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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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混ぜるな危険って素敵やん

シエンちゃんの方もアルスちゃんの方もおおむね作戦は良好なようであった。

特にシエンちゃんの方はディアナも働いている子供達もそうだが、関係筋に孤児、難民、ストリートチルドレン、ホームレスと社会的に厳しい状況にいた人が少なくないため、一も二もなく賛成してくれすぐにでも協力したいと熱のある返事を頂けたようだ。

この調子だと宣伝隊の文化祭参加もできそうな勢いだった。

俺は安心して文化祭開始前日を迎えたのだが、油断禁物とは言ったものだった。


「クルース君、来客があるみたいだから第二応接室に来るようにって先生が言ってたよ」


 クラスメイトにそう言われた俺はこの時期の来客に少しの不安を感じながら応接室へと向かった。


「君がクルース君なのかな?」


ノックして応接室に入ると立派なひげを蓄えたオールバックの紳士が俺を見てそう言うのだった。


「ええ、私はトモ・クルースですが。失礼ですがどちら様ですか?」


見た事の無い紳士から名前を言われた俺は戸惑い、立ったままそう答えた。


「私はアントワル・マルギシャス。アロンゾ伯爵が世話になったね」


大きな目でギョロリと俺を見るマルギシャス。こいつが例のモミバトス教右派の代表か、いかにも癖の強そうな顔をしているよ。


「あなたがコアリションカウンシルの代表ですか」


俺はなるべく落ち着いた口調でそう返しゆっくりイスに座った。


「モミバトス教コアリションカウンシルが正式名称です。我々は正統なモミバトス教なのです、それをお忘れなきよう」


 冷たい口調で言い放つマルギシャス。別にそんな意味があって省略した訳じゃないんだけどな、それだけ気にしてるという事か。詐欺師程肩書にこだわる、ハロー効果ってやつだな。

俺は少しだけ平静を取り戻した。

気圧される事はない、こいつもやはりハッタリを好むいかがわしい人間だ。


「そんな御大層なお方がどういうご用件です?」


俺はマルギシャスの目をしっかりと見据えてそう答えた。


「あなたと私、共通の敵について話し合った方がよろしいかと思いましてね」


「とりあえず最後まで話しを聞きましょうか」


俺は余裕の態度をなるべく崩さないようにしてそう答えた。


「我々の共通の敵はジェニファー・スプレーンとチョーズン派のロビイスト共、そう言う事ではっきりとしていると思うのですが違いますかな?」


マルギシャスはアゴ髭を整えながら自信に満ちた口調でそう言った。


「最後まで聞きましょう」


俺が言うとマルギシャスは少しだけ嫌な顔をした。自分の質問にこちらが答えなかった事に気分を害したのだろう。プライドばかり高く自意識過剰で自己顕示欲が強い、この手の人間は前世で飽きるほど見てきたよ。

 

 「君は今までドーンホーム教会やラザインの告知教会と言った異端派と何度も事を構えていますよね?つまり、君にとって彼らのような異端派は敵と言う事。敵の敵は味方と昔から言うではありませんか。ここまで説明すればもう言いたい事はわかりますよね?」


 マルギシャスは自分には何もかもお見通しなのだと言わんばかりの表情で俺にそう言った。

 ふうむ、この男はホントに小さな人間だなあ。少しの事に腹を立てて少しの事で優位に立ったと傲慢に振る舞う。

 前世で見た色んな人物が思い起こされて少し嫌な気分になる。が、同時にこの手の人物は初めてではないむしろよく見たケースだと安心する。

 俺はこいつに気圧される事はない。


 「まるで自分達は異端派ではないような言いっぷりですね」


 「当たり前だ!我らこそが正統なモミバトス者なのだ!」


 マルギシャスは怒りの形相で俺に言う。


 「さて、モミバトス様は種族、性別、身体的特徴、出身などを理由に他者を不当に低く扱えと言ったでしょうかね?きっと今、モミバトス様がおられたら、私の語った表面上の言葉をいじくり憎み合うのではなく思想を理解し愛し合って欲しいとそう言うのではないですかね?」


 「それは規則と律法の違いなのだよ!君のような素人に語ってほしくはないもんだね!」


 「その素人を幸福にするのがモミバトス様の望みなのではないですか?それとも、モミバトス様は一部の選ばれた者のみにしか幸福をもたらされないのですか?」


 「だから、お前のような者がモミバトス様を語るなと言うのだ!モミバトス様は神聖で深淵な存在なのだ!お前のような者はその名を呼ぶ事さえ控えねばならないのだ。シンバの書二章三節にはこうある、霊的指導者には健全な魂が宿る、と。君にはその資格はないのだ」


 「ああ、それなら授業で習いましたよ。正確には、霊的指導者には健全な魂が宿るよう神に祈るべきである、ですよね?つまり、権力は必ず腐敗するからそうならないように常に気を配りなさい、とそういう事ですよね?そう言う所なんですよね、言葉の表面をいじくって憎しみ合うってのは」


 「話にならない!不敬すぎる!」


 マルギシャスはそう言って立ち上がった。かなり気分を害したようで立ち上がった際にイスが倒れた。


 「おやおや、穏やかじゃないですなあ。それでもモミバトス者を名乗りますか」


 「貴様のような者にはすぐに神罰が下るだろう!文化祭で貴様のチームが親善試合をするんだってな?せいぜい気を付けるんだな!」


 「それは脅迫ですよね?衛兵に言いますよ?」


 「脅迫ではないよ君、事実を言っただけだよ。失礼する」


 俺の言葉に怯んだかマルギシャスは卑屈な笑みを浮かべて部屋を出て行った。


 「イス直してけよな」


 俺はぼやきながらイスを元の位置に戻した。

 まったく、ちょっとホントの事を言われたからってイラつきすぎだよな。

 ホント、あの手の人って傲慢で短気だよなあ。やんなっちゃうよ、まったく。

 俺は応接室を出る。

 しかし、嫌な事を言ってったなあ、ベリンボールチームに危害を加えるつもりなら俺がそんな事は絶対許さない。

 とは言え俺一人のうちに収めておくのも些か不安が残る。

 という事で俺は助っ人を頼む事にした。

 

 「どしたのクルポン?美味しいミルクを出す店でも見つけた?」


 歴史研部室に尋ねた俺を見てコラスはニコニコしてそう言った。


 「おう、それなら今後の穴場って事でさビーバルビーバルのリミデホテル!要注目だよ!ってそうじゃあなくって、今日はひとつお願いに来たんだよ…」


 俺は事情をザックリ話した。

 

 「…てなわけでさ、相手は脅迫めいた捨てゼリフを吐いて帰ってってさ。万が一って事もあるから試合中に警護しようと思うんだけど、俺一人ってのもちょいと不安でさ。そこで力を借りれないかとこうして伺ったわけでして。勿論、文化祭で忙しいのはわかってるんだ。だから、空いた時間で誰かひとり力を貸して貰えればと」


 「何を言ってるんですか水臭い!ジミーさんの頼みなら何を差し置いても協力しますよ!」


 ラインハート部長がそう言ってくれる。ありがたいのだが、歴史研はアナスホー研究が評価され今回の文化祭でも注目株なのは俺も良く知っているんだ。そんなに甘えるわけにもいかない。俺はその気持ちを感謝と共に伝える。


 「だったら代表して僕ちんが行きまーーす!どうせ、こっちにいてもあんまり役にたてないしー」


 コラスの奴が楽しそうに言い、リッツとアーチャーが決まり悪そうに目を逸らした。あのコラス万歳!のふたりがそんな事ないと即答できないってのはコラスの奴めなかなかの役立たずっぷりと見た。


 「まあ、確かにこっちにいてもエドさんは退屈でしょうからね。ベリンボールチームの警護をしてた方がエドさん的にも楽しいのではないでしょうか」


 「確かにそうね。退屈だからって余計な事をされても困るし。ではジミーさん、不束者ですがよろしくお願いします」

 

 ヒューズに続いてラインハート部長が言う。


 「不束者でーす」


 満面の笑みで言うコラス。う~ん、やっぱこいつ誘うのやめときゃ良かったかな。でも、こいつ程の手練れはそうそういないからなあ。アリビオ団のメンツを別にすれば、コラスとタメ張れるのはあと一人。


 「みんなありがとう。それじゃリーダーを借りてくぞ」


 俺は歴史研のメンバーに感謝の意を述べ部室を後にした。


 「ねえねえ、なんか作戦とかあるの?」


 「特にないけど、もうひとり助っ人を頼もうとは思ってる」


 「へえ、誰?」


 コラスが面白そうに俺の顔を覗き込んで聞く。


 「そうだな、奴さん今しがただと恐らく校舎裏だな」


 「校舎裏ねえ。そんなとこで何してんの?」


 「まあ、ついてからのお楽しみって事で」


 「ふ~ん、クルポンがそんな事言うなんて余程の奴なんだね?」


 「ああ、余程の奴よ。そうだ、コラスお前、気配消すの得意?」


 「うん、得意だよ」


 「だったらさ、校舎裏に近付いたら気配消して行こう」


 「いいよ~なんか面白そ~だし」


 コラスは気の抜けた返事をする。

 俺たちは校舎を出て外に出る。

 コラスを見るとこっちを見て笑顔で頷いた。瞬間、コラスの気配が急激に薄くなった。真隣に居るのに姿が薄くなったかと思うほど存在が希薄になる。こりゃすげーや。俺より全然上手じゃねーか。

 俺も呼吸を整え気配を消すがコラスを見ると微妙な表情だった。ううむ修行が足らんか。

 まあ、気を取り直して俺たちは校舎裏に向かった。

 校舎裏にはひとりの美青年がゆっくりとした動きで武道の型を演じていた。

 周囲の気が張り詰め、こちらにまで冷たい鋭利な空気が伝わってくるようだった。

 

 「誰です?そんな所で見ているのは?ん?ひとり、ではないですね?面白い、かなりの手練れのようですね」


 美青年は赤い唇の口角をあげニンマリと怖い笑みを浮かべると鋭い殺気をこちらに向けて放って来た。


 「待った待った!俺だよ俺!こんなとこでそんな気を放つなって!他に学生がいたらおしっこ漏らしちまうぞ」


 俺は両手を上げて出て行った。


 「彼、見た事あるなあ。面白いねえ彼」


 コラスが後からついて来る。


 「こちら、もうひとりの助っ人候補クランケル君です。俺の師匠のひとりから不世出の天才と評された手練れ中の手練れでございます。拍手!」


 「へえ~」


 俺に合わせて拍手をするコラス。


 「コラスさんですよね?留学生で歴史研究部の。先ほどの隠形術、お見事でした。ジミーさんがいなかったら見過ごしている所でしたよ」


 クランケルがニヤリと怖い笑いを浮かべて言う。こりゃまずい、このまま放っておくとコラスと立ち会わせろとか言い出しかねない。早いとこ本題に入ろう。


 「実はお前にお願いしたい事があってな。お前も暇な身体じゃない事はわかってるから無理は言わない…」


 俺はそう前置きしてから事の次第を話した。


 「…そんな訳でベリンボールチームの警護をしたいと思ってるんだよ。時間があればでいいんだが、力を貸してくれないか?」


 「勿論、良いですよ」


 クランケルは即答する。


 「マジかよ?大丈夫なのか?お前はお前で文化祭中忙しいんじゃないのか?無理はせんでくれよ?」


 「大丈夫ですよ、いずれにしても自分は文化祭中キーケ先生と共に警備の仕事に就く予定でしたからね。先生ならば事情を話せばこちらにつけとおっしゃられる事でしょう」


 確かにキーケちゃんならそういう采配をしてくれるだろうな。


 「ありがたい、それじゃあお願いできるか?」


 「ええ、ただしひとつだけ条件があります」


 「なんだよ?なんでも言ってくれよ」


 俺はクランケルに言う。


 「でしたら、彼に一手ご指南頂きたい」


 クランケルはそう言ってコラスを見た。あちゃー、やっぱりかー。


 「いや、それはちょっと…」


 「別に構わないけど、御指南ってほどの事はできないよ?僕、格闘術にはそれほど心得ないからさ。それでも構わないなら、ちょっと運動がてらにやろうか」


 コラスは俺の言葉を遮りそう言って普段見せないような怖い笑顔を見せた。


 「ありがとうございます」


 クランケルが言い周囲の気配に怖いものが満ちる。

 ぬおっ、なんだかコラスとクランケルの間の空気が歪んで見えるようだ。

 俺は思わず後ろに飛んでしまった。


 「行きますよ」


 クランケルが静かに言う。


 「いつでも」


 コラスが答えた瞬間クランケルが電光石火の勢いで間合いを詰めた。

 

 「ジャッ!」


 短い声を上げてクランケルの蹴りがコラスの側頭部に入る。

 コラスは驚いたような目をして軽く首を振った。


 「凄い蹴りだね」


 「ダメージゼロ、ですか」


 「いや、ゼロじゃないさ」


 コラスはそう言うと普通にクランケルに歩み寄りグッと力を入れたパンチを放った。

 クランケルはそのパンチを見て一瞬、迷いが見えた。

 避けるか受けるか考えたのだろう。コラスのパンチは特に工夫も無いテレフォンパンチだ、避けるのが普通だろうがクランケルの中に蹴りを平然と受けて見せたコラスの姿が焼き付いていたのだろう。

 クランケルの頬にコラスのパンチがクリーンヒットする。

 いや、直前でクランケルが首をひねり受け流したか?

 

 「むうっ!」


 受け流したように見えたクランケルがそのままの姿勢で吹き飛ぶ。

 クランケルは首を曲げたままなんとかこらえると唇をこすりコラスを見据えた。


 「参りました。これがあなた達の真の力ですか」


 クランケルが負けを認めた、だと?俺は驚いて言葉を失う。


 「いや、僕の負けだよね普通に考えて。耳ちょん切れちゃったもんね」


 コラスはそう言ってブランブランになった耳を見せた。


 「すいません、手加減する余裕がありませんでした。シエン先生を探して治癒をかけてもらいます」


 「ううん、大丈夫。ほら、ね」


 コラスは千切れかけた耳を元の位置にくっつけて揉む。

 すると、耳は元通りにくっついたのだ。


 「人って凄いね」


 コラスはそう言って服の埃を払った。


 「あなたが格闘術を身に着けたらどうなるんでしょうか?興味があります」


 「う~ん、どうだろうねえ。こんな身体だからつい防御がおろそかになっちゃうでしょ?そういう癖ってなかなかねえ」


 「なるほど、強者故の弱点ですか。面白い、実に面白い」


 コラスの言葉にクランケルが怖い笑みを浮かべる。ううむ、もしかしてこりゃあ混ぜるな危険だったかな、このふたりは。

 これ以上ないってくらい頼りになる助っ人がふたり加わってくれたんだ、多少の事は目をつぶるか。


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