軽快に警戒って素敵やん
ハンドラーの幹部ザクフォードが顔を出し余計な事を言って去って行った後、俺とクランケル、コラスはドギューズへの警護と自分達への危害への警戒の両方面を意識する事とし、ザクフォードの言った事とそれに対してまるっと信用はしない方が良い事をケイト、シエンちゃん、アルスちゃん、そしてキーケちゃんにも一応話しは通しておいた。打てる手はすべて打った。
しっかし、マジでザクフォードの野郎は余計な事ばかりするよ、つーか余計な事しかしないなあいつは。
余裕かまして見物気取ってやがったけど、うかうかしてんと無理くり巻き込んじまうぞ?
俺は巻き込まれるのは得意なんだから。
ドギューズの部員たちはグラウンドで練習をしている。
ケイトはそれを見て時折檄を飛ばしている。
クランケルとコラスは地形把握と警戒のために円形闘技場内を散策している。
俺は念のためつかず離れずドギューズを警護しながら周辺に怪しいヤカラがいないか警戒する。
「いや~ドギューズさん仕上がってますねえ」
「気合十分って感じですよ」
俺は声をかけてくれたヤスミーナさんに答える。
「うちのチームもこりゃ危ないかも知れないですねえ。なんせ、弱小チームだってたかをくくってなめてましたからねえ。最近のドギューズさん、色んなとこと練習試合してますよね?それでかなり良いチームになってたって風の噂で聞いてますよ」
ヤスミーナさんはドギューズの練習風景を見ながら俺に言う。
「そうなんですか?」
「ええ、カレッジベリンボール好きの間でかなり話題になってますよ?ご存知ないのですか?」
「いえ、身近にその手の人がいないもので」
前世でもプロスポーツより学生スポーツのが好きって人は一定数いたよな。高校野球や高校サッカー、大学駅伝などなど。老若男女問わずいたもんだ。俺自身はスポーツはやるのも観るのも特に興味はなかったが、学生スポーツ好きな人に言わせるとプロスポーツより学生スポーツの方が選手が一生懸命で良いって話しだった。
まあ、プロは仕事としてやっているわけで怪我をすればそれこそおまんまの食い上げって奴だから、ある意味、学生のようにがむしゃらでやらないのがプロ意識が高い行為とも言えるからなあ。
とはいうものの、スポーツにロマンを感じるのもわかるっちゃわかるんだよな。
スポーツモノのエンタメは俺も嫌いじゃないからな。現実のスポーツでもエンタメ作品のようにひとりひとりの選手の背景や因果関係なんかがわかって来ればがぜん面白くなるんだろうなとも思う。
「そうなんですか?こんなにガレッジベリンボールチームの近くにいらっしゃるのに。素朴な質問なんですけど、よろしいですか?」
ヤスミーナさんがパッチリした目をくりくりさせて俺に質問する。
「なんですか?」
「クルースさんってドギューズのなんなんですか?」
「一応、マネージャーですけど」
俺は答えながら少々後ろめたい気持ちになる。というのも、良く考えれば俺はマネージャーらしい事は何ひとつしちゃいねーんだよな。
「あのおふたりも、ですか?」
ヤスミーナさんは談笑しながら帰って来たクランケル、コラスの両名を見ながら言う。
「ええ、臨時ですけど…」
「みなさん、こちらに来てからかなり警戒されてますよね?やっぱり、嫌がらせ対策ですか?」
「嫌がらせ?」
俺は思わず聞き返した。やっぱりとは?うちらの身に起きている事を知ってるのか?
「そうです。うちも結構やられてるんですよ、中にはマナーの悪い人もいましてね。ひいきのチームが負けると暴力行為や破壊行為を働いたり、もっと質が悪いと気に入らないチームに嫌がらせをする人も少なくないんですよね。私たちもそうした嫌がらせに対して警戒するよう言われてるんです」
ああ、なるほど。そう言う事かいな。フーリガンの更に陰湿なやつみたいな事かあ。
「具体的にはどんな嫌がらせをされたんですか?」
これは警護の参考になるかも知れない。
「試合に向かう途中、生卵をぶつけられたり、詰めかけたお客さんにまぎれて過度に選手の身体に触ったり、ユニフォームを引っ張って破損させたり、泥をなすりつけたり、食べかけの弁当をぶつけてきたりとそんな感じですかね」
「だいたいは移動中にやられる感じですか?」
「まあ、そうですね。ドギューズさんは違うんですか?」
おっと、そりゃこんな聞き方してたらそう返されるよな。どうすっかな。
「うちは脅迫状が来たんですよ~。実害は今のところないんですけどね~、学長が念のためにって」
コラスがヤスミーナさんの顔を覗き込んで言う。上手い事言いやがって、助かるじゃねーか。
「そうなんですか~、だから到着後も見回っていたんですね~。しかし、脅迫状とは穏やかじゃないですねえ」
「ホント、穏やかじゃないよね~」
コラスはいつもの笑顔でそう返した。
「それってうちの上にも注意喚起していいですか?」
「ええ、お願いします。というか、先に言うべきでしたね。すいませんです」
俺はヤスミーナさんに謝罪する。考えてみりゃこういう事は先に伝えておくべきだったよな、ちょっと考えが足りんかったな。
「いえいえ、とんでもないですよ。ある事って言えばある事ですからね。情報共有に感謝です、ではまた」
「こちらこそです」
俺はそう返し手を振った。
ヤスミーナさんも手を振り去って行く。ほんと、この人、良い人だわ。
「助かったぜコラス」
「やだなあクルポン、コラポンでしょ~」
「そうだったそうだった、ありがとよコラポン」
「どういたまして~」
コラスは軽く答えると突然クランケルの方を向きなおった。
「ケルっちもクルポンから愛称で呼ばれたい~?僕からお願いしよっか~?」
おいおいコラポンよう?クランケルはそう言うタイプじゃないっつーの。
「そうですね、それもいいかも知れませんね」
「おいおい正気かクランケル?コラポンの毒にあてられたか?」
思わぬ返事に俺は思わずクランケルにそんな事を言っちまう。
「ええ、正気ですよ。常在戦場、コラスさんのあの間合いの取り方は普段の人付き合いに秘訣がありと見ました。クルースさん、私も愛称で呼んでください」
「うっ、ぐっ、そう言うのは自然と出る物でそんなに迫られても」
俺はクランケルのがぶり寄りにたじろぎながら答える。
「そういうんじゃないって言ったんだけどね~」
コラスがヘラヘラ笑いながら答える。こいつのこういうところ、はぐらかしてるんだか天然なんだか見分けがつかないから質が悪いんだよなあ。
なんて思ってるとドギューズが練習している外野側のスタンド席に妙な動きをしている男を発見。
帽子を目深に被り紙袋を持ってグラウンドに身を乗り出そうとしている。
「ちょ、あいつ」
「チョアイツですか?できればもう少し名前のもじりとかが良いのですが」
「そうじゃねえ、あいつ怪しくねえか?」
俺は紙袋を持ち、グラウンド側に身を乗り出している男を指差して言う。
「どうかな~?別に殺気は感じないけど~」
「どうやらフルポアさんの方でも気になっているようですよ」
コラスに続きクランケルが言うように、紙袋を持った男の元にフルポアの制服を着た生徒が三人近付いて行く。
「大丈夫かね?ヘルプに行った方が良かないかね」
俺は言う。やっぱ女の子だけに任せるのは気が引ける。
「大丈夫だと思うけど、あっ!あらららら~」
コラスが気の抜けた声を出す。というのも紙袋を持ったおっさんが盛大にグラウンドに向かって吐いている所を目撃したからだった。
「殺気はないけど、酒気は帯びてたみたいだな」
「困った人ですねえ」
クランケルがいつもと変わらぬ調子でつぶやくように言う。あんなもんを見てもクールなクランケルだった。
「うひゃひゃっ、マーの奴ゲロかかりそうになって転がって逃げとる!ぷふっゲラゲラ」
「笑っちゃ可哀想だよ~」
コラスが俺を窘める。
「ある意味、暴力的な好意よりも厄介かも知れませんねえ」
口を拭いながらよろめくおっさんの周りを、一定の距離を保ちながら囲み退場するように告げるフルポアの生徒さん達だったが、おっさんはかなり泥酔しているようであ?なんだって?と耳に手を当てたり、ウップとこみあげてくるモノを堪えたりと忙しい。
おっさんがウップとやる度に女生徒たちはキャーキャー言って距離を取る。
女生徒たちは各々棒状の術式具を持っているが酔っ払い相手に使うのははばかられるのだろう、道路誘導員のように棒を降るばかりで酔っ払いのオッサンへの実行力はないに等しい。
う~む、こういう場合に効果的なものはなんだろう?
少しだけ考えて俺は土魔法で思いついたアイテムをこしらえた。
キャーキャーやってる女生徒の身長を考えて棒の長さは一メートル半ほど、その先に大きなU字をした先端部を付ける。
「なに~それ~?」
「また、新たな武具ですか?」
「これはねえ、俺の地元で使われてた防犯具でさすまたっていうのよ。よしとこれで良し」
俺は囲んでいる女生徒の分四つを作り手に持つ。クランケルの奴は興味を持っているようだ。武具とか目がないからねこの男は。
「んじゃヘルプに行ってくるわ」
「行ってらっしゃ~い」
「私も御一緒してよろしいですか?」
コラスはのんびりした口調で手を振ったがクランケルは喰いついてきた。
「んじゃ、クランケル一本持って、俺の真似して使ってみてくれ」
俺はさすまたをひとつクランケルに手渡し女生徒達の元に向かう。
「大丈夫ですか?これをどうぞ」
俺はとりあえず二人の女生徒にさすまたを手渡す」
「今から、使い方を教えますのでマネしてみて下さいね」
俺は女生徒に言いながら酔っ払いに向かってさすまたを向ける。
「は~いおじさん、酔い過ぎで~す。退場して下さ~い」
「バーロー!早くし合い見せろっちゅーーんじゃ!うっぷ、うっ……ふぅ、見てんじゃねーぞ!バーロー!」
酔っ払いのおっさんは紙袋を振り回して怒鳴った。
「警告はしましたからねー。それじゃあ、取り押さえます」
俺はおっさんの左肩と右脇の下にかけて袈裟懸けにして押さえつけた。
「バーロー!こんなもん!」
「よし、それじゃあクランケルは足を押えて」
「わかりました」
クランケルはそう言ってさすまたでオッサンの膝のあたりを押さえつける。俺が押し付けたさすまたをつかもうとしていたおっさんが膝を正面から押えられよろめく。さすがクランケル、ストッピングポイントを心得ていますなあ。
「はい、じゃあそこの女生徒さん後ろから胴の辺りを押さえつけて下さい」
「はい!」
「わかりました!」
さすまたを持った二人の女生徒がおっさんの胴を後ろから押さえつける。
「このやろ、うっぷ、そんなに押さえつけられると、うっぷ」
「ほら、おじさん、大人しく外に出ますか?」
「うっぷ、わかったわかった、勘弁してくれ。飲みすぎちゃったんだよう。ランニングバニーズが負け続きでよう、ヒック、もうお先真っ暗なんだよう~」
おっさんは膝から崩れ落ちてシクシク泣き出した。
「だからって女の子にゲロかけたり脅かしたりしちゃだめでしょー?」
俺はさすまたを外しポカンとしている女生徒に手渡しながらおっさんに言う。
「はい、すんません」
おっさんはかわいい声でそう言い頭を下げた。
「こんな感じで使います。不審者に対して必ず複数人で対応するようにしてください、腕力のある人が相手だと奪い取られる可能性もありますからね」
「なるほど、これなら武道の心得がない人でも安全に相手を制圧できますね」
クランケルも女生徒にさすまたを手渡しながら言う。
「まあ、さっきも言ったように腕力のある相手だと押さえきれない事もあるからね。必ず複数人で使う事、打撃武器として使わずあくまで相手の一時的拘束を目的として使用する事を肝に銘じて欲しい」
俺はクランケルと女生徒達に言った。
「ふむ、得物の力を過信しない、使用法を違えない。これはどんな武具にでも言える事ですね」
クランケルが妙な納得の仕方をする。
「あの~、これは頂けるんでか?」
酔っぱらったおっさんを送って行く女生徒達の中、ひとり立ち止まった女生徒がさすまたを持ち俺に尋ねた。
「ええ、差し上げますよ。なんならもう少し作りましょうか?」
「いえいえいえいえ、そこまで甘える訳にはいきません。これなら、すぐに作る事ができると思いますので、あっ、これって同じものを作らせて貰ってもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
女生徒はペコリと頭を下げるとタッタッタと駆けて行くのだった。
ふとコラスの方を見るとこっちを見てニコニコ笑いながらパチパチパチとゆっくり拍手をしていた。
ふふふふ、まあ、ざっとこんなもんさ。俺はコラスに向かってサムズアップして見せるのだった。




