休まないヤスミーナさんって素敵やん
とんだハプニングはあったがドギューズのメンバーは無事に練習を終え、シャワーを浴び一休みと相成った。
さすがにシャワールームまで警護するわけにはいかないのでそこのところはケイトに任せ、俺たちはシャワールームの出入口で警戒態勢を取る。
「いや~クルースさ~ん、いいものをありがとうございました~。本当に助かりましたよ~」
シャワールームの出入口で立ち番をしているとヤスミーナさんがやって来てそう言った。
いつものごとくまん丸お目目をクリクリさせての笑顔は邪気がなくてほっこりさせられる。
「いやいや、差し出がましい真似をしちゃいました」
「何を言ってますか~。警備担当者には術式具を持たせてましてね、訓練もしているんですけどね。いざ人間相手に使用するとなるとやっぱりどうしても抵抗があるみたいで。しかも、さっきのような相手だと無力化させるためにどこまでやっていいものか判断が難しいですからね。そう言う時にあの武具はとても良いですね。あれならば、相手に大きなダメージを与えてしまったらどうしようという心の迷いが生まれないですからね。警備担当者にも好評ですよ」
ああ、それは確かにあるだろうな。俺だって相手に大きなダメージを与えるような技は使用に心理的抵抗があるもんね。だからメインウェポンとして空雷弾を多用してるんだもん。心理的抵抗があると躊躇してワンテンポ遅れたりリズムがズレたりするからな。
逆に心理的抵抗が薄いと躊躇なくいけるからそのメリットは結構大きかったりするよな。
「それは良かったです」
「しっかし、皆さんの動きをちょっと見させて頂きましたけど、気の配り方が並じゃあないですよね?これはちょっと気になりますよ。だってそうでしょ?こう言っては何ですが、たかが過激な観客への対策にしては御三方は手練れ過ぎる。ですよね?」
ヤスミーナさんはそう言って俺、コラス、クランケルと順に見た。
「ピュ~ピュピュピュピュ~~~」
コラスが頭の後ろに手をやり下手な口笛を吹きだした。
おいおい、とぼけるにしてもそりゃあないだろう!私はとぼけてますよ~って言ってるようなもんじゃねーか!
「ぷっ、コラスさん面白過ぎですよ。わかりました、何か言えない事情がおありになられるのですね?そして、それはフルポア(うち)には及ばない危険である、と。ドギューズさん、そしておふたりの目線やなんかから考えてクルースさんもターゲットになっている」
そう言ってヤスミーナさんは俺たちの目を見た。
「いえいえいえいえ、お答えになられなくて結構ですよ。うちの警備班ではお邪魔になってしまうでしょうね。ですから、情報の提供にて協力させて頂きたいと思います。こちらをどうぞ」
そう言ってヤスミーナさんは肩から下げているカバンから紙を取り出した。
「現在までの注意人物のリストです」
俺たちはヤスミーナさんから渡されたリストに目を通す。
その紙には顔写真とその人物の特徴が書き込まれていた。
「ジミーさん」
クランケルが俺の目を見る。
「ああ」
俺は返事をする。リストの中にザクフォードの写真があったからだ。
「これって隠し撮りしてんの?」
コラスが写真を指差し尋ねる。
「いえ、外来の方には魔像画つきのバッジをつけて貰ってます。ですのでバッジが配布されている方の魔像画は運営の方で保管してあります。ちなみに三枚目をご覧ください」
ヤスミーナさんに言われて俺たちは手渡されたペラの三枚目を見る。
「これは、似顔絵ですか」
クランケルが尋ねる。そこにあったのは先ほどのように写真改め魔像画ではなく絵が描かれた人物リストだった。
「ええ、こちらに載せてある人物は外来バッチの申請がされていない要注意人物です。例えば彼は近隣のカレッジの素行不良生徒でかつあげと他校の学園祭荒らしが趣味、こちらの男は闘技場競技での賭けで必ず大負けし暴れる事で知られているギャンブラー、こっちは祭りと聞くと必ず現れ売店で無茶な値切りをしたり強引なクレームをつけたりする厄介な祭り好き、等々こうしたイベントになると頻繁に顔を出すトラブルメーカー達のリストです」
「うわーこの人、さっきのオジサンじゃない?贔屓のチームが負けると泥酔してあたり構わず排泄行為をする脱糞だーおじさんだって。いやーゲロくらいですんで良かったよね~」
コラスがニコニコしながらエグイ事を言った。勘弁してくれよもう。
「皆さんが警戒している人物とは別カテゴリーになるかも知れませんが、一応お渡ししておきますね。なんらかの参考になると良いのですけど」
「ありがとうございますヤスミーナさん。そのご配慮とお心遣いには幾ら感謝してもし足りません。話せる時が来たら必ず真相をお話しします、お約束しますから」
クランケルはそう言って静かに頭を下げる。
「なんのなんの、ですよ。こちらも皆さんには助けて頂いてますからね、力になれる事があればいつでも言ってくださいね」
ヤスミーナさんはいい笑顔でそう言って去って行った。
「本当にできる人ですね」
「まったくだよな、あの気配りは凄いの一言だよ。卒業後はケイトモに是非来てもらいたいね」
「それは無理じゃないでしょうか。フルポアもうちと同じく貴族校ですからねえ」
「ちょっとおふたりさ~ん、これ見て見て」
クランケルと雑談をしているとコラスがいつもの口調で言いリストの画像を指差す。
そこにはこう記してあった。
マッセル・ザクフォード、ディフィロウシップ商会最高責任者。フルードポアリエカレッジに多額の寄付をしている。ディフィロウシップ商会はトーカ領御用達商会として力をつける。ジンチョク・トーカとドーンホーム教会を結び付けたのはザクフォード氏だと言われている。ジンチョク・トーカが失脚し亡命した後もコンタクトを取り続けバッグゼッドの情報を流している疑惑有。
「おいおいおいおい、こんな情報なんで一介の生徒がつかんでるんですか?」
俺は驚いてしまう。
「こっちも凄いよ」
コラスに促されてリストを見るとそこにはジェニファー・スプレーンが載っていた。
ジェニファー・スプレーン、フルードポアリエカレッジ理事のひとり。ラザインの告知教会最高指導部にひとりでもあり、最近になって組織内の改革を行っている。そのすべては組織への批判や法的追及をかわしメンバーの離脱を防ぐための戦略であると言われている。つまり、それだけこの組織が抱える大きな資産を守るために必死になっているという事である。現在学園理事会にもあまり顔を出していない事も鑑み厳しい状況に立たされている事が伺える。
「ううむ、このリストは下手をすれば国防に関わって来るのではないでしょうか?」
「フルポアって情報局の養成機関なのかね~?」
「ヤスミーナさんが特別なんだって思いたいね、こんな情報収集力を持っている生徒が揃ってたらドギューズが勝てる見込みないもんよ」
「ふふっ、この期に及んで試合の心配ですか。ジミーさんらしいですね」
「クルポンっぽくてえ、僕は好きだけどさあ~。この場所が変な奴らの戦場にならなきゃいいんだけどねえ~」
コラスがギョッとする事を言う。
「確かにこれでスプレーンが姿を現したら導火線に火がついたようなものですね」
「ううむ、確かに改めて考えて見るとちょいとこれは物騒な話だよな。フルポアさんとこの警備係さんももう少し防御を固めた方が良いよなあ。どうしたもんかねえ」
俺は頭をひねった。土魔法で武器の精製はした事があるけども防具の精製はなあ。特に糸みたいな柔軟かつ強靭なものはちょっと作れないよなあ。
「お疲れ様でーす!今日、試合ないんですってねえ。まったく私としたことがうっかりにもほどがありますなあ。でも、せっかく来たんだから挨拶しておこうと思って。どうしたんですか?シャワー室の前で雁首揃えちゃって」
「お!丁度良いとこに来たねえー!ちょっと相談したい事があるんだけど?」
俺はいい調子で声をかけて来たフーカさんに満面の笑顔で返す。ボンパドゥ商会連合の研究主任さんがいれば防具の件も何とかなるはずだ。
「え?え?え?なんすかなんすか?ちょっと怖いんですけど?」
たじろぐフーカさんに俺はニコニコしながら更に近寄るのだった。




