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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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謎の刺客って素敵やん

 そんなこんなで文化祭まであと二日に迫った日の部室に突然思ってもみなかった騒ぎが持ち込まれる。


 「ええーー!今になってどういう事だよ!」

 「訳を言ってよ訳を!」

 

 「うっ、だから、そのまんまっす。自分が居たら勝てる試合も勝てなくなるっすから、やっぱ、抜けた方がいいっすから」


 部員達に囲まれたソロが身体を振るわせて言う。

 なんでいきなりこんな事になったのか。いつものように部室に集まった俺たちだったが、突然ソロニックの奴がベリンボールチームを辞めると言い出したのだ。

 部員たちが怒ったりなだめたり、引き留めたりとわちゃわちゃする中ひたすら自分がいるとチームが負けてしまうの一点張りで辞める姿勢を崩さないソロニック。

 こりゃ、大人が入ってやるしかないかな。


 「ちょっといいかい?」


 俺は部員の輪に入る。


 「そんなにみんなでワイワイやっちゃあソロも喋りにくいだろう。なあ?ソロ?」


 俺は皆を制しゆっくりとした口調でソロに言う。

 

 「そ、そんな事ないっす」


 ソロは身体を振るわせて言い複数回首を振った。チームの連中とも仲良くなりいい感じだったのに、突然のこの変わりようはどうした事か。ソロをよく見ると瞼がピクピクと痙攣しており、首も小刻みに震えている。盛んに鼻をすすり時折咳払いもしている。風邪でも引いて体調が悪いってんなら話も分かるが、特にそう言う話は聞いていないし、発汗や顔の赤らみなどは見受けられない。

 こりゃ、あれか?強いストレスにさらされてその反動が行動に出ちゃってる口か。


 「俺たちは仲間だろ?仲間が困ってりゃあ一緒になって困るのが仲間ってもんだ。ソロだってそうだったろ?」


 「じっ、自分は、そんな事はないっす」


 「おい!そりゃどういう事だよっ!」


 「まあまあ」


 ソロの答えにいきり立つマーを俺はなだめる。


 「みんなには話せないような事なのか?」


 「そっ、そんな事はないっす。べっ、別にこれ以上、話す事なんてないだけっす」


 「オメー!何言ってんだよ!うちらの絆ってそんなもんだったんかよ!」


 かたくななソロの言葉にマーが大きな声を上げ、部員達も口々にそんな事ないよね?うちら仲間だよね?訳があるんだよね?と言う。


 「ホッ、ホントになんでもないっす!自分が居たら部のためにならないから辞めるんす。ホントにそれだけっす、キャプテンこれ受け取って下さいっす」


 ソロはカバンから一枚の紙を取り出しマーの前に突き出した。


 「退部届って!こんなもん受け取れっか!」


 マーはそう言って紙をひったくりビリビリに破り捨てた。


 「うっ、ま、また書いて持ってくるっす」


 「ちょ!待てよソロっ!」


 短く答えて席を立ち部室を出て行くソロに怒鳴るように言うマー。

 ソロは構わず部室の外に出てしまう。


 「なんなんだよ!信じらんねーよあいつ。こんなもんだったのかようちらって」


 マーはへたり込んで床を殴った。


 「みんな、ここで待っててくれ。俺とケイトでソロを尾行する。ケイトいいな?」

 

 ケイトは頷いて席を立つ。


 「ちょ、なんだよ?止めに行くならうちらも行くぜ!」


 マーが言い、みんなが頷く。


 「気配消せるかお前ら」


 部員一同は首を振る。


 「だったら素直に待ってろ。悪いようにはしないから」


 「ジミーさん」

 

 ケイトがトビラの前に立ち俺に声をかける。早くしないと見失うってんだろ?わかってるって。


 「じゃ、待ってろよ」


 俺は部員達に言い、ケイトと共に部室を出る。


 「あそこに」


 ケイトが木立の先を指差す。木々の間に人影が見え隠れする。まだギリギリ視認できる距離に居てくれたか。飛んで探す手間が省けたな。

 俺とケイトは気配を消して静かに飛んで空中からソロを追う。

 部室のあった場所から木々の間を抜け、人気のない校舎裏に行くソロ。

 

 「嫌な感じがします」


 「お前もか、俺もだよ」


 小さな声で言うケイトに俺も返す。

 人気のない校舎裏、急な翻意の原因とこれからソロは接触するのではないか。俺もケイトもそう考えていた。

 そしてその考えはすぐに確かなものとなる。

 校舎裏に集まった四人の女生徒がやって来たソロに声をかけたのだ。


 「おせーよ!」

 「いつまで待たせんだよ」

 「ちゃんと渡して来たんだろーね」


 「あいつら」


 ソロに向かってキツイ口調で話す女子三人に俺は見覚えがあった。


 「なんです?知り合いですか?」


 「ああ、いつだか試合帰りの列車の中でソロをイジメてた奴らだわ」


 「ああ、あの時の連中ですか」


 ケイトは納得する。こいつには軽く話しといて正解だったな。

 

 「どうします?」


 「後ろの奴も気になるし、少し様子を見よう」


 「ええ」


 俺とケイトは上空からソロたちを見張った。

 

 「ビリビリに破かれてしまいました」


 ソロが申し訳なさそうに言う。


 「ざっけんなよ!」

 「テメーいい加減な事してんなよ!」

 「こいつやっぱヤキ入れてやった方がいいんじゃないっすかシャスカさん?」


 「お待ちなさい、変に痣でもできたら面倒な事になります。それより、辞める意思はしっかり伝えたのでしょうね?」


 シャスカと呼ばれた女生徒は丁寧な口調でソロにそう尋ねた。


 「勿論っす」


 ソロは俯き短く答えた。


 「キチンと相手が納得する形で伝えましたか?」


 シャスカに言われてソロは黙り込む。


 「どうなんです?できたのですか?」


 「納得させるなんて無理っすよ」


 強く念を押されてソロは力なく答えた。


 「どうしてです?きちんと言いましたか?自分がいたらチームが負けるから辞める、と」


 「言ったっす!でも、そんなんじゃ納得してくれないっす!」


 ソロは大きな声でそう答えた。

 ケイトが俺を見る。

 ボチボチ出るか、俺は頷いた。


 「あなたの誠意が足りないから相手も納得してくれないんですよ?」


 「いや、それは違うな」


 諭すようなシャスカの言葉に俺はきっぱりと答えてやる。


 「誰です?」


 誰何するシャスカの前に降り立つ俺とケイト。


 「あ!こいつらドギューズの奴らです」

 「テメー!どこから現れやがった!」

 「テメーらには関係ないだろ!失せやがれ!」


 三人組はそれぞれそう言って俺とケイトを睨んだ。


 「君達ね、俺は良いけどこっちの方はあまり怒らせない方が良いと思うよ」


 俺がそう言ってケイトを見ると三人組は少し怯んだ。ケイトは文武両道品行方正で教師からの信頼厚く、男女問わず生徒達の人気も高い。さすがの三人組もケイトの影響力の強さは知ってるらしい。

 

 「何か勘違いをされているみたいですね?あなた、お名前は?」


 「クルースだよ」


 「わたくし、シャスカ・ムタヌーチと申します。以後お見知りおきを」


 シャスカはそう言って優雅に一礼した。


 「いったい何をどういう風に勘ちがいしてるって言うのかな?ムタヌーチさん」


 「あなた達は私達が彼女に無理矢理退部を迫っている様に見えたのかも知れませんが、それは勘違いだと申し上げているのです」


 「ほう、ではどういう事なのか説明して貰えるかな?」


 「いいでしょう、良く聞いて下さいよ…」


 シャスカは殊更ゆっくりと話し出す。なんだ?こちらをイラつかせようと言う魂胆か?

 

 「…つまり、こういう事です。彼女はチームに勝利をもたらしたい、だが彼女が居てはチームに勝利は訪れない。彼女が居てはチームに勝利はない、だが彼女はチームに勝利をもたらしたい…」


 薄い笑みを浮かべてまるで歌でも歌うかのように言うシャスカ。なんだ?なんか変だぞ?妙に周囲の空気がねっとりとした感じになり、背中がゾワゾワしてくる。

 三人組はうっとりしたような上気した表情になり、ソロは反対にどんどん沈んだ表情になっていく。

 目線を動かしてケイトを見るとケイトも頬を赤らめ陶酔したような表情になっている。


 「それでは仕方ありませんね、それでは仕方ありません」


 ケイトが呪文を唱えるように繰り返す。

 この感じ、覚えがあるぞ。

 アルスちゃんと出会ったあの時、アルスちゃんの術でこの世界に戻って来た女性の形をした存在が、俺に語りかけて来た時、ちょうどこんな風に周囲の空気が生暖かく重くなった。

 こいつは強力な精神感応の術か。

 クソッ!俺の十八番を奪いやがって。

 俺は急いで深く息を吸う。

 体内で魔力をらせんの軌道で回す。

 ぼんやりしていた意識が徐々にクリアーになっていく。

 シャスカはまだコロコロと鈴のような声で同じ事を繰り返している。

 かなりトランシーな空気が辺りに漂っている。

 気を抜くと一気にそっち側に持ってかれちまうぞ。

 俺は体内で循環させた魔力をゆっくりと丹田におろし、背骨を意識してそいつを喉元から眉間、頭頂部へと回していった。


 「チェストォォォォォォォォォォ!!!!」


 裂帛の気合と共に体内で練った魔力をそのまま属性も何も乗せずにシャスカに放つ。気を放つと言う奴だ。


 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の放った強烈な気に顔を歪ませたシャスカ。


 「ぐぅぅ、おのれ、おのれえ」


 シャスカは顔を押えると俺をぎろりと睨んだ。

 その目はまるで爬虫類のような冷たい瞳だった。

 つーか、マジで普通の人族の目じゃ無くね?

 

 「覚えておれよクルース!」


 シャスカはそう言うと背中から羽を生やし宙へ舞った。手で隠していた顔がすべて見える。その顔は人族のそれではなく、魔族のそれであった。

 

 「ちょ、待てよっ!」


 凄い速度で飛ぶシャスカを俺はゲイルで追いかけて声をかける。


 「むう!貴様っ!飛行術式が使えるのか!だが、空は我らの物!人族の物ではない!」


 そう言い速度を上げるシャスカの頭には二本の短い角が生えていた。

 グングンとスピードをアップするシャスカだったが、こっちだって飛行は鍛えられてる得意分野よ!

 俺はすさまじい速さで飛ぶシャスカを追いかける。

 だが、相手のスピードも半端じゃない。追いつけそうで追い付けない。

 それどころか少しずつ距離を空けられている。

 このままじゃあ見失っちまう。

 

 「空は誰の物だって?」


 先を飛ぶシャスカの背中の上に凄い速さで現れた誰かが乗っかった。

 シャスカの速度が落ち、みるみる間に距離が縮まる。


 「なっ!」


 「で?誰の物なんだ?じっくり聞かせて貰おうか?」


 驚くシャスカの上に直立不動で乗っかているのはなんとシエンちゃんであった。


 「クッ!!」


 シャスカは素早く回転しながら急上昇したり急降下したりするが、恐るべきことにシエンちゃんはまったく動じる事がない。


 「ひっ!ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


 シャスカは悲鳴を上げて錐もみ急降下をする。いや、急降下じゃないのかな、墜落なのかな。

 俺も急降下して追跡する。

 眼下には鬱蒼とした森。

 

 「おっとトモちゃん!ドロップインに気を付けろよ!」


 急降下するシャスカの背に乗ったシエンちゃんが迫る俺に声をかける。

 ドロップインっつーのはサーフィンで波に乗ってる人の前で波に乗る事でマナー違反行為とされている。

 そっか、シエンちゃんは波乗り気分でやっとるっつーわけか。


 「ぎゃぁぁぁぁ!離れて離れて!」


 シャスカが叫びデタラメな動きで降下を続ける。かなり混乱しているみたいだな。このままじゃ森の木に突っ込んじまうけど大丈夫かシエンちゃん。


 「見てろよトモちゃん!」


 シエンちゃんは俺の方を見て嬉しそうに言い、木に突っ込みそうになるシャスカを背中に乗ったままコントロールし大きな弧を描いて方向転換させた。


 「お!キレイなラウンドハウスカットバック!」


 「見たか!およよよよ?」


 ガッツポーズを決めたシエンちゃんだったがシャスカが項垂れ急に失速しだしたためバランスを崩す。


 「こやつ、気を失いおったか。仕方ない奴だ」


 シエンちゃんはそう言うとスイっと背中から降りシャスカをお姫様抱っこした。

 う~ん、おっとこまえ~。


 「その子、学園まで連れてきたいんだけどいいかな?」

 

 俺はシエンちゃんに尋ねる。

 

 「ああ、こいつトモちゃんとこの部員に変な術使って辞めさそうとしてたんだろ?なんでそんな事したのか聞きたいんだろ?」


 「さすがシエンちゃん、早耳だねえ」


 「ふふふん、そうだろそうだろ?ちなみに術かけられてた生徒達はアルスが面倒見とるから安心せい」


 「さっすがシエンちゃん!そつがない!」


 「にしししし、そんじゃ早いとこ帰っか」


 「そうしましょったらそうしましょ」


 俺は同意しお姫様抱っこしたまま凄い速さで飛ぶシエンちゃんについて行く。


 「待て待て待てーーーい!!シャスカをどこに連れてこうってんでい!」


 しばらく飛んでいると後方からいきなり声をかけられる。


 「我の腕の中でも空は自分の物って夢を見とるのかな?笑えるのうトモちゃん」


 シエンちゃんは後ろの声をまったく気にしないで俺にそんな事を言う。美しすぎると怖くなるんですか?

 

 「女は海?っていや、そうじゃなくって。なんか後ろ」


 「後ろ?」


 「待てーー!シャスカを放せっ!!」


 かなり後ろの方から声がしてくる。どうやらうちらの速度が速過ぎるようだ。

 シエンちゃんはクルリと後ろを振り返る。


 「おお、なんかついて来るな。しっし、ついて来ても飼ってやれんぞ」


 「いやそういうんじゃないと思うけど、後ろ向いたままじゃ危ないよ」


 後ろ向きのまま飛ぶシエンちゃんに俺は言う。よくこの速度で後ろ向きに飛べるなあ。

 

 「なんか言っとるな。一緒に来たいのかな?困った奴だな、このまま学園までついて来られてもなんだしな」


 シエンちゃんはそう言うと速度を落とした。


 「…てってっ!待てってっ!はあ、はあ、ぜえぜえ」


 後ろからついて来た奴の姿が大きくなってくる。ぜえぜえ言いながら近付いて来たのはシャスカと同じ魔族の男だった。

 

 「なんだお前。こいつの仲間か?」


 シエンちゃんがお姫様抱っこしてるシャスカを軽く持ち上げ言う。


 「仲間仲間、ヒイヒイフーフー。ちょっと待て、ゼエゼエ」


 追いかけて来た男は空中に浮かびながら息を整えている。


 「もういいか?」


 シエンちゃんに聞かれた魔族の男は黙って手をスッと出した。


 「待てってか。まったくだらしない奴め」


 「ふぅふぅふひぃーーーー。よし!シャスカを放せ!」


 魔族の男は息を整えビシッと言った。


 「そりゃ構わんが、今放すと落っこちるぞ?」


 シエンちゃんが片手を放してそう言った。


 「わっ!よせっ!しっかり持て!」

 

 「放せと言ったり持てと言ったりわからん男だな」


 「くそっ!まずは地面に降りるんだ!話はそれからだ!」


 魔族の男はシエンちゃんを指差してそう言った。


 「指差すなっちゅーの」


 シエンちゃんは肩をすくめて着陸する。

 下は街道の真ん中、道と後は草原があるだけだった。


 「で?これからどうするんだ?」


 「シャスカを渡せ」


 「そりゃ別に構わんがな。その前にひとつ聞かせて貰いたい事がある」


 「なんだっ!とっとと言え!」


 魔族の男は大きな声で言った。言わせて貰えるのかよ。どうもこの男、憎めないなあ。


 「じゃあ聞くけどな、この女はうちの学園で悪さをしとったんだ、な?トモちゃん?」


 「ああ、そうなんだよ。うちの生徒に術をかけてさ、本人の意思に反する事をさせようとしたんだよ。なぜそんな事をするのか聞かせて貰わないとこっちとしても困っちゃうんだよな」


 「そう言う事だ、さあ、話せ。さっさと話せすぐ話せほれどした?ん?」


 「んぐっ、そんなもんなっ!そんなもんっ!」


 「待ってムジーカ、そこからは私が話す。ごめんなさい、もう逃げないから降ろして頂けるかしら」


魔族の男が激昂するとシエンちゃんの腕の中にいたシャスカが声を上げた。


 「おうよ」


 男らしい返事に反しフワッと壊れ物を扱うようにシャスカを手放すシエンちゃん。くぅーー!!カッコよすぎる!しびれちゃう!

 

 「ありがとうございます」


 シャスカは丁寧にそう言った。気のせいかな?心なしかシャスカのシエンちゃんを見る目が熱っぽいように思えるのだが……

 

 「あなた、お名前は?」


 シャスカがシエンちゃんに尋ねる。


 「シエンだ」


 「シエンさん……」


 シャスカはそう言って押し黙る。


 「なんだ?」


 「あなたに抱きかかえられてはっきりわかりました。あなたは良いお人です」


 「その心は?」


 シエンちゃんが面白そうに言う。この言い回しは俺が良く使うのでそのマネなんだろうけど、こっちの人に通じるかなあ?


 「え?心ですか?」


 やっぱ通じなかったよ。


 「真意はと聞いてるんですよ」


 俺はフォローをする。


 「ああ、そうですね。突然言われても困りますよね。それは私の種族に関係しているのです」


 種族?背中に羽、それも鳥系でなくコウモリ系の羽。そして頭についているのは牛のような角。さらには尻尾だ、この特徴から考えるに前世の知識で言えば悪魔なんだが、こっちの世界には神に敵対する存在は邪神と言われており悪魔のようなキャラクターは認識されていない。

 こっちの世界で悪魔と言うと悪い魔族、つまり人族で言う所の悪人という認識である。

 なので悪魔族なんてのは存在しない。いればカッコよいんだけどなあ。悪魔の力を身に着けたかったよ、そうすれば噂話をいち早く知る能力が手に入ったかも知れないのに。いや待てよ?てことはこの世界の悪魔はストームなのか??

 

 「サキュバス族か」


 俺がアホな事を考えてる間にシエンちゃんが答えを出した。


 「その通りです。ご納得いただけましたようでなによりです」


 「え?え?え?サキュバス族だとなんなの?どゆこと?」


 「どうやらクルースさんはサキュバス族にお詳しくない様子ですね。やはり、騙されていたのは私だったようです。申し訳ありませんでした」


 「なんでシャスカが謝るんだよ!」


 「お黙りなさい!」


 魔族の男が口を尖らせるがシャスカが一喝した。

 

 「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。一からご説明差し上げます……」


 シャスカさんは丁寧に前置きして事情を説明してくれた。

 まず、先ほどのサキュバス族について。シャスカの種族はサキュバス族であり種族の特徴として人心のコントロール術に長けているというものがある。そしてその術を極める上で身につく能力のひとつに接触した相手の質がある程度知れてしまうというものがあるのだと言う。

 この能力が今回のポイントなのだ。

 まずシャスカがなぜいじめっ子を操りソロニックに退部届を出させたのかという話になる。

 結果から言えば彼女は騙されていたのだ。

 シエンちゃんと接触した事で彼女の心根の良い性質と強大な力を身を持って知り、そんな人物が味方をする相手が言われていたような悪人ではないとすぐに結論づける事ができたのだ。

 さて、それではその本題となる騙された内容なのだが。


 「長くなりそうだな。だったら学園の食堂で茶でも飲みながらどうだ?なにか都合でもあるか?」


 そこまで説明して一息ついたシャスカにシエンちゃんが言う。

 

 「よろしいのですか?私はシエンさんのおっしゃる通り、クルースさんを害そうとしました」


 「別に害って程の事でもない。女生徒達もアルスがついとるし、まあ、大きな問題はなかろう。思春期の子供にありがちなトラブルに過ぎん」


 シエンちゃんはなんのてらいもなくそう言った。特に恩を着せるでも責めるでもなくなく本当にただ事実を告げているように聞こえるから凄い。こういうのはやっぱりその人の人柄や経験がにじみ出ちゃうからな、シエンちゃんじゃなくちゃ醸し出せないよ。


 「では、お言葉に甘えて」


 「シャスカ!いくらなんでもそりゃねえ!敵地ど真ん中だぞ!」


 「私の話を聞いていなかったのですかムジーカ?私の見立てを疑うのですか?それは私を信じないのと同義ですよ」


 「お前を疑った事などねえ!」


 ムジーカと呼ばれた魔族の男は強く否定する。


 「ならば彼らも信じなさい」


 「それじゃあ、あの人が嘘をついてたってシャスカはそう言うのか?」


 「私はそう考えます」


 「だったら大変な事じゃねーか!急いで帰って長老にも伝えないと!」


 「焦ってはなりません。まだすべての状況が判明したわけではないのです、ですからここはシエンさんに全てを話し慎重に考えねばならないのです。短慮な行動は慎まねばなりませんよムジーカ」


 「……わかったよシャスカ。俺はムジーカ、シャスカとは幼馴染で大事な存在だ。だから、一緒させて貰う」


 ムジーカは真面目な顔をして俺とシエンちゃんにそう言い一礼した。おおー、大事な存在ときたか!真正面からそんな事を言えるってな、なかなかたいしたやっちゃで。

 チラリとシャスカを見るとこちらも照れる事もなく平然とした顔をしているのは恐れ入る。

 さて、このふたりの事情ってのはなんなのか、そしてムジーカが言っていたあの人とは?全ての疑問は学園に帰ってから解ける事になる。


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