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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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1187/1230

温泉街死闘編って素敵やん

 ここ最近のアンダーグラウンド事情。

 それはハンドラーと名乗る世界征服を狙う悪の組織がかなり派手な動きをした事で国が動く事態になり、陰に身を潜めた事に端を発する。

それに伴って大手の暴力組織、特にアエシュマや人身売買を主な稼ぎにしていた組織が一斉に姿を隠してしまい街の至る所で彼らの放置していった大量のアエシュマや違法物が見つかる始末。

更に大手の暴力組織が機能しなくなったため、それまで組織立った動きをしなかった半グレ達が大手を振って動き出しアンダーグラウンド界隈は混沌とし始めている事。

 ハンドラーの名前は伏せて俺はそんな事をフルーアさんに話して聞かせたのだった。


 「…つまり、シュタルクバーグも身を潜めている可能性が高いと?」


 フルーアさんは俺に尋ねる。


 「う~ん、どうでしょうね。さっきの奴にフルーアさんを襲わせたのはシュタルクバーグ以外に考えられないですか?」


 「そのくらいしか思いつかないですね。奴は非常に憶病な性格でしたから、自分が外に出た事を知り復讐すると考えて先手を打ったとしか考えられないですね、今のところは」


 「ふうむ、ゴルトキントファミリーの行く末についてフルーアさんは何かご存知ですか?」


 「いや、そっちの世界の汚さはもう十分味わいましたからもう二度と関わり合いを持ちたくないと思い、中に居る時もそっち方面の人間とはなるべく関わらず、そっち方面の話題にも耳を塞いでおりましたので詳しくは」


 「そうですか。ではひとまずゴルトキントファミリーの現状について探りを入れて見ますか。フルーアさんはここに居て下さい。自分が街に出て情報を集めてきますから」


 俺はそう言って席を立つ。


 「いや、そんな訳にはいかない。君が動くなら自分も共に行く」


 「う~ん、どうしてもですか?」


 「ああ」


 短く答えたフルーアさんの目からは強い意志が伝わって来る。

 う~ん、こりゃ待ってろっつっても勝手に動いちゃう可能性が高いな。なんせ、先走る部下を見張り続けた実績があるからな。こりゃ、仕方ないな。


 「それじゃ、変装して行きますか」


 「変装ですか?」


 「そうです。フルーアさんが絶対し無さそうな格好をして行きましょう」


 「それって、どんな」


 「まあ、まずは土産物屋に行きましょうか」


 俺はフルーアさんと一緒に土産物屋に行く。

 フルーアさんの服装は灰色のスラックスに茶系統のボタンシャツ、それに灰色のジャケットといったものだ。

 これとは真逆のコーディネートをしてやるか。

 

 「お!あったあったぞ」


 俺はヤグーカルチャー、波乗りカルチャーコーナーを発見する。やっぱかなり流行ってるんだな。

 そこで、ヤグーカルチャーとの融合系ファッションをチョイスする。

 まずゆったりとしたシルエットの七分丈パンツ。柄は派手な花柄だ。

 足元は激しい動きにも対応できるしっかりした作りのサンダルをチョイス。

 上は胸にでっかくビーバルビーバルという文字とオレンジ色の太陽が描かれたシャツを選ぶ。

 そこにバカデカイオーバルサングラスと飛行帽みたいなニット帽を重ねれば底抜けに陽気なパリピか浮かれまくった観光客の出来上がりだ!


 「こ、これって目立ちませんかね?」


 「いや、周りを見て下さいよ」


 周囲にいる連中もだいたい似たり寄ったりといったとこだ。


 「ううむ、という事は今までの自分の方が目立っていたと、そう言う事ですか」


 「そうなりますね」


 俺は言う。


 「でしたら、クルースさんもそれなりの恰好をした方が良くありませんか?」


 うぐっ、そう言われると弱い所はあるな。

 フルーアさんの視線が辛い。


 「わかりました、俺も着替えましょう」


 「そうこなくちゃ」


 フルーアさんがニヤリと笑う。

 こうなったら、俺もめいっぱい浮かれた観光客を演じるっきゃないな。

 まずはてっかてかの光沢が目に眩しい白いコーデュロイパンツをチョイス。サイドについてるゴールドの二本線もかなりアッパーでグッドだ。

 上はカラフルなモザイク柄に魔法陣のようなデザインが多数施されたサイケデリックな長袖シャツ。

 そこにフリンジのついた革のチョッキを羽織り、頭にはカッキリした色合いの花柄バンダナを被る。とどめにオレンジ色のハート形サングラスをかけりゃヒッピースタイルの出来上がりだい!


 「うわっ、これまた凄いのを選びましたね」


 「似合います?」


 「ええ、とてもよくお似合いですよ」


 フルーアさんはひきつった笑みを浮かべた。まあ、これだけやれば逆にフルーアさんだとは思うまい。

 てなわけで浮かれまくった観光客ファッションに身を包んだ俺とフルーアさんはビーバルビーバルの街へと繰り出すのだった。

 街に出ると俺たちに負けず劣らずのド派手なファッションをした人達が沢山おり観光を楽しんでいた。


 「ううむ、確かにこの恰好なら目立ちませんね」


 「でしょでしょ?木を隠すなら森の中ってね」


 「なるほど、確かにそうですな。さしずめここは浮かれた森ってところですな」


 「そうですね、まさしく」


 俺は浮かれる観光客たちを見て答えた。

 お土産物屋や観光客向けの飲食店が並ぶ華やかな通りをしばし歩いて行くとだんだんと風景が変化してくる。

 飲食店の種類がお酒を出す店風味になり、遊技場の種類も子供向けから大人向けに代わって来る。

 

 「夜の街っぽくなってきましたね」


 「そうですね。もう少し奥へ行けば情報収集に向いた店も出てくるんじゃないですかね」


 俺は答えて通りを更に奥へ向かう。

 

 「クルースさん、こっちを見て下さい」


 フルーアさんに言われて路地裏に目をやると一本向こう側の通りが目に入る。

 そこに見えたのは派手な色彩の看板と露出度の高い女性の絵だった。


 「ああ、一本向こうがその手の通りなんですね」


 「行ってみましょう」


 俺とフルーアさんは路地裏を進み向こう側の通りに入る。

 そこにあったのは脂ぎったおっさん観光客の群れと客引き、通りでゲロを吐いたり立小便をするおっさん、建屋の窓からこちらを見て手を振る若い女の子達、店の前に出したイスに座り通る人を値踏みするような目で眺める婆さん等々だった。

まっ昼間から退廃的な雰囲気を漂わせているこの通り、情報収集には持ってこいな場所と言えよう。


 「お兄さん、いい子いるよ」

 「今なら昨日入ったばかりのフレッシュちゃんいけますよ!」

 「今ならすぐ入れるよー」

 

  俺とフルーアさんは飲みじゃなさそうな系の客引きをスルーし都合の良さそうな店を探す。


 「ここなんてどうですかね」


 フルーアさんが足を止めたのはポールダンスショーがうりの店のようで、店の上にはポールに絡みつくバニー姿の女性のイラストと共にクレイジーアルミラージと書かれた看板があった。


 「入ってみますか」


 「ええ」


 先に進むフルーアさんはに続いて俺は店に入る。

 トビラを開けるとムワッとした熱気とともに大音量の音楽に包み込まれた。

 こんな騒がしい所で情報収集なんてできるのだろうか?

 そう思いながらしっかりとした足取りでポールダンサーの近くに陣取るフルーアさん。

 俺はこういう場所は慣れていないのでドギマギしてしまう。

 フルーアさんは慣れた様子でダンサーのパンツに札を挟んでいる。

 ううむ、遊び慣れておりますなあ。

 俺は手持ち無沙汰になりバーカウンターに腰を下ろした。


 「何をお飲みになりますか」


 渋いひげのバーテンさんに言われて俺はラガーを頼んだ。

 その場で現金を渡して俺はラガーに口をつける。

 キンキンに冷えていてとても美味い。

 しばらくフルーアさんの様子を見ていると別の踊り子さんに札を挟み込み耳元で何やら話している様子。

 そして今度は別の踊り子さんに同じような事をすると今度は席を立ち俺を見つけて手招きをするフルーアさん。


 「どうしました?」


 「ええ、良さそうな娘を見つけましたよ。なんでも元カレが地回りだったとかでそっちの事情に詳しそうでしたんで、こっちに呼んだんですよ」


 そう言うとフルーアさんはボックス席に座った。


 「呼ぶって、そんな事できるんですか?」


 「チップを出せば出番が終わった時に横についてくれるんですよ。クルースさんはこう言った店は初めてですか?」


 「ええ、恥ずかしながら」


 「そうですか、まあ、知る機会がなければ一生知らない世界ではありますよね。ああ、来ましたミーシアちゃんです」


 フルーアさんが言うと、先ほど耳打ちしていた踊り子さんがタイトなワンピースを着てやって来た。


 「どーもー、ミーシアでーす。飲み物頼んでもいい?」


 「どーぞどーぞ」


 「ありがとー」


 俺が言うとミーシアちゃんはサッと手を上げボーイさんを呼び自分の飲み物とフルーアさんの飲み物を頼んだ。

 ボーイさんは一礼すると素早くカウンターに戻り、幾らもしないうちに飲み物を手に戻って来た。

 フルーアさんは飲み物を受け取り現金をボーイさんに渡すと、では出会いを祝して乾杯、と音頭を取った。

 俺もそれに乗り、フルーアさん、ミーシアちゃんとグラスを重ねた。


 「いやー、しっかし昔はこんなじゃなかったんでビックリしたよ」


 フルーアさんが口を開く。


 「でしょでしょ?まあ、私もそんな昔の事は知らないんだけどさ」


 「久しぶりに来たら随分とキレイになってて驚いちゃったよ」


 「これでもキレイになった方なの~?前はどんだけ汚かったのよ~受けるんですけど~」


 ミーシアちゃんが笑う。


 「前彼がそっち方面だって言ってたけど、大丈夫なの?危ない目とかあってない?おじさん心配だなあ」


 フルーアさんがおどけて言う。むむ、なかなかやるなフルーアさん。しっかり浮かれまくった観光客を演じていらっしゃる。


 「やだ~全然大丈夫、だって前彼んとこどっかバックレちゃったもんね前彼も一緒に消えちゃったし」


 「へえ、地回りが消えちゃったらそれはそれで面倒じゃない?あっちこっちが首を突っ込んで来たりして」


 「お客さん詳しいね~、もしかしてそっち方面の人?それとも衛兵さんだったりして~」


 「いやいや、商売やってるからさ色々あるでしょそうすると」


 フルーアさんは笑顔で答える。


 「ああ、あるよね~わかるわかる。だったらさあ、今、どこも大変じゃない?」


 「大変って言うと?」


 「ほら、おっきいとこが消えちゃって良くわかんないとこがしゃしゃってくるっしょ?ねえ?お兄さんとこの店もあるっしょ?」


 ミーシアちゃんが俺を見て言う。


 「ああ、最近多いよねえ。みかじめ詐欺みたいのもあるから気を付けないといけないよねえ」


 俺は答える。


 「そーそー!他所じゃ色々と大変みたいよね~。その点、ここは大丈夫なのよね~」


 「へえ、なんで大丈夫なのか聞かせてよ」


 俺はミーシアちゃんに尋ねる。


 「その前にもう一杯いい?」


 「ああ、いいよ」


 ミーシアちゃんはグラスをグッと煽り中身を飲み干すとすぐさまボーイさんを呼びお代わりを頼んだ。

 頼んでいるのはアルコールだがこりゃ、中身はアルコール抜きだな。

 まあ、いいけどさ。

 俺はお代わりを持って来てくれたボーイさんにお代を払うとミーシアちゃんに話の続きを促した。


 「今、この辺りはゴルトキントファミリーってとこが仕切ってるんだけどね。なんでもゴルトキントってとこは人望のある幹部が捕まっちゃったせいで随分人が離れちゃったらしくって、随分立場が悪くなっちゃってほとんどただの愚連隊みたくなっちゃたんだって。ところが最近になってのあれでしょ?そこにスルッと入って来たのが」


 「ゴルトキントだった、って訳か」


 フルーアさんが愉快そうな顔をして言う。


 「そうそう、そういう事。まったくついてるよねえあそこも。この間まで貧乏所帯だったのがいきなりこの街の顔でしょ?ツイているにもほどがあるよねえ」


 「ふふっ、確かにそうだ。ツキがあったんだろうなあ。勝負師はツキが来てる時にイレギュラーは嫌うもんだ。なるほどなあー、いやーいい話を聞けたよ。ありがとうね楽しかったよ」


 フルーアさんはそう言ってスッと折りたたんだ札をミーシアちゃんの前に置いた。


 「え?こんなにいいの?うっそー太っ腹ぁ~。お兄さんたちの店、景気がいいのねえ~。私もそこで雇って貰っちゃおうかしら」


 「ミーシアちゃんなら大歓迎だよ」


 フルーアさんが言うとミーシアちゃんは満面の笑みで笑い席を立つのだった。


 「はひゃーお見事!」


 俺はフルーアさんに言う。


 「いやいや、昔を思い出しましたよ。ゆりかごで覚えた事は墓場まで運ばれるってやつですな」


 「ふふっそうですね。それで、どうします」


 「大体のいきさつはわかりましたからね。この間まで貧乏所帯だったって言うんですから急にそこまで組員も増えちゃあいないでしょう。直接顔を出して、自分はこの世界に戻るつもりはないから放っておいてくれと言ってやりますよ」


 「そうですか、でしたら俺もお付き合いしますよ」


 「いや、さすがにそこまで甘える訳にはいきませんよ」


 「いやいや、ここでお別れじゃ寂しすぎますよ。もう少し付き合わせて下さいよ」


 俺は少しだけ冗談めかしてそう言った。自分から甘える訳にはいかないなんて言われちゃうと、こっちとしては甘えて頂戴よと言いたくなるってなもんだ。

 面の皮の厚い奴なんかは、ここは甘えさせて貰っちゃって、なんて自分から言うからな。そう言う奴には甘えさせたくなくなるのが人情ってなもんだ。

 人間だもの。


 「危なくなったら自分に構わず逃げて下さいね」


 「まあ、その時のノリ次第とだけ答えておきましょうか」


 「困った人ですね」


 「良く言われますよ」


 俺はフルーアさんにニヤリと笑って見せる。

 フルーアさんは肩をすくめて静かに店を出た。

 俺も素早く後に続く。

 これで夜の街ならハードボイルドな男くさいシチュエーション、ビーバルビーバル死闘編なんだが、外は真昼間だもんなあ。

 真昼間の明るい歓楽街に人があふれてるって何とも言えない雰囲気だよな。夜よりも逆に退廃的とでも言うのか、日が高いうちに飲む酒みたいな。

 まあ実際、飲んじゃってるけどな。

 浮かれまくり観光客の間を縫うように歩くフルーアさん。

 当たりに漂う香水と酒の香り、そして店から漏れ聞こえる音楽。

 けしからん通りをズイズイ進み看板も出していないような小さなお店の前で足を止めるフルーアさん。


 「ここ、のはずなんですが」


 フルーアさんは首をかしげる。


 「どうしました?ここがゴルトキントのアジトなんですか?」


 「そのはずなんですが、何かの店になっているようで」


 フルーアさんが困ったような顔をする。

 店がアジトに?アジトが店に?俺は少し混乱する。


 「店ならまだだよ、うちは夕方から」


 道端でふたりして頭をひねっていると、店の中からホウキとちり取りを持ったおばさんが出てきて俺たちに言う。

 

 「あのう、つかぬことをお伺いしますけど、ここはゴルトキントさんとこの事務所じゃあ?」


 フルーアさんが尋ねる。


 「違う違う、ここはバーだよ」

 

 おばさんは顔をしかめてホウキを振った。

 

 「では、事務所はどこに?」


 「ゴルキンさんならホカケンファミリーの事務所をそのまま使ってるよ。まったく、上手い事やったもんだよ。あっ!これはシーね」


 おばちゃんはホウキを鼻の前で縦にしてそう言った。おばちゃん、そのホウキはもう手の一部なんすか?


 「ホカケンファミリーさんってのは、以前の地回りさんですか?」


 「そう。墓掘りホカケンって言えばちょっと知れた顔だったのに、急に消えちゃってさあ。あの時はこっちもビックリしたわよ~。お兄さんたち、ホカケンさんの人?だったら親分さんに伝えておいてくれないかしら、早く帰ってきてくださいって」


 「なんでです?ゴルキンさんとこじゃダメなんですか?」


 「ここだけの話ね、ダメねえ~あそこは。金には汚いくせに肝心の時にはからっきしなんだもの。この間なんてカーニバルの魔獣が逃げ出したんだけどね、ゴルキンさんとこはなんだかんだ言って全然来やしないのよ。結局、遊びに来てた冒険者の人達が力を合わせてやっつけてくれたんだけどね。やっつけた後に出てきてね、カーニバルの責任者を脅してお金を取ってたんだけど、全部自分達で持ってっちゃってんのよ。こっちは店壊されたりした人だっているし、冒険者の人達に謝礼だって渡してるのにさ。危ない橋は渡らずに美味しいとこだけ持ってくような連中なのよ。ホント、評判悪いよあそこは」


 「いやあ、そうですかあ、それは苦労されますねえ」

 

 俺はてへへと笑っておばさんを労う。


 「わかる?お兄さんも店やってるの?」


 「ええ、ケツ持ちがだらしないと面倒なんですよねえ。内の方もきちんとしたトコが消えちゃってから大変で」


 「へえ~、どう大変だったのよ?」


 おばさんが食いつく。


 「それがですねえ…」

 

 俺はニューアイリオンのブロックハートさんの話を自分事のように話して聞かせた。

 

 「…なんて事があってそれはもう大騒ぎでしたよ。まったく、商売やるのも楽じゃあないですよねえ」


 「ありゃ~、それはそれは。そんなのに比べればうちのが幾分マシかもねえ。少なくてもゴルキンさんとこは二度取りはしないしねえ。頼りないけども」


 「時にその今のゴルキンさんの事務所ってのはどこにあるんです?」


 「ドンフロート通りにデトラックってバーがあるのね」


 「ああ、知ってますよ」


 フルーアさんが言う。


 「あ、知ってた?だったら話が早いわね、デトラックのはす向かいに二階建ての建物があるからその二階が事務所よ。一階は看板出してないけど闇カジノになってて会員以外は入れないようになってるから気を付けなよ。無理に入ろうとしてボコボコにされた観光客も少なくないから。まったく、素人さんにはめっぽう強いのよねえあいつら」


 「はっはっは、そんなんじゃすぐに別のトコに乗っとられちゃうんじゃないですかねえ」


 「そうなればいいんだけどねえ。」


 「いやはや、お時間とらせてすいませんねえ」


 「こっちも面白い話を聞けたからいいわよ、それじゃ気が向いたらうちにも寄ってってねえ」


 「はい、ど~も~」


 俺たちはおばさんに挨拶をしてその場を去った。


 「デトラックのはす向かいと言えば昔はシャベリン商会という大店の事務所だったんですけどね」


 「さっきおばさんの言ってたホカケンファミリーが最近までそこに入っていた、そして今は」


 「ゴルトキントが入っている」


 フルーアさんが噛み締めるように言う。少し目に怖いものが宿っているように思えるがそれも仕方がないだろう。

 俺は硬い表情で歩き出すフルーアさんの後に続く。

 迷いのない歩みで進むフルーアさん。

 歓楽街通りから先ほどの観光通りへ戻り駅方面へと進むと大きな通りに出る。

 これが恐らくこの街の目抜き通りなのだろう。

 大きな通りを駅方面に進み、看板の出ていない怪しげな店の前でフルーアさんは歩みを止めた。


 「ここが例の?」


 怖い顔をして建物を睨みつけるフルーアさんに俺は尋ねる。

 

 「ええ、そのはずです」


 「どうします?」


 「正面から行きましょう」


 「追い返されるんじゃないですか」

 

 「どうでしょうね。ツキがこっちにあれば追い返されないと思いますよ。そして、今の我々にはツキがある、そう思うんですが、どうでしょうかね?」


 フルーアさんは何とも言えない味のある笑みを浮かべて俺を見た。

 なるほどツキね。

 そう言われると確かに流れはこっちに来ているように思えてくる。

 

 「では流れが来てるうちに行きますか」


 「そうしましょう」


 フルーアさんはしっかりとした足取りで闇カジノのトビラに手をかける。

 

 「どちら様?」


 トビラの向こうから短く聞える野太い声。


 「やっぱりツキはこちらに来てるようですよ」


 フルーアさんは俺を振り返り言いすぐにトビラの方に向きなおる。


 『ココンコココンココンコン』


 テンポよくトビラをノックするフルーアさん。


 「北の森に住むホローケッシュ」


 フルーアさんは歌うようにそう言った。


 「森を守るホローケッシュ」


 トビラの向こう側から野太い声が帰って来た。


 「東の王に会いに行く」


 『ガタッ!』


 「アニキっ!戻って来たんすか!」


 勢いよく扉が開き、グリグリヘアーで岩のような顔をした屈強な男が嬉しそうにフルーアさんに声をかけた。


 「イワーマ、元気だったか」


 「俺は元気っすけど、アニキ、ここに来ちゃマズいっすよ。今は昔と状況が違うんすから」


 岩のような顔をした男イワーマが小声でフルーアさんにそう言う。


 「わかってるさ、だから来たんだよ」


 「わかってるってアニキ、わかってて来たって事は………どういう事っすか?アニキ」


 少し考えて諦めるイワーマ、なんか憎めない男だ。


 「お前は昔っから変わらんな。少しは頭を使え」


 「それができれば、こんな仕事しとりゃせんですよ」


 「それもそうか。お前、良くしてもらってんのか?ゴルトキントには」


 「へへっ、俺バカっすから。金稼ぎ下手っすし」


 イワーマはそう言って頭を掻いた。


「相変わらずシュタルクバーグはかねかね言ってるのか」


「金がないのは頭がないのと同じだって良く言ってるっす。だから俺らみたいな金稼ぎが下手な奴らは日陰で生きるしかないんすよ」


「そんな事ぁねえ。なんのかんの言っても俺らは暴力組織だ、そのおっかなさを周りに示して行かないと存在している意味がねえ。それじゃあ普通の商会になっちまう。そいつを忘れて金稼ぎにばかり捕らわれちまうと結局居場所をなくしちまう。そうは思わねえかイワーマ」


「難しい事はわかねーっすけど、でも俺はアニキがいた頃のほうが良かったっす。そう思ってる奴らは他にも沢山いるっす」


イワーマはすがるような目でフルーアさんを見た。


「そうか、ありがとよ。そいつを聞いて俺も腹が決まったぜ。イワーマ、お前、俺に命を預ける気はあるか?」


「アニキ!その言葉を俺はずっとずっと待ってたっす!どこへでも連れて行ってください!」


「よし、なら行くぞ」


フルーアさんはそう言って闇カジノの中へ入って行く。


「アニキ」


 イワーマは小さくそう言うと覚悟を決めた顔になりフルーアさんの後に続いた。

 いいねえ~ザ任侠ですねえ~。

 ビーバルビーバルやくざは芋かも知れんが旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで、なめたらいかんぜよ!

 俺はつい顔がほころびてしまう。

 前世でこの手の映画好きだったんだよね~。

 生で見られて得しちゃった気分。


 「なんだテメー」


 闇カジノの黒服がフルーアさんを見て懐から短刀を抜いた。


 「シュタルクバーグに会いに来た。そこを通してはくれないか」


 「ボスはあんたにゃあ会わねえってよっ!!」


 男はそう言うと短刀を持ちフルーアさんに突きかかって来る。


 「あぶねえアニキ!」


 イワーマがフルーアさんの前に飛び出るがその前に俺が空雷弾を男にぶち当ててやる。

 

 「ぎゃんっ!」

 

 男は短刀を持ったまま身体を硬直させて後ろ向きにぶっ倒れる。


 「あっ、あにき?」


 イワーマが不思議そうな顔をして俺とフルーアさんの顔を交互に見た。


 「ああ、クルースさんだ。心強い味方だよ」


 「ども」


 俺は軽い調子で手を上げてから、武器を手に向かってくる男に空雷弾を撃ち込む。


 「ど、どういうお人なんで?」


 「ただの学生っす」


 俺はイワーマに答えた。

 黒服の男達がバタバタとやって来て闇カジノはにわかに殺気立ち始める。

 

 「やっちまえ!」


 奥にあるトビラの前で男が黒服共に号令をかけた。

 黒服共が懐から武器を出しじりじりと俺たちを取り囲む。

 

 「キナーァァァァァァァッ!!!!」


 フルーアさんが周囲の空気がビリビリ震えるほどの大きな声を出した。


 「フルーアァァァァッ!生きてやがったとはなっ!しぶといジジイだっ!」


 キナーと呼ばれた男が嫌な笑顔で言う。


 「フルーアさん、雑魚は俺が引き受けますよ」


 「すいません!」


 俺の言葉を受けてフルーアさんはキナーへ向かってダッシュをする。


 「行かせねえ!」


 「させないっちゅーの!」


 フルーアさんの行く手を阻もうとする男達に俺は空雷弾を喰らわす。

 イワーマは手近にあったイスを掴み振り回す。イスはかなり頑丈にできているようで並み居る黒服共を弾き飛ばしてもぶっ壊れる事もない。

 

 「キイナアアアアア!」


 「フルウウウウアアアア!」


 フルーアさんとキナーは互いの名前を叫び合いながら突撃しパンチを繰り出した。

 俺はその続きが気になるので黒服共を手早く片付けるべく両手空雷弾で片っ端から気絶させる。


 「だおらっ!」

 「いがっ!」


 フルーアさんとキナーは足を止めてごりごりの殴り合いをしている。


 「クルースさん!!」


 イワーマが叫ぶのでそちらを見ると、アリのように黒服にたかられアップアップしていた。


 「うおっ!なんだなんだ!」


 俺は空雷弾を連射する。が、帯電した空気弾を喰らった黒服は弾き飛ばされてた俺はするもののすぐに立ち上がりイワーマに向かって行くのだった。

 帯電素材のスーツでも来てやがんのか?

 俺は敵の頭に向けて空雷弾を放つが黒服共は腕をかざして頭をカバーしよる。

 よく見りゃ手には手袋をしている。

 こりゃ、全身帯電防護済みって訳かよ。

 困ったな、こりゃあれだ直接近接戦で頭に空雷弾を喰らわす他ねえか。


 「上等!」


 俺はゲイルダッシュでイワーマにまとわりつく黒服共に飛び蹴りを喰らわせる。

 黒服共はボーリングのピンのように弾ける。

 起き上がってくる黒服の懐に突っ込み、アゴの下に空雷弾を喰らわす。

 それからも起き上がる黒服の腹に空雷弾を喰らわしガードを下げてから頭に喰らわし、足を払い再び倒れる瞬間、腕を下に引っ張りバランスを崩した瞬間、等々カバーする暇を与えずに頭に空雷弾を喰らわしていく。


 「うおらっ!!」


 「ぐふううう!」


 激しい音にフルーアさんの方を見る。

 フルーアさんは拳を振り抜きキーナが壁に向かって吹き飛ぶ。

 

 「ごあっ!!」


 壁に叩きつけられたキーナが苦しそうな声を出して床にぶっ倒れる。

 どうやらフルーアさんの勝利が確定したようだ。


 「派手にやりましたね」


 ボロキレのようになった服をまとったフルーアさんが俺とイワーマを見て言う。


 「アニキこそ」


 そう言うイワーマも副はボロボロだ。

 なんだか俺だけきれいな格好をしているのが心苦しくなってくる。


 「行きましょうか」


 「ええ」


 「オスッ!」


 俺とイワーマは返事をしフルーアさんの後に続いて奥のトビラを開ける。

 トビラの向こうには階段があり階段の両側には黒服が沢山立っていた。


 「お前ら」


 フルーアさんが階段両脇に立つ黒服共に静かに声をかける。

 黒服共は静かに頷き下を向いた。

 どうやら襲い掛かって来る気はないようだ。


 「アニキ、こいつらみんなアニキと構える気はないんすよ。みんな、アニキがいなくなってから冷や飯食わされてたんすよ、だからアニキ」


 「皆まで言うな、ここから先は俺とシュタルクバーグの問題さ」


 「でもアニキ」


 「いいからお前もここで待ってろ」


 「でも」


 「でもじゃねえ、お前が待たなきゃこいつらも立つ瀬がねえじゃねーか。わかるだろう?」


 フルーアさんが言うとイワーマはゆっくりと項垂れた。

 

 「わかってくれたな」


 フルーアさんは満足そうにそう言うと階段を昇りだした。ここから先はシュタルクバーグとの戦いになる、万が一フルーアさんが負ける事になればついて来た連中の居場所がなくなる。

 一緒に来ちまったらもう言い訳の使用もなく完全な裏切り者になっちまうからな。

 フルーアさんの粋な計らい、いいじゃないの。

 

 「後は俺に任せな」


俺はイワーマの肩をポンと叩いてフルーアさんの後に続く。

階段両側に立つ黒服男達の目が非常に冷たく感じるが勘ちがいと思い込む事にする。


「なんなんだあの野郎は」

「闇魔獣フルーアさんと一緒にいるって事は…」

「並の奴じゃないんだろう」

「だが、若すぎないか?」

「あの格好はなんだ?」

「そりゃフルーアさんもだろ」


後ろからひそひそ声が耳に入って来る。まあ、気になるよな色々と。それでも、先を歩くフルーアさんの耳には入らない程度の小声で言っているのが彼らのフルーアさんへの畏敬の念を感じさせるよ。

 階段を昇り切ると廊下がまっすぐ伸びており正面と左右にトビラがついていた。

 廊下の左右にも黒服がおり奥へどうぞと手で指し示した。

 フルーアさんは軽く頷き奥のトビラへと向かった。

 

 「邪魔するよ」


 軽い感じでトビラを開けるフルーアさん。


 「てっ、てめー!キナー!キナーは何処だっ!」


 フルーアさんに続いて部屋の中に入ると、重厚な机の向こう側でイスに座った小太りの男が唾を飛ばして叫んでいる姿が見えた。こいつがゴルトキントファミリーのボス、シュタルクバーグか。


 「キナーの奴なら下で寝てるよ。あんたがこき使い過ぎたんじゃないのか?」


 フルーアさんはそう静かに言ってシュタルクバーグを睨んだ。

 ようやく本丸に到着か。


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