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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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学祭は蟲毒のツボの中でって素敵やん

 やっぱり自分が、いやいやそんな事は、とフーカさんが自問自答しているうちに新防具に着替えたヤスミーナさん達が帰って来た。

 エキゾチックボヘミアンファッションに身を包んだ女生徒達の姿は、民族的で異国情緒に溢れ旅情をそそる自由なスタイルに見えた。


 「いいじゃんいいじゃーーん」


 「いやー、そっすかねー?」


 照れたようにはにかみながらもくるっと一周回って見せるヤスミーナさん。まったくキュートな人だぜ。


 「では改めまして機能の説明をさせて頂きますね…」


 フーカさんは女生徒達に身に着けた物品の性能説明を始めた。

 服や帽子の繊維は高強度の特殊素材で出来ており、防刃性に優れ耐熱耐冷耐電効果も高い事、身に着けているアクセサリーは扱う術式具の効果をアップさせ運動能力の向上、苦痛やストレス、疲労を軽減する効果もあると言う。

 ううむ、バイオニックソルジャーならぬマジックサイエンスソルジャーの出来上がりだよ。

 説明を聞いていた女生徒達の目がやや好戦的な色を帯びてきたように思えるのは気のせいか。気のせいであって欲しいが、力を手に入れれば使いたくなるのが人の(さが)というものだ。

 こんなエキゾチック雑貨屋さんの店員集団みたいな女子が魔導学により強化された戦士だとは誰も思うまいて。


 「……では皆さん、お仕事頑張って下さいね」


 「全員、フーカさんに感謝を!」


 「「「「「ありがとーございます!」」」」」

 


 フーカさんの言葉にヤスミーナさんが音頭を取り女生徒達が一斉に感謝の言葉を述べる。心なしか軍隊っぽく見えてくる不思議。


 「それでは総員配置につけ!」

 

 「「「「「イエスマム!」」」」」


 『ザッザッザッザッザ』

 

 ヤスミーナさんの号令に一糸乱れぬ統率を見せ隊列を組み去って行く女生徒達。

 

「まさかアクセサリーには身に着けた者を軍人化するような効果もあるの??」

 

 俺はおっかなくなって思わずフーカさんに尋ねる。


 「そんな訳ありませんよ、彼女達の悪ノリですよ」


 笑って言うフーカさん。

 ふとヤスミーナさんをみるとこちらもいたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。

 一杯食わされたのか。

 

 「もう~あんまりおじさんを怖がらせないでちょ」


 俺はおどけて言った。

 フーカさんとヤスミーナさんはケラケラと笑った。

 こうしてみると情報局顔負けのスーパー女子高生と世界の理を外れた物質の解明に日夜励む天才研究員には見えないね。

 なんておどけてばかりもいられない。下手をするとこの場所はチョーズン派、モミバトス右派なんて言う魑魅魍魎が喰いあう戦場になりかねないのだ。

 

 「それじゃあ、皆さんお気をつけて」


 「ヤスミーナさんこそ、無理はしないように」


 意味深な笑みを浮かべるヤスミーナさんに俺はそう返した。ヤスミーナさんは急に真顔になると、こっくりと頷き去って行くのだった。


 「さすがに彼らも無関係な学生に無茶な事はしないと思いますけど、時に信仰はモラルを陵駕しますからね」


 フーカさんが俺に言う。フーカさんが言う彼らとは当然チョーズン派とモミバトス右派の事だ。俺の脳裏に前世で見聞きした神の名の下に人が行った多くの悪がよぎる。特定の人種、民族に対しての迫害や虐殺やヘイトを煽る思想を植え付ける事、金銭や労働力を精神的隷属により搾取し多くの家族を破壊している事、多くの子供の未来、将来、可能性を奪い精神的にも肉体的にも破壊的なダメージを与え続けている事などなど。

 俺が居たころでも現在進行形で行われており社会問題として扱われていた事だ。

 

 「おっかねえ話だけど、こっちもこっちで打てる手は打ってるからね。これまでの彼らの動きは専門家によって噂を流して貰ってるからね。あんまり無茶な事をすれば誰もが彼らに疑いの目を向けるような空気感は出来上がりつつある。はずだよ」


 「はずですか?」


 フーカさんが尋ねる。


 「まあ、頼んだのは最近だしねえ。いくらルーマーディーラーの腕が良くても限界はあるだろうからね」


 「でもまだ他の方面からも彼らには圧をかけているんですよね?」


 歩きながらフーカさんが言う。


 「ああ、一応ゼークシュタイン閣下とランラート男爵に頼んでるよ」


 「政軍両方面からなら間違いはないでしょう」


 「そう願いたいけど、ややこしいとこも顔を出してるからなあ」


 「ハンドラーですか」


 「ああ、まるで怪しい団体の見本市だよ」


 政治的に強い影響力を持つ差別的宗教集団に破壊的カルトの連合体、そこに世界征服を狙う悪の組織までお目見えとなると、もう何が何だかわけがわからないよ。ここで生き残った物が最強最悪の呪物になる蟲毒のツボじゃないんだから。


 「大丈夫なんですかね?バッグゼッドは。そんな団体に政治の中枢に入りこまれて」


 「大丈夫さ、国のため民のためを考える本物の為政者も沢山いるからね」


 「ジミーさんがそう言うなら、信じましょう。ボンパドゥもまだしばらくは様子見でいきますよ。いよいよヤバくなったら行ってくださいね、撤収にも準備がいりますんで」


 「また冗談ばっかり」


 俺の感覚でそんな巨大商会の命運を決めないで欲しいんですけど。

 

 「冗談じゃないですよ」


 「勘弁してよ」


 フーカさんが笑顔でおっかない冗談を言っていると選手控室のプレートが見えて来た。

 

 「……低めは意識から消して手を出さない。ベルトから上のみ打ちにいく。次にラング投手の特徴ですが…」

 

 選手控室に入るとケイトがホワイトボードの前で選手たちになにやら作戦の説明のような事をしている所だった。

 控室の入り口にコラスが球場への出口にはクランケルが立っており、ふたりは俺とフーカさんを見て軽く会釈をした。

 

 「様子はどうだ?」


 「特に問題はないよ~。ケイトチンって凄いねえ~、相手チームの事もベリンボールの事も良く調べてるよ~。勉強家だよね~」


 「あいつは基本真面目な奴だからな。こっちはバッチリ、新装備の支給完了で警備の質は爆上がり。ちょっとした魔導兵の出来上がりよ」


 俺はコラスに言う。隣でフーカさんがエヘンとばかりに胸を張っている。


 「もし?ここはドギューズの控室ですが、何か?」


 球場側出入口に立っていたクランケルが入って来た小太りアフロヘアー男性の肩を捕まえた。


 「ぼっ、ぼっ、僕は、マーたんの大ファンなんだな、サインが欲しいんだな」


 突然の事にドギューズのメンバーがざわつく。

 

 「クランケル~ン、この人、これだよ~」


 懐から出したリストをかざしながらクランケルに近付くコラス。

 俺はコラスの代わりに通路側出入口の見張り番に立つ。


 「ソンダリート・ボルニーさん。あちこちの女子スポーツチームで無理に押しかけては迷惑行為をして注意を受けている人物だと書かれてありますが?自覚はおありですか?」


 コラスの掲げたリストを見ていつもの冷静な口調で言うクランケル。


 「なっなっ、何を言うんだな。僕は彼女達に頑張って貰おうと応援してるだけなんだな。今日だって、特製ジューズを持って来たんだな、これ飲んで元気出して欲しいんだな。マーたんは最近大好きな猫たんが死んでがっかりしてるって聞いたんだな」


 「本当ですか?」


 クランケルが見るとマーはプルプルプルと一生懸命首を振った。いつもは勢いのあるマーだが、キモファンには引いているみたいだ。

 

 「本人は違うと言ってますが?だいだいどうやってここに?」


 「マーたんの猫の事を教えてくれた人が案内してくれたんだな」


 キモファンの言葉を聞いてクランケルが俺の方をキッと睨んだ。

 と、同時に通路側入り口に気配を感じ何かが投げ込まれた。


 『カンッ!コロコロコロコロー』


 金属質な音がして目の前に500ミリペットボトルサイズの円筒が転がってきた。

 

 『パチン!!』


 弾けるような音がして円筒から煙が出る。スモーク弾か?

 俺は速攻で風魔法で煙を散らす。


 「きゃーー!」


 消えた煙の中から姿を現したのはライオンだった。ただし、たてがみが大量の蛇になっているライオンだった。


 「みんな!目を伏せて!」


 ケイトが叫ぶ。


 「ジミーさん!フラッシュを!」


 クランケルの叫びに俺はとりあえず光魔法のフラッシュを使う。

 

 「うぎゃ!」


 周囲が強い光に包まれてキモファンの悲鳴が聞こえた。

 

 「ジャッ!」


 クランケルの短い気合が聞え目の前を一陣の風が通り過ぎた。


 『ガンッ!!』


 視界の隅でライオンがクランケルに蹴り飛ばされロッカーにぶつかったのが見えた。


 「ふっ!」


 短い呼気の音と共にクランケルが凄まじい速さでロッカーを開き、ライオンをロッカー内に蹴り入れた。


 『バチン!ガコン!』


 開けた時と同じく凄まじい勢いでロッカーを閉じたクランケルはそのままロッカーを倒してトビラが開かないようにした。


 「ひいっ!ふぃーーー!頭が、ぼっくんの頭がーー!」


 泣いているキモファンの頭はアフロの頭頂部が石化しボロボロと崩れ落ち爆発に巻き込まれた落ち武者のようになっていた。


 「ぶっ、な、なんだったんだあれ?」


 笑っちゃいけないがキモファンの頭に思わずこらえきれずに噴き出してしまう俺。


 「バジリオンです。見たものを石化する目を持ったライオンの魔物ですよ。バッグゼッドでは許可なく生体を移動させるのは禁じられています」


 クランケルが倒れたロッカーを踏みながら言う。

 そんなもんをここに放り投げたってのかよ?


 「大丈夫ですか!」


 騒ぎを聞きつけた警備係がロッカールームに入って来る。

 警備係の女子は倒れたロッカーを踏みつけているクランケルを見て術式武具を向けた。

 

 「武器を捨てなさい!」


警備係の女子がクランケルに叫ぶ。

新装備を身に着けていない所を見ると、先ほどの支給の時にはいなかったんだな。

 クランケルが両手を上げて抵抗の意思がない事を示す。


 「お待ちなさい、その方は味方です」


 ヤスミーナさんが入って来てクランケルに術式武具を向けている女子生徒に声をかけてくれる。

 女子生徒はヤスミーナさんの顔を見て、ホントにいいんですか?と確認し、ヤスミーナさんは本当にそうです、と念を押す。

 女子生徒は術式武具を腰のホルダーに戻す。


 「何があったのかご説明願えますか?」


 ヤスミーナさんがロッカールームを見まわして笑顔で言った。

 こりゃ、説明が面倒くさいぞ。


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