信用できる人って素敵やん
衆目の監視下ではさすがにちょっかいをかける事ができなかったか、我々ドギューズは無事にボルグスク円形闘技場に到着する事ができた。
ハティちゃん警護の時みたいに殺気の無い一般人が暗殺者に仕立てられてなんて事にはならなくて良かったよ。
モミバトス教右派はモミトスの発見者みたく自分とこの信者を使ったりはしないみたいね。
今のところプロに外注オンリーか、それが良いのやら悪いのやらよくわからんが今後どういう策を用いてくるかわからないからな。一応、全てのパターンを想定しておいた方が良かろうよ。
クランケルとコラスには発見者騒動時の敵の出方のついては説明済みだからな。さっきの路地裏での攻防戦でも上手い事やってくれたし大丈夫だとは思うけどな。
「ちゃーっす、ドギューズさんすか~?」
円形闘技場に入ると前髪パッツン、リスのようにくりくりとした目の女学生が笑顔で声をかけて来た。
うちの制服じゃないのでフルードポアリエの学生さんか?
「はい、よろしくお願いします」
「「「「「「「お願いしまーす!」」」」」」」
ケイトが丁寧に礼をし挨拶するので部員達も声を揃えて挨拶をした。
「ああ、やっぱりそうでしたか。私はフルードポアリエカレッジ文化祭実行委員のヤスミーナ・プフェルデフースと申しま~す。今日は遠路はるばるお越しいただきあざーっす。お疲れでしょ?お茶でも飲んで一休みされますか~?」
ヤスミーナさんが言う。なんだか妙に愛嬌があって可愛らしい人だなこの人は。
「練習はまだできませんか?プフェルデフースさん?」
「あっ、ヤスミーナでいいっすよ。どうも言い辛いファミリーネームですいませんす。グラウンドは整備中ですけど外野側でしたら使えますので案内するっす」
マーキャプテンの質問にニコニコして答えるヤスミーナさん。ああ、誰かに似てると思ったら前世で見た古い映画の女優さんに似てるんだ。粗暴な旅芸人の男に尽くしても尽くしてもひどい扱いをされる女性役の女優さんによく似てるんだ。ホント、良い笑顔だよ。
笑顔ってのは人柄が出るからね、この人は悪い人じゃあないと見た。
「ありがとうございます、自分、キャプテンをやってますディア・マーシャルです、お世話になります」
マーがペコリとお辞儀をする。おお、こいつもキャプテンらしくなってきたじゃないの。
「いえいえ、至らぬことも多いと思いますがご容赦ください、では」
ヤスミーナさんはいい笑顔でそう言うとトットットと跳ねるように歩き出す。なんだかコミカルでヤスミーナさんらしくてかわいいな。
「ヤスミンはさ~彼氏とかいるの~?」
ベーヤンがいきなりブッコんだー!さすがギャルっこ!
「いるっすよ~。今日はファルブリングさんにお邪魔させて貰ってるっす」
おっと、こっちも顔色ひとつ変えずに返したー!
「えっ?えっ?えっ?なんで?フルポアって女子高っしょ?あ!もしかして先生とか?」
ベーヤンが言い部員たちがキャーキャー言う。
さすがに先生って事はないだろー。
なんて考えているとコラスが俺の服を引っ張った。
「ねえねえ、なんかこっちめっちゃ見てる人いるんですけど?」
コラスの視線の方向に目をやると銀髪初老の男が笑顔で俺を見ていた。
「あいつ…」
「知っているのですか?」
クランケルが俺に問う。知ってるどころじゃねーつーの。
「ああ、前に話したろ?ハンドラーの幹部、マッセル・ザクフォードだよ」
俺が言うとクランケルはニイっと怖い笑みを浮かべ、コラスはへぇ~と気の抜けた返事をしながら身体に魔力を貯めた。
「どうもクルース君とそのお友達君」
余裕の笑みを浮かべながらゆっくりと近づいて来たザクフォードは俺、コラス、クランケルに向かってそう声をかけた。なんのつもりだ?
「ここは関係者以外立ち入り禁止なんですけど?何しに来たんですか?」
俺は冷たく言い放つ。
「私は関係者だよ、ほら、見て見給え」
ザクフォードはそう言って胸元につけたバッジをつまんで見せる。そこには来賓者と書かれてあった。
「フルードポアリエにはうちが手を入れている商会が多額の出資をしていてね」
手を入れているって、要はフロント企業だろうが。一言言ってやりたかったがそこは何とか飲み込む。
「そんな伝手を使わなくても理事に構成員がいるでしょうに」
それでもついチクリとやりたくなってしまう俺なのだった。
「スプレーン君の事かね?彼女はねえ、ちょっと余計なところに首を突っ込んでしまったからねえ」
「モミバトス教右派の事ですか?」
「と言うよりもマルギシャスだね。ご丁寧にアロンゾ伯を利用しただろう?それはマズかったね」
部員たちが外野側の空きスペースでストレッチを始めているのを、円形闘技場内で眺めながら俺たちはザクフォードの話を聞く。ケイトは部員たちの近くにいるがこちらをチラチラ見ていた。ザクフォードに言いたい事もあるだろうが、ここはちょいと俺らに任せてくれ。
「マズイって、スプレーンがマズい事になればあなたも一蓮托生なんじゃないの~?」
「君はコラス君だね。エグバードの人間ならわかるだろう?」
ザクフォードに言われてコラスの笑みに怖いものが混じる。おい、お前までそんな殺気を出すなって。
「エグバードの諜報機関は各部門が独立独歩で横のつながりが希薄なんだってね。それは、なぜかわかるかね?クランケル君?」
今度はクランケルに話を振るザクフォード。ちくしょう、この場の主導権を握られちまってる。
「トカゲのしっぽ切りですね」
クランケルは冷たい笑みを浮かべたまま言う。
「ありていに言えばそう言う事になるね。さすが悪事陰謀渦巻くトーカ領で貴族をやってただけの事はあるねえ。いや、やはり母親が妾から後妻になったりすると色々とあるんだろうねえ」
ザクフォードが下卑た笑みを浮かべて言う。
「話が回りくどいよザクフォードさん。あんたんとこの諜報機関が有能なのは良くわかったよ、実行部隊と幹部がショボいぶん頑張ってるんだろうけど、結局、何が言いたいんだよ?」
コラスとクランケルの感情をむやみに逆なでしやがって、ちょっとムカつくぜ。
「なんだい?友人たちのプライベートに触れられて気分を害したのかな?君らしくもないねえ。ふふふ、君のそんな顔を見られただけでも来たかいがあったが、わざわざこうして来たのはそれだけじゃない。君達はね、竜の尾を踏んだんだよ。アロンゾ伯とマルギシャスはね愛人関係にあるんだよ、なのに君らはマルギシャスに裏切られたようにアロンゾ伯に思わせた。これは随分残酷な事をしたね」
「いや、それはホントにそうだと思ったからそう言ったんだけど」
「マルギシャスはそうは思わないよ。彼はモミバトス教右派の裏の仕事を取り仕切っているのでね、猜疑心が強く権謀術数に長けているからね」
そこまで話してザクフォードは言葉を切りニヤリと笑った。
猜疑心が強いってのは頷けるけど、権謀術数に長けたってのはマルギシャスの態度からは伺えなかったな。いや待てよ?それも作戦なのか?となると、スプレーンが共通の敵だから手を組もうと匂わせて来たりドギューズを狙うと言ったりしたのもブラフなのか?
「何しに来たか、君はそう尋ねたね?教えてあげよう。私はね、見物しに来たんだよ。クルース君とスプレーン君の今際の際をね」
言葉を置くようにわざわざ区切ってゆっくりと言うザクフォード。ったく、勿体ぶり方と言い芝居がかった男だよ。
「スプレーンは知らないけど、俺らはそう簡単にくたばらないよ」
俺は言ってやる。
「俺ら?そちらのふたりは無関係だろ?今回の件は君とその冒険者仲間に限った事だよ」
「くっくっくっく、あっはっはっはっはっはっは」
ザクフォードの話を聞いて突然クランケルが笑い出した。
「な、なんだ急に?恐怖のあまりおかしくなったのか?君は大丈夫だ、クルース君の近くに居なければね」
「ふっふ、いや、これが笑わずにいられましょうか、ねえ?」
「ああ、そうだね。こりゃ傑作だよね?クルポン?」
クランケルに促されてコラスも笑いながら俺を見る。
「そうだな、こりゃ笑っちゃうよな。ザクフォードさん、あんたうちの仲間の事は調べなかったのかい?」
「は?アリビオ団だろ?辺境国の冒険者で今はファルブリングカレッジでそれぞれ学生と教師をやっている、ただそれだけだろう」
「ひとりは食堂のおばちゃんだけどね」
「武術部の師範でもあります」
「学長さんとマスターホフスのマブダチでもあるよ~」
不遜な態度で言うザクフォードに俺、クランケル、コラスが言い返す。
「そんな事は調べがついている、それがどうしたと言うのだ」
イラつきを隠せないザクフォード。
「ひとつ聞きたいんだけどね、右派実行部隊のターゲットにテンポラのふたりは含まれていないのかな?」
「あ?ああ、いたなあそんなのも。マルギシャスにしてもそんなものは気にもとめていまいよ」
「それを聞いて安心したよ。じゃあ、お気をつけて」
俺はザクフォードに言う。
「は?なんだと言うんだ」
「もう話す事もないんで、どうもでしたー。お疲れさまっしたー」
声を殺して笑うコラスとクランケル、そして憮然とした態度のザクフォード。
「ふん、わざわざ忠告をしに来てやったと言うのに愚かな奴だ。そんなに死にたければ好きにするがいいさ、こちらは楽しませて貰うだけだ。精々、抗ってくれよ」
余裕を演出しようと必死なのか、必要以上に尊大な態度で捨て台詞を吐き去って行くザクフォード。
まあ、去って行くっつっても、さっきの話しぶりじゃあどこか俺の様子が見えるところにはいるんだろうけどな。
想像すると間抜けで笑えるよ。
「しかし傑作でしたね。シエン先生とアルスさんを狙うだなんて」
「まったくだよ。コテンパンになるのが目に浮かぶよ」
楽しそうに言うクランケルに俺は同意する。
「それよりさあ~クルポン、僕らの事で怒ってくれたんだ~。嬉しいなあ~、でも僕とクラケルちゃんどっちをとるの~?そこは、はっきりしてもらいたいんですけど~」
「バカ言ってんじゃないよ。お前と俺は」
「ひゃっひゃっひゃ!照れすぎてわけわかんない事を言ってる~」
俺の言葉にコラスは笑ってそう言った。
「いずれにしても、相手のターゲットがはっきりしたのはありがたいですね」
「まったくだよ。マルギシャスの奴、チームを狙うみたいな事、言っといてここまで来るのにもそうとしか思えない事ばかりしてきてんのに、実際は俺とシエンちゃんアルスちゃん狙いとはね。とんだ嘘つき野郎だよ」
「そうだね~、嘘つき野郎だよね~。だからどっちも信用しない方がいいよ~、マルギシャスもさっきのオジサンもね~」
コラスに言われて俺とクランケルはハッとする。
「確かにそうです。先ほどのザクフォードもこちらに先入観を与え、しくじるように仕向けている可能性がある。そう言う事ですね」
「そだね~」
「ふうむ、この辺りの人間力がコラスさんの強さなのかも知れませんね。まだまだ修行が足りていませんね私も」
「そんな事ないよ~、僕もちょい腹立っちゃったし~」
真面目な顔をして言うクランケルにコラスは飄々と答えた。
う~む、しかし結論としては色んなパターンを想定して警護するという当初のコンセプトは何ら変化なく、ただただザクフォードがどこかで見てるってだけの結果となったわけだ。
まったく、ザクフォードの野郎、どこまでもインチキ臭い奴だぜ。




