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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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男の温泉スタイルって素敵やん

 ギャルさんに散々お礼を言われた俺は、何かお礼がしたいと言うのでゆっくり静かに入れる温泉はないか尋ねた。

 できれば女性が入って来ない所が良いのだがと言うとギャルさんは男女別の温泉もご用意してあると場所を教えてくれたのだった。

 その温泉は傷や打ち身に効果があるそうで、遊び要素の高い他の湯とは別にしてあるのだと言う。

 パンフレットにも記載されてますよと言われて俺は自分の不明を恥じるのだった。

 と、そんなこんなでやっとゆっくり温泉につかる事ができるぞ。

 それも男女別だから部員連中もやって来ないので気をつかう事もないときてる。

 教わった場所は長い渡り廊下を通り別館になっている場所で、俺たちの部屋がある場所のように賑やかで明るい雰囲気とは真逆の静かで落ち着いた空間であった。

 照明からしてシックな間接照明だし、装飾品も自然木や竹などを使ったものが多く非常にチルい空間演出が成されていた。

 これで薄っすらとアンビエントミュージックでもかかってた日にはもう、最高のまったり空間だよ。

  

 「こりゃ今どきの若い子にはわからない良さだろうなあ」


 前世の若者ならチルアウト系だってんで人気出るかもだけど、こっちじゃまだそう言う価値観は若者の間に浸透してないからなあ。

 む?もしかしてこれってビジネスチャンスに繋がるか?

 音楽と絡めればイケルような気もするな。

 こりゃディアナ辺りと相談してみっかな、こっちのケイトモにも宣伝部隊はいるって話だし。


 「お!こりゃあオツですなあ」


 脱衣所に入った俺は思わず声に出してしまう。

 木製の棚に籐で編んだ籠が並び俺としては非常に安心する光景となっていた。

 まあ、籐はヤシ科のつる植物で熱帯雨林を持つ国々ではよく使われる細工物ではあるので、別に俺が前世で暮らしていた国の専売特許って訳ではないんだけどね。

 俺は脱いだ服を籠に入れ海パンいっちょになって風呂へと向かった。

 

 「おおっと、露天風呂か~!サイッコーじゃないのよー」


 俺は思わず口に出してしまう。

 露天風呂はオープンエアーで左右には高い柵が備えつけられ前方には低めの柵が、そしてその柵の向こうには崖になっており眼下に川が流れているのが見えた。

 崖下の川の至る所から湯気が立ち昇る風景は非常に神秘的であった。

 場所がメインエリアから離れているのはこの光景を活かすためでもあるのだろう。

 露天風呂にはフラットな空間がしつらえてあり、そこには壁から湯がチョロチョロと流れていた。

 そして湯が流れている所の近くには桶がいくつも重なっている。

 こりゃかけ湯をする場所だな。

 俺はちょろちょろと流れる湯を桶で受けて、身体にかけていく。

 足から順に手、肩と流していく。

 身体の汚れを落とすのと温泉に身体を慣らすためだ。

 そうして風呂につかる前の儀式をゆっくりとこなした俺はいよいよ温泉へと突入する。

 ゆっくりと足をつけると思った以上に高温であった。


 「ううぅぅぅぅぅぅ、くぅぅぅぅぅぅ~こりゃたまらんわ~」


 俺はゆっくりと湯につかる。

 一瞬、身体がピリピリするがすぐに湯になじみ心地よい熱さに身体がほどけて行くような感覚になる。


 「兄さん、若いのにわかってるねえ」


 「あ、先客がおられましたか。お邪魔します」


 声のした方を見るとがっちりした体躯の男性が腕を組んでこちらを見ていた。

 身体中の至る所に傷がありひと目で只者ではないとわかる佇まいである。


 「こっちこそ、お見苦しいもんを見せちまって申し訳ないねえ」


 「いえいえ、そんな事はないですよ。しかし、ここは最高ですねえ」


 俺は渋い声で言う男にそう答えた。


 「兄さん、若いのに変わった趣味をしてるねえ。今どきの子はこんな風呂はわざわざ入らないでしょ?熱いし地味だし」


 「そうでしょうねえ、若者は本館の方が好みでしょうでしょうねえ」


 「ふふっ、兄さんだって若者でしょうに」


 男は少し笑ってそう言った。


 「いやあ、中身はオッサンですよ」


 「確かに兄さんには妙に老成したものを感じるなあ」


 「けっへっへ、爺臭いってよく言われますよ」


 俺は笑って答える。


 「いやあ、なんて言うのかな。こうして話をしていてもそうだけど、そつがないと言うのかね。立ち居振る舞いにも隙がないし、どこぞの騎士さんか何かかい?」


 「いやいや、ただの学生ですよ」


 俺は湯をすくい自分の肩にかけながらそう答えた。


 「学生さんか。最近の学生さんはおっかないねえ」


 男はそう言って湯をすくい自分の顔を拭った。

 

 『カラリ』


 小さく音がして脱衣所のトビラが開いた。

 随分と遠慮がちに入って来る人だなあ。

 俺は思わずトビラに目をやる。

 入って来た人は手にタオルを持っていた。

 タオルの持ち込み可なのか。

 だったら俺も持って入れば良かったな、んでもって水で絞ったタオルを頭に乗せて入れば良かった。

 ん?なんだ?

 俺は入って来た男から妙な殺気を感じた。

 こんな癒し空間で何を殺気立ってるんだ?

 そう思った瞬間、入って来た男はタオルを投げ捨て筒状の物体をこちらに向けた。


 「フルーア!覚悟しろ!」


 俺は指先をそいつに向け空気弾を放つ。湯につかって濡れているのでなんとなく空雷弾はやめておいたのだ。

 まあ、自分が感電する事はないけども、一瞬の判断でそうしてしまったのだ。


 『バグンッ!ゴンッ!バシュバシュバシュバシュ!』


 俺の空気弾を身体に、そして氷の塊を顔面に喰らった男は術式武器を空に放ちながら後ろ向きにぶっ倒れた。

 隣を見ると身体中傷だらけの男が右手に術式具を構え立ち上がっていた。どうやらあの氷塊はこの男性が放ったもののようだ。


 「やっぱりあんたさん、カタギじゃないね」


 「いや、カタギはカタギですけど、大丈夫ですか?」


 「ああ、こっちは何ともねえ。あんたは?」


 「俺も大丈夫ですが、こいつはどうします?」


 俺は風呂からあがりぶっ倒れている男の近くに行く。

 傷だらけ男性もそばに来て倒れた男が握っている術式具を取り上げた。

 

 「息はあるし放っておいていいだろう。兄さん迷惑かけたね」


 傷の男はそう言って脱衣所に向かう。いや、たいして迷惑はかかってないけど気になるじゃんか。

 一体何事なのこれは?

 俺は男の後を追う。


 「兄さんも出るのかい?まあ、あのままつかってろってのも無理があるか」


 着替えながら言う傷の男。


 「いや、こうして一緒に風呂につかったのも何かの必然だったのかも知れないですし、良けりゃあ事情を聞かせてもらえませんかね?」


 俺は速攻で身体を拭き着替えながら男に尋ねた。


 「カタギさんに迷惑をかける訳にゃあいかねえ、ってもうかけてるか」


 「別に迷惑じゃないですけど、このまま去られた日にゃあ気になって夜も寝られないですよ」


 俺は使用したタオルと海パンをランドリーボックスに突っ込んで言う。


 「変わった兄さんだとは思ったけど、ホントに変わってるなああんたさんは」


 「良く言われますよ。とりあえず自分の部屋でどうです?そこならさすがに安全でしょう」


 「そうだな………それじゃあ、甘えさせて貰っちまうかな」


 てなわけで俺は露天ぶろで知り合った男と行動を共にする事となったのだった。

 渡り廊下を通り本館へ向かう。

 男は周囲を警戒しながら歩いている。

 俺も、周囲の殺気に気を配りながら歩く。

 特に殺気は感じない。

 それでも注意しながら俺の部屋に到着。

 俺たちは素早く中に入り念のため内側から鍵をかけた。


 「それで、いったいどういう状況なんですか?」


 「ふぅ、話すのは構わないがこれ以上は本当に危険だからな。話だけ聞いたらそこで手を引いてくんな」


 「そりゃあ、ここでハイとは即答できないですが、事と次第によっちゃそうなるかも知れませんけどね」


 俺は男の目を真正面から見てそう言った。


 「まったく変わった兄さんだよ。じゃあ、話すけどよ………」


 男の名前はディバイデ・フルーア、ゴルトキントファミリーの元幹部だと言う。

 ゴルトキントファミリーと言うのはこの辺りを縄張りにするギャング団だと言う。この辺りは昔からの有名な温泉地でありみかじめ料や祭りイベントにおける収入などが手に入る美味しい土地であり、地元の組織であるゴルトキントファミリーは外部から参入しようとする組織の対応はいつも悩みのタネであった。

 十年程前この辺りの観光施設が一斉にリニューアルを始めビーバルビーバルは高級スパリゾートへと変貌を遂げた。

 ファミリーのしのぎも加速度的に上昇し、それにつれて外部勢力のちょっかいも熾烈を極めるようになった。

 そんな中、ゴルトキントファミリーのボスであるシュタルクバーグ・ゴルトキントは外部勢力の中で最も有力であった組織のボスの命を取りに行く指示をフルーアさんの部下に命令する。

 その部下は最近結婚した嫁がおり、その嫁のお腹には赤ん坊がいた。

 無事に事を済ませて刑期を終えれば幹部にしてやる、出て来るまで嫁と子供の面倒はしっかりっ見てやるとシュタルクバーグは部下に言ったそうだが、金に汚いシュタルクバーグがそこまで面倒を見てくれるとは到底思えなかったフルーアは、部下を説得し思いとどまらせようとした。

 しかし、シュタルクバーグの本性を知らない部下は自分が幹部になるのが嫌なんだろうと聞く耳を持たなかった。

 仕方がなかったフルーアは部下の行動を見張った。

 そして、敵のボスの警護が薄くなったのを見計らって部下が術式具を向けたその時、陰に隠れていたボスの手下が一気に出てきて部下をボコボコにし連れ去ってしまう所をフルーアは目撃する事となった。

 フルーアは後をつけ人気のない倉庫に連れ込まれるのを見て、その倉庫にこっそりと忍び込んだ。

 そこで聞いたのはシュタルクバーグが、先走った若衆がいるとその組織に密告し、それを条件にこれ以上の進出をストップするよう言って来たとの事だった。

 つまり、シュタルクバーグは自分で指示を出しておいてその部下を売ったのだった。

 敵組織のボスは、チンピラ程度の命じゃ割りが合わねえって一喝してやったと笑いながら話した。


 「……それを聞いて頭に血が上った私は奇襲をかけてその場にいる奴らを皆殺しにし部下を助けました。そしてその足で衛兵詰め所に自首したんですよ。一昨日刑期を終えて帰ってみたんですがすっかりこの辺りも変わってしまいましてね。中に入る前に隠しておいた金を探すのに一苦労でしたが、なんとかそれも見つかりましてね。昔の連中に会えば文句のひとつも言いたくなると思い、連中の立ち入りそうなところは避けてここに宿をとり明日にでもこの土地を去ろうと思ってたんですけどね。どうやら先方さんはそうはさせてくれないみたいですよ」


 そこまで話して俺がいれた茶を飲むと、懐から術式武器を取り出すフルーアさん。


 「それで、フルーアさんはこれからどうするつもりなんですか?」


 「向こうがそのつもりなら、こっちも行くとこまで行くしかないでしょう。どうせ悲しむ者もなし、シュタルクバーグを道づれに派手にやってやりますよ」


 「いや、それじゃあ幾らなんでもあんまりだ。それに、フルーアさんは最近の情勢をよくご存じないでしょう?事と次第によってはそんな玉砕覚悟で臨まなくても済むかもしれませんよ…」


 俺はここ最近のアンダーグラウンド事情をフルーアさんに聞かせるのだった。


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