それでもやっぱりって素敵やん
「おい、しっかりしろよ。手下共も目を覚ましたようだぞ?みんなでお家に帰りましょう!ってね」
キョロキョロと周りを見渡してぼんやりとしているスキンヘッドの背中を叩き俺は言う。
「見たか!正義は勝つのだ!だっはっはっはっは!」
「ブロックハートさんも笑ってないで一緒に行くんですよ」
「え?」
急に素に戻るブロックハートさん。
「一緒に行くんですよ」
スキンヘッドを立たせて俺はブロックハートさんに言う。
「いやいやいやいや、自分なんて一緒に行っても何のお役にも立てませんよ」
「何をおっしゃいますやら、役に立つに決まってるじゃないですか」
「え~~~」
露骨に嫌な顔をするブロックハートさん。
「まあ、いいからいいから。はい、それじゃみなさん帰りますよ~。案内お願いしま~っす」
俺はスキンヘッドの背中をつつき目覚めた手下どもに声をかける。
「ねえ?そう言えば名前聞いてなかったよね?名前教えて?」
「カノッタカ」
「カノッタカさんね。それじゃカノッタカさん、手下の皆さんにアジトに帰ると言って下さい」
「アジトに帰るぞ」
カノッタカが言うと手下どもは互いに顔を見合わせると渋々従う姿勢を見せる。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、ああ」
カノッタカはそう言うと素直に歩き出した。
「行ってらっしゃい!」
笑顔で手を振るブロックハートさん。
「だから、一緒に行くって言ってるでしょ?さあさあ」
俺はブロックハートさんの手を引っ張り項垂れて歩くカノッタカの後に続くのだった。
「あの~、本当に私も行かなきゃダメなんですか?」
不安そうに言うブロックハートさんに俺は大きく頷いて見せる。
「私が役に立てるってなんの事なんですか?」
「これまでやって来た連中の顔がわかるのはブロックハートさんだけなんですからね。今から行く場所にその顔がいないかどうか確かめないといけないでしょ?」
「はい?今までの奴らは同じ一味だって言うんですか?こいつらも?え?え?え?なんで?なんでそうなるんです?」
「まあ、確証はないんですけどね」
「ないんかーーい!!」
ブロックハートさんが手を上げてツッコむ。いいツッコミだ。
「でも、かなりの確率でそうだと思いますよ。これまでの経緯を聞いた時の連中のなめきった態度、あれはわかっていて嘲笑っている態度そのものでしたからねえ」
「うっ、じゃじゃじゃあ、奴らがグルだとしてですね。連中の顔がわかればいいんですよね?だったら解決ですよ!その先にあるブルンバーって店の店長も同じ目に遭ってますからね!ちょっとそこに寄って貰えれば、私の代わりになりますよ!ね?これで万事解決、と」
「万事解決!じゃありませんよ、もう。何言ってるんですか。私に依頼をして来たのはブロックハートさんですよ?だったら一緒に行くのもブロックハートさん、あなたしかいないじゃないですか」
「えぇぇぇぇぇ」
両手を揃えて腰を引きやや裏声で言うブロックハートさん。なんだか、嫁の両親と同居していそうなリアクションだなあ。
「気にしない気にしない」
俺は鷹揚に言う。ブロックハートさんは露骨に嫌な顔をするがそんな顔してもダメでっせ。
カノッタカは時折立ち止まり逡巡するようなそぶりを見せたが、その度に俺は咳払いをしてやると再び歩き出すのだった。
そんなこんなで夜の街を歩いて歩いて薄汚れた路地裏にあるごく普通の民家の前に辿り着く俺たち。
「ここだよ」
何か諦めたような表情でそう言うカノッタカ。
「よし、それじゃあトビラを開けて頂戴な」
「……」
「なんで黙ってるのかな?何か仕掛けでもあるのかな?それで、俺たちを嵌められるかどうか考え中なのかな?どっちにしても俺たちをここに案内した事がバレれば仲間にやられる、罠にハメるのに失敗すれば俺にやられる。イチかバチかの大勝負で俺が罠にハマる方に賭けてみようかとか思っちゃってる感じ?どう?」
俺は脂汗を流して黙り込むカノッタカの顔を覗き込む。
「ううう」
「図星か。よしわかった、それじゃあ今から思い切りこのトビラを蹴飛ばして入って、中に居る連中は問答無用でぶっ飛ばしちゃうけど、それでも良い?」
「わかった、わかったよ。入る時のノックが合図になってるんだよ、最初に三回間隔開けて次に三回が安全の合図、次が二回だと危険の合図で武器持って臨戦態勢で待ち構える合図。次が四回だとすぐに逃げろの合図ってなってるんだよ。逃げろの合図にするかどうか迷ってたんだよ」
「よし、それじゃあやってみるわ」
俺は三回ノックして間隔を開けてまた三回ノックする。
「それじゃあ、どうぞ」
俺はそう言って手でカノッタカを促す。
「嘘はついちゃいねーよ」
そう言いながらトビラを開け中に入るカノッタカ。
「どうだった?チョロかったろ?ってテメー誰だ!」
カノッタカに続いて中に入った俺を見てイスに座っていた男が強い口調で誰何した。
「クルースさん!こいつです!最初に来た男!あっ!あいつも昨日見た!あっちの奴も!やっぱりグルじゃーーん!」
続いて入って来たブロックハートさんが誰何した男を指差し、すぐに室内を見まわして次々にそこに居た男を指差した。
「テメー!カノッタカッ!」
誰何した男が怒鳴り声を上げる。
「あれれ~おかしいぞ~。なんでみんな一緒にいるのかな~?」
俺はひときわ大きな声で言う。少し子供の姿になっってしまった国民的名探偵を意識する。
「カノッタカッ!テメー!裏切りやがったのかっ!」
「違うんす!違うんすよアニキ!」
「何?違うの?裏切ってないの?じゃあ、俺の敵って事?」
イスに座った男に凄まれ激しく否定するカノッタカに俺は尋ねる。
「うううっ、そうじゃなくて、うう」
進退窮まるカノッタカ。良かったねカノッタカ、ここで開き直って向こうさんについたら一緒にお仕置きする所だったぞ。
「さてと、君がリーダーなのかな?」
俺はイスに座っている男に歩み寄り聞く。
「だったらなんだってんだ」
「みかじめ料と称してだまし取った金を返して貰おうかな。それから、一度話し合おうか」
「くっくっく、かっかっかっかっかっか!久しぶりだぜこんなに笑ったのは!面白れぇ事、言うじゃねーか気に入ったぜ。兄ちゃん、カノッタカやったぐらいで調子にのんじゃねーぞ?」
男はゆっくりとイスから立ち上がり俺を睨みつけた。
「別に調子に乗ってるつもりはないけどね。普通の事を言ってるだけだけど?ごく当然の事をね。おたくさん達は店の人間を騙して何度もみかじめ料を徴収した。まずはそいつを返して貰って、それからお互いの今後について話し合いましょうと、そう言ってるんだけど?何か変かなあ?俺の言ってる事、間違えてる?ねえ?どう思う?」
俺は部屋にいる男達を見渡して言う。
「調子に乗ってんじゃ、ねーーぞっ!!」
立ち上がったリーダー格の男がテーブルを蹴り上げながら言う。
俺は飛んできたテーブルを裏拳で弾き飛ばす。
『ガッシャァァァァン』
飛んだテーブルが食器棚にぶち当たり派手な音を立ててぶっ壊れる。
同時に突っ込んで来たリーダー格の男が目を向く。
テーブルでぶっ倒せれば追い打ち、避けたら避けた方へ向かって追撃を喰らわす予定だったんだろう。まさか、俺がテーブルをぶっ飛ばすとは思わなかったんだろうな。
だが、男も一応チンピラのリーダーをやってるだけの事はある。一瞬の迷いの後、俺にそのまま殴りかかる事を選択した。
「バカチンがーーー!!」
俺は怒鳴って男にビンタを喰らわせる。
「あっげらっ!!」
男は白目を向いてぶっ飛んで行く。
「ひとまず金を返して貰って、それから話し合うって言ってるでしょうがっ!!」
俺は大きな声を出し近くにあったイスを蹴り上げる。
「ボゴシャッ!」
イスが天井にぶち当たって四散する。
ひとまず頭上から降りかかるイスの破片をポンポンと払う。
「で?副リーダーは誰?」
周囲の男たちが一斉にひとりの男を指差す。
「ちっ、テメーら覚えとけよ」
指をさされた細身長身男が唾を吐いてつぶやいた。
「あんた名前は?」
「ニーム・ノック」
「ノックさんね。それじゃあノックさん、とりあえず集めたみかじめ料を返して貰おうか。どこにあるんだい?」
「奥の金庫に入ってるよ」
「それじゃあ、一緒に取りに行きましょうかね」
俺がそう言うと副リーダーはダルそうにのっそりと奥の部屋へと向かった。まあ、精一杯の抵抗ってやつだろう。
それ位は許そう。
「これだよ」
金庫を開けて中を見せる副リーダー。
「中身全部そうなのかな?」
「ああ、そうだよ」
「ふえ~、取りも取ったりだね~。これじゃ持ちきれないから何か入れ物貸してくれる?ちゃんと返すから」
「そこに積んでるズタ袋持ってけよ」
「や、やりましたね」
ブロックハートさんは凄い速さでズタ袋を手に取り金庫から金を移し替えた。
「もう、いいだろ。帰ってくれよ」
「いや、話し合うって言ったろ?さ、さっきの部屋に戻って話し合おうよ」
俺は副リーダーの背中をポンと叩いた。
「なんだってんだよ」
小さな声でつぶやく副リーダー。
「いやー、クルースさん!ありがとうございます!みんなにも良い知らせを持ち帰る事ができて嬉しいですよ」
金庫から素早く金を袋に入れたブロックハートさんは、嬉しそうににっこりと笑って部屋から出てそのまま出口へと向かった。
「ちょい待ちブロックハートさん。まだ話し合いが済んでませんよ」
「もう、いいですってクルースさん。もう、これで十分ですよ」
「いやいや、まだ十分じゃあありませんよ。まあ、いいから座って下さいよブロックハートさん」
俺は近くにあるイスに座ってブロックハートさんに言う。
「いや、でも」
「まあ、いいからいいから。クルースに任せて」
俺に押し切られて渋々イスに座るブロックハートさん。
「じゃあ、副リーダーさん話し合いを始めましょう。まず、みかじめ料の事ですね。一旦仕切り直して、改めておたくさんのグループに頼るって事は出来ますか?」
「何を言ってるんだ?お前?」
「だから、話を一からやり直しましょうと、そう言う事ですよ。おたくさん達は地回りの団体が消えた事でその隙間にすっぽり収まろうとしたんでしょう?そんな輩はこれからも出てくると思うんですよう。で、その度にこんな事してたら大変でしょ?こっちとしても無駄な事はしたくないのよ。わかるでしょ?つまり、おたくさん達が改めてキチンとケツ持ちしてくれたら万事解決ってわけ」
俺は副リーダーの目を見て言う。
「あんたの言ってる事はわかった。でも、そりゃちょっとばかり都合が良すぎるんじゃないか?」
「どういう事だい?」
「いや、俺らにとって都合が良すぎるって言ってんだよ。確かにあんたは強い。それだけの腕を持ってりゃ俺らなんかに頼まなくっても構わないだろと思うほどにな。まあ、あんたにはあんたの都合があるんだろうがな。とにかく俺が言いたいのはだな、この状態ではい引き受けますと俺らが言ったとしても信用できないだろって事さ。だってそうだろ?こんなあからさまな詐欺行為を働く連中どうやって信用しろって言うんだよ?なあ?」
副リーダーは俺に言う。
こんな事を馬鹿正直に言うってのは中々面白い奴だな副リーダー。勿論、予防線も含めて駆け引きのひとつなんだろうけどな。
「だから、みかじめ料は後払いシステムでどうかと考えてる」
「……普通は後払いなんだよみかじめ料ってのはな。普通のやり方でいいのか?」
「ああ、それで問題ない。これまでの事は水に流して、これからきちんとした付き合いができればそれで良いさ。ね?ブロックハートさん?」
「え?え、ああ、まあ、うちらとしては最近何かと物騒ですし、やっぱりケツ持ちは居てくれた方が助かりますけど」
「後はそちらさんの了承を得るだけですな」
俺は副リーダーを見る。
「……うちらがこのままバックレても別にあんたらは次を探すだけ、か。うちもここに事務所を構えちまったからできれば他所に移りたくはない……わかった、その話、受けるぜ」
副リーダーは俺の目を見てそう答えた。この目は中途半端な事をするつもりはないと考えて良さそうだな。
「よし、それじゃあ契約成立という事で、お手を拝借!よーお!」
俺は手を打ち三本締めをする。
『ぱぱぱんぱぱぱんぱぱぱんぱん』
「よっ!」
『ぱぱぱんぱぱぱんぱぱぱんぱん』
「はっ!」
『ぱぱぱんぱぱぱんぱぱぱんぱん』
「よっ!めでてーーなーー!」
俺は満面の笑みで皆を見まわすが皆ポカンとしていて何をすれば良いのかわかってないようだった。
う~む、さすがにこれは高度過ぎたかな。
「そ、そりゃあ、いったいなんなんだ?」
副リーダーが何か恐ろしい物を見たような顔で俺に尋ねる。
「まあ、なんての?俺の地元の儀礼とでも言うのかね、物事の無事終了を祝ってやる締めなんだよ」
「締め?」
「そう、まとめとかそう言う感じかな」
「なるほどね、わかったよ。あんたんとこの礼儀を尽くしてくれたってわけだな。俺も男だ、そこまでされて不義理はできねえ。ここに約束するよ、きっちりとケツを持たせて貰うってな」
「よろしく頼むよ」
副リーダーが右手を出すので俺はそれに応えてしっかりと握手を交わすのだった。
「あいつら本当に約束を守ってくれるんでしょうか?」
奴らのアジトからの帰り道、ブロックハートさんは俺に尋ねた。
「もし守らずに消えたとしてもだまし取られたお金は戻って来てますし問題ないでしょ?」
「そりゃ、そうですけど…それでも、やっぱりなんて言うか…」
「わかりますよ、彼らを信じたいって言うんでしょ?」
「おかしな話ですがそうです」
ブロックハートさんは恥ずかしそうに言った。自分の甘ちゃんさ加減に照れているのかな。でも、照れる事はないよ、それは美徳だし強さでもあるんだから。
生きていれば多くの裏切りうあ嘘など人の嫌な側面に出会う。
人を容易に信じられなくなるのも無理はない。
だけど、それでも人を信じたいと願う気持ちを持つことはこれまで受けて来た人の負の側面に心を折られなかったという事でもある。
それでも信じたいと願う人をお人好しで思慮が足りない人間だと揶揄する者も少なくないだろう。
そう揶揄する人も過去に色々あったのだろう。そうした人達も責められない。
責められないが、悲しい事だとは思う。
「おかしくはないですよ。俺も信じてますもん、彼らは裏切らないですよ」
「ですよね、ですよね?いや~、改めて言葉に出してそう言って貰えると心強いですよ!じゃあ、今からベックの店につき合って下さい!お願いします!」
ブロックハートさんは嬉しそうな顔をして頷くと来た道とは違う方向へズンズンと進んで行く。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。ベックの店ってなんなんです?」
「この辺りの飲食店のまとめ役みたいな事をやってくれてる人なんです。この件を説明しないといけないんですけど、私だけじゃあ何と言うか説得力がないって言うか…でも、クルースさんと二人ならうまく伝わりますよ!」
「そう言う事ですか」
俺は意気揚々と歩くブロックハートさんの後に続いた。
結果としてはベックさんは理解してくれたどころか、非常に感謝してくれたのだった。
ブロックハートさん喜んでドギューズの飲食代をサービスしてくれた。
彼女達はかなりの量を飲み食いしていたので俺は本当に良いのか聞き直したが、満面の笑みで安いものですよと言ってくれたので俺はお言葉に甘えてしまった。
長い夜だったな。




