実録任侠路線って素敵やん
俺とフルーアさんはゴルトキントファミリーの事務所にてボスと対峙していた。
ボスのシュタルクバーグは社長室のような立派な部屋のこれまた社長の机のような高そうな机にちょこんと座り、唾を飛ばして怒鳴っていた。
「バンカー!レッグ!どこにいるんだ!なんで誰も来ないんだ!ゴースはどうした!誰でもいい!早く!早く来い!」
「今名前を上げた奴はみんな下で寝てるよ。小賢しい風見鶏の名前ばかりあげて、本当にあんたらしいよシュタルクバーグさん。もっと頼りにしなきゃいけねえ連中がいるんじゃないのか?そういう連中に冷や飯食わしてきたから、こんな事になってるって思わないのかい?」
「フルーアちゃん、あんたなんでこんな親不孝するの?この人はいつもフルーアちゃんの事、気にしてたのよ?あいつは元気にやってるだろうか、早く元気な姿が見たいって」
「そ、そうだぞフルーア!ワシはいつもお前の事ばかり考えていたんだぞ!」
立派なソファーに腰かけていたケバケバしい化粧をしたおばさんがキンキンした声でそう言うと、シュタルクバーグが必死の形相でそれに続いた。
「それで殺し屋を差し向けて下さったんですか?早く物言わぬ死体になった姿が早く見たい、の間違いじゃあないんですか?おかみさん」
フルーアさんは冷たい声で言い少し距離を詰めた。
「な、なんて事を言うのフルーアちゃん!うちの人があんたに殺し屋なんて差し向ける訳ないじゃないの!」
「そうだぞフルーア!ワシはいつでもお前の事を考えて」
「その辺で止めにして下さいよシュタルクバーグさん。自分に放った殺し屋はまだ生きとりますんでね、嘘はやめて下さいよ。元のシマを追われて隅っこで細々としのいでたのが、ある日突然シマウチを取り仕切る組織がバックレちまった。降って涌いた幸運にあんたは一も二もなく乗っかった。そんな矢先に自分の出所だ、そりゃあ慌てたでしょう」
「まて、ありゃあ誤解で」
「誤解で殺されたんじゃたまんねーよ」
「だから、あれは仕方がなかったんだ。そうでもしねーと、この街は守れなかったから」
「実際、あんた守りきれなかったでしょう」
フルーアさんが冷たい声で言うとシュタルクバーグは黙りこくった。
「でもね、自分はもうそんな事はどうでも良かったんですよ。もう、組織に関わる気はなかったんですよ」
「だっ、だったらなんで帰って来たんだよ?それも、わざわざ高級ホテルに泊まったりしてよう。そんなもん、これから戦争仕掛けようって気マンマンだとしか思えねえじゃねーかよう」
シュタルクバーグは何かを振り絞るようにそう言った。恨み節のような懇願のような、何とも言えない言葉だった。
「そりゃあ、あんたにやましい所があるからそう見えたんだろうよ。俺はただ、最後に懐かしい土地でゆっくり湯につかりたかっただけなのに、なんで静かに行かせてくれないかな」
「そんなもん最初からそう話を通してくれりゃあ、なにもこっちだっておめえのタマまで取ろうなんてしやしなかったのに」
「良く言うぜ。話通したって信用しなかろうさ、その臆病っぷりじゃあな。結局、こうならないと終わらなかったんだよな」
フルーアさんはそう言ってゆっくりと術式武器をシュタルクバーグへ向けた。
「ひっ、ひぃぃぃぃ!勘弁、勘弁してくれ!もう二度とおめえの命は狙わねえ!金だったら幾らでもやる!なんなら女房もくれてやるから!」
シュタルクバーグは慌てた様子で机を掻きまわし札を机に出すやいなや、女房の後ろに隠れた。
「ぎゃあ!なにすんのさ!あんたもファミリーのボスなら潔く命差し出しなよっ!」
「バカっ!なに言っとる!ワシが死んだら誰がファミリーの面倒を見るんだ!」
「あたしが見るよ!だからあんたは死んで頂戴!」
「じょっ、冗談じゃねえ!」
シュタルクバーグとその女房は互いの後ろに隠れようと必死になっていた。
「そんなもんはいらねえんだよシュタルクバーグさん」
フルーアさんが冷たい声で言う。
「だっ、だったら何を、あっ!そ、そうだ!あの時におめえを売る事に賛成した幹部連中!そいつらの命をくれてやる!それでどうだ?な?ワシなんてほっておいても老い先長くはない、そんなおいぼれの命じゃ軽すぎるだろう?やっぱり、おめえの務めとトントンにするにゃあ、イキの良い連中の命じゃなきゃあ目方が合わねえ。なっ?そうは思わねえか?な?」
「シュタルクバーグさん、あんたとことん腐っとるなあ」
フルーアさんは術式武器をゆっくりと動かしシュタルクバーグの額に向けた。
「ひぃ!ひぃぃぃぃぃっ!こらえてくれや!こらえてくれ!なっ?フルーアちゃんよう?な?な?」
大袈裟に後ろにひっくり返り小便を漏らすシュタルクバーグ。
「ふぅぅぅぅぅぅ、自分はなんでこんな男に一生を捧げたんでしょうなあ」
「まだまだ、人生これからですよフルーアさん」
大きくため息をついて俺の方を向きそう言うフルーアさんに俺はそう返した。
「はたしてそうでしょうか。自分にまだ未来があるのでしょうか」
フルーアさんは気が抜けたような目で俺を見た。
「当ったり前じゃないっすか!人生まだまだこ」
そこまで言いかけた時、急に殺気がこちらに向けられた。
シュタルクバーグがこちらに術式武器を向けているのが目に入る。
俺はフルーアさんに身体をかぶせるようにして倒れ込みながらシュタルクバーグへ向けて空雷弾を連射する。
『ガツガツガツ!』
「ぐあっ!」
派手な音がして俺たちが立っていた後ろの壁に鉄の矢が三本刺さり、同時に上半身に空雷弾を喰らったシュタルクバーグが叫び声を上げてひっくり返る。
「ク、クルースさん」
倒れたフルーアさんが俺を見る。
「大丈夫です、当たってませんから。それより、フルーアさんは?」
「自分も大丈夫ですが」
俺たちは起きてシュタルクバーグを見る。
「ぎゃああ、痛い痛い痛い!早く、医者をっ!医者を呼んでくれええ!」
みっともなくわめいて地面を転がるシュタルクバーグ。
俺はフルーアさんを見て肩をすくめるがフルーアさんはジッとシュタルクバーグを見続けている。
「クソがっ!!」
わめいて転がっていたシュタルクバーグが地面に落ちていた術式武器を手に取り叫ぶ。
それを見ていたフルーアさんは冷静にシュタルクバーグの武器を持った腕に向かって自分の術式武器を放った。
拳大の氷塊がシュタルクバーグの手首に当たって鈍い音を立てる。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁ!いってぇぇぇぇぇ!死ぬ!死んじまうぅぅぅぅぅ!」
明後日の方に向いた手首を押え転げまわるシュタルクバーグ。
フルーアさんは汚いものでも見るような嫌な顔をしてそれを見ている。
これはチャンス!
俺はツカツカとシュタルクバーグに歩み寄り、転がった術式武器を遠くに蹴り飛ばす。そして、シュタルクバーグに顔を近づけてこう言うのだった。
「シュタルクバーグさん、魔力はまだ残っとるがよう……」
決まったね。決まり過ぎたねこりゃあ。
シュタルクバーグはキョトンとした顔をして俺を見返す。
「戦いとはむなしいものだ、まず最初に若い命が散って行く。こうして積み重なった若者の死はビーバルビーバルギャングの抗争をより激しく燃やして行くのであった」
「何を言ってるんですクルースさん、そうなったら困りますよ」
俺のエンディングナレーションにフルーアさんの物言いがつく。
「おっと失礼、こうしてビーバルビーバルギャングの抗争は幕を閉じた。だが、暴力そのものは…」
「クルースさん、その辺で」
「んぐっ、失礼」
ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。
でも、やっぱり最後は渋いナレーションでビシッと締めたかったなあ。




