トホホ学園って素敵やん
さてラフプレーチームに対抗してフーカさんから電撃テープを貼って貰ったうちのチームだったが、これからって時にニューアイリオン学園の管理技能員であるベルリッツさんからお仕事の依頼を受けた俺とフーカさん。
後ろ髪引かれる思いで今日の仕事場に向かう事になった。
「よ、よ、よ。兄ちゃん姉ちゃん。お前らがっこにチクったか?俺の事、ガッコにチクったかや?」
ベルリッツさんについて歩いていると痩せて嫌な目つきをした生徒が話しかけて来た。
「いや、チクってないけど」
俺は普通に返す。なんだかわかんねえけど、あんまり関わり合いになりたくない雰囲気が漂う男だった。
「あ、お兄さんも何かやった口?まあ、みんな脛に傷のひとつふたつあるよなあ。俺だってそうだよ、前科十犯だもん人も殺してるし。俺の馬が怪我しちゃってさあ、厩舎に連れてかれちゃったんだけど大事なバッグも一緒に持ってかれちゃってさあ、困っちゃってさあ」
歩きながらしゃべり続ける奇妙な男。何を言ってるんだこいつは?
「近所の奴が勝手に連絡したみたいでさあ、こまっちゃってんの。どこの厩舎かもわからないしほんと、一番いいのはあんたの馬を借りてさあ、バッグを取りにいけたらいいんだけど、甘えさせて貰ってさ。勿論、借り賃は払うし、ほら財布は持ってるからさ」
男は懐から長財布を出して俺に言う。なんだかとりとめがないし話があっちこっちに飛ぶし、こいつなんか良くない薬でもやってるのか?
「列車でいけばいいんじゃない?」
「いや、列車乗った事ないからさ」
「つーかどこに行こうっての?厩舎の場所もわからないんでしょ?」」
俺は男に言う。金はあるけど列車は使いたくないってか?だいたい自分の馬を怪我させて、持ってかれても相手がわからないなんて言ってる奴に誰が自分の馬を渡すってんだよ?こいつ大丈夫か?
「いや、サウスバンドに行けば舎弟、親戚が沢山いるからさそこまで行けば何とかなるからさ」
「だったら列車ですぐだよ」
「列車じゃあれだろ?ミッドバンドまで出なきゃなんないだろ?」
こいつ列車乗った事ないんじゃなかったのかよ?
「いや、サウスバンド行くなら途中のアクシンで降りて馬車捕まえればすぐだよ金も幾らもかからないし」
「いや金は幾らかかってもいいんだよ、財布あるし。いや、列車で行くとさ行っていなかった時に困るだろ?ほら、いなかったら向こうで次のとこ行くのに移動手段がなくって困るだろ?」
「じゃあ、先に連絡入れときなよ」
俺はうんざりしながら言う。
「はいはい、何してるのかな?」
「あ、ベルリッツさん。ちーっす」
「このふたりは仕事で来てるの。邪魔しないでね」
「わっかりましたー。すんませんしたー」
ベルリッツさんが言うと変な男はそそくさと立ち去って行った。
「うふふ、ライアー君の話をまともに聞いちゃだめよ。あの子は嘘ばっかり言うからライアー君って呼ばれてるのよ」
「じゃあ前科十犯で人も殺したとかは?」
「当然嘘よ。窃盗と詐欺でセコイ前科はあるけどね。ケンカ弱いのにハッタリばかりだからねえあの子は。大方、誰かの馬を盗んで怪我させたかなんかして新しい馬を用意しろとか言われてるんじゃないかしら?」
ベルリッツさんは柔和な顔をして言うが、おいおい、そんな生徒ばっかりなのかいこの学園は。そして、そんな生徒を軽くあしらうベルリッツさんって一体…
益々謎が深まるベルリッツさんなのだった。
「ここは古い坑道で採掘科の授業に使ってたんですけどね。最近害虫が出て使えなくなっちゃって困ってたんですよう。なんでもファルブリングでは害虫駆除科があってベリンボールチームのマネージャーさんがそこの首席だと言うじゃありませんか。こんな事ってあるんですねえ~、よろしくお願いしますねえ」
ベルリッツさんはニコニコしながらそう言うと、ペコリとお辞儀をして去って行くのだった。
「ジミーさんは害虫駆除科なんですか?」
「そんな科ないよ。どういう話になってるんだよまったく。つーか採掘科って、そんなのあるの?」
「珍しくはないですよ。鉱物採掘の需要は今後も拡大して行きますからね、そのための人材作りは急務ですよ」
「そんなものなのかねえ」
俺はフーカさんの話しを聞きながら古い坑道に足を踏み入れる。
「へえ、しっかりしてるねえ」
坑道の内側にはレンガがアーチ状に組んであり照明は等間隔に設置されていた。そして地面にはレールも敷かれていた。
「まだ入り口ですからね。さあ、先に進みましょう」
フーカさんはザックから拳銃のような物を取り出すとそれを手に持ちそう言った。
「あ、それ」
「ふふふ、見て下さい。ついに完成したんですよ」
どや顔で言うフーカさん。ボンパドゥの研究所に保管してあったこの世界のものではない物品、その中には俺の生きていた前世の物品も幾つかあった。そうした物の中にあったもののひとつに拳銃があったのだ。勿論、俺は前世で本物の拳銃など見た事もなかったが、ミリタリーものは好きだったので仕組みは多少理解できた。そこでフーカさんにはこれは武器の一種である事や使い方、仕組みなどを軽く説明した経緯があるのだ。
その際フーカさんは非常に興味深げに聞いており、俺が攻撃魔法を使う時に親指を立て人差し指を対象に向けるのはこの武器を念頭に置いての事だと説明したら盛んに感心していたのを思い出す。
「ふふふ、見て下さい。この円筒を回転させると術式が変化するシステムになっているんですよ」
リボルバー式拳銃で言えば弾倉に当たる個所をクルクルと回転させるフーカさん。
「坑道内部では火は使わない方が無難でしょうから水でいきましょう」
カチャっと構えて言うフーカさんの姿はまるで秘密情報部員のようだった。ちょっと背が小さくはあるが。
新兵器を手に勇ましく坑道を進むフーカさん。
今回はフーカさんにお任せで大丈夫かな。
坑道を奥へ奥へと進むと坑道内壁はレンガ作りから木作りに変化した。
「まだ、害虫はいないねえ」
「ですね」
更に奥へと進むと内壁もなくなり坑道は地肌になる。
「ぼちぼちかな」
「油断せずに行きましょう」
坑道の空気は徐々に冷え湿気を含んだものとなった。
「キョキョキョ!キョキョキョキョ!」
坑道奥から奇妙な声がし、何かがカサカサ音を立ててこちらに近付いて来る。
俺はフーカさんの横に並び呼吸を整え意識を集中させる。
術は鉄鋼弾でいいかな。
俺とフーカさんは坑道前方に向かって攻撃の構えをとる。
「キョキョキョキョキョキョキョ!!!」
「「うぎゃっ!!」」
奥からこちらにやってきた物を見て俺とフーカさんは思わずそのおぞましさ悲鳴を上げお互い攻撃術を連射した。
害虫の正体は大型犬サイズのゲジゲジであった。
『バツバツバツバツバツ!』
歯切れの良い音が坑内にこだまし巨大ゲジはバラバラになった。
「うひゃあああ、なんかたまらないよこれ」
「ジャイアントスクティです。ジミーさんが大きな声を出すのでこっちまで驚いちゃったじゃないですか」
フーカさんはそう言って術式具の銃口部分を拭いた。良く言うよもう、自分もビックリしてたくせに。
でも女性にそんな事をツッコむほど野暮じゃない。ちゅーか、そんな事を言ったら倍になって帰ってきそうだからなフーカさんは。
「こいつ、狂暴なの?」
「ええ、毒を吐くので要注意ですね」
「マジっすか。小さい奴は益虫なのに」
普通のゲジゲジは人を噛んだりしないし、ゴキブリなどの害虫を捕食するから益虫なのだ。しかも捕食対象を食べ残さないという優れもの。ただ、姿かたちがあまりにも気持ち悪いので人からは嫌われる可哀想な虫なのであった。
しかし、こいつは毒を吐くというから益虫ではないようだ。
「死骸から立ち昇る蒸気を吸わないように気を付けて下さいね。毒ですから」
「うわ、そうなの?散らしちゃっていい?」
「あそこに通気口がありますから、そちらに向かって散らして下さい」
フーカさんはハンカチで鼻と口を押えながら天井を指差す。
「了解」
俺は天井に空いた通気口に向かって風魔法で送風した。
「毒をこぼさないで倒す方法はないのかな?」
「ありますよ、毒腺のある頭以外を攻撃すれば良いんです」
「早く言ってよ」
「言う前に叫んで乱射してたのは誰ですか」
「あいスイマセン」
俺は少しだけおどけて言う。
それから俺たちは坑道を奥へ奥へと進みジャイアントスクティを見つけたら頭を避けて攻撃し毒が露出しないように倒して行った。
「キレイに倒せば毒腺は売れますからね、喜ばれますよ」
「マジで?何に使うのよ?」
「薬になるんですよ」
「毒と薬は紙一重かあ」
俺たちは坑道を更に奥まで進む。行き止まりに来ては後戻りし違う分岐を進む。そうやって坑道内をくまなく歩きジャイアントスクティを始末していく。
フーカさんの術式具は鋭い氷の針を放ちジャイアントスクティを倒した。そうすると傷が少なく仕留められるようで、傷が少なければ他の素材も使えるだろうという事で俺も真似をして鋭く細い氷の矢を放ち倒すようにした。
「しかしジミーさんは器用ですねえ、本当に今まで使った事ないんですかアイスニードルを」
「ないよ。でも魔力の調整やなんかは結構仕込まれたからねえ」
「アリビオ団の皆さんからですか?」
「そうそう」
今でもやってるけど、微調整ってのは結構気を遣うし良い基礎トレーニングなんだよね。他にもキーケちゃんから良くしごかれたのはプラス方向の力とマイナス方向の力を同時に出し続けるって奴。例えば火魔法で業火を出しながら水魔法でその温度を外に出さないようにする、これをキーケちゃんは筋力のトレーニングで例えれば動かない物を押す行為に値するのだと言った。
キーケちゃんの話ってのは俺のような者にもわかりやすく、その説明にはしっくりとくるものがあった。
動かない物を押す筋トレってのは前世ではアイソメトリックトレーニングと言われていた。
アイソメトリックトレーニングは器具を使わないのでどこでも手軽にできる上に、自分の力以上の負荷はかからないので安全なトレーニングだと言われていた。
短時間で効果的に筋力を鍛える事ができるトレーニングとして注目されていたが勿論デメリットもあった。
ひとつには関節が動かないため効果が限定的である事。これは色々な色々な体制でやる事でカバーできる。
キーケちゃんの魔法修行で言えば土、火、風、水、それに光も混ぜ込んで組み合わせを変えてトレーニングする事でカバーできる。
しかし、デメリットはひとつではない。
アイソメトリックトレーニングのいまひとつのデメリット力を入れ続ける際に呼吸が止まりやすく臓器への負担が大きいという事だった。これは由々しき問題であり筋トレであればトレーニング中に呼吸を止めないように注意する必要があった。
魔力トレーニングで言うと放出が限定的なために魔力酔いを起こしやすいデメリットがある。魔法を使った際に出る副作用全般を指すので、このトレーニングの副作用のみを指すわけではないのだが、その辺りは専門家に任せるとしてこのトレーニングで生じる魔力酔いの解消法だが、俺に関してはその点は大丈夫だった。なぜかと言えばそれは俺の魔力貯蔵量が大きいからだった。
これに関してはキーケちゃんのみならずシエンちゃんアルスちゃんのお墨付きも貰っている。ああ、あとサーヴィングのおとっつぁんからもだったな。
まあ、事程左様に魔力のトレーニングと筋力のトレーニングってのは通ずるものがあるのだ。
坑道探索をしながら俺はそんな事をフーカさんに説明する。
「はぁ~、それは実に面白いですねえ。よくよく考えてみればそれはあらゆることに通ずる話なのかも知れませんねえ。魔力貯蔵問題や術式の簡略化問題にも共通して言える話なのかもしれません。ベーカーランドリンの提唱する魔導力学の法則に触発されて魔導慣性系の等価性理論を発見したラドウェンピーも似たような事をおっしゃってました。ジミーさんの言っている事に触発され私も何かひらめきそうです。ううむ、面白い、これは面白い」
何だかわからないけどワナワナしとるよこの人は。そのうち便所で転んだ拍子にタイムマシンとか発明しちゃうんじゃないか?その時は是非、ケイトと以前乗った魔導四輪を改造して欲しい。そしてダウンベストを着て過去に行って、船でも難破したのか?って言われたい!
「あれ?これってもしかして排水溝じゃないですか?」
俺は坑道の端に開けられた穴と奥からそれに続く溝を見て声を出す。
「ん?ああ、水が流れていないのはおかしいですね。あ!」
フーカさんが声を上げて穴に術式武具を向ける。なんと穴からは例の巨大ゲジゲジが頭をのぞかせているではないか。
『バツバツバツ!』
「ここが発生源のようですね」
アイスニードルガンでゲジを仕留めたフーカさんは穴を見てクールにそう言った。
「どうする?この穴塞いじゃう?」
「そうすると水が流れて来た時に困ります。なぜ水が流れていないのか確かめるのが先決です」
そう言うとフーカさんはツカツカと坑道の奥へと歩いて行く。
俺は呼吸を整え気配察知を発動しながらその後に続いた。
「む、フーカさん止まって」
俺は坑道の奥から何か大きな気配を察知して言う。
「なんですか?何か感じるのですか?」
「うん、何か大きな生き物の気配を感じる。それも、以前に感じた事のある気配、それも最近」
俺は嫌な予感がして思わず唾を飲み込む。この気配で脳裏によぎるのはなぜかケイトの姿、それも強烈なシャウトが耳によぎる。という事は……
「こっ、これって…」
坑道を進み見えた物にフーカさんは絶句する。
そこに居たのはやはり予想通り例の巨大アナコンダことイルルヤンカシュであった。
「イルルヤンカシュだな」
イルルヤンカシュ坑道の行き止まりから生えているかのように見えるが、どうやら排水溝にハマってそれこそ抜き差しならない状況になっているようだった。
「イルルヤンカシュですか、そう言えば最近捕獲されたと聞きましたが、確かケイトさんがやったとか」
「そうなんだよ。ケイトの地元じゃ害獣避けに飼ってるんだってさ」
「どうやって飼育するんです?こんな魔獣を」
「あいつは歌ってたよ」
「ほう、歌で魔獣を使役するのですか、なんて素敵な。ケイトさんの歌はきっと美しいのでしょうねえ、女神の微笑みのように」
フーカさんはうっとりするようにそう言うが、本物を聞いたらなんて言うだろうな。女神の微笑みというよりも戦姫の叫びとでも言おうか。
まあ、実際に聞くまでは夢を持たせてあげた方がよかろうな。
「で、どうするこいつ?なんかぐったりしてるみたいだけど」
「確かに元気がないようですねえ」
「あ!大丈夫?」
普通に近づきイルルヤンカシュの身体に触れるフーカさんに俺は思わず声をかける。
「これは、脱皮の前兆が見られますね。脱皮前は大量の水分を必要とするので元気がないのでしょうね」
フーカさんはイルルヤンカシュの肌を指でさすり言う。イルルヤンカシュはフーカさんに触られても意に介さず時折舌をチロチロさせるだけであった。
「うん、助けましょう」
こちらをクルリと振り返り元気良く言うフーカさん。
「はい?」
俺は呆けたように尋ねる。助ける?こいつを?
俺はイルルヤンカシュを見る。琥珀色の目玉からはなんの感情も感じさせずただただ薄気味悪いだけだ。
「助けるんですよ」
「どうやって?」
「こいつがハマっている穴を広げてやるんですよ。どちらにしても塞がれた排水溝の修繕はしなければならないんですからね」
そう言いながらザックを漁るフーカさん。
「そう言う時にはこれ、魔導オーガー!」
フーカさんはザックから取り出した鉛筆のような長い円筒物体を手に言う。なんか、ちょっと喋り方が未来の世界の青狸に寄って行ってるような……
円筒にはらせん状の溝が刻まれており見た目は完全にドリルだ。
「それでどうするの?」
「まあ、ご覧ください」
フーカさんはそのドリルを拳銃型術式武具の先にはめてからポケットに突っ込んだ後、ザックから例のエコーロケーションシステムを取り出してイルルヤンカシュが突き出ている壁に当てる。
「ふむふむ、なるほどなるほど。これくらいの厚みならばレベルスリーで十分ですね」
エコーロケーションシステムをザックにしまったフーカさんは、ポケットからドリルをハメた術式武具を取り出すと撃鉄部分を後ろに下げた。単なる飾りかと思ったら何かの威力調整機構を備えていたのか。別に俺が伝えた前世の物の形にこだわる事ないのになあ。まあ、俺としては馴染みがあっていいけど。
拳銃型術式武具にハメたドリルをイルルヤンカシュのハマっている穴の近くに当てたフーカさんは、ゆっくりと引き金を引いた。
「カシュン」
軽い音がして壁に穴が開き水がチョロチョロと流れ出した。
フーカさんはまるで釘打ち機で釘を打っていくようにしてイルルヤンカシュのハマった壁に術式武具を当て穴を穿って行く。
はあ~、便利な道具だなあ。
イルルヤンカシュのハマった穴は地面と外壁に接しているので穴を穿つのは接していない部分のみとなる。
フーカさんは手慣れた様子でくるっと穴を開けると水がキレイに噴き出しイルルヤンカシュの身体を濡らしていった。
床の溝を流れる水をチロリチロリと舌でなめとるイルルヤンカシュ。
しばらく水をなめ続けていたイルルヤンカシュはむくっと首をもたげるとぐるりと回転し始めた。
『ガラガラガラガラ!』
音を立てて崩れ落ちる壁。どうやら元気を取り戻したイルルヤンカシュのパワーとフーカさんが開けた穴の影響で坑道どん詰まりの壁が崩れちまったらしい。
「うわっ!」
もうもうと立ち込める土煙に俺は思わず左手で鼻と口を塞ぎ、右手で風魔法を発生させる。
崩れた壁の向こう側に向かって押し戻され土煙は霧散し視界が開ける。
壁の向こう側は空洞になっており奥に薄っすらと光を反射する水たまりが見える。
俺はライトの魔法を使い空洞内を照らした。
奥に見えたのはどうやら地底湖のようだ。そして、地底湖からは薄っすらと水があふれているのか俺たちが壊した壁方面の地面が濡れている。その水が排水溝から流れているのだろう。
「なんて美しいのでしょう。まるで水の精霊の住処のようですねえ」
うっとりとして言うフーカさんだったが、青く光る地底湖の水面は時折うねり水中にいる巨大な生物の動きを予想させる。まさか。
俺は水中の気配を探る。
「フーカさん、近付かない方がいい。湖の中に大きな生き物がいるよ、そいつは恐らく……」
「イルルヤンカシュですか?」
「たぶんね」
『ドプンッ』
水音がし俺とフーカさんは思わずビクリとして顔を見合わせてしまう。
「ケイトさんを呼びましょう」
「それがいいと思う」
フーカさんが言い俺は即答する。
と、その時。
地底湖から音も無く這い出る大きな物体が視界に入る。
イルルヤンカシュだ、それもかなりのデカさの。穴にハマってた奴より二回り、いや下手すりゃ倍はデカい。
「シャァァァァァァァ」
そいつは静かに鎌首をもたげ俺たちを威嚇した。
「シャァァァァァ!」
穴にハマっていたイルルヤンカシュが向きなおり湖から這い出たデカブツに向かって果敢に威嚇した。
「この子」
「どうやら俺たちを助けようとしてるようだ。俺も加勢する、なるべく誰も傷つけないようにするから早いとこケイトを呼んできてくれ」
「わかりました、ご武運を」
短く答えたフーカさんは飛ぶような速さで来た方向へ走って行った。いいね、うだうだ言わない感じ、プロっぽくって小気味良い。
って感心している暇はないや。
湖から這い出て来たイルルヤンカシュが助けたイルルヤンカシュに向かって凄まじい速さでアタックをかける。
俺はゲイルダッシュでイルルヤンカシュに体当たりをする。
身体がバラバラになりそうな衝撃を感じ俺は弾かれる。
転がりながらイルルヤンカシュを見るとヤツは攻撃対象を俺に切り替えたようで、ゆっくりとこちらに向きなおった。
ヤツの首がたわみ力が満ちる。
なるべく傷つけないようにするとは言ったが、果たしてできるかどうか。
頼む、ケイト早く来てくれ。俺はイルルヤンカシュを睨みつけながら祈るように思うのだった。




