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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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さよならビビちゃんって素敵やん

 「そんなにおっかない物なんすか?その邪神の欠片ってのは?」


 ムジーカがおっかなびっくりしながらアルスちゃんに尋ねた。

 シエンちゃんの方に尋ねなかったのは邪神の欠片を持っているからだろう。シエンちゃんの事だから、あんまり怖がってると絶対邪神の欠片持って追っかけてきそうだもんなあ。


 「ええ。ありとあらゆる生物の苦しみ怒り憎しみなどの負の感情を吸って強大な力を蓄え放つ。トモトモならば心当たりがあるでしょう?」


 アルスちゃんが俺を見てにっこりとする。


 「うん、邪法だよね?」


 俺は答えた。初めて見たのはハティーちゃん護衛の旅で、モミトスの発見者というカルト団体の幹部が俺たちに対して使おうとしてきた時だったな。人の苦痛を体内に吸収し練り上げ開眼する邪悪な目、それが邪法だ。

 邪法が開眼すると額に目が現れ、そこから発せられる光を浴びた者は魂を奪われると言う。


 「あれはこの技術の残滓で構築された魔術です。これは完全体のオリジンですからね、対象範囲や影響の規模、出来る事の種類も桁違いです。まず、エネルギーとなる負の感情についてですが、魔物や獣もその対象になります」


 「つー事はだよ?弱肉強食の激しい環境にでも放置しとけばバンバンエネルギーが溜まるって事?」


 「そう言う事になりますね。運用の規模について過去の記録によれば、大都市に火と硫黄を降らせ住民も建築物もすべて焼き尽くした、とか幾つもの土地を水没させその土地に生きる全ての者を死滅させたとか、地面が割れ十二の村を飲み込んだなどと書物にはありますね」


 「うっそ、大量破壊兵器じゃないのさ」


 アルスちゃんの話を聞いて俺は驚いた。そんな事ができればもう神の領域だよ、しかも残酷無情で荒ぶる神の。


 「ええ、伯爵は恐らくその事を知らなかったのでしょうね。ですから、こんなに限られた運用しかできなかった」


 アルスちゃんはそう言って地面に横たわり動かなくなった石像を見つめた。


 「もしくは、それしか教えられなかったのか」


 石像から降りたシエンちゃんが言う。


 「どちらもじゃないの?そういや伯爵がこいつの事ベルゼガッドとか言ってたけど、そりゃあなんなの?」


 「ベルゼガッドは古の邪神の名前です。神と敵対し神の国を追われ地上に落ちた邪悪な神のひとり、破壊と災害をつかさどると言われる邪神です」


 シャスカが言った。


 「そんなたいそなもんじゃないけどなこいつは。ただの動く石像だ」


 「ただの石像にしちゃめっちゃ固かったけど」


 俺はシエンちゃんに言う。


 「だから大した事ないんだ。固い材質を動かす事に力を食い過ぎておる。更に言うなら人型と言うのも無駄に力を食っておるわ。つまり、こいつは力の無駄遣い……まてよ?わざとか?」


 「その可能性は高いですね。おそらくそれを伯爵に渡した方は伯爵が失敗するのを望んでいたのかと」


 シエンちゃんの言葉にアルスちゃんが答える。


 「失敗、ですか?」


 シャスカが真面目な顔をして尋ねる。


 「要するに黒幕は伯爵が邪魔だったんじゃないか?」


 「伯爵の口から洩れると困る情報がある、と?」


 「まあ、そう言う事だろ」


 シャスカに問われシエンちゃんが答える。


 「黒幕の誤算は伯爵の元まで来たのがトモトモだったって事ですね」


 「なんでなんす?なんでクルースの兄いだと誤算なんです?」


 「つまり、普通この石像レベルの敵をけしかけられれば誰でもそこそこ苦戦します。恐怖も感じるかも知れません。そうなると、戦闘に余裕がなくなり伯爵が巻き込まれる確率は大きくなります。普通の人であれば激しい戦闘により通常の精神状態ではいられず、強い攻撃衝動、不安、集中力の低下、疲労感などに襲われる事でしょう。それは伯爵も同じ事です。そんな精神状態の人間同士が敵味方として相対すればどうなるか?」


 「確かに、我慢できねえな」


 アルスちゃんの説明を聞いてムジーカが俺が抱えている伯爵を見て唸るように言う。


 「まあ、とにかくあれだ。こいつに話を聞こうじゃないか」


 「ちょっと待ってくれビビが来た」


 石像が沈黙したのを確認したビビが恐る恐ると言った様子でシエンちゃんの元にやって来た。


 「ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅう」


 「うむ、そうか。それが良いならそうするが良いぞ」


 「しゅっしゅ」


 シエンちゃんの言葉に頷くように短く答えたビビはのそりのそりと歩いて行く。


 「ビビ、どこ行くの」


 「地下に戻るってさ。子供を産むのに丁度良いんだって。屋敷にいる魔物も連れて帰るってさ」


 シエンちゃんはどことなくつまんなさそうにそう言った。寂しいんだろうな、シエンちゃんは魔獣好きだからなあ。今でも校舎の裏で魔物飼育してるしなあ。

 でも、本人が望んでいるならやっぱり自然に返した方が良いだろうからな。

 

 「それではビビちゃんの見送りついでに外への穴は一応塞いでおきますか。わたしは屋敷の外の穴を塞ぎに行って来ます」


 「おう悪いな。それじゃあ我らはビビを見送り屋敷の中の穴を塞ぐとするか」


 「うん、そうしようか」


 俺は気を失っている伯爵をどうするか少し考える。持って歩くのも面倒だが置いてって逃げられても困るな。

 俺は伯爵の手足に土魔法で作った枷を嵌め、その上で下半身を土魔法で屋敷の床に埋め込んでやる。ここまですればまあ逃げられまい。

 そこまでやってから俺はシエンちゃんを追いかけた。


 「ありゃ?ビビが二匹?」


 屋敷に開けた穴まで行くと二匹のビビちゃんが向き合っていた。


 「どったのこれ?」


 「どうやら、オスのアースドラゴンが地下にいたらしい。ビビ、旦那が迎えに来たぞ。行って幸せに暮らせよビビ……」


 シエンちゃんに促されてビビはオスのアースドラゴンと一緒に地下へ続く穴を下って行く。


 「それでいいんだ…達者で暮らせよ」


 シエンちゃんは静かにそうつぶやいた。

 ううっ、ええ話や。白爪草の花が咲いたら行こうかビビちゃん。

 俺は感動しながら、去って行く二匹のアースドラゴンとそれを静かに見送るシエンちゃんの姿を目に焼き付けるのだった。

 その後、学校を出たシエンちゃんはジャーナリズムの世界で活躍した後、作家として成功はるかなるわがビビちゃんという本を出し魔物文学賞を受賞するのだった……なんて事を妄想してしまう俺なのであった。

 

 「ビビちゃんはかわいかったけど、こいつらはなあ」


 俺はビビちゃんの後に続く虫系魔物を見てゾッとする。


 「でも、来る時みたいに襲ってこないっすね」


 「オスが現れた事でビビちゃんの惹き付けがパワーアップしたのでしょうね」


 「うわっ!アルスちゃん!めっちゃ早くない?」


 「そうですか?普通ですよ」


 「つーか、アースドラゴンのオスが現れたのなんで知ってるの?」


 「臭いがしますもの、一目瞭然ですよ」


 ううっ、嗅覚なのに一目とは…ツッコミたいのはやまやまだが、アルスちゃんならさもありなんとも思うのでツッコめないぜ。


 「オスが現れるとビビちゃんパワーアップするの?」


 仕方なく俺はアルスちゃんに更に質問する。


 「惹き付けは元々、餌をおびき寄せるための技ですからね。扶養家族が増えたぶん頑張っているのでしょうねえ」


 「えっ?オスって扶養なの?」


 「つがいになったオスは自分で餌を取らないんですよ」


 「うわっ、ろくでなしじゃん」

 

 俺は若干引いて言う。


 「うふふ、その代わり外敵が現れた時に命懸けで戦いますからね。専属傭兵みたいなものですね」


 「ううむ、なんともドライと言うか何と言うか」


 「なあに、人だって似たようなもんだろ?」


 アルスちゃんの言葉に答える俺にシエンちゃんが言う。


 「うっ、そう言われると確かにそうかも」


 考えてみれば男は外で働いて食い扶持を稼ぐ、家族の専属金稼ぎみたいなもんか。しかも、前世じゃそれだけじゃ足りないって事でもっと家族を顧みよと言われてたっけ。そこいら辺は色々と難しい話しもあるんだが、とにかく男に求められる事は非常にハードルが高くなっていたなあ。

 俺は結局、所帯を持たなかったからあれだけど、前世で所帯を持っていた人は尊敬に値すると常々思っていたもんだ。まあ、この世界でも所帯をもってる人は凄いけどな。とにかく俺にはマネできない立派な事だと認識している。ビビちゃん、お疲れ様です!


 「こいつで最後かな」


 「まあ、少しぐらい残っていても構わんだろ」


 群れを成して地下へ戻って行く魔物達の最後尾を見て言う俺に、シエンちゃんは適当にそんな事を返し穴を塞いだ。

 まあ、少しぐらい居ても伯爵の城だ、構わないか。

 地下から続く穴を塞いだ俺たちは荒れ果てた城内を通り伯爵の元へ戻る。


 「どうなってる!誰かいないか!誰か私を助けろ!誰か!」

 

 伯爵は身をよじり大きな声で叫んでいた。


 「元気いっぱいみたいですな」


 俺はしゃがみ込み、下半身を床に埋め込まれ両手を後ろ手で拘束されたままジタバタする伯爵に目線を合わせて話しかける。


 「なんだ貴様!ん?ああん?貴様ぁ…まさか貴様!ベルゼガッドをっ!」


 「あんなものはベルゼガッドじゃあないんだよ伯爵さん」


 「なんだって?」


 伯爵が顔を歪める。


 「あれは出来損ないなんだよ。あんたはさ、見捨てられたのさ、トカゲのシッポ、生贄の羊なんだよ」


 「嘘だ、あれは、あれは本物の邪神、ベルゼガッドだった」


 伯爵の声に力が亡くなる。自分で言ってて裏切られるような心当たりがあるんだろうな。


 「中に入ってたの物は本物だったよ。ただし、運用の仕方が悪かった。あえて出来損ないにしたのは、伯爵、あんたを亡き者にするためさ」


 「ぐうっ、マルギシャルの奴め!この私をたばかりよったのかっ!」


 「マルギシャル?マルギシャルと言いましたか?」


 苦虫を噛み潰したような顔で言う伯爵に詰め寄るシャスカ。


 「おのれぇマルギシャスぅ、この恨みぃはらさで置くべきかぁ」


 シャスカのいう事など耳に入らない伯爵は歯ぎしりしながら唸る。お前はうらみ念法の使い手か。

 

 「知っているんですかシャスカさん?」


 「伯爵の言ってるのがアントワル・マルギシャスならば」


 「アントワル!アントワルゥゥゥゥゥゥゥゥっ!」


 シャスカの言葉を聞いた伯爵が額に血管を浮かせて怒りの表情を浮かべた。


 「誰なんです?そのアントワル・マルギシャスとは?」


 「モミバトス教右派の筆頭団体であるモミバトス教コアリションカウンシルの代表です。モミバトス教右派はこれまでも魔族の奴隷制度や隔離政策に強く関わって来た団体で、そうしたものが禁止されている現在でも魔族に対して否定的な立場をとる事が多いのです」

 

 俺の質問にシャスカが答えてくれる。

 あちゃー、宗教右派かー。前世でもそうだったが宗教右派はナショナリズムと結びつきやすいからな。移民排斥、リベラルへの反対運動で結束を高める傾向があるんだよなあ。

 

 「絵図が見えてきましたね。モミバトス教右派は伯爵を動かしジェニファー・スプレーンと接触させ移民排斥行動をとらせた。しかし、それは失敗を前提にするものであった。失敗し露見した際、伯爵は偽邪神と共に葬り去られマルギシャスへ辿れる道は消える。そしてこの事件の責任はジェニファー・スプレーン率いるチョーズン派ロビーに対して向けられる、と」


 アルスちゃんが言う。


 「つまり私達はモミバトス教右派とチョーズン派ロビーの争いに巻き込まれたと、そういう事ですか?」


 「移民排斥はどちらの目的にもかなっていますから、失敗しても成功してもどちらに転んでも右派勢力の得になる。マルギシャスの企みに踊らされそうになった、と言う所ですかね」


 「踊らされそうになった?」


 シャスカが尋ねる。


 「ええ、ここからは私達の書いた絵図で皆さんには踊って頂きましょうか」


 「と言うと?」


 「うふふふふ」


 アルスちゃんは俺の問に唇だけで薄く笑い答えた。

 ううむ、ちょっと怖いんですけど。


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