誰でもやる事出来る事って素敵やん
アルスちゃんが出した案はこうだった。
まず改めて今回の悪役はジェニファー・スプレーンとアントワル・マルギシャスだ。ジェニファー・スプレーン側に対する対抗策は既にとってあるので、もう彼女達の勢力から魔族への排斥行動はとり辛くなっている。
すると問題はもうひとつアントワル・マルギシャスとモミバトス教右派だ。
こちらもスプレーンへの対策と同様、ゼークシュタイン閣下、ランラート男爵、ストームの三方作戦で身動きをとれなくさせると言う。
まずゼークシュタイン閣下には右派勢力がイリーガルなやり方で移民排斥行動をとる事への牽制をしてもらう。
これは法律面での右派への釘刺しである。
そしてランラート男爵からは、右派とチョーズン派ロビーが対立関係にあり国防軍から目を付けられている事をその人脈を利用し広め、有力者たちに彼らの危険性と加担することのデメリットを理解して貰う。
最後にストームからは、移民排斥運動と邪神崇拝運動が強い関りをもっている事を流布して貰う。そして移民排斥の意思を強く出す団体には邪神崇拝者の疑いがあると匂わせる事で今後の右派とチョーズン派ロビーの行動を抑制する。
そういう作戦だった。
「……どうですか?他に案はありますか?」
「はーい!うちの新聞部図書部と作家先生に協力して貰って、種族間憎悪を煽るような行為はショボイ悪者のやる事でダサい、これからはそうした差別意識は取り払い手を取り合って行くのが若者の流行りだ、という宣伝活動をするのはどうでしょうか」
「お!宣伝活動ならケイトモの得意分野だ!ディアナに言って幼年部宣伝隊にも協力して貰えば良い!」
俺の言葉にシエンちゃんが同意し別案を出してくれた。シエンちゃんもちょくちょくディアナとなんかやってるからなー。俺なんかよりよっぽどケイトモのために動いてくれてるよなあ。なんか、すんません。
「いいですねえー。なんでしたら二日後の合同文化祭でイベントをうっても良いかも知れませんね。シンポジウムとディスカッションぐらいでしたらすぐに企画できますし」
「それこそ新聞部と図書部に話を通してみようよ。あいつらもこの手の話には一言あるからさ」
「それこそケイトのやつを呼べば良い。あいつの立ち居振る舞いを見れば魔族が劣った種族などとは口が裂けても言えまい」
アルスちゃんに続いて俺とシエンちゃんも案を出し、話し合いは転がって行く。
こういう意義ある話し合いは俺、大好きですよ。
前世の仕事では徒労と言って差し障りないような会議が多くて、ああいうのは非常に疲れるものだったからな。
どこにもいるんだよね無駄に会議好きなオッサンが。
会議の時間、各々が本来すべき事が停滞しているって意識がないんだよね。
例えば本来の仕事をきちんと段取り着けて停止した上で給料の発生する形で会議するってんなら良いけど、俺が前世で就いた仕事なんてのはだいたいそんなしっかりした仕事じゃなかったので、いつも通りに仕事は進行中なのでなんとか他の従業員に気張って貰って会議に出席するような職場ばかりだった。
ある仕事の時などは前述したような他の従業員に1.5人分の仕事をして貰い抜けて参加するだけでなく、夜勤明けやこれから夜勤なのに早く出るなど、本来ならば休息すべき時間に参加するような仕組みを取っていた。
そんな状態なのにまったくそんな事には気を配らず、そんな話は飲みの席ででもやってくれと言うような雑談に近い話を延々とするおっさんもいて、俺は辟易したものだった。
「シャスカさんとムジーカさんも何か案があれば言ってくださいね?実現できないと思っても皆で話し合えば実現できる事もありますから」
アルスちゃんが黙って話を聞いていたふたりにそう言った。
「あの、いえ、別にそんな意味で黙っていた訳ではないんです。ただ、皆さん、どうして今日会ったばかりの、それも敵対関係で会った私達にそんなに良くして下さるんですか?」
「そう!それなんすよ!なんつーか、あんまり良くしてくれるもんだから俺らもわかんなくなっちゃって」
シャスカが真剣な顔でムジーカは素直にそう言った。
「何言ってんだ?こんなもん、やるに決まってんだろ誰だって」
シエンちゃんがさも当たり前のように言う。
「ですね、誰でもやりますよねえ」
「そうそう!」
穏やかな口調で言うアルスちゃんに俺も同意する。まさに、そうそう。このくらい誰だってやるって。って事でそんなに恐縮しないでおくれよ。
シャスカとムジーカはグッと何かを堪えるような顔をし、そしてすぐに俺たちを見て強く頷いたのだった。
「では、そう言う事で我々はうちに帰る事にしましょうか」
「伯爵はどうするんです?」
にこやかに言うアルスちゃんにシャスカが少し険しい目で伯爵を見ながら尋ねる。
「このままでいいでしょう。作戦が始動すればすぐに伯爵は関係筋からマークされる事になります。叩けば埃が出る身体でしょうからねえ、これから少しの時間だけ自由を満喫させてあげましょう」
「必ず晴らしてくれよう……私を怒らせた事、必ず後悔させる……必ずだ……これで勝ったと思うなよ…」
それはもう完膚なきまでに負けた者のセリフよ伯爵。
シャスカとムジーカはよだれを垂らしてブツブツ呟く伯爵を見て何とも言えない表情をした。
許せない思いもあるものの壊れちゃってる伯爵にこれ以上追い詰める意味を見出せなくなったか。
とにかくシャスカとムジーカのふたりともがアルスちゃんの意見に異論を唱えず、ただ静かに頷いたのだった。
そうして俺たちは伯爵城を出たのだった。
「伯爵のやつ、帰り損ねた地下の魔物に食べられちゃったりしてな」
城の外に出た時点で物騒な事を言うシエンちゃん。
「今まで地下に落とした人も居る事でしょうからねえ。そうした人の恨みが強ければ食べられちゃうかもしれませんねえ」
アルスちゃんが穏やかな口調でおっかない事を言った。
「あの、もしかしておふたりって人族に冷徹だったりします?」
シエンちゃんとアルスちゃんが人族でないことは薄々感じ取っていたのだろう、シャスカが俺に小声で尋ねる。
「彼女たちは特定の種族に対して思い入れも憎しみもなにもないよ。ただ悪党には厳しく身内に優しい、それだけ。そんでもって、もうふたりとも身内って事だよ」
俺はシャスカとムジーカを見て言う。
「そんな」
シャスカが恐縮そうな顔をする。
「俺たちはこれから学園に帰るけど、ふたりはどうする?」
「私達も一旦、テンポラに帰りたいと思います。色々と報告しなければいけない事がありますので」
「そう。それがいいね」
俺はふたりに言ってやる。
「それで…皆さんにはどこに行けばまた逢えるのですか?ファルブリングカレッジに行けば逢えますか?」
「うん、大抵学園にいるけど、あっ!明後日はいないや。文化祭始まっちゃうから。俺は三日ともボルグスク円形競技場だけど、シエンちゃんとアルスちゃんは?」
「我は三日ともファルブリングでエンポの手伝いだ。世話の焼ける奴だからなあれも」
「あ、エンポさんってのはシエンちゃんの弟さんで学園で先生やってるのよ」
俺はフォローを入れてあげる。
「わたしは三日ともフルードポアリエですね。因みにですがキーケちゃんは開催日程に合わせて移動するそうですよ」
「つー事は初日ファルブリング、二日目ボルグスク、三日目フルードポアリエか。まあ、どこに行っても誰かしら居るって事ね」
アルスちゃんの言葉に俺は答える。
「キーケちゃんは武術クラブのメンバーと共に会場の警護をするそうですからねえ」
「キーケちゃんが警護するなら安心だよ」
「リヴァイアサン百匹くらいは軽いな」
俺の言葉にシエンちゃんが被せムジーカがまた御冗談をとつぶやくが、冗談じゃないのよそれが。
「そんな訳だから、何かあったらそのどこかに連絡してよ。まあ、何もなくても学園祭観に来てくれても良いけど」
「おう、観に来い観に来い!初日の劇は我も協力しとるからな!こいつは絶対に見逃せんぞ!」
「二日目のベリンボール親善試合はトモトモが、最終日の弁論大会はわたしが付き添う予定ですので宜しければそちらもどうぞ」
シエンちゃんに続いてアルスちゃんがにこやかに言った。
「必ず行くっす!応援するっす!」
ムジーカが元気良く言いシャスカは強く頷いた。
そうして一旦俺たちはそれぞれ帰るべき場所に帰るのだった。
伯爵城を去り際、城内から悲鳴のような声が聞えたような気がしたが気のせいと言う事で済ませておこう。
学園に到着するとアルスちゃんは学長へ報告してから関係各所へ連絡すると言い学長室へ、シエンちゃんはディアナに宣伝部隊の事を相談してくると売店にそれぞれ向かった。
「さてと、やつらいるかな」
俺はひとまず図書室に向かった。
「お!丁度良い所に来たな!」
「うむ、これは都合が良いぞ」
図書室に入ると図書部部長パニッツと新聞部部長フィールドが俺を見つけてニコニコと笑った。
「なんだなんだ?俺もふたりにお願いしたい事があったんだけどな」
「君が我々にか?ふうむ、これは面白い事になりそうだな」
パニッツが顎の下に手をやり少し考え込み言う。
「そうだな、ではまずクルース君の方から聞くとするか」
フィールドはそう言って俺に席を進めた。
「お、おう、悪いな…」
俺は図書室端のテーブルに座って事情を話す。移民魔族の互助会組織であるテンポラに起きた事件を。現在、魔族に対して幾つかの団体からヘイトを煽る排斥運動が起きている事。そうした排外主義の行く末は種族のみならず世代や性別、職業などあらゆる差に置いての憎悪と分断を招きかねず、そうなると社会的不平等に拍車がかかり雇用の機会が失われ貧困層が増える。適切な医療を受けられない人々が増え、社会が不安定になる。
「……これは誰しもに関係する問題で対岸の火事ではないんだ。人が、本人に責任の無い要因で選択肢を奪われ尊厳を奪われるってのはとても野蛮な事で進歩的な文明人が進むべき道ではない」
「ふむ、それは本当にそうだと思うぞ。新聞や本にはそうしたものを跳ね返す力があると我らは信じているのだよ」
「ん!こいつはもしかして!」
「お!そうだな!特集が決まったぞ!」
俺の説明を聞いたパニッツとフィールドがパチンと手を打ち喜び始めた。
「なんだ?どうした?特集ってなんだ?」
「君に相談しようと思っていた事だ。文化祭期間中は多くの人が訪れるからな、壁新聞で観に来るお客さんを楽しませながら考えさせるような何か意義ある特集を組みたいと考えていたのだ」
フィールドが腕を組んで言う。
「差別や偏見へのカウンター記事は我々がずっと訴えて来た事でもある。これまでの記事の選り抜きを載せるのも良いだろう」
「ならば、我が校の生徒やフルードポアリエの生徒やお客さんに意見を聞いて載せるのも良いかもしれないな」
「うむ、それは非常に良いが載せる選択が難しいな。我らが印象を操作する事になってはいけないからな、慎重にやる必要があるな」
フィールドとパニッツは盛んに意見を交換し合い時折メモなど取る始末だった。
うむ、とりあえず俺の目的は半分果たせたな。
「どうです部長、あ!トモ君!お帰り!ドギューズの調子はどう?」
「よっ!おかげさんで絶好調よ」
図書室にやってきたブランシェットが俺に声をかけるので俺は笑顔で答える。
「部長、言われた通り連れてきましたけど、何を書いてもらうか決まったんですか?」
「こっちも忙しいんだから、早く決めて欲しいんですけど」
ブランシェットの後ろからひょっこり顔を出して言うのはルブランだった。
おっと、こりゃあ残り半分も果たせそうだな。
「これはこれはマリブラ先生、お忙しい中、ご足労頂きまして」
パニッツが恭しく言う。
「そう言うの良いですから、ネタの方、お願いしますよ」
マリブラとはルブランのペンネームだ。
「ネタならすでに決まっておるぞ!今回の特集は……」
フィールドが俺の説明も交えて今回の特集記事についてルブランに伝えた。
「…マリブラ先生には是非このネタに沿った短編を載せて頂きたい。如何か?」
「それなら、すぐにできます。そのネタはこれまでも使ってますから。寝かしてあるモノもありますよ、クルース君の趣味にあったやつが」
ルブランが俺を見て意味深な笑みを浮かべた。
「そいつは嬉しいねえ」
俺も笑い返しておく。フィールドがしてくれた説明に俺の趣味が出ちゃってたからなあ、自分が攻撃されない所からヘイトを煽って分断を促す行為はセコイ小悪党のやる事で非常に情けない行為である、なんて言い方はなあ。
今更ながらちょっと俺の趣味が出過ぎてしまったように感じて恥ずかしくなってしまうが、まあこの際そんな事は気にしても仕方がないか。
俺は見透かすようなルブランの視線にたじろぎながらそんな事を思うのだった。




