高級スパリゾートって素敵やん
俺たちドギューズのメンバーは文化祭も迫り本番間近という事で、連日の練習試合の疲れを癒すため温泉に行く事となった。
というのも、これまでの練習試合の成果を聞いたウェッパー学長が知人の経営している温泉宿に話を付けてくれたからだ。
俺たちはウェッパー学長に感謝をし、意気揚々と目的地であるリミデホテルへ向かった。
リミデホテルはバッグゼッド帝国でも由緒ある温泉保養地であるビーバルビーバルにある有名なホテルらしい。
「いやー、今まで頑張ったかいがありましたねえ~」
「うちらの活躍っぷりからしたら当然っしょ、つーか遅いくらいっしょ」
いつになくテンション高めのソロに爪を塗りながら答えるベーやん。
「あ、水着忘れた」
「向こうで買えばいいんじゃない?ふつーに私もそのつもりだし」
シーボーとみっちょんはカバンからお菓子を出しながらわちゃわちゃやっている。
前世で俺が生きていた温泉と違ってこれから行く所は水着着用の温泉なのだと言う。
俺は温泉は特別大好きって程ではないが、何度か行った事はあるし泊まりで行った時はちょくちょく入ってしまうくらいレベルだ。
水着を着用で入るタイプの温泉も経験あるが、なんつーかちょっと疲れをとるって感じよりアミューズメントパーク感覚っつーのかな、ちょっと俺の好みからは外れるなあ。
どっちにしても、水着姿の部員達を見ながらなんて落ち着いて温泉に入れないから内湯がないか聞いてみるかな。
俺は男ひとりだから、個室だって話だし内湯くらいあるだろ。
「ホントにうちらもいいのかなあ?」
「ビーバルビーバルのリミデホテルって言ったら高級スパリゾートでしょ?やっぱ生徒じゃない私達が行くの気が引けるよね」
「何言ってんすか!姉さん達あってのドギューズじゃないっすか!いらない心配なんかせずに目いっぱい楽しみましょーよー!」
遠慮するメイとジンジャーにマーが言う。
「そうだね、行くからには楽しまなきゃだね」
メイが笑顔で言う。
「だね。私、多めにお小遣い持って来ちゃったんだよね、実は」
「実は私もなんだよね」
ジンジャーが答え、メイが照れ臭そうに言う。このふたり、しばらくはベリンボールだけに専念してくれれば衣食住は保障すると言ってあるにも関わらず、どうにもそれでは気が済まないのか空いた時間でディアナの店の手伝いや街の系列店の手伝いをしてくれているのだ。
それとなくディアナには給料に色付けてやってくれと言ったのだが、その辺は俺が言うまでもなく上手くやってくれていた。更にディアナはいつぞや作った薬物乱用防止ポスターを系列店にも配った所、一部のお客さんに大好評で客足が増えたとの理由で今回メイとジンジャーに大入り袋を手渡している。
まったくそこらへんのディアナの細かい気遣いには頭が下がるよ。
「今回は俺もゆっくりできるなあ。ここんとこ忙しかったからなあ」
「さあて、そう上手く行くでしょうかねえ」
座席で伸びをしながら言う俺にケイトが気になる事を言った。
「おいおい、なんだよケイト?変な事、言うなよ?」
「ケイトち~食堂車行こ~よ~」
「ミルクシェイク飲もーよー」
「はい、行きましょう。では、頑張って下さいね」
「おい、頑張ってって何を」
べーやんとみっちょんに声をかけられたケイトは意味ありげな事を言いふたりについて行った。
ったく、おっかねー事言いやがってからに。
さすがに今回ばっかりは何もねーっしょ。
あいつも人を驚かすのが好きだからなあ。
そんなはったりでビビる俺じゃあないっつーの。
俺は目的地まで寝てやる事にしたのだった。
そうして寝ている間にビーバルビーバル駅に到着。
駅からは送迎馬車でリミデホテルへ向かう。
馬車から見える外の景色は観光地らしく多くの人が行き交う賑やかさだった。
さすがは温泉地と言おうか、あちこちの排水溝から湯気が立ち昇っているのが風情があって非常によろしい。
「あれがリミデホテルですね」
「すごっ!」
「マジか!」
「でかっ!」
「うわっ!」
「やりぃ!」
みっちょん、シーボー、べーやん、ソロ、マーの順に驚きの声が上がる。
「うわ~、ホントにこんなトコ泊まれるんだ~」
「もうサイッコーよね~」
メイとジンジャーが旅行サイトかなんかのシーエムに出てくる仲良しオーエルふたり組みたいな事を言って互いに手を取り合った。
何かの宮殿かと思ったが豪華な建物の上部にはちゃんとリミデホテルと大きく看板が出ている。
確かにこれは凄いぞ。
俺たちは馬車を降りて中に入り受付へ向かう。
「うわー、なんかめっちゃいい香りするんですけど~」
いつもはガサツなマーが女の子らしいリアクションを珍しくとる。
「心と身体と精神の調和を目的としたホリスティックトリートメントを是非ご体験下さい。専門のコンサルタントによる極上のリラクゼーション体験があなたをお待ちしています。ですって。なんか凄そうっす」
いつの間にかパンフレットを手にしたソロがそれを読んで言う。
「これでお願いします」
ケイトがカバンから人数分のチケットを出して受付に渡す。ウェッパー学長から頂いたものだ。
「はい、では皆さんこちらを手首に巻いて下さい」
チケットを受け取った受付嬢はそう言って我々に小さなリストバンドのような物を手渡した。
リストバンドはすべすべした素材で出来ており防水効果が高そうだが肌触りは決して悪くなく、装着していても邪魔にはならなさそうだった。
「こちらを提示して頂けると全てのサービスが無料で受けられますので無くさないようにお気を付け下さ」
「マジ!」
「うっそ!」
「じゃ、さっきのも無料って事?」
「パンフレットを見ると他にも色々とあるっす!」
「うそうそ!それも無料って事?」
受付嬢さんの説明に部員たちが色めき立つ。
「ええ、こちらのチケットは最上級チケットになっておりますので、施設内のすべてのサービス及び飲食は無料となっております」
「マジか!」
「すげー凄すぎる!」
「さっすが学長!太っ腹!」
「うう、これやってからこっちやって、それからこれ行って、うう迷うっす」
「一緒に行こ、一緒に」
これまた部員達が興奮する。
まあ、この条件じゃ仕方ないか。
だがそこへ行くとメイとジンジャーのふたりは大人よな。
俺はふたりを振り返る。
「ちょっと待ってみんな。これはしっかりプランを練らないとダメよ。取りこぼしがないように考えて行かないと」
「まずは部屋で作戦会議ね」
ふたりはギラついた目で部員達にそう声をかけているのだった。
ま、まあ、楽しんでくれているならそれで良いさ。
一通り説明を受けた俺たちはポーターさんの案内で部屋に向かった。
女性陣は大部屋で俺はひとり部屋なのだと言う。
部員たちは少しだけ不満そうな顔をしたが大部屋について中を見たとたんそんな顔は吹っ飛んでしまう。
「うっそーー何ここーー」
「サイッコーじゃない!」
「やば!ひろっ!」
「つーか部屋の中に部屋が沢山あるんすけど」
「窓から見える景色も最高なんですけどー」
教室より広い室内、豪華な設備、窓から見えるのはキレイな街並み。最高級ホテルのスペシャルスイートもかくやのハイグレードルームじゃねーか。まあ、最高級ホテルのスペシャルスイートなんて泊まった事ないけども。
「ではクルース様、ご案内致します」
「んじゃ、みんな楽しんでくれな」
「やっば!これも飲み放題って事っしょ!」
「見て見て!このガウン!ちょー柔らかいんですけど?」
「先ずは作戦会議っしょ!」
「姉さん、自分はここは絶対行きたいっす!」
「あったり前っしょ!」
「つーか前部行くっしょ!」
「行くっしょ行くっしょ!」
みんな聞いちゃいないや。えへへ、涙で前が見えないや。
俺はトボトボとポーターさんの後に続くのだった。
「こちらがクルース様のお部屋でございます」
案内されたのは先ほどの皆の部屋があるフロアのひとつ上のフロアにある小ざっぱりした部屋であった。
中に入ると、ひとりで泊まるには贅沢なほどの広さがある部屋で逆にちょっと落ち着かない。
「それではごゆっくり」
「ありがとうございました」
俺はポーターさんにチップを渡しひとまずソファーに座った。
『コンコン』
「は~い」
お?あいつら浮かれまくってたけど、なんだかんだ言って俺のことも気にかけてくれたのか?
ノックの音がして俺は思わず浮かれた声を出してトビラを開けた。
「失礼します。クルースさんで間違いありませんか?」
そこに居たのは上品な中年女性であった。
「ええ、そうですけど、どちら様ですか?」
「わたくし当施設のオーナーをしておりますシルビア・ギャルと申します。よろしくお願いいたします」
キレイな金色の髪をアップにまとめたギャルさん。上品な中年女性なのにギャルさんはそう言って静かに頭を下げた。
なんだなんだ?いったい何事なのだ?




