ゆっくり観てる暇もないって素敵やん
カヤマ学園サウスレインボーズとの試合で更にモチベーションをアップさせた我がドギューズだったが、それに伴って練習試合のオファーもドンドン入って来た。
忙しい時は一日二試合も組まれる程だった。
そして、試合と同じ数だけ俺の便利屋業も稼働していた。
驚いた事にカヤマ学園の事件後、害虫駆除のかたわら違法薬物絡み事案を見つけてしまい衛兵ざたになる事が少なくなかった。
その日も長い間使われていない倉庫の害虫駆除をしていたら、大量の個包装されたアエシュマを発見してしまい衛兵さんを呼ぶ事となってしまった。
まったく、全試合ちゃんと観れたためしがないよ。
「おや?クルースの旦那じゃないですかい。どうしてこんな所に?」
衛兵さんに混じって俺に声をかけて来たのはスリングさんだった。
「いや、害虫駆除の仕事で。ってスリングさんこそなんでこんなとこに?」
スリングさんは国防軍の軽歩兵部隊第四中隊、別名魔導化中隊というバイク軍団の軍人さんで、山の上の謎施設事件の時に世話になった人物だ。
「害虫駆除ですか?旦那も色々と手広くやっとりますなあ。わたしゃ、あれですよ薬物事犯の助っ人ですよ」
「そうなんですか?軍人さんが一般犯罪を追うなんて珍しいですねえ」
「別に珍しくはないですよ、我ら国防軍は元々近衛兵ですからね、昔から衛兵は宮廷、近衛は皇帝の警備をするってなわばりの違いはありますけどやってる事はそんなに変わらないもんでさあ」
スリングさんは笑うが、恐らくそれは一緒に仕事している衛兵さんに向けたリップサービスだろう。近衛兵と言えばどこの国でも精鋭中の精鋭部隊と相場は決まってる。一緒に捜査をしている衛兵さんのメンツを立てての発言は立派だ。
こういう状況だとどうしてもエリート意識みたいなのが出て、たかが現場は小さくなって邪魔すんなよ、みたいな傲慢な対応をしてもおかしくはないだろう。
実際に前世でもそうした話は古今東西良く聞く話であったし、サラリーマン時代も似たような事は目にして来た。
だから、スリングさんの器の大きさが俺には良くわかった。
「やっぱりあれですか?追跡術のプロとしての腕を買われてですか?」
俺は声のトーンを落として尋ねた。
「まあ、そんなとこですね。どうも、今までアエシュマビジネスを仕切っていた連中が一斉に地下に隠れちまったみたいでしてね、チンピラみたいのがここぞとばかりに好き勝手に動いているようでしてねえ。全体の流通量は減ったんですけど、今までにない場所で売ったりおかしな所に保管したりでトラブルが絶えませんでね」
スリングさんは意味ありげな目で俺を見てニヤリと笑った。ううむ、仕切ってた連中が地下に潜ったのは俺も関係ない訳じゃないからちょっと責任を感じちまう。
「いやいや、なにも旦那が責任感じるこっちゃないんですよ。全体的には減ってるんですから。ただね、今までに無かった事なんでこっちの対応に難儀してるってだけでね。こうやって変な所で突然見つかるでしょ?ジャンキーの間で噂になっちゃってるみたいでしてね。奴ら夜になると街をうろうろして空き家だの路地裏だのを探し回って住民とトラブル起こす事案も増えてましてね。下手な所に隠すと全部押収するぞって言う示威的行為としてあっしらが動いてるって訳でさあ」
「なるほど、そいつはご苦労様です」
俺はスリングさんを労った。それに似た話は前世でも耳にした事があった。シンナーや違法薬物の隠し場所に自販機の裏が使われているとかで、やたらと自販機の裏を探って歩く中毒者がいるとかなんとか。
中毒になっちまうとそれの事で頭がいっぱいになりまともな思考ができなくなる好例である。
売買するものもそう簡単にパクられないように頭を使ってるし、そうした連中は専門集団が背景にいるもんだ。
そんなものに手を付けて無事に済むわけがない。
まったく中毒ってな怖いよ。
「いやあ、なになに。ところで旦那、最近良く通報してくれてるらしいですけど、なにか理由があるんですかい?」
「ああ、実はですね…」
スリングさんに聞かれた俺は最近の事情について説明する。学園祭でベリンボールチームの親善試合がある事、そしてうちのベリンボールチームが弱小チームで人数も足りず助っ人探しや特訓に奔走していた事。そしてやっと人数が揃ったのであちこちの学園に練習試合のオファーを出している事。最初に受けてくれた学園で害虫駆除を頼まれた事をきっかけに、練習試合と害虫駆除がセットになってしまった事。
「…てな訳で、行く先々でこうした場所に立ち入る事が多くなりましてねえ。私も困ってるんですよ」
「ふんふん、なるほどねえ。やっぱり旦那、持ってますねえ」
俺の説明を聞いて感心するスリングさん。
「なんですか?彼も所持してましたか?」
近くにいた衛兵さんが鋭い目をこちらに向ける。
「いやいやいやいや、そういう意味でなくて引きが強いと言う意味でしてね、彼、こうした現場通報初めてじゃないんですよ。それで事情を聞いていましてね」
「ああ、そうでしたか。それは失礼いたしました。これからもご協力お願いします」
スリングさんの説明に納得したのか俺に敬礼をする衛兵さん。俺もあわてて敬礼する。
「それじゃああれですね、試合の行方が気になって仕方ないんじゃないですか?旦那」
「そうなんですよー、まともに見れたためしがないんですよー」
「さっきチラッと見ましたけどねドギューズってチームが勝ってましたよ」
「マジっすか?それうちのチームですよー。そうでしたかー、良かった良かった」
「まだ途中でしたから結果はわからないですけどね」
「それでも嬉しいですよ」
俺は喜んだ。
「ふふっ、そういう顔もするんですねえ旦那」
スリングさんが笑う。
「しますよー」
俺も笑う。
「そういう顔を見ると旦那も学生さんなんだなあって思いますよ」
「いやー、自分は普通の学生ですよ」
「あっはっは!普通って事はないでしょう!冗談キツイですよ」
スリングさんはそう言って豪快に笑い俺の肩に手を回して顔を近づけた。
「旦那、静かに聞いて下さいね。これからひと芝居打ちますんでお付き合い願えますか?」
「え?ああ、はい」
なんだかわからないけど俺はとりあえず了承する。
「え?校長に報告する?ああ、ちょっとお待ちくださいね、自分もご一緒しますから。ああ、スイマセン、彼、ここの掃除を頼まれていたそうでこの件を校長に報告する義務があるとおっしゃられる。自分もご一緒しますんで、ここはよろしくお願いします」
「はい、お疲れ様です」
スリングさんに声をかけられた衛兵さんは快く返事をした。
俺は愛想よく行きましょう行きましょうと言うスリングさんに続いて倉庫を出る。
「どうしたんです?」
俺はスリングさんに尋ねる。
「いやー、利用してしまってスイマセン。実はですね、押収したアエシュマの量が違っている事が続いてましてね。誰かが現場で持ち出している可能性が高いんですよ」
物陰に隠れたスリングさんが俺に小声で話す。
「それって、犯人は衛兵さんって事ですか?」
「考えたくないのですが、そうとしか思えないのですよ。何か理由がないとなかなか単独行動もとりずらい状況でしてね。申し訳ないです」
「いや、それは構わないんですけど、大丈夫ですか?」
俺は衛兵隊と一緒に捜査しているスリングさんの立場を心配した。もし盗んだのが衛兵だったら、それを告発してそれからも衛兵と一緒に捜査ができるのだろうか?
「ふふ、旦那はやっぱり優しいですな。今後の合同捜査に支障が出ないか心配してなさるんでしょ?それなら心配いらないですよ、元々、これが本当の仕事ですんでね」
「そうなんですか?」
俺は驚いて聞く。
「ええ、押収したアエシュマを抜いている衛兵を発見するのが今回の仕事です。今までの調べで押収品を持ちされるのは現場確認のこのタイミングしかない事がわかりましてね。後は自然に自分が現場を抜けるにはどうしたらいいかが問題でしたが、旦那が居てくれて助かりましたよ」
「それは、まあ、はい」
俺は何と答えていいものかわからず、微妙な返事をしてしまう。ううむ、なんともシビアな仕事だよ。
「お?網にかかったみたいですな」
倉庫からひとりの衛兵が出て来たのを見てスリングさんが小声で言う。
衛兵は周りを見渡し小走りで移動を始めた。
スリングさんは足音を立てずに彼を追跡する。
俺もそれに続く。気配をなるべく殺し、スリングさんとも一定の間隔を保ち俺は続いた。
衛兵は学園の裏門に着くと周囲を見渡す。
「遅いぞ」
三人の屈強な男達が出てきて衛兵に声をかける。
「バカ野郎、これでも急いで来たんだよ!」
衛兵はそう言うとポケットから個包装された粉を取り出した。
「はい、そこまでー。皆さん、両手を上げて頭の後ろで組んで下さい」
スリングさんは術式武具を構えながら男達に告げる。
「クソッ!つけられてんじゃねーよ!」
ひとりの男がそう叫ぶと懐から球体を取り出し地面に叩きつける。一瞬目が眩むほどの光が発生する。俺は即座に目を閉じゲイルで宙に飛ぶ。
上空で目を開けると通用門の前ではスリングさんが倒れている男達の後ろ手に拘束具をハメている姿が目に入る。視線を移動させると、先ほど球体を投げつけた男が素早い動きで逃走しているのが見えた。
俺はゲイルで飛んでそいつに追いつくと後ろから空雷弾を喰らわした。
「ヒョンッ!」
逃げた男は奇妙な声を上げてそのまま昏倒した。
俺は男を背負ってスリングさんの所に戻った。
「おお、取り逃がした男ですか?助かりますよー」
地面に寝かされた男達の脇に立ったスリングさんが俺を見て笑顔でそう言った。
「いや、出過ぎた真似をしちゃいました」
俺はそう言って背負っていた男をスリングさんの前に置いた。
「いやいや、普通の学生さんだったら一応注意はしますけどね。旦那は別ですよ、旦那はね」
スリングさんは俺が置いた男を拘束しながらそう言った。
「ついでといっちゃなんですが、ちょっとここ任せてもいいですか?報告入れておかねばならないんで」
「ええ、構いませんよ」
俺が答えるとスリングさんは風のように去って行った。
これは今日も試合がまともに見れなさそうだぞ。




