってるのに、こんな事でそこまでされたらうちらが困るっす」


 マーとソロがヤスミーナさんに言い、部員達もそれに賛同する。

 ドギューズに対するヤスミーナさんの対応は常に柔らかく友好的で、それでいて手際が良かった。そう言う所から信用は作られるんだなあと俺は思った。

 ヤスミーナさんはひとりの女生徒には来訪者リストの再確認と怪しい事があればすぐに連絡するよう指示し、もうひとりの女生徒には場内設備の再確認を指示した。

 

 「試合を前にしたアスリートの皆さんに大変失礼いたしました。施設案内を変更しうちで用意した専門トレーナーによるケアを受けて頂こうと思います。本来は試合後にと思いご用意させて頂いたものですが、こうした事情なので本日からご利用下さい。ご案内したしますね」


 ヤスミーナさんはそう言って部員たちを休憩室から外へといざなった。


 「専門トレーナーは私が直接依頼した方々ですのでご安心ください。元々、プロのベリンボールチームのケアをされている有名な先生たちですので素性もしっかりしてしています」


 歩きながらヤスミーナさんは俺とコラス、クランケル、ケイトにそう話した。


 「ドギューズさん達にプロのケアを受けて頂いている間、私は工務部に顔を出したいと思うのですが誰かご一緒しますか?」


 「恐らく、正面から行っても素直に話してはくれないでしょうね」


 ヤスミーナさんの意見にケイトが答える。


 「そういうのはやっぱりクルポンじゃない?」


 「そうですね、ジミーさんならきっと上手い悪巧みをしてくれる事でしょう」


 「そうそう、俺はわる~い企み得意だから、し~めし~めっておい!失礼なやっちゃな」


 俺はコラスとクランケルにノリツッコミをしておく。

 

 「でもその顔じゃもう何か企んでるんじゃないの~?」


 コラスが俺を見てニコニコしながら言う。


 「ま~ね~……」


 俺はみんなに考え付いたちょっとしたイタズラを説明する。


 「いいじゃんいいじゃ~ん、それ、現場を見たいわ~」


 「さすがはジミーさん、イタズラ厳しく一級品ですね」


 俺の説明を聞いたコラスとクランケルが言う。クランケルは俺の事、トンチの名人だとでも思ってるんだろうか?

だけどケンカはからっきしだよ三級品ってほっとけや!


 「あまりやり過ぎないようにして下さいよ?相手はフルポアの生徒さんなんですからね」


 「わかってるって。素直に話してくれればそんな事はするまでもないしね」


 俺はケイトにそう答えた。

 ヤスミーナさんに専門トレーナーによるケアルームに案内して貰った後、俺とヤスミーナさんとフーカさんは一旦今回の作戦のための仕込みを行ってからフルポア工務部の居室へ出向く事となった。

 この作戦にはフーカさんの協力が欠かせない。


 「失礼します」


 いつにない固い口調で工務部の居室のトビラをノックするヤスミーナさん。

 

 「どうぞ」


 短い声がしてヤスミーナさんはトビラを開く。

 

 「おやおやこれはこれは誰かと思えば実行委員長様ではございませんこと。わざわざお越しになられていかがされたのですか?」


 部屋に入ると丸テーブルがふたつあり、そこに七人の女生徒が座っていた。とげのある言い方でヤスミーナさんを迎えたのは座っている中のひとりの女生徒だった。


 「工務部さんに少しお尋ねしたい事がありましてね」


 ヤスミーナさんは手に持った書類をひらひらさせて言った。


 「なんなりとお聞きくださいませ」


 先ほどの女生徒が手を振って大仰に言い、テーブルを囲んだ他の女生徒達もあざ笑うような表情をした。なんか態度悪い人達だなあ。


 「実行委員を通さずに工務部さんが勝手に出入りの業者を決めているような事が散見されますが、いったいどういう事なのでしょうか?グロースィンセル部長ご説明願います」


 「ご説明するほどの事はございませんですよ実行委員長殿。私達はただ上からの指示に従っているだけの事ですの」


 「その上と言うのは誰なのかお教え願いたいのですが」


 「我々にその説明責任はございませんの」


 取り付く島もなく言うグロースィンセル部長。工務部員達も口を隠してクスクス笑っており誰が今回の指示を受けたのかこれじゃあわからないし、聞かせてくれるような協力的な態度でもない。

 

 「そうですか、では私の方の用事はこれまでですね。おふたり共、お願いします」


 ヤスミーナさんはそう言って俺とフーカさんにペコリと会釈する。


 「どうも、こんにちは。私はファルブリングカレッジベリンボールチームのマネージャーをしていますクルースと申します。本日は我々のために色々と骨折って下さり感謝しております」


 「いえいえ、わたくしどもはどこかの無能な委員さんと違って仕事をきちんとこなしているだけですから」


 俺の言葉に最初は怪訝そうな顔をしていたグロースィンセル工務部長がオホホホと高らかに笑いそう答えた。


 「そこで、本日はお世話になった皆様に、我が学園が懇意にしているボンパドゥ商会さんのご協力でささやかながら慰労をさせて頂こうとこうして出向いたのでございます。お忙しいとは思いますが、なにとぞお受け取り下さいませ」


 俺はそう言って頭をゆっくりと下げる。


 「あらあら、まあまあ、どうしましょう」


 グロースィンセル工務部長はまんざらでもない表情で言う。


 「せっかくですしお受けされては?」


 「そうですわ。お受けしないとファルブリングさんに失礼ですわ」


 「それもそうですね、ではせっかくですのでお受けしますか」


 幾人かの生徒に促されグロースィンセル工務部長は席を立った。

 かかったな。

 俺はフーカさんとヤスミーナさんをチラリと見る。ふたり共ニヤリと笑みを浮かべている。

 

 「私はボンパドゥ商会連合の研究主任をしておりますフウ・フーカと申します。ご案内させて頂きますのでどうぞお続き下さい」


 フーカさんはそう言って部屋を出て彼女達を案内する。

 俺とヤスミーナさんは思わず笑ってしまいそうになるのを何とか堪えて彼女たちの後に続く。

 俺たちが向かったのは休憩ルームだった。


 「どうぞ皆さま、今日はボンパドゥ商会連合特製リラクゼーション魔道具に更に私は改良を施したものを体感されて下さい。改良により得られる効果はなんと従来の三倍です!身体も心もとろけるような極上の時間をお過ごしください」


 フーカさんが言って紹介した例のマッサージ筐体にはすべて銀箱が取り付けられている。勿論、どれもただの飾りだがこれが何だったのか知っている人間にとっては脅威の箱となる事だろう。


 「まあまあ、それは是非体験したいわぁ、ねえ皆さま」


 グロースィンセル工務部長が言う。

 

 「実は気になってたんですの」

 「実際に体験できるなんて光栄ですわ」

 「嬉しいですわ」


 一緒に来た工務部員の女子生徒達がお嬢様っぽいやり取りでキャッキャっしているのだが…。


 「あら、どうしましたの?カンクワンさんも体験させて頂いてよろしいのですよ?」

 

 「いえ、あの、これはおやめになられた方が……」


 グロースィンセル工務部長に言われてカンクワンと呼ばれた女生徒が部屋の入り口方面にじりじりと下がりながら答えた。


 「あら?どうされたんです?どうぞご遠慮なさらずに」


 入り口に立ちふさがったヤスミーナさんがにっこりと笑って言った。


 「よければ、エスコート致しましょうか」


 俺はそう言ってカンクワンの手を取る。


 「いやっ!止めてっ!みんなもそれに入ってはダメっ!危ないのっ!」


 カンクワンが叫びグロースィンセル工務部長他工務部員たちはギョッとした顔をし、俺とヤスミーナさんはお互い頷き合う。


 「カンクワンさん、ご一緒よろしいですか?」


 ヤスミーナさんが肩に手をかける。


 「え?え?でも。あれは…」


 「ああ、あれなら大丈夫ですよダミーですから。本物は外してありますからね」


 困惑するカンクワンにフーカさんが優しく説明した。それを聞いてがっくりと項垂れるカンクワン。


 「ちょっとお待ちください、どういう事ですの?うちの副部長が何をしたと言うのです?」


 グロースィンセル工務部長がヤスミーナさんに向かって懇願するような口調で尋ねた。

 

 「彼女には意図的に他者を害する恐れのある不当工事の許可をした疑惑がかけられています」


 ヤスミーナさんは押さえたトーンでそう答える。


 「そんな、嘘ですよね?本当の事を話して下さいカンクワンさん」


 「嘘ではありません、私がやりました」

 

 グロースィンセル工務部長の問に途切れそうな声で答えるカンクワン。


 「そんな……なぜ?なぜなのですか?」


 グロースィンセルが聞く。


 「だって先輩がっ!先輩がヤスミーナさんばかりを見ているから!私だって頑張っているのにっ!うっうっうっ」


 カンクワンは急に激高しそして堰を切った様に泣き始めた。

 そして泣きながら事情を話すカンクワンなのであった。


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