ひと仕事後の一杯って素敵やん
坑道内の害虫発生の原因について、俺はベルリッツさんに説明した。
排水溝に詰まっていたイルルヤンカシュ。
その壁の向こうにあった地底湖。
そこには飼育された大量のイルルヤンカシュがいた事。
そして更に、その地底湖の奥には放置された大量のアエシュマがあった事。
然るべきところに連絡をし、今はその道のプロが対応してくれている事などなど。
「そうでしたか、それはそれは大変でしたねえ。校長へは私から話しておきます、本当にお疲れ様でした。これ、少ないですけどお礼です。どうぞお納めください」
「いえ、そんな、受け取れないですよ」
ベルリッツさんが封筒を取り出して来たので俺は固辞する。今までどこの学校からも謝礼など貰わなかったし、学園でやってる便利屋稼業も同じく謝礼は貰わない方針だった。
「そう言わずに、ホントに大したものじゃないんです。うちの卒業生がやっている食堂の割引券でしてね、逆に使って貰えれば助かるくらいの話ですから。なんせ家に置いといても先生方しか使わないものですからねえ。良かったら行ってあげて下さい。それでは、ごめんください」
ベルリッツさんは穏やかにそう言って去って行った。封筒は結局断り切れずに受け取ってしまった。
まあ、そう言う事情ならいいかな?帰り際に部員たちの腹ごしらえもできるし。
とりあえず、試合の続きを見に行くか。
俺は急ぎ足でグラウンドに向かった。
「ゲームセット!」
グラウンドに行くとメイの球を相手チームの打者が空振りし審判が勢いよく叫んでいる所に出くわした。
「なんだよ、また試合見られなかったじゃんか。どうだったのよ?うちの選手に怪我人は出なかった?」
俺は言いながらスコアボードを見る。
結果は十二対七でドギューズの勝ちだったが問題はラフプレーの被害者だ。うちはギリギリの人数でやっているからな、怪我人が出ると試合ができなくなる。
「うちは大丈夫です。フーカさんから貰った道具のおかげで向こうさんに気絶者続出でしたけどね。そのおかげで相手チームも後半は無茶せずに普通に試合をしてくれましたよ」
「へぇ、そいつは良かったよ。こっちは仕事完了の報酬にこんなものを貰ったよ」
「なんですかそれは?」
ケイトが尋ねるので飲食店の割引券である事を伝える。
「では早速部員達に教えてあげましょう。みんなー!今日はジミーさんが地元のお店でご馳走して下さるそうですよー!」
グラウンドから戻ってくる選手たちにケイトは声をかけた。
「やった!」
「ゴチになりまーす」
「たまには遠征先でってのもいいよね」
「ケチなジミーの事、きっと割引券でも貰ったに違いない」
皆が喜びの声を上げる。シーボーの奴がやけに鋭い事を言うが、むやみやたらと奢らないだけでケチじゃねーだろ?失敬だな。
そうして俺たちはニューアイリオンの街で飯を食べて帰る事となった。
貰った割引券の裏に書いてあった地図を頼りに辿り着いたお店は建屋自体は小さかったが、木製の柵で囲った敷地は大きくその中に沢山のテーブルとイスが出されたビアガーデンスタイルのお店であった。
「いいじゃんいいじゃん。俺、こういうトコ好きよ」
賑やかな雰囲気に揚げ物の匂い、こりゃ当たりのお店だな。
「私も~!これはラガーにポテトね」
「揚げ物!揚げ物!」
「私、魚食べたい」
「お腹減っちゃったね」
「うん、これは食欲そそるねえ」
部員たちのテンションも上がって来る。
「にゅ、ニューアイリオンは名物あるっす。あそこのお客さんが食べてるの、あれここの名物っす」
ソロが指さす。
「うおっ!あれって!」
お客さんが食べてる物を見て俺は思わず声を出してしまう。
「じ、ジミさん知ってましたか。あれがニューアイリオン名物アイリオ煮っす」
ソロが言うアイリオ煮は見た目と言い香りと言いおでんにそっくりであった。
「よーし!今日はアイリオ煮で一杯やるか」
「いらっしゃーい!お好きな所にどーぞー!」
「あ、すいません。これって使えますか?」
俺は元気良く出迎えてくれた女性店員さんにベルリッツさんから貰った割引券を見せる。
「ええ、大丈夫ですよ!お会計の時に出して下さい!」
「ありがとーさん!ついでに注文いい?」
「はーい!」
俺たちは席に着き元気の良いお姉さんにそれぞれ注文をした。勿論、アイリオ煮は忘れない。
「明日も試合があるんですから飲み過ぎないように」
ケイトが言う。
「あ~い!」
「ケイトちん固い事言いなさんなって」
「そうそう、今日は良く動いたからラガーが美味い」
みっちょんが調子の良い返事をし、マーが笑いシーボーがいつもの調子で言う。
「お待ちどーさまー!」
さっきのお姉さんが大きなトレーに載せた飲み物を持ってくる。
「それじゃあ、とりあえず今日の功労者である秘密兵器提供フーカちゃんから乾杯の挨拶お願いしまーーす!!」
マーが大きな声で言い部員たちは拍手をする。
「え?いいんですか私で」
フーカさんは驚きキョロキョロと皆を見渡した。
「いいのいいの!」
「おかげさまで向こうも大人しくなったんだもん」
「そうそう!あいつらもうラフプレーやめるんじゃね?」
「うちら良い事したって感じ?」
部員たちは口々にそう言った。
「では、僭越ながら乾杯の挨拶をさせて頂きます。皆さん、今日は怪我も無く相手のラフプレーにも負けず良く戦い抜きました。これからもこの調子でやっていきましょう!それではカンパーイ!!」
フーカさんの乾杯の挨拶に皆もそれに続いた。
「かんぱ~い!」
俺も乾杯をし注文した飲み物をグッと煽る。
「くぅ~!最高!」
俺はジョッキを置く。
「ジミちゃん何飲んでんの?」
隣に座ったジンジャーが俺に尋ねる。
「これ?ウイスキーのソーダ割り。アイリオ煮に絶対合うと思ってさ。うまーーー!やっぱ合うぅーー!」
俺は小皿に取り分けたアイリオ煮を食べてからそれをウイスキーのソーダ割りで流し込む。
「なによ~、言ってよ~。私も次それにしよー」
「なになに?」
メイも興味を持ったのかジンジャーに話を聞き次はそれにすると息巻く。
「いいけど、飲みやすいからペース気を付けろよ?」
俺はふたりに言ってやる。まあ、このふたりは社会人経験ってよりも世間の荒波に揉まれて来てるからな。酒の飲み方くらい心得得ているだろうさ。特にこの国じゃ酒を飲める年齢が低く設定されてるからな、学生でも飲み慣れてる奴は多いもんな。
俺はアイリオ煮をつまみウイスキーソーダ割りをやり、上機嫌で過ごした。
若い女の子達が楽しそうに飲み食いしてる姿を肴に酒を飲むのも悪くない。
「あの~、申し訳ありませんがクルースさんはあなたですか?」
きゃっきゃと盛り上がる部員たちの声をBGMに飲んでいると、静かにやって来た若い男性に声をかけられた。
「はい、そうですけど」
振り返り答えると相手の男性はエプロンをしておりここの店員さんのようだった。
「あの~、すいませんベルリッツさんから聞いたんですけどやり手の便利屋さんだとか。ちょっと話を聞いてもらいたいのですけどよろしいでしょうか?」
困ったような顔をして言う若い男性。
う~む、まあまあ腹も膨らんだし酒もいい感じに落ち着いてる。
なんだか困っているような感じだし話だけでも聞いてみるか。
「いいですよ」
俺は肯定の返事をするのだった。




