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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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全包囲網作戦って素敵やん

 「おうアルス、ごくろうちゃんだったな。アルスのぶんも取ってあるから食べろ食べろ」


 「ありがとうございます。ですが先にご報告を。助成金打ち切りの話ですが…」


 機嫌よくチキンとポテトを進めるシエンちゃんに対しにこやかに答えるアルスちゃん。

 

 「結論から言うとレイズフェルド氏の話は嘘でした。テンポラ総会さんが問い合わせた時に応対した人はレイズフェルドにお金を貰い嘘をついていたようです。そして助成金打ちきりを提案しているのはジェニファー・スプレーンとその一派だそうです。バッグゼッド帝国はヤグー難民受け入れに対して柔軟かつ人道的な対応をしておりその事は諸外国から大きく評価されています。そのような状況を国は是としているため、現在のところ移民難民に対して否定的な政策を打ち出す事はまずない状況となっています。むしろ、アルロット領領主が難民に対する人道的活動を評価され皇帝より緋色龍騎士勲章を授与されるという事があったため、貴族や大商会は移民難民に対して好意的な対応をこぞってしているのが現状だそうです。なぜそうした流れに逆行する動きをジェニファー・スプレーンがしているのかはっきりした事はわかっていませんが、情報筋さんは、貴族や大商会の中でも批判派に取り入ろうとしているのではないか、との見方をしています。批判派はメインストリームには居ませんが、バランサーとして大きな影響力を持つ派閥ですので取り入るメリットは確かにあります。よかったらどうぞ」


 そこまで喋ったアルスちゃんはヤグーソーダーを一口飲むと、シエンちゃんの空になったポテトトレーに自分のポテトとチキンを取り分けた。

 アルスちゃんに食事を勧めた時からずっとシエンちゃんはアルスちゃんの分の食料を見つめてたからなあ。

 

 「悪いなあ、ありがとなー」


 シエンちゃんは満面の笑みでそう言うと早速チキンをパクつくのだった。まったく、かわいいったらありゃしない。その思いはアルスちゃんも同じようで、一生懸命餌を食べる子犬を見るような目でシエンちゃんを見て微笑んでいる。


 「ジェニファー・スプレーンの奴は国を動かす程の影響力が欲しいみたいね。そんなもの持たせるわけにはいかないなあ」


 「パクパク、奴はつまり一石二鳥を狙ったわけだな、批判派の取り込みとトモちゃんへの嫌がらせと。だったらどちらも頓挫させたら面白かろうな」


 シエンちゃんはアルスちゃんに貰ったチキンとポテトを軽く平らげそう言った。


 「うふふ、シエンさんらしいですねえ。私もそれには大賛成ですよ」


 アルスちゃんが上品に笑う。


 「よし、じゃあそのための作戦を練ろうじゃないの。まずは俺への嫌がらせだけど、これは既に失敗しているよね?となると、次に批判派取り込みの妨害だね」


 「それでしたら既に三方から働きかけて頂いてますよ」


 アルスちゃんはそう言ってポテトをひとつ食べた。


 「三方と言うと?」

 

 アルスちゃんがポテトを食べ終われるように俺はゆっくり目に尋ねた。


 「まずゼークシュタイン閣下経由、いまひとつはランラート男爵経由、もうひとつはストームさん経由です」


 アルスちゃんは食べたポテトをヤグーソーダーで流し込んだ後にそう言った。


 「あの、すいません。ゼークシュタイン閣下とランラート男爵はわかりますがもう一方は?」


 シャスカがおずおずと聞く。ゼークシュタイン閣下は国防軍の重鎮、ランラート男爵はその人脈の広さで知られる有名人だ、そんなふたりの名前が出た時点でかなりインパクトがあったろうにそこからストームは何者か尋ねるなんてなかなかの胆力だな。


 「ストームさんは凄腕のルーマーディーラーですよ」


 「ルーマーディーラー?」


 シャスカは尋ねる。


 「ええ、噂を自由に操る専門家です。彼の手腕は闇社会の大物から上流社会の大立者まで広く評価されています」


 「そんな凄い方とお知り合いなんですか?」


 シャスカが驚きの声を上げる。


 「どなたもトモトモの御友人なんですよ」


 アルスちゃんはニコニコしてそう言った。


 「クルースさんのですか……」


 シャスカは俺を見てからシエンちゃんアルスちゃんと順番に見て、また俺を見た。

 その目は何か異様なものでも見るような目だった。

 

 「えへへ」


 得体の知れん奴と思われてもやり辛いので俺ははにかんで見せた。


 「さて、と。それじゃあ敵の一石二鳥作戦は既に頓挫したも同然という訳だな」


 シエンちゃんがアルスちゃんに貰ったポテトをパクつきながらそう言った。はにかんだ俺の顔を見てシャスカさんは益々表情を引きつらせてたのでシエンちゃんのこの話の進め方は正直助かった。

 

 「では、すべきことはあと一つですね」


 「え?あと一つと言いますと?」


 静かに言うアルスちゃんの言葉にシャスカが質問する。


 「そりゃ勿論あれだ、なあ?」


 シエンちゃんが俺の顔を見て言いアルスちゃんが頷く。俺に言ってくれってか?もう、ふたり共、俺に花を持たそうとしてくれるんだから~。照れ臭いけど嬉しいじゃないの。


 「今からレイズフェルドの所に行こう!行ってコラー!と言ってやろう!」


 「そうと決まれば早く行こう!腹ごなしに丁度良い!物騒な事になるといいなあー」


 シエンちゃんは嬉しそうに不穏な事を言いながら自分のトレーとゴミを片付けた。


 「あ!そんな事は私がやります!」


 「いいんですよ、慣れない場所でしょうしねえトモトモ?」


 「うん、そうそう。任せといてよ大丈夫だから」


 アルスちゃんに言われてハタと気づいた俺は急いで立ち上がりみんなのぶんのトレーとゴミを片付ける。


 「よし!じゃあ行くか!」


 「よし行くぞー!」


 元気に言うシエンちゃんに続き俺も手を上げる。


 「本当によろしいのですか?ここからは完全に私の個人的な事になってしまうのですが」


 「何言ってんだよ!お前の事情は俺の事情だってーの!」


 強い口調でシャスカに言うムジーカ。


 「良く言ったムジーカ。それでこそ誇り高き魔族の男よ!相手が自分に好意を向けてくれずとも、惚れた相手が困っていれば黙って助ける!あっぱれぞ!」


 「うぐっ、ハッキリ言い過ぎですわシエンの(あね)さん」


 ムジーカが決まり悪そうに言う。シャスカは口を真一文字に結んで難しい顔をしているので表情を読み取り辛いが、こんな一途な思いを向けられりゃあ悪い気はすまいよ。

 そうして腹ごなしも済んだ俺たちは一路、出入国管理局ファルブリング支局へと向かうのだった。

 出入国管理局は国の出先機関が集まる大きな建物の中にある。前世で言えば合同庁舎みたいなもんだ。

 

 「本日はどのようなご用件ですか?」


 入り口のガードマンに尋ねられ要件を言おうとすると建物の中から細身の男がすっ飛んできた。


 「このお方は大丈夫だ、失礼しましたアルス様。いつもお世話になっております」


 すっ飛んできた細身の男はガードマンを制してから丁寧な態度でアルスちゃんにそう言った。


 「いえいえこちらこそです、波乗り組合のブンゲンさんがお礼を言ってましたよ」


 「いえいえいえいえいえ、とんでもない。波乗り組合さんには色々とご協力頂いておりましてこちらこそ感謝にする事ばかりです。ささ、どうぞお入りください」


 下にも置かぬ対応で建屋の中に通される俺達。


 「それで、本日はどのような御用向きでしょうか?よろしければ私がご案内させて頂きますけど」


 「そうですか?それでは甘えてしまおうかしら…」


 驚くべき事にアルスちゃんは、出入国管理局のレイズフェルドが何をしたのか、そして我々がどういう目的で来たのか正直に説明した。細身の男はみるみるうちに青い顔になった。あちゃー、さすがのアルスちゃんでもこれはまずかったんじゃ?


 「まことに申し訳ありません!すぐに彼を解雇します!どうか、どうかご容赦下さい」


 あにはからんや、細身の男は平身低頭謝罪するではないか。

 

 「その素早い判断には敬意を表しますが、ここはまず私共にお話しをさせて頂けませんでしょうか?」


 「そんなとんでもない!アルス様のお手を煩わすような事をしてはわたくしどもが叱られてしまいます」


 「その事ならば心配ありませんよ、ランラート男爵に話を通してありますからね」


 「なんと!ランラート様にですか!恐れ入ります」


 細身の男は深く深く頭を下げた。


 「では、よろしいですね?」


 「ええ、よろしくお願いします」


 頭を下げる男に見送られ俺たちは出入国管理局へと向かう事に。


 「アルスちゃんなんか凄いねえ」


 俺は感心して思わず声に出してしまう。


 「いえいえ、元はと言えばトモトモのお仕事、トモトモのお知り合いですから」


 「ああ、そう言えばなんか波乗り組合とかケイトモとかで色々手助けして貰っちゃっていつも申し訳ないねえ」


 「何をおっしゃいますやら、こちらこそ面白い事をやらせて貰えて感謝ですよ」


 そう軽く言い先を歩くアルスちゃん。


 「おいあんちゃん、あんたの知り合いってなんなんだ?ふたり共、魔族でもないし人族でもない。とんでもねえ力を持ってるのに周りを威圧したり見下したりする事が全然ない。どうなってんだ?」


 「どうなってんだって言われても、そう言う人たちなんだから仕方ないよ」


 小さい声で聞くムジーカに俺はそう答えた。つーか、そうとしか答えようがない。

 

 「ホントはおめえってスゲー奴なんじゃないのか?そういやあん時もドエレースピードで飛んでやがったなあ。あんちゃん、何者だよ?」


 「何者って言われても、ファルブリングカレッジの学生だけど」


 「ただの学生だあ?んなわけあるか!」


 ムジーカはそう言って俺の肩にパンチをした。痛ぇって。

 

 「失礼します」


 俺とムジーカがじゃれている間に目的地に到着したアルスちゃんは丁寧にノックしトビラを開いた。


 「こんにちは、レイズフェルドさんはいらっしゃいますか?」


 「支局長ですね、ただいまお呼びします」


 受付に座っていた女性はそう言って奥の部屋に行った。


 「はい、如何なされましたか?あ!」


 奥のトビラから出て来た初老の男はこちらを見て柔和な笑顔をひきつらせた。


 「どうもレイズフェルドさん。いつぞやはお世話になりましたね」


 シャスカが怖い声で言う。


 「あ、あんた」


 シャスカと俺を交互に見て言葉を詰まらせるレイズフェルド。


 「ども、お初ですけどあなたは私の事をご存知のようで。何やら私に言いたい事があるそうですなあ?話なら幾らでも聞きますよ?」


 俺は少し距離を詰めて言う。


 「ううっ、知らん!君など知らん!」


 レイズフェルドは後退りながら言う。


 「おかしいですね?私がテンポラ総会理事会への助成金を打ち切るよう根回しして歩いていると言ったのはレイズフェルドさん、あなたですよね?どういう事なのか説明して頂けますか?」


 俺は更に問い詰める。


 「ぐうっ、シャッ、シャスカ君!これはどういう事だねっ!こんな話、聞いてないよ!君のところの理事たちはこの件を知っているのかね!」


 「それならば心配ご無用ですよ。今頃ランラート男爵の方から連絡がいっていると思いますからね」


 アルスちゃんの言葉にレイズフェルドの表情が青ざめる。


 「ではレイズフェルドさん、改めて私とお話しをしましょうか」


 シャスカがグイとレイズフェルドに近付きそう言った。そのとたん部屋の中に甘い香でも焚いたかのような濃密な空気が漂った。


 「あなたは職務上の権限を利用し私腹を肥やしていますね?それは大きな罪です。あなたは罪を犯しています」


 ゆっくりとシャスカが言う。


 「そっ、それは違う」


 「更にあなたは国の機関で働きながら国ではないどこかの便宜を図り不正行為を働いています」


 レイズフェルドの抗弁に聞く耳持たずシャスカは話を続ける。

 

 「あなたの犯した罪は重くあなたにのしかかります。国はこれを見逃さず必ずあなたのもとに手が伸びる事でしょう。あなたは罪に問われ多くの人に迷惑をかける事になるでしょう。それにはあなたを大切に思う人、あなたが大切に思う人も含まれる事でしょう」


 「ううっ、どうすればいいんだ。俺はとんでもない事をしてしまった。どうすれば、いいんだ、どうすればいいんだ」


 レイズフェルドはうつむいて独り言のように繰り返した。

 なるほどね、こうやって相手をコントロールするのがシャスカの術なのか。こりゃ恐ろしいよ、ただでさえ相手はやましさやうしろめたさを刺激され術じゃなくても告白したくなってしまうだろうに、そこへもって更に術でブーストかけるんだからなあ。いじめっ子たちはご愁傷様としか言いようがない。ソロは嫌な目にあっちまったが、もういじめっ子たちからちょっかいをかけられる事はないだろうからな。勘弁したってくれや。ソロの奴は今度何かしらのフォローをしてやるか。


 「あなたがすべきことは既に決まっています。あなたにのしかかる罪を少しでも軽くするため、あなたを大切に思ってくれる人、そしてあなたが大切に思っている人を苦しめたくないならば、すべきことはひとつです」


 「なんだぁ?何をすれば……何をすれば…私は許されるんだ?」


 「あなたが便宜を図ったのはどこの誰なんです?」


 「アロンゾ…テッド・アロンゾ。スプレーン理事が直々に紹介して下さった…」


 「何者なんです?そのアロンゾという人物は?」


 「それは…それは…」


 レイズフェルドが言い淀む。


 「テッド・アロンゾ伯爵、バッグゼッド皇の重臣オッデンゲルン伯爵が最も信頼する人物で、貴族界で大きな影響力を持っています。貴族として特定の領地を治める事をせず無領地貴族のまま爵位を受けている事や、使用人をほとんど雇わずに大きな城で暮らしている事、何を収入源にしているのかはっきりしないのに生活が豊かな事などから怪しい噂の絶えない人物です。本人は宝石の傷を消す特殊な術式を編み出したためそれに伴い莫大な収入があるのだと語っているようですが、そのような術式があるなど聞いた事ありませんね」


 アルスちゃんが言いシャスカとムジーカが嫌な顔をした。まったく、いかがわしい人間はいかがわしい人間とつるむなあ。


 「んじゃ、早速そいつの城に行こうじゃないか。遠いのかアルスよ」


 「いえ、飛行で行けばすぐですよ」


 「よし!じゃあ行こう!」


 シエンちゃんが元気良く言う。


 「この人、どうする?」


 俺は身体を揺らしながらブツブツ呟いているレイズフェルドを指差して言う。


 「お前が決めるがよい」


 シエンちゃんがシャスカを見る。


 「私は、もういいです。言いたい事は言いました。後の事はお願いします」


 シャスカはアルスちゃんを見て頭を下げた。


 「はい、では行きましょうか」


 アルスちゃんは穏やかに言うと出入国管理局の部屋を出た。


 「あの、どうなりましたでしょうか?」


 部屋を出るとすぐに先ほどの男性が駆け寄って来る。


 「お手数おかけしました。わたしどもの用は済みましたので、後はお任せしますね」


 「わかりました。あの、彼はどうなったのでしょう?」


 男性は恐る恐る尋ねた。


 「無事ですよ。心を入れ替えたようですので隠し立てなくお話し頂ける事でしょう」


 「恐れ入ります、ご配慮に感謝します」


 「いえいえ、こちらのシャスカさんのご配慮ですのでよろしくお願いしますね」


 「わかりました、後ほどテンポラさんにはこちらからも感謝の一報を入れておきます」


 男性はシャスカにも丁寧に一礼した。


 「あ、いえ、そんな」


 シャスカは慌てた様子で手を振った。


 「ではよろしくどーぞー」


 アルスちゃんは穏やかなおばちゃんのような口調で言い一礼して建屋の出口に向かうので、俺も一礼してその後に続く。

 

 「よろしくどーぞー」


 「よろしくどーぞー」

 「よろしくどーぞー」


 シエンちゃんが真似をすると、どういう訳かムジーカとシャスカも同じ挨拶をした。別にマネせんでもいいのに。

 そんなこんなで我々は一路アロンゾ伯爵城へ向かう事となったのだった。

 怪しい噂が絶えないと言う領を持たない謎の伯爵。

 果たしてどんな人物なのか?


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