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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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怪しい城怪しい伯爵って素敵やん

 シャスカとムジーカのペース、と言うか俺もだな、とにかくアルスちゃんとシエンちゃんにはペースを抑えて飛んでもらい俺たちはアロンゾ伯爵城に向かう。

 ファルブリングの街から空を移動する事一時間弱程。

 鬱蒼とした森林地帯を抜け山の中腹部に見えたのが噂のアロンゾ伯爵城だ。

 城が見えたとたん、太陽が出ているのになぜか日が陰った様に感じた。

 どうやら怪しい噂を聞いたもんだから人里離れた城と言うのが不気味な印象を増幅させ、俺にそんな錯覚を見せたのかも知れない。

 しかし、それを差っ引いてもなんだか薄気味悪い城だなあ。

 近付くにつれ見えてくるのはやたらとギザギザした屋根や窓、まるで城自身が邪悪な笑みを浮かべているようだった。

 

 「どっから入るの?」


 「あそこですよトモトモ。ちゃんと馬車道が通っていますよ」


 「あ、ほんとだ」


 アルスちゃんに言われて初めて気づいた、よく見ればちゃんと城に向かって道が続いているよ。

 

 「相変わらずトモちゃんは飛ぶと下を見てないなあ。それじゃあ危ないといつも言っておろうに」


 「ごめん、つい首がかったるくて。気を付けるよ」


 空を飛んでいると目立つ、目立てばちょっかいをかけてくる者もいる。そうした場合のちょっかいってのは往々にして地面から上に放たれる。つまり飛んでいる身からすると下からいきなり攻撃を加えられる事がままあるという事なのだ。なので、シエンちゃんたちは口を酸っぱくして言うのだ、飛んでる時は下を注意して見ろ、と。

 でもなあ、どうしても進行方向に目をやりたいってのもあるし飛びながら真下を見るのは妙に首がしんどいってのもあり、ついついお留守になってしまう悪い癖が俺にはあるのだ。

 反省反省。

 俺たちは城の正面門前に着陸する。


 「頼もう!」


 立派なトビラの前でシエンちゃんが大きな声で言う。シエンちゃんは時代がかったとこがあるよなあ。


 『ギィィィィィィィィィィィィ』


 これまた怪奇映画に出てくるような音を立てて大きな木のトビラが開く。


 「どちら様ですかな?」


 ぬぼーっと出て来た男は青白く痩せこけた顔に抜け落ちた白髪、やけに細い手足となんだか幽霊のような人物であった。


 「アロンゾ伯爵に会いたい」


 シエンちゃんはどうどうとそう言いきった。いっくらなんでもそれで会わせてくれるわけが…


 「どうぞ、お入りください」


 会わせてくれるんかーーい!

 結構堂々としてりゃあいけるもんだな。

 ムジーカも俺と同じ事を思ったのか腑に落ちないような顔をしてこっちを見た。

 

 「おい、大丈夫なのか?罠じゃないのか?」

 

 「わかんないけど、忍び込むよりはマシじゃない?」


 「まあ、そりゃそうだけども」


 ムジーカはやはり納得できないようで歯切れの悪い返事をする。

 

 「大丈夫だって、罠でもなんでもこのメンツならぶっ壊して通るって」


 俺はムジーカに言ってやる。


 「それだよそれ。あのおふたりは何者なんだ?シャスカが一発でいかれちまったなんて俺は初めて見るしよ。なんつーか、あのおふたりは底が知れねえ。俺ら魔族は腕っぷしに自信がある連中が多いけども、そんなもんじゃねえ何かを感じるぜ。まともに見れねえもんよ、おっかなくて」


 「それがわかるんならムジやんも大したもんだ。あのふたりは半端ないからね」


 「ムジやんてお前」


 ムジーカは顔を引きつらせて苦笑する。ふたりの凄さにか俺の距離の詰め方にか、どちらもなのかな。

 

 「ご主人様がお待ちです」


 ひときわ大きなトビラの前に立った青白い顔の男はそう言って俺たちを見て一礼した。

 

 「ご主人様がお待ち?」


 「ええ、お待ちでございますのでどうぞ」


 シエンちゃんの言葉に動ずることなくそう答えトビラを開ける男。

 扉の向こうは食堂のようで長い机があった。

 

 「ようこそ、ようこそ我が城へ」


 低く冷たい声が部屋中に響いた。どうやら長い机の奥に座った男がそれを発したようだ。

 なんだか部屋の気温が下がったような気がする嫌な声だ。さっきムジーカを励ましたばかりなのになんだかうすら寒い気分になってしまうのが情けない。


 「まるで我らの訪問を事前に知っていたかのような口ぶりだな」


 シエンちゃんが挑戦的な口調でそう言った。こらシエンちゃん、初対面の人に失礼でしょうが。

 

 「勿論、知っておりましたとも。そちらのおふたりはテンポラ総会のシャスカさんとムジーカさん、そうですね?そしてあなた方は彼女達と共に出入国管理局へ出向かれた。そうですね?」


 「ほう?」


 シエンちゃんが面白そうにニヤリと笑う。


 「このまま立ち話では無粋です。どうぞお座りください、食事を用意しております」


 「それは用意が良いな、こっちは腹ペコだ」


 「それも存じ上げておりましたよ。私はすべてを存じ上げているのですよ」


 アロンゾ伯爵が言いシャスカとムジーカの表情がこわばる。

 俺としてはこういう何でもお見通しみたいな事を言う奴はまったく信用できないね。絶対、インチキに決まってんだから。

 俺は心の中で眉に唾を付けながら席に着いた。

 席に着くとすぐに飲み物と前菜が運ばれてきた。

 手を付けたのはシエンちゃんだけだった。


 「どうぞ、ご遠慮なく。毒など入っていませんよ」


 アロンゾ伯爵は良く通る低い声で言う。


 「本題に入らせて頂いてよろしいですか?」


 シャスカが気力を振り絞るようにして言った。


 「おやおや、慌ただしいお方ですね。よろしいですよ」


 「では単刀直入に伺います、あなたは出入国管理局理事ジェニファー・スプレーン氏とお知り合いですね?」


 「ええ、彼女とは懇意にさせて頂いてます。彼女が何か?」


 アロンゾ伯爵は顔色一つ変えずに言う。


 「あなたはスプレーン理事の商会で管理事務所のレイズフェルド氏と会談しましたね?」


 「会談と言うほどの事ではありませんよ。ただご挨拶に伺っただけですよ」


 まったく表情を変えずに言うアロンゾ伯爵。


 「そこで質問です。伯爵、あなたはなぜレイズフェルド氏に助成金打ち切りの嘘をついてテンポラ総会に圧をかけるよう指示したのですか?」


 シャスカは背筋を正し凛とした態度でそう言った。


 「さあ?何をおっしゃられているのかさっぱりわかりませんが」


 「とぼけないで下さい!こっちはレイズフェルドから直接聞いているんですから!」


 シャスカが大きな声を出す。


 「そう言われましてもね、わからないものはわからないとしか言いようがないですな。どうも先ほどからまったく料理に手を付けていないようですな。空腹では良い話し合いは出来ませんよ?」


 アロンゾ伯爵は少しだけ口角を上げた。


 「ちょっと良いですかねえ」


 俺は手を上げた。


 「どうぞ」


 「トモ・クルースです。ファルブリングカレッジの生徒をやっています」


 「存じ上げておりますよ。便利屋をやりながらベリンボールチームのマネージャーもやっているのですよね?」


 アロンゾ伯爵が言いシャスカとムジーカの表情が歪む。


 「あれれ?おかしいなあ?」


 俺は子供のような声を出す。


 「お?始まったぞ」


 シエンちゃんがニヤリと笑う。


 「何ですかそれは?」


 アロンゾ伯爵は面白くもなさそうに言う。つーか、ちょっとイラっとしたね今?


 「だって変だよ?伯爵さんは何でもお見通しなんだよね?」


 子供のような話し方で言う俺。


 「そうですが、なんですあなたのその話し方は?」


 「だったらなんでこんな食事を用意したのかな?」


 「それはあなた方が空腹なのを知っていたからで」


 「それがおかしいって言ってるんですよ」


 俺は素の声に戻って言う。


 「我々はここに来る前に食事は済ませていたんですよ」


 「しかし、そこの彼女は空腹だと言っていたではないか」


 「彼女はいくら食べても空腹なんですよ」


 「だから彼女のために用意をさせたんだよ」


 「だったらなぜシャスカさんに食事を勧めたのです?しかも空腹では良い話し合いは出来ないとまで言ってましたよね?これはつまり、我々の事をすべて知っていると言うのはまったくの嘘、たんなるハッタリだという事ですねアロンゾ伯爵。レイズフェルドに関して知らないと言った事も含め、あなたの言う事は全て信用なりませんね」


 俺はビシッと言ってやった。


 「クックック、アッハッハッハッハ。面白い、スプレーンに聞いていた通り君は面白い人だクルース君。こんな些細な事からそこまで言いきるとはね。実に面白い。私はねクルース君、荒事は好まないのでね、出来る事なら対話ですべてを終わらそうと思ったのだけどね。クックックックックック、ハッハッハッハッハッハ!楽しいね、こんなに楽しいのは久しぶりだよ、ありがとうクルース君。そして、さようなら」


 アロンゾ伯爵がそう言うと我々がいる床がバックリと口を開け、長テーブルやイスがすべてそこも見えぬ地下へ落下した。こういう奴らって地下好きだよなあ。


 「無駄です!我らがここまでどうやって来たのか知らなかったようですね」


 宙に浮きながら言うシャスカさん。そうだ、俺たちは全員空を飛べるのだ。


 「それはさすがに知っていたよ」


 伯爵はそう言って指をパチンと鳴らした。

 

 「わっ!」


 天井が開き頭上から何か大きな物が落ちてくるのを見て俺は思わず声を上げてしまう。


 「むうっ!こいつは!」


シエンちゃんが唸り上から落ちて来た物を支える。

 落下して来た物はかなりの重量があるのかシエンちゃんは凄い速さでそれを支えたまま地下へと沈んで行く。

 俺たちはそれに伴う形で巨大な質量を持つ何かと共に地下へ落ちて行った。伯爵の高笑いの声と共に。


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