休んでいる暇もないって素敵やん
ミドルト・ヘダシェスという男の危険性については良く理解できた。
そんな奴がウロチョロしてるんじゃこっちも更に気を引き締めていかなきゃならんぞ。
「この情報とさっきの変装予想図、共有させて貰って良いですか?」
「勿論です。こちらの記事はすぐに複製しましょう」
ヤスミーナさんはそう言うとスクラップブックを持って部屋の端に行き、置いてあったテーブルみたいなものの上に本を広げて置く。
続けてヤスミーナさんは机っぽいものの引き出しを開くとそこには記事が転写された紙が一枚入っていたのだった。コピー機みたいなもんか。
「一枚でよろしいですか?」
「はい」
俺の返事を聞いたヤスミーナさんはネードリバーとストロイ通りの記事を複製して俺に持たせてくれた。
その後、先ほどリストを渡された女生徒がやって来て幾枚かの紙をヤスミーナさんに手渡した。
ヤスミーナさんはリストに目を通すと一枚を手に取り頷き女生徒に指示を出した。
「…わかりました。原本はありますのでそちらはお持ちになられて結構です」
女生徒はそう言い頭を下げて去って行く。
「ありがとうございます。クルースさん、こちらもどうぞ」
「ありがとうございます、しかし、仕事が早いですねえ」
俺はヤスミーナさんから受け取った変装予想図に目を通す。
髭や眼鏡、髪型など元の写真と一緒に幾つかのバリエーションが載せられており非常にわかりやすいものとなっていた。この短時間に凄いな。画像や文字をコピーする技術と言い、画像を加工、編集する技術と言い帝国の魔導技術の高さには驚かされるけど、それを使いこなすフルポアの生徒さんの腕にも驚くよ。
「いやあ、学園に最新魔導装置を導入して貰ったばかりなんですよ」
ヤスミーナさんが照れ臭そうに言う。
「最新ですかー。しかし、それをここまで使いこなすフルポアの生徒さんの技術には脱帽ですよ」
「いや~、そんな~」
ヤスミーナさんが照れて身をよじっている。照れ方も愛嬌があるねこの人は。でも、これで学園情報機関の超やり手なんだから油断ならんよなあ。
「あ、ちょっと」
「はっ!」
照れていたヤスミーナさんが通りがかりの女生徒に声をかける。女生徒は短く返事をしピシリと気を付けをする。
う~む、やっぱり油断できん。
「ドギューズさん達が今、どこにいるかわかりますか?」
「はっ!リラクゼーションルームにいらっしゃいます!」
「忙しい所お呼び停めして申し訳ありませんでした、ありがとうございました」
「いえ、とんでもないです!」
女生徒はほのかに頬を赤らめ去って行く。
「ということですのでリラクゼーションルームに行きましょうか」
「よろしくお願いします」
俺はヤスミーナさんの案内でリラクゼーションルームに行く。
ヤスミーナさんの説明によればここのリラクゼーションルームは運動後の選手の回復を重視し積極的休養アクティブレストと栄養補給を目的として作られた施設だという事だ。アクティブレストと言うのは疲れを感じる時こそある程度身体を動かす事で効率的な疲労回復を促進する休養法で最近帝国で提唱された最新の休養法なのだとか。
まったく知れば知るほどバッグゼッド帝国って凄いよ。
リラクゼーションルームは室内でジョギングできるルームランナー的魔道具で走っている人やストレッチをする人で賑わっていた。
ドギューズのメンバーはと探すと、部屋の端にあるカウンターに座って何かを食べたり飲んだりしていた。
「おいおい、いいのかよそんなに食べたり飲んだりで。みんなストレッチとかやってるぞ?」
俺は部員達に声をかける。
「もうやったすよー」
ソロが明るく言う。
「ジミは考えが古いオッサンだから」
「それな、今はあたしたちのようなアスリートは疲労の効率的回復のために運動後必要な栄養素を摂取する必要がある。これ常識な」
みっちょんが言いベーヤンがそれに続いた。
「それ、そこの読んだだけっしょ」
シーボーがカウンターに立てかけてあるメニュー表を指して言い部員たちが一斉に笑う。
俺は肩をすくめてケイト、コラス、クランケルに目配せする。
三人はスッと席を立ち俺の近くにやって来る。
「私から説明させて貰いますので、その間クルースさんは彼女達の警護をお願いします」
「ありがとう、じゃ、頼むよ」
俺はヤスミーナさんに感謝し部員たちの近くの席に座る。ヤスミーナさんは三人と一緒に人のいない所へ歩いて言った。
「どうよ?調子は?」
俺は隣にいるソロに聞く。
「いっすいっす!ここ、いいっすよー!」
「どうよじゃねーだろっちゅーのジミ!お前、ウロチョロしてんじゃねーっての!マネージャー失格だぞ!」
笑顔で答えるソロに被せるようにマーが言う。
「うっせーなー、こっちだってマネージャーの仕事で忙しいんだよ。最近変なのも多いしよう」
俺は言い返す。
「あー、それわかりみ。あったかくなると頭わいた奴多くなるからなー。こないだも練習中にさー、このあったかいのにロングコート着てるオヤジがいてさー。変な奴がいるなーと思ってー、チラチラ見てたらたまにコートの前をチラチラ開くんよ。したら、さー、どうだったと思う?」
「どーせ全裸だったって言うんだろ?」
ベーヤンの問に面白くもなさそうにマーが答える。
「違う違う、裸の上にロープがぐるぐる巻きになってたんよ。うっとりした表情でさあ、ありゃマジもんの変態だったね」
「ゲー」
ベーヤンの答えにマーが吐く真似をする。
「マジで最近そう言う奴が増えてんだよ。うちも練習試合でそこそこ名が売れて来たから余計に気を付けねーとさ、さっきだって変なの乱入してきたろ?だからこっちも忙しいの。わかってちょーだい」
俺は拝むようにして部員に言う。
「そーいや、さっきの奴どーなったの?ちゃんと殺したの?」
「ひっひっひ、きちんと息の根を止めてやりましたぜアネキっ、て殺すわけねーだろバカっ、山賊じゃねーんだから。ちゃんと事情を聴取して衛兵さんに引き渡したよ」
物騒な事を言うシーボーにそう返すとシーボーはケラケラ笑った。
「まあ、最近おかしなヤツが多いってのはマジばなだからな。皆、単独行動は避けてどこか行くときは俺かケイトかコラスかクランケルに声かけてくれ」
「なによーそれじゃあお風呂やトイレも一緒に来るわけー?」
みっちょんが言う。
「ああ、一緒に行きますよ~いっひっひっひ~し~めし~め~」
俺は出来るだけスケベな顔をして言ってやる。
「そんな度胸ないくせにー」
「そうだよね、ジミー君ってああ見えて女の子には奥手だもんね」
ジンジャーとメイが挑戦的な目で俺を見て言う。ちぇ、なめられたもんだぜ。そんな事に度胸なんぞいらないって事を教えたろかい。俺は内心で毒づきながら顔ではヘラヘラ笑う。
「皆さん、しっかり食事はとりましたか?」
ケイトが戻って来てキャッキャウフフと盛り上がっている部員たちに声をかける。
部員たちははーいと声を揃えて答える。
「それではしっかり食休みをしてから改めて施設内の案内をして頂けるそうですので、まずは身体を休めて下さい」
「では休憩ルームにご案内致しまーす」
ケイトの言葉の後でまるでバスツアーの添乗員さんみたいな調子でそう言ったヤスミーナさん。
部員連中は返事をしヤスミーナさんの後に続いて歩いて行く。
「また妙な連中に懐かれましたね」
「クルポンらしいよね~」
クランケルに続いてコラスが俺に言う。
「別に俺のせいじゃあないっしょーって、俺のせいみたいなもんか」
良く考えれば、いや良く考えなくても変な連中とトラブってばっかりいるのは俺だもんなあ。言ってて辛くなってきちまったよ。
「いずれにしても素性のよろしくない連中ですからね、存在しているものは仕方がないですよ」
「そうそう、ゴキブリと一緒でこっちから見つけようとしなくてもどこかには居るわけだからね。見つけた時点で潰しといた方が良いってなもんだよ」
「そう言ってくれれば少しは気持ちも軽くなるけど、別に潰す気はないんだけど」
俺はふたりに答える。だいたいそう言う連中って結局根絶やしになんてできなかったりするんだよな、それこそゴキブリと同じでさ。名前を変えたり頭がすげ変わったりして続いて行くんだよな。もっと言えば、前世でもそうした団体は星の数ほどあったが余程の事がなけりゃ、それこそ国にケンカ売って集団自殺みたいな事でもなけりゃ団体消滅なんて事はそうそうなかった。
どんなに悪名高くても、どれほどの家族を破壊し子供の将来を奪い去っても団体は存続してたし、世論や国の目が厳しくなれば規則を変更するか緩めるかして、団体は直接そう指示はしておらず被害にあった人は先走ったからそうなったのだと言うばかりで団体の存続には支障がないパターンがほとんどだった。
結局、傍から見てどんなにイカレた団体でも中に居る人はそれに心酔しちゃってるんだからどうしようもない。
なにせ、前世で世界シェア30%以上、世界の人の三人に一人は信者と言われたキリスト教にしても彼らの正典である聖書の旧約聖書の中で、神により息子を犠牲に捧げろと言われ殺す直前までいった所であっぱれとストップかけられた人物が重要人物で信仰の模範と言われていたりするのだ。
勿論、それの解釈には色々とあるのだろうが、それを持って子供の現世の命より大切なものがあると曲解するような指導をする団体も多くあるのもまた事実なのであった。
この世界のモミバトス教の経典でやはり似たようなエピソードがあった。神の声で子供を犠牲に捧げるよう言われた人が、神はそんな事を言わぬとその声が偽物である事を看破し後に神にあっぱれと褒められるって話しなのだが俺はこっちのが正解だと思うね。
まあ、いずれにしてもそんな団体を潰すのは容易ではないのだ。
「こちらが休憩ルームです。休憩後は施設内をご案内致しますので、準備がよろしければそちらの通話機で内線505教育室へご連絡お願いします。では失礼します」
ヤスミーナさんはそう言うと笑顔で去って行った。教育室って…なんの教育をする部屋なんだろう?ちょっと怖いんですけど。
休憩ルームにはドギューズ御一行様とプレートが貼ってあった。
「さて、んじゃ頑張って休憩しますか!」
「頑張ってする事じゃないっしょー」
マーの言葉にみっちょんがツッコみながら休憩ルームのトビラを開けた。
「おおーー!!」
「なにこれ!凄いんですけどー」
マーとみっちょんが感嘆の声を上げる。
「え?なになに?おおー!」
「うおっ!これなに?」
「これは凄いっす」
後から入った部員達も感嘆の声を上げる。
俺たちも後に続いて部屋に入るとそこにあったのはまるで前世のゲーセンで見た体感機の筐体みたいなものだった。
人が座ってやる何かのようだが。
「見て見てこれ見て!なんか、凄い事かいてあるんですけどー」
「何々?えーと、まるで水中でマッサージされているような最高の脱力体験、だって!」
「やるっきゃない!」
部員たちはワーキャー言いながら大型筐体みたいな奴の中に入って行った。
「凄いねこれ。こんなのあるんだ」
俺はソロが座った筐体を叩いて言う。
「なんかボンパドゥ商会連合製とか書いてあるよ~」
筐体の裏側を覗いてたコラスが言う。
「マジかよ」
俺はフーカさんの顔を見る。
「いやー、そうなんですよねー。私は直接関わってはいないんすけど、完成品の体感はしましたよー」
フーカさんは頭を掻きながら言う。
「なんかこの箱、ついてるのとついてないのとありますけど、何か違いがあるのですか?」
クランケルがソロの入った筐体の裏についた銀色の小さな箱を指差して言う。
「ん、どれどれ?おかしいなあ、私が見た時はこんなものついてなかったんですけど……ん?なんか熱を持ってますねえ」
「わーー!!!痛い痛い!」
「ぎゃーー!なんすかこれっ!痛すぎるんすけどー!」
銀色の箱が付いた筐体に入ったソロとマーが悲鳴を上げる。
「マズいっす!早く取って下さい!」
フーカさんは銀色の箱をチョップで叩き割るとそう叫んだ。
「はい!」
クランケルが言い、もうひとつの筐体についた銀箱を蹴り壊した。
「やっべ!やっべ!首もぎ取られるかと思ったぜーー!!ざけんなよっ!」
マーが首筋を押えながら出てきて筐体を蹴る。
「うううっ、なんすかこれ?これが究極の脱力なんすか?息の根を止められそうになったんすけど」
ソロが這う這うの体で筐体から出てくる。
「なになに?どうしたの?」
「大丈夫?凄い声したけど?」
他の筐体に入ってた部員達が目を丸くして出てくる。
「やっぱり、これうちのものじゃあないですよ。素人の組んだ魔導術式ですよ」
「どんな術式が組んであるのかわかりますか?」
ケイトがちぎり取った銀箱の中身を見ているフーカに聞く。
「えーとですねえ、これは動力強化と停止機能疎外ですね」
フーカさんの答えを聞いた俺たちは顔を見合わせる。
こんなとこまで奴らの手が入ってるのかよ。




