乗るっきゃない!この大波にって素敵やん
裏門で拘束された男達を見張っていると、小気味の良い音がして魔導二輪が二台やって来た。
「すいませんね旦那、見張って貰っちゃって」
「うちのものがまた助けられたようで、なんと言って良いか」
魔導二輪から降りて来たのは笑顔のスリングさんと、申し訳なさそうに頭を掻くモルツ中尉であった。
「いやいや、助けられたのは自分ですよ。スリングさんがいなければまた同じ事を何度も何度も説明しなけりゃならない所でしたから」
俺はモルツ中尉に言った。
「そう言って貰えると助かりますよ。では、後はうちでやりますのでクルース君は試合に行ってください」
「大丈夫なんですか?」
「ええ、お時間とらせてしまいました。早く、行ってください」
「ありがとうございます。何かあったらいつでも連絡ください!」
俺はモルツ中尉とスリングさんに手を上げグラウンドへ走った。
「ふぅ、どうよ調子は?」
「トロール打線に苦しんでますよ」
ケイトは拳をギュッと握ってそう言った。
「トロール打線?なんじゃそりゃ?」
『ガッキィィィィン!』
俺の疑問と共に強烈な打撃音がし白球が空に吸い込まれる。
相手チーム側ベンチの観客が歓声を上げ、ケイトが気にするな!切り替えて行こう!と檄を飛ばした。
「これですよ。レッドブライアンツの打線はオールクリーンナップ級の豪打を誇るのです。それで、ついたあだ名がトロール打線」
五回裏レッドブライアンツに二点が入る。トータルで見ると七対九でレッドブライアンツのリードとなっている。
キャッチャーのジンジャーがタイムを取りピッチャーマウンドへ向かう。
「思い切って例の球で行こう」
「でも、まだものになってないから」
「大丈夫、私が身体を張ってでも受けるから。絶対後ろにこぼさないから」
「…わかった、やってみるよ」
メイが頷きジンジャーもそれに応え頷くとキャッチャーポジションに走って戻って行く。
「頑張って」
隣でケイトが思わずつぶやく。
次の打者が打席に着く。がっちりしたいかにも飛ばしそうな打者だ。
打者はニヤリと不敵な笑みを浮かべるとポジションに着いた。
審判が再開の合図をしメイは大きく振りかぶる。
メイの投げた球はすっぽ抜けたのか打者の胸元インコース高めに飛ぶ。
打者は軽く胸を反らしジンジャーは腕を伸ばしその球を受ける。
「ボール!」
「危険球だろ!」
「打たれたくなくてデッドボール狙いか!」
「ひっこめヘボピッチャー!」
審判が叫び相手チームの観客がヤジを飛ばす。
ジンジャーが球を戻し受け取ったメイはその球を盛んにズボンの太ももで拭いている。
「次こそ、次こそ」
隣のケイトが祈るようにつぶやく。
メイは呼吸を整え大きく振りかぶる。
高い位置から放たれた球はまたもや打者の胸元インコース高めに飛ぶ。打者が胸を反らそうとする。が、その球はグイグイと曲がって下がりジンジャーのミットに鋭く突き刺さった。
「ットライックー!」
審判が叫び場内が静まり返る。打者の顔からニヤツキが取れる。
「やった!やった!やった!」
ケイトが喜び席を立ち飛び跳ね、審判にキッと睨まれ恥ずかしそうに席に着く。
「なんだよ今の球?スゲーじゃん?」
「サウスレインボーズの投手さんから教わった球です。あれからメイさん猛練習していたんですよ、彼女、まだまだ成長しますよ」
ケイトが満面の笑みで言う。おうおう、そりゃ楽しみだよ。
「あの~?衛兵さんが呼んでいるんですけど、よろしいですか?」
管理技能員さんがすまなさそうに俺に声をかけて来た。
ぐぬぬぬ、これからがいい所なのに!
でも管理技能員さんにあたっても仕方がない。
俺は彼に続いて衛兵さんのところに行く。
衛兵さんは学園の応接室で待っており、俺は階級の高そうな衛兵さんと屈強な衛兵さんのふたりと共に応接室に残された。なんか、心なしか空気が重いような気がするんだが。
「ご足労願い申し訳ない、どうぞお座りください」
階級の高そうな衛兵さんに言われて俺は席に着く。
「私はジョン・アフレー、ムーモン衛兵隊の隊長をしています。こちらは副隊長のウィード・カーンです。よろしく」
アフレー隊長が言いカーン副隊長が一礼する。
「トモ・クルースです」
俺も自己紹介をし一礼する。
「試合の方も気になっている事でしょうから手早く話を済ませますね。本日はお見苦しい所をお見せして申し訳なかった」
アフレー隊長とカーン副隊長が頭を下げるので思わず恐縮して俺も頭を下げてテーブルに軽く頭を打ち付けてしまう。いちちち、俺って間抜けだなあ。
さすがに衛兵隊の隊長と副隊長さん、くすりとも笑わない。
「あなたのチームの試合日程はつかませて頂きました。そこでお願いがあるのですが、本日午後からの試合でまた同じような状況になったらまずはこちらにご連絡をお願いしたいのです」
そう言ってアフレー隊長は一枚の紙を俺に手渡した。
「こちらは我々直通の魔導通話番号になります」
「あの~、これはどういう事ですか?」
俺は紙とアフレー隊長を交互に見て尋ねた。これだけでは何の事かつかみかねる。衛兵内の不正を握りつぶせって事なのか?
「隊長、言葉が足りなさすぎですよ。彼の顔を見て下さいよ、怪訝そうな顔をしていますよ」
カーン副隊長が言う。
「ん?それはどういう事だ?」
「こちらの立ち位置や事情をまずは話さないと、これでは衛兵内の不正もみ消しに動いているのかとも取られかねないですよ」
「え?そうなのか?そうなのかねクルース君?」
アフレー隊長が慌てた様子で俺の顔を見る。
「ええ、まあ」
俺は答える。
「そうだったのか、それは済まなかった。どうも、私は口下手でいけない。カーン、続きは任せた」
「はい、ではまずは我々の素性からお話しましょう。ムーモン衛兵隊というのは衛兵隊内の治安と秩序を守るいわば衛兵隊の衛兵とも言える組織です。この度の押収品横流しについてなのですが、これはまだまだ氷山の一角だと我々は捉えているのです。アエシュマの売買に関して幾つかの大きな団体が一斉に地下に潜ったことはご存知でしょう。それに伴い、今までそうした団体と繋がっていた衛兵が雑な事をやりだしましてね。そうした団体の子飼いだった頃は団体もある程度の筋は通していましたからそこまで派手な事はさせなかったのですが、首輪が外れて無軌道になりましてね。うちとしても、そうした連中がいる事はつかんでいましたし、そうした連中を逆手に取り情報を収集していた側面もありますので責任はあるのですが、まあ、その事は置いておくと致しましてね。現状、首輪の外れた連中を野放しにしておくわけにも行きませんでね。大人しくしているのならばまだしも、派手に私欲を満たそうとし始めるとね。そこで我々はそうした連中の摘発に動く事になったのです」
「なるほど、わかりました。ですが、一応、念のために連絡を入れたい所があるのですが、よろしいですか?」
俺は尋ねる。
「ええ、勿論です。そのお相手とはもしかしてモルツ中尉殿ですかな?」
アフレー隊長が俺を見る。
「え、ええ。そうです」
「でしたら話は早い」
アフレー隊長はテーブルに乗っていた魔導通話機を手に取りどこかにかけると、幾らかのやり取り後に俺に手渡した。
「クルースです」
「ああ、モルツです。先ほどはどうも、ムーモン隊のアフレーさんに会われたそうですな」
「ええ、そうなんですが…」
俺はざっくり事情を話す。
「…はいはい、なるほどなるほど、アフレーさんらしいなあ。あの人も口下手だから。隣に副隊長のカーン君がいませんか?」
「はい、います」
「彼から話し出せばそうはならなかったでしょうにねえ。ふふっ、大丈夫ですよ。ムーモン隊はしっかりした隊ですし、そこの隊長副隊長は金に動かない正義の人として知られていますからね。彼らは信用できますよ」
「ありがとうございます。わかりました、ではおふたりの話を聞いてみます」
「ええ、悪いようにはしないと思いますよ」
少し笑いながら言うモルツ中尉に俺は挨拶をして通話機を切った。
「如何でしたか?」
カーン副隊長がにっこりと笑って俺に尋ねる。
「ええ、疑って申し訳なかったです」
「いやいや、こちらこそ疑念を持たせるような事をして申し訳なかった、これで我々の素性や目的はご理解いただけたと思う」
アフレー隊長が言う。
「ええ、では今日みたいな事があったらここに連絡します」
「ご協力感謝します」
アフレー隊長が言い、ふたりして頭を下げた。
俺も頭を下げる。今度はテーブルに頭をぶつけない。
なんだか妙な事になってしまったが、俺にも責任の一端はないとは言いきれない所もあったりなかったりするのでこの位の事は協力しておこう。
グラウンドに駆けつけると試合は終了し選手同士で挨拶をしている所であった。
スコアボードを見ると十対九でドギューズの勝利となっていた。どうやらあれ以来失点はなかったようだ。
ピッチャーのメイが覚醒したんだな。そして、うちの連中も良く打ったようだ。
もう、うちの連中を載せた薬物注意喚起ポスターでも作るか。
人生投げずに球投げよう!アエシュマ打たずに球打とう!ってなもんか。




