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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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僕とヤスミンとキモファンとって素敵やん

 俺たちはとりあえずクランケルが踏みつけているロッカーの中にいる魔獣の説明をした。

 こりゃ、さすがのヤスミーナさんも驚くだろうな。

 

 「なるほど、わかりました。シンディーさん、魔獣保護課のジョーダンさんに連絡をお願いします。ニスモさんは用具置き場から魔獣用のスリーパーをお願いします」


 ヤスミーナさんは驚くそぶりも見せず警備係の女子生徒にテキパキ指示を出した。

 指示を受けた女子生徒二人は短く返事をすると素早く去って行った。


 「バジリオンの件はこれで良しですが、そちらの方は?確かリストに載っていた方のように思えるのですが」


 「さすがヤスミーナさん。この人は迷惑行為でマークされてるキモいファンです」


 「キモいファンですね」


 ヤスミーナさんは俺の説明に真面目に答える。


 「そう、キモイファン。問題はですね、誰かにそそのかされてここに来たらしいんですよ。その誰か、もしくはそいつの仲間がこの魔獣をここにぶち込んだっぽいんですよね…」


 俺はキモファンの言ってた事を軽く説明する。


 「なるほど、ダーレンさん」


 「はい」

 

 ヤスミーナさんに言われて近くにいた女子生徒が短く返事をする。


 「彼を連れて行ってリストを見せてその人物の特定を急いでください」


 「はい」


 「え?え?え?ちょちょちょちょ、なんすかなんすか?自分、そんなに悪い事しましたか?みたいな、ドゥフッ、なぜ?なぜ自分が?」


 ダーレンと呼ばれた女子生徒は短く返事をし近くにいた女子生徒に目配せするとキモファンを連れてロッカールームを出て行った。キモファンは女子生徒に両手をつかまれてまんざらでもない表情で連れていかれた。まったくキモイ事この上なしだ。

 それと前後するように先ほど指示された女子生徒が円筒を持ってやって来て、クランケルが乗っかっていたロッカーのスリットに円筒を押し付けた。


 「スリーパー注入完了しました」


 「ご苦労様です。クランケルさん、もう大丈夫です。ありがとうございました」


 「いえ」


 スリーパーと呼ばれた術式武具を持って来た女生徒に感謝の言葉を述べたヤスミーナさんは、続けてクランケルにも声をかける。

 クランケルは短く答えてロッカーにかけていた足をどけた。


 「ジョーダンさんへ連絡完了しました。すぐ保護に来るとの事です」


 先ほどの女生徒がやって来て報告する。


 「ありがとうございます。怖い目に遭わせてしまい、運営より謝罪させて頂きます」


 女生徒に感謝したヤスミーナさんはドギューズのメンバーの方を見るとしっかり頭を下げてそう言った。


 「いやっ、そんなヤスミーナさんも運営さんも悪くないし」


 マーが必死に手を振って言う。


 「そーそー、ヤスミンは悪くない。悪いのはキモファンとそいつを煽った奴」


 シーボーが言いメンバーもうんうんと頷くのだった。

 

 「そう言って頂けると助かります」


 そう言うとヤスミーナさんは俺の方を見た。俺はヤスミーナさんに頷き返しコラスとクランケルを見る。

 コラス、クランケルは俺を見てしっかりと頷いた。

 すまんなふたり共。

 俺は再びヤスミーナさんを見る。

 ヤスミーナさんは小さく頷いてロッカールームを出るので俺も後に続く。


 「よろしかったのですか?」


 ヤスミーナさんは俺を見ずに声をかける。

 

 「ええ、ふたりはすぐに察してくれましたから」


 俺は答える。ヤスミーナさんが言ったのは、メンバーに説明なしで彼女たちの元を離れて大丈夫か?という事だ。

コラスもクランケルもその辺の察しの良さと切り替えの早さは戦闘のみならず普段から凄い奴らだ。

これが阿吽の呼吸ってやつか。


「では、どうぞこちらへ」


察しの良さはヤスミーナさんもなかなかのものだ。

彼女の案内で俺は円形闘技場内の一般では立ち入りできないエリアに足を踏み入れる。

首から関係者パスを下げた生徒達が忙しく動く裏方エリアを通り奥の部屋に案内される俺。

トビラは重厚な感じでちょっと物々しい雰囲気を放っている。


「この部屋は昔、剣闘士と戦う魔獣を閉じ込めるための部屋だったそうですよ。この部屋で餌を与えず狂暴さに磨きをかけたとの事ですが、今はうちで使わせて頂いてます」


ヤスミーナさんは俺の目を見て真面目な顔でそう言いトビラを開けた。

なんだかおっかないなあ。

トビラの向こうにはイスに座らせられたキモファンとそれを囲む警備係の女子生徒がふたりいるだけでその他には何もなかった。

ただ、部屋の壁に薄気味の悪い染みがあるだけだった。

嫌な部屋だなあ。


「だから、この中にその人はいないって言ってるじゃないっすか。ていうか、男の顔なんてよく見てないですから、もう、勘弁して下さいよー。せめて殴るなり罵倒する也して貰えないっすか?お願いしますよー」


キモファンはやっぱりキモイ事を言っていた。


「どうですか?」


「申し訳ありません、何も」


ヤスミーナさんに尋ねられた女生徒はそう言って首を振った。


「ご苦労様でした、後は代わります」


「はっ!」


尋問に当たっていた女生徒ふたりはビシッと敬礼すると部屋を出ていった。


「ちょっとちょっとー、なんすかー。次は何をするんすかー?男はお呼びでないんですけどー」


「あなたは不法侵入と傷害未遂で衛兵に引き渡す事になっています」


ヤスミーナさんは口を尖らせるキモファンに静かにそう言った。


「なんでなんすかー!自分、誰も傷つけるつもりなんかなかったんすけどー!それ酷くないっすかー?」


キモファンが興奮した口調で言う。ヤスミーナさんの様子に冗談や脅しではないと感じたのか。


「あなたが協力的でないという事は、魔獣召喚筒を投げ込んだ者と共犯であると判断されますからね。当然、傷害未遂は付くでしょう。魔獣のランクによっては殺人未遂もあり得ますね。そうなるとセントランディス島行きは免れないでしょうねえ」


「そんなっ!勘弁して下さいよー!セントランディスなんて極悪人ばかりのトコじゃないですかー!僕、生きて出られませんよー!死ねっていうんですかー!」


キモファンが唾を飛ばしながら叫ぶ。


「人が死ぬかも知れない事をしたんですから、当然でしょう」


「僕がやったんじゃないですってー!」


「だったら、きちんとリストを見て真面目に答えなさい」


「だって、ホントにそのリストにはいないんだもん!」


「では仕方ありませんね、セントランディス行きですね」


「やだやだやだやだやだ!やーーーーだーーー!」


キモファンは泣きそうな勢いで叫んだ。


「ちょっと、良いですか?」


俺はヤスミーナさんの肩を叩き部屋の端、キモファンに声が届かない場所に誘導する。


「どうしました?」


ヤスミーナさんは小声で聞く。


「こちらの事情について、やっぱりヤスミーナさんにはある程度お伝えしようかと思いましてね…」


俺はザックリとだが今回の敵のめどについて、チョーズン派とモミバトス右派との確執について、そしてザクフォード、マルギシャス、スプレーンがそれぞれそうした組織絡みでいがみ合いその渦中に自分がいる事を説明するのだった。


「よろしかったのですか?」


「ええ、ヤスミーナさんにはご迷惑をおかけしましたので。でも、あまり他には漏らさずに願いたい所です」


「うかつな事を言えば自分だけでなく周囲にも迷惑がかかるレベルの人達ですからね、わかりました。お伝え頂きありがとうございます。ですが、それを私に伝えたという事は、何か考え合っての事ですよね?」


ヤスミーナさんはニヤリと笑って俺に言った。何か悪い事を企んでいるような顔だが、それもかなりキュートだ。


「このリストの中から、チョーズン派とモミバトス右派に関係ある人をピックアップして貰いたいんです。わかる範囲で構いませんから。後、一緒にペンを持って来てもらえると助かります」


 「わかりました。少しだけお時間戴きます」


言うが早いかヤスミーナさんはリストを持って小走りで部屋を出て行った。


「え?え?え?なんすかなんすか?男とふたりきりとか勘弁して貰いたいんですけど!」


ヤスミーナさんが出て行ったのを見てキモファンがわめきたてる。

 こっちだって勘弁して貰いたいが、いちいち相手にするのも疲れるので黙って見ていた。

 しばらくするとヤスミーナさんがリストを抱えて小走りで部屋に戻って来た。


 「お待たせしました」


 「早いっすね」


 「ええ、急がせましたので、どうぞ」


 ヤスミーナさんは俺にリストとペンを手渡した。

 

 「どうもです。さてと、んじゃ改めてこれをじっくり見て貰おうか」


 俺は貰ったリストをキモファンに見せる。


 「だーかーらー、わかんないって言ったじゃないのー!何度見せられても一緒だって」


 「いいから、良く見ろ。そして俺の質問に答えろ。お前にマーの事とロッカールームへの忍び込み方を教えた奴は帽子を被っていたか?」


 「うん、被ってたよ。さっきのお姉さんが被ってた奴みたいなの黒い奴」


 さっきのお姉さんって尋問に当たっていた女生徒か。彼女達はボンパドゥ商会連合支給の新防具を身に着けてたな。確かふたり共ワッチキャップだったな。

 

 「こんな感じか?」


 俺はリストの余白にワッチキャップの絵を描く。


 「うーん、もっと厚い感じで…そうそうそんな感じ!」


 俺は言われた通りの絵をリスト最初の男の顔に重ねて描く。


 「後はどうだ?眼鏡やヒゲは?」


 「えーと、そう言えば黒い眼鏡かけてた!マリブラ先生のアーバンミルキーロックスのミルキー将軍みたいな奴!」


 「なんだそれ?どんなんだ?」


 「それならわかります」


 俺はリストとペンをヤスミーナさんに手渡した。


 「こんな感じか?」


 ヤスミーナさんは余白に楕円形フレームサングラスの絵を描く。むむむ、早いし上手だぞ。こりゃ、このままヤスミーナさんに任せた方が良いな。


 「そうそう!チミもマリブラ先生のファンっすか?どぅふふっ、同志っすねえ」


 「余計な事は言うな。ヒゲはどうだ?」


 「ヒゲはねえー、ビルケールエレジーのジョッシュマーみたいなのしてた」


 「こんな感じですか?」


 子供みたいな口調で言うキモファンにヤスミーナさんはサッサッサと余白に絵を描いて尋ねた。

 

 「そーそーそー!ジョッシュマー好きとは珍しいっすねえ」


 余白に描いたヒゲはもみあげか顎髭口髭と繋がったいわゆるダックテイルと呼ばれるタイプの髭であった。


 「余計な事は言わんで良い」


 ヤスミーナさんが珍しく不快そうな顔をしたので俺はキモファンに釘を刺す。


 「ヤスミーナさん、このリストの人物に帽子と髭を書き加えて貰っても良いですか?」


 「わかりました、少々お待ちください」


 ヤスミーナさんはそう言うとリストに向かってペンを走らせた。ペンの動かし方に迷いがない。う~む、ヤスミーナさん、もしかするとそっち系がお好きなのか?

 だとすると、お買い上げありがとうございますと言いたいよ。


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