さらばリゾート地よって素敵やん
「さてと、じゃあ帰りますか」
「いいんですか?もうちょっと追い込みかけておいた方が良くないですか?」
あっさりと帰ろうとするフルーアさんに俺は拍子抜けしてシュタルクバーグを見る。
「ひっ!こらえてくれえ、こらえてくれえ」
拝むように言うシュタルクバーグ。
「もう、いいでしょう。これで十分でしょう」
「十分じゃないっすよアニキ」
シュタルクバーグを見たフルーアさんが部屋から出て行こうとしたその時、イワーマが入って来て真面目な表情でそう言った。
「なんだイワーマ。何が十分じゃないんだ?」
「アニキとボスのやり取りは全て外で聞かせて貰いました。残ったもんとも相談しやしてアニキにボスになって貰おうという事に満場一致で決まりましたので報告させて頂きやす」
イワーマは神妙な顔でそう言った。
「いやお前、満場一致と言われてもだな、第一ゴルトキントファミリーと名がつくからにはやはりゴルトキントを立てないと筋が通るまいよ」
「だったら、フルーアファミリーで再出発でも我々は構いませんよ。今回の件じゃあアニキたちにのされた連中もさすがにシュタルクバーグにゃあついて行けねえって言ってますよ。なんせ、自分の女房だけじゃ飽き足らず自分の命惜しさに幹部の命まで差し出すなんて言いましたからね奴は。これにはキナーですら呆れてましたよ」
「キナーもか」
「ええ、もう、何でもいいと言って出てっちまいましたよ。キナーみたいに呆れて出て行っちまった奴らもいますが、ほとんどの奴は残ってます。そして、今、この建物に残ってる連中はみんなアニキのファミリーに入る気でいるんすよ。アニキ、頼みます、この通り」
イワーマが頭を下げると部屋の外に居る連中も揃って頭を下げた。
「ふぅ~、どうしたもんですかね、クルースさん?」
「いいんじゃないですか?フルーアさんなら、もし大手の組織が戻って来ても上手い事付き合えるでしょうし、戻って来なくてもこの温泉地はまだまだ栄えるでしょうから、そうなれば誰かしらがちょっかいをかけてくるでしょう?そんな時、部下の命で自分の安全を買おうとするような者がボスでいるより、裏切りの汚さを知りぬきその上で筋を通して生きる男がボスでいる方が部下たちもこの街も安心して生活できるでしょうしね」
「その通りだ!」
「どこまでもついて行きます!」
「お願いしますアニキ!」
部屋の外の男達が俺の言葉に続いて口々にそう言った。
「ね?ここはひとつ、フルーアファミリーの立ち上げと行きましょうよ」
「頼んますよアニキ」
俺とイワーマはフルーアさんに言う。
「しかし、こんな立派な事務所は構えられないぞ」
「構わないっすよ、ピーウィーの奴がしのぎでしくじって寝かしたままの倉庫があるって言ってやしたから、まずはそこから始めりゃあいいっすよ。結局、シュタルクバーグのファミリーに残りたいって野郎は誰もいなくなっちまったんすからね。しのぎもそのまま残ったもんで回して行きますし、すぐにここに負けないような事務所が建てられますよ!」
「そうだそうだ!」
「アニキならもっとデカイとこすぐ移れるさ!」
「まあ、事務所なんてな小さくていいんだけどな」
「アニキに辛い思いは絶対させないっす!」
部下たちの言葉に答えるフルーアさんにイワーマが力強く言いそれぞれ階段を降りていく。
「それじゃあ、シュタルクバーグさん。今回はうちらの勝ちって事で!」
俺はへたり込んでいるシュタルクバーグにそう言って部屋を出る。くぅ~!今回は是非言ってみたいセリフが沢山言えて楽しい事この上なし!
「クルースさん、随分と世話になっちまったなあ」
階段を降り閑散とした闇カジノを出た時、ふいにフルーアさんが俺にそう声をかけてきた。
「いやいや、ついて来ただけで特に何も」
俺は笑って手を振る。実際、たいしたことはしちゃあいないもんな。ただ、言いたい事を言ってただけだもの。
「そんなこたぁねーよ、実際、随分助かったさ」
そう言ってフルーアさんは右手を出した。
「そう言ってくれるなら、俺も嬉しいですよ」
そう答えて俺は固く握手を交わす。
「これから、どうするんだい?よけりゃ、うちでやってかないかい?クルースさんなら、きっとこの世界でも名を馳せるようになるぜ?」
「いやいやいやいや、自分なんてビビりっすからとてもとても。ホテルに仲間が待ってますんで戻って温泉につかりますよ」
「本当に学生さんなんだなあクルースさんは。驚きだな」
フルーアさんは呆れたような驚いたような顔をして俺を見た。
「フルーアさんはどうするんです?一旦、荷物を取りに戻りますか?」
「いや、とりあえずこいつらとその倉庫とやらに行ってきますよ。荷物ってったって大したもんもないですからね、ゆっくり取りに戻りますよ」
「そうですか、ではここでお別れですね」
「この恩は忘れないよクルースさん。困った事があったらいつでも自分を尋ねて来てくれな」
「わかりました、ありがとうございます。楽しい一日でしたよフルーアさん」
俺は笑って答える。
「楽しかった、ですか。やっぱり学生させとくにゃあ惜しいなあクルースさんは」
笑って手を上げるフルーアさん。
俺も笑ってそれに応える。
そうして俺とフルーアさんはお互い違う道を進んで行くのだった。
ううむ、生で実録やくざ映画観たようで得しちゃったなあ。俺は心持ち肩で風切って歩きながらリミデホテルへと戻ったのだった。
「おかえりなさいませ」
受付の人に言われた俺は挨拶を返してから部屋番号を言い鍵を受け取る。
帰ってきたらまずはウェルカムドリンクだ。
ロビーに併設されたラウンジにてドリンクを物色する。
ドリンクはフルーツ系とミルクとお茶系が置かれていて少し迷ったが、ここは濃いめのミルク系でグッといきたいな。
俺はグラスを手に取りバナナジュースとピーチジュース、そしてミルクをミックスする。
風呂上がりにグッとやるならフルーツミルクだよな。まあ、俺は風呂上りじゃあないけども。
「ちょっとクルースさん、それはどういう飲み方なんですか」
「ごふっ」
ぐっと飲んだ瞬間に声をかけられて俺は思わずむせてしまう。
「すいません、急にお声掛けして」
「ごふっごふっ、いえいえ、大丈夫です」
咳をして喉の具合を整えながら振り返るとそこに居たのは、リミデホテルのオーナー、シルビア・ギャルさんその人であった。
「今のお飲み物は?」
俺が持ったグラスの中身をじっと見つめるギャルさん。
「これは、フルーツミルクです。うちの地元じゃ風呂上がりに好んで飲まれていたもので、つい、すいませんです」
俺は恐縮して言う。やっぱ、用意された物を混ぜちまうなんて行儀悪いよな。
「いえいえいえいえ、何をおっしゃいます!クルースさんが好むならば売れる事間違いなしですよ!どれどれ、私もひとつ、えーと、どれとどれをお混ぜになられましたか?」
お混ぜにって、そんなお上品に言われても困るけど。
「自分はバナナ多めで後はピーチとミルクですね」
「ふむふむ」
言われた通りにグラスに注ぎストローでかき混ぜてから勢いよく飲むギャルさん。
いい飲みっぷりだ。フルーツミルクはこうじゃなくっちゃね。
「ンマーーイ!これ、イケますねえ」
「そりゃよござんした」
「他には何か面白い飲み物はございませんか?」
グラスを持ったギャルさんが俺にがぶり寄る。
ううっ、美人マダムの圧が凄い。
「他にっすか、えーと…」
俺はのけぞりながら頭をひねる。
ウェルカムドリンクであったら嬉しいものと言えば…。
「あっ!ヨーグルトドリンクなんかあったらいいなあー」
「ヨーグルトドリンクですか?それはどうやって作るんです?」
「簡単ですよ、ヨーグルトにミルクと砂糖を混ぜるだけです」
「それだけですか?」
ギャルさんが目を丸くして尋ねる。
「ええ。ヨーグルトは多めの方がコクがあっていいですが、その辺はお好みで。後はしっかり混ぜる事ですかね、混ざり切ってないと喉越しがイマイチになっちゃうんで」
俺は答えた。ダマが残ってるヨーグルトドリンクはなんか妙に気持ち悪いものがあるからなあ。まあ、個人的な感想ですが。
「ほうほう、それはいいですねえ。他には何か」
「え?いやあ、他にって、ああ、そうだ…」
俺は勝手な個人的な好みをギャルさんに話す。まあ、今までだって全部個人的好みに過ぎないけど、こっからはマジのガチで個人的な好みだ。
このホテルはスパリゾートだ。癒しとリラクゼーションのサービスから遊べる温泉まで様々な設備があるが、本当に俺の勝手なイメージとしてだが、南国風な印象を抱いていたのだ。
マッサージやエステなんかは前世で言うところのアジアンエスニックな雰囲気を、そして遊べる温泉施設からはハワイアンな雰囲気を勝手ながら抱いていたのだ。
そうして来て見ると、抱いていた印象とまでは行かないが明るく温かい雰囲気はどこか南国風味を感じさせるものがあり、俺は内心これこれと頷いていたのだが南国と言えばトロピカルなフルーツでそれが見当たらないのが少しばかり残念ではあったのだ。
「…熱帯特有のフルーツを召し上がった事はありますか?」
「ええ、幾らかありますけど」
「私の地元では温泉の熱を利用してそうしたフルーツの栽培が行われておりましてね。暖かい土地特有のフルーツと言うのは色は鮮やか、香りも味も濃厚で好きな人にはたまらないものがありましてねえ。かく言う私も大好きでしてね。特にその手のフルーツはジュースにしてもとても美味でしてねえ。私は特にグァバのジュースには目がありませんでねえ」
俺は遠い目をする。グァバジュースはマジで美味いからなあ、エルスフィアに行った時にしこたま食べたけど、こっちに来てからはご無沙汰だったからねえ。
「なるほどなるほど、温泉熱の再利用についてはわたくしどもも以前から見当をしてはいたのですが、具体的にどう使うかについては良い意見がなかなか出ずに宙ぶらりんになっていたんですよ。バナナの仕入れ先に相談して早速自家栽培に挑戦したいと思います」
「栽培技術をただ教えてくれといってもあれでしょうから、しばらくは果実の購入もしては如何ですか?まずは購入した果実を販売して良さを周知すれば実際に自家栽培が軌道に乗った時にも売れ行きが計算出来ていいんじゃないですか?」
「ふうむ、確かにその方が先方も喜ぶでしょうね。クルースさんの一押しフルーツ、グァバが手ごろな値段なら良いのですけど」
「グァバでなくとも他にも魅力的なフルーツは沢山ありますからね」
俺は魅力的に感じるトロピカルフルーツについて幾らか話をした。キウイフルーツなんかは前世で俺が住んでいたような地域でも栽培が行われていたし実際に栽培している人が言うには病害虫に強くて手間もかからないって話しだったから最初に導入するのには適しているかもしれない。
そんな話をしてから俺は盛んに礼を言うギャルさんと別れ自分の部屋に戻った。
今度来るときは温泉饅頭とトロピカルフルーツが同時に楽しめる場所になっているかもしれないなあ。
「あ!ジミっちどこ行ってたん?全然見かけんかったけどー?」
「部屋に籠ってたんでしょーどーせー」
「いやエッチな店に行ってたに違いない。ジミはそういう奴」
「えっ!ジミー氏まじっすか?やらしーっす!見損なったっす」
うわっ、部屋に帰ろうとした所をめんどくさい連中に見つかってしまった。
みっちょんとベーヤンはまだしも、シーボーは何言っとるんだ。んでもってソロは真に受けんな。
「いや、男ならそれぐらい普通だろ。むしろジミーは女っけねーから心配してたんだ、女性恐怖症なのかってな。これで安心したよ」
「え?ジミーちゃんは女性恐怖症じゃないでしょ~」
「だよね~、だってたまにシーちゃんの事エッチな目で見てるもんねえ」
マーに続いてメイとジンジャーが言う。
「うっ、マジでキモイ」
シーボーが両手で胸を隠して言う。
「バカっ!見てねーっつーの!そもそも、そんな店言ってねーし!」
俺は強めに抗議する。妙な噂を立てられちゃあ今後、女子ベリンボールチームの雑用係をやりにくくなるわい。
ん?つーか、別にそれも構わないか?別に好きでやっとるわけでもねーし。
なんかあちこちで色々と巻き込まれるからなあ、雑用係やってると。
だが、それもハンドラーの余波だしな。
ジェニファー・スプレーンを筆頭に今後も何かと絡んできそうな連中だし、こっちもそれなりに情報を仕入れておければ損はない。
結局やっぱり雑用係を続けた方が良いのか俺は。
なんとなくトホホな気分になる。
「ジミーさん、また何かして来ましたね?一緒にいた男性、普通の人ではありませんでしたよね?別館で見つかった負傷者と関係あるんじゃありませんか?」
ケイトが俺を見て言う。うっ、どこかで見られたか、目ざとい奴め。
「え?何々~?気になるんですけど~」
「つーかやっぱそっち系の店行ったんじゃないん?」
みっちょんとベーヤンが俺を見る。
「だから違うって。話すと長くなるんだけども」
「別に構わないっす、自分達全部の施設二周しましたからね」
「お腹いっぱい」
「お肌ツヤツヤー」
ソロに続いてメイとジンジャーが言う。おいおい、全部の施設って結構な量あったぞ?まったく大したバイタリティーだぜ、若いっていいね。
「ほんじゃあ、ラウンジで何か飲みながらでいいか?」
「いっすいっす」
「聞こうじゃないの聞こうじゃないの」
「正直に話すべし」
「どーせエッチな話しに決まってる」
部員共は楽しそうに言ってラウンジに向かった。にしてもシーボーはしつこいねどうも。そんなに聞きたいなら前世で合コン鉄板ネタだったちょっとエッチなクイズでも出したろか?なんてやらないけどね、そんなんやったら、ずーっとエロ大王扱いされちまうからな。
俺はみんなと一緒にラウンジに戻り、さっぱり目のお茶を飲みながらフルーアさんとの一件を話した。
「結局行ってるし」
ポールダンス店での事を捕まえてシーボーが勝ち誇ったような顔をする。
「だからそれは情報収集だって言ったろ?実際、俺はドギマギしちまってなんもできんかったし」
「嘘つけ~」
ベーヤンが俺をおちょくる。
「いや、ジミならありえる。こいつヘタレだから」
「ぐう、その通りだけになんも言えん」
辛辣な事を言うシーボーに俺は答える。
「まあまあ、それよかよう。ジミっちちょっとトラブル巻き込まれ過ぎくね?練習試合行くといっつも衛兵と絡んでるし」
マーが俺を見て言う。
「今回は衛兵絡んでないけどな」
「にしても不自然じゃね?」
「自分もそう思うっす」
ベーヤンとソロが俺を見る。
「そう言われてもなあ、遭っちまうもんは仕方なくね?」
「まあ、実際、街が騒がしくなってるってのは小耳に挟むよね」
俺のリアクションにジンジャーがフォローを入れてくれる。
「ああ、最近良く聞くね。なんだかおっきいとこが姿隠しちゃって、よくわかんない連中が仕切りだしたって」
メイが言い部員たちが、さすが姉さん大人の事情に詳しい!と妙な感心をする。
「そうなんだよ。今回の件もその件と無関係じゃないしな」
「ジミが言うと嘘くさいけど、姉さんたちが言うならそうに違いない」
「なんでだよ!」
俺は結構な速さでシーボーにツッコんでおく。部員たちが笑う。
ケイトが俺を見てうんうんと何か納得したように頷く。
きっと、風呂場で倒れていた男の謎と俺の行動の謎が解けて納得してるんだろう。
「ま、こう見えてジミーさんは冒険者稼業もやってますので、そうした荒事も素人ではないので良いですけど、皆さんは妙な事に巻き込まれないよう気を付けて下さいね」
「おう!本番も近いし気を引き締めて行こう!」
ケイトに続いてマーが言い部員たちはエイエイオーと手を上げた。
うんうん良い心がけだが、服装が思い切りリゾート仕様なのがズッコケるな。
まあ、彼女達にとっては良い骨休めになってくれたようで結果としてはオッケーでしょうよ。




