行け行けドギューズって素敵やん
ビッグフォールズとの試合が評判になったのか練習試合の申し込みが引きも切らない状況となってしまった。
喜ばしい事なのだが、どういう訳か俺の害虫駆除もセットになっていて今度の試合も俺の出番は害虫駆除であった。もしかして、ドギューズと試合すると害虫駆除がセットでついてくるってんで評判になっとるんじゃあるまいな?今後もこの調子ならハルハ辺りに害虫駆除の秘訣を聞いておくかな?でも俺は精霊術使えないしなあ。
マスターホフスに教えを乞うにしても、今からの付け焼刃じゃあ通用しないか。
まあ、今まで通り霧に帯電させての電気駆除でいいだろう。
このやり方だと室内にある物がちょいとばかりしっとりしちまうってデメリットはあるけど、他の駆除業者のように薬物を使わないのでその点は環境に優しいのであった。
まあ、環境に優しいなんてのは散々環境を破壊して来た前世のような社会でないと売り文句にはならないんだけどな。
今日の試合はファルブリングから列車で三十分程の距離にあるカヤマ学園。ベリンボールチームの名前はサウスレインボーズと言いこの辺りでは評判の強いチームらしい。
さっさと害虫駆除を済ませて試合観戦と洒落込もう。
「って、デケー――!!」
管理技能員さんに教わった目的地である第二用具置き場の前に来た俺は思わず声を上げてしまった。
用具置き場、それも第二という響きからこじんまりした小屋を想像していたのだが、目の前にあるこれはちょっとした体育館だ。
カヤマ学園はかなりのお金持ちでないと入れないとは聞いていたが、それにしてもこれはやりすぎだろ。しかも金持ち校ならこれ位は業者に頼めよ。それともあれか?金持ち程ケチだって言う奴か?
それ位じゃないと金は貯まらないってか。
借りた鍵を使ってトビラを開けた俺は素早く中に入りトビラを閉める。
管理技能員さんの話では倉庫内に大量のネズミが発生したのだとか。
ネズミねえ。
ネズミってのはなかなか厄介なのよ。何しろあいつらは頭が良くて学習能力が高いんだ、トラップを仕掛けてもすぐに避けて通るようになるんだと聞いた事がある。
しかし、食料貯蔵庫でもない普通の用具置き場にネズミが大量発生するってのもおかしな話だな。
どこかに大量に食料がしまってあったりするんじゃないのか?
「チュチュチュ…」
ネズミの泣き声がして物陰を小さな影が走り抜けるのが視界の隅に映る。
「いるなあ」
俺は思わずしかめっ面になる。ネズミと言えばやっぱり伝染病が頭をよぎっちまう。
さてと、ネズミ退治と言えば思いつくのは罠と毒餌くらいだが罠を作ってる暇もないし毒なんて持ち合わせはないので、虫駆除と同じ電気で行く事にする。
電気で倒したネズミはトングを使って背負い籠に入れる寸法だ。トングと籠は共に管理技能員さんに借りた物だ。
呼吸を整え周囲の気配察知を行うがなんだかいつものようにサーチできない。
ぼんやりした感じにしかつかめないぞ?
「おかしいな?」
妙に変だな~、嫌だなぁ~怖いなぁ~。魔力の精製に違和感を感じる。これは、あれだ、魔力疎外効果のある場所と同じ感じだ。魔力を練っても練っても手ごたえがない感じ。
倉庫の外壁にそういう効果がある素材が使われているのか?
わからないものはわからないんだから仕方がない。現状できる事をやるしかない。
気配察知はせずに自力でネズミを探して駆除するとしよう。
「チュチュウチュウチュウ」
壁際を走り抜けるネズミに空雷弾をお見舞いする。ネズミはひっくりかえって動きを止めた。俺はトングでネズミを突いてみるが起き上がる事はなかった。
「ふう、どうやら通じるようだ」
一先ずネズミ退治はできるな。
俺は自力でネズミを探しては威力の落ちた空雷弾で退治していく。
静かに移動しないとネズミの奴はすぐにこちらの気配を察知して逃げちまう。
俺は音をたてずにネズミを探す。
よく見るとあちらこちらに食い物の欠片が落ちているぞ。芋の欠片や果物の皮、豆等々。
おかしいぞ?管理技能員さんの話では普段は鍵をかけており人の出入りはないはずだ。室内には至る所に埃がつもり俺の歩いた場所には足跡がついている。
足跡は俺のものしかない、なのに芋や豆が散らばってるのはなぜ?
落ちている物はまだ腐ってない所からみても最近バラまかれた物だ。
「コンッ!コロコロコロ」
部屋の奥から何かが飛んできて小さな音を立てて地面に転がった。
俺はそれにそっと近づいてみる。
手に取って確かめるとそれはナッツだった。
「コンッコンコンコンッ」
またもや奥から何かが飛んできて俺の近くに転がった。調べて見るとやはりナッツであった。
奥に誰かがいるという事か?
俺は気配を消して静かに奥へと歩みを進める。
身をかがませて物陰に隠れてゆっくりと先へ進む。
管理技能員さんは元々人が立ち入る場所ではなく、ネズミが発生してからは鍵を閉め誰も立ち入らないようにしていると言ってた。そんな中に居るヤツなんて碌な奴ではあるまいよ。
どうやら奥には別の部屋があるようで、微かに人の声が聞えてくる。
「……とけよ」
「わかってる」
「豆だけじゃねえ、芋とチーズもまいとけよ?」
「わかってるって」
「わかってねーから言ってんだ、お前はいつもチーズは自分で食っちまう」
「いつもじゃねーって、この前だけだってー、もーっ」
「モーじゃねー、牛かお前は?」
なんとも間抜けな会話だが、どんな素性の奴なのかわからないから油断はできない。
俺は気配を薄めゆっくりと奥へ進み、次の部屋に続くトビラの影に隠れる。
「遅いっすねアニキ」
「黙ってまいてろ」
『コンコンコンコン』
トビラをノックをする音が聞える。
「誰だ?」
アニキと呼ばれた男が誰何する。
「南の山から灰色蜘蛛を捕まえに」
「灰色蜘蛛は売り切れです」
「ならば代わりに黒ヒキガエルで」
「入れ」
おかしな問答で入室を許可するアニキぶん。そりゃ合言葉のつもりか?
一体こいつら何を企んでるんだ?俺はトビラの影に身を潜めこいつらの動向を見守る。
「で?幾ら欲しいんだ?」
「とりあえず二袋」
「よし、ケン出せ」
アニキぶんが言う。
「おっと、まずは金だ」
「こ、これでいいですか?」
「へへへっ、それじゃあ足りないな」
「えっ?この値段だって聞いたんですけど?」
「最近締め付けが厳しくてねえ。ブツが出回らないのよ。品薄になれば当然値段は上がるもんだ、あんたもこんな賢いとこの学生さんならわかるだろ?市場の原理って奴さ」
「ううっ、そんな~。これしか手持ちがないんですよ~」
「手持ちはなくても部屋に戻りゃあんだろ?なんのためにわざわざこんなとこで商売やってると思ってんだ?お金持ちのお友達から借りて来ればいいんじゃないか?ん?どした?いらないのか?他じゃあ手に入らないぞ~?こんな純度の高いアエシュマは~」
はい、アウトだな。
俺は部屋に勢いよく飛び込むと天井に向けて鉄鋼弾を放つ。魔力疎外のせいで硬度の高い鉄が錬成できず飛び出た球は派手な音を立てて弾けた。
天井から砕け散った土くれがパラパラと落ちる。
「なっ、なにもんだテメー!」
「どこから来やがった!」
部屋の中には小さくなっている男子学生といきり立つふたりの男の姿。テーブルの上には個包装された青白い粉。
「どこって普通に入り口からだよ。それよかお前ら学園内で違法薬物販売とは随分大胆な事をしてるじゃねーか」
「はんっ、運の悪い奴だぜ。ケン、そいつを見張ってろ逃げねーようにな」
がっちりした男はもうひとりの男にそう言うとゆっくりと俺に近付いて来た。どうやらこいつがアニキぶんのようだな。
アニキぶんは指をポキポキと鳴らしながらこちらに歩いて来る。
俺は指をそいつに向け空雷弾を連射する。
パチパチと軽い音を立て男の腹で弾ける空雷弾。
「うおっ、なんだなんだ?術式か?残念だったな、この倉庫の地下にゃあ魔力疎外鉱石が埋まってんだよ、だから元々は危険物置き場だったんだが、今は魔学が進んでもっと安全に保管できる方法ができたってんで使われなくなったのさ」
アニキぶんは身体の表面を払うとニヤリと笑ってそう言った。
「へえ、随分と物知りだね。こんな事しなくても食えて行けるんじゃない?」
「あいにく、これより儲かる仕事を知らなくってねっ!!」
アニキぶんは大ぶりのパンチを繰り出してくる。俺は手を交差させてそれを受ける。
「!!」
男の力は思ったよりも強く俺は防御したまま後ろにぶっ飛ばされてしまう。
「へっへっへ、さっきまでの余裕はどうした兄ちゃん?こっからは狩りの時間だぞ?」
男は壁に立てかけてあったスレッジハンマーを手に取り怖い笑みを浮かべて俺に向かって歩いて来る。
飛び道具は通用しないか。
「クソッ!こっち来るな!」
俺はちょこまかと逃げ回りながら手当たり次第に周囲にあったものをアニキぶんに投げつける。
「無駄な抵抗はやめろよ、自分が苦しむだけだぞ?大人しくしてりゃ、いっぱつでケリをつけてやるからよ」
アニキぶんは俺の投げた物を避けもせずに笑って言う。
「わぁー!来るな来るな!」
俺は見苦しく叫びながら近くにある軽くてぶつかってもダメージが無い物選んでを奴にぶつける。
「だから無駄だと言ったろう?」
アニキぶんはスレッジハンマーを振り上げる。
「わぁー!やめてくれー!」
俺は叫びながら今度は近くにあった鉄製のブロックを投げつけた。
「だから無駄だと、あうんっ!」
俺の放った鉄のブロックをまともに眉間に喰らい目を白黒させるアニキぶん。俺はダッシュで奴に飛び込み持っていたスレッジハンマーを奪い取った。
「ごくろーさんっ!!」
俺はスレッジハンマーを振り上げヤツの肩辺りを狙って振り落とした。
「ふんがーーっ!!」
アニキぶんは叫びながら腕を振り回しスレッジハンマーの柄を払う。
「ぬおっ!!」
なんちゅーパワーだこいつは。ハンマーの柄が折れちまった。
「これでも喰らえ!」
俺は手元に残ったハンマーの柄で思い切り男の頭を叩く。
柄はアニキぶんの頭で砕け散る。なんつー石頭だ。
「もう許せねえ!ぶっ殺す!」
アニキぶんはそう言って頭をこちらに向け突撃してくる。
俺はしゃがんでそれを避けアニキぶんの足を払うようにして地面を転がる。アニキぶんは派手に倒れたがすぐに立ち上がり向かってくる。
アニキぶんはやたら滅多パンチを繰り出す。スウェーで避けながら後ろに下がるが何かがふくらはぎに当たり俺は後ろに倒れてしまう。
顔の上をすさまじい勢いのパンチが通り過ぎる。
アニキぶんは俺に向かって拳を振り下ろす。
どうやら俺が寝転んでいるのは長椅子のようだ。
俺は長椅子の上を転がりアニキぶんの拳を避ける。後転してイスから降りた俺はイスを持ち上げてヤツのパンチを避ける。
「うわっち!」
イスの座面は相当丈夫な材質で出来てるようだ、アニキぶんは手を振って顔をしかめている。
「今度はこっちの番だ!」
俺はイスを持ち上げ足を持ってトンファーのように振り回す。
「いたっ!いたたっ!っのやろ!」
アニキぶんは両手でイスを防御して猛牛のように頭を振り強烈なストレートパンチを繰り出す。俺は奴の目の前にイスを置きそこに寝転がりパンチを避けると同時にヤツの膝頭を両手でパンチする。
「んぎゃ!」
アニキぶんが潰された蛙みたいな声を上げ倒れるので俺は急いでイスから逃げる。アニキぶんはイスに腹ばいになった。俺は素早く立ち上がりヤツの背中に馬乗りになるとアゴをつかみグイグイと引っ張り上げる。いわゆるキャメルクラッチだ。
「ヌググググゥゥゥ!」
アニキぶんは苦しそうな声を上げるがまだまだギブアップとまではいきそうにない。
しぶとい奴だ。
俺は奴の首に肘を回し締め上げる。いわゆる裸締めって奴だ。そしてそのままキャメルクラッチに入る。
「んっ!ンググググ…」
さすがのアニキぶんもキャメルクラッチスリーパーホールドには抗えず、徐々に静かになり意識を失った。
「ったく手こずらせやがって。つぎはお前だな」
気絶したアニキぶんを長椅子に寝かしたまま俺はもうひとりの男に言う。
「あわわわわ、降参降参です。無抵抗、ね?」
もうひとりの男は両手を振って卑屈な笑顔を浮かべる。
「抵抗しないのは良い心構えだ。おい君、管理技能員さんを呼んできてくれたまえ」
俺は小さくなっている学生さんに声をかける。
「え?あ?私ですか?」
「他に誰かいるか?」
俺は慌てる学生さんをぎろりと睨む。
「行って来ます!」
学生さんは慌てて奥のトビラから出て行った。どうやら奥のトビラから外に直接出られるようだ。
「お前らはどこの者だ?」
「え?いや、別にどこのもんって事もないですけど」
「じゃあ、なんだ?個人でやってるのか?どこの後ろ盾も無く?」
「ええ、そんな感じですね」
ケロッとした顔でそう言う弟ぶん。
なんだよ感じって。
「お前なあ、どこの後ろ盾も無くて大丈夫なのかよ?こう言うのはよう、素人が手を出すと大やけどするぞ?」
俺は弟ぶんに言ってやる。
「いやー、そうなんすけどね、今は大丈夫なんすよー。なんでだか知ってます?」
弟ぶんはどや顔で俺に聞いてくる。こいつマジで懲りてないな、それともアホなのか?
「いや、わからないな」
「ここだけの話なんすけどねこの辺を仕切ってたチームがバックレちゃいましてね。なんでも仕入先の何とか商会だかががさ入れにあったらしくてとばっちりを恐れて行方をくらましたらしいんですよ。噂じゃもっと上に飛び火しないように消されたって話ですけど、俺達みたいなもんにすりゃあ千載一遇のチャンスって奴でね。捌きようがなくなって宙ぶらりんになってるブツを持て余してる奴を見つけましてね、そいつから仕入れて俺とアニキで少しずつ捌いてたって訳っす。なんせうちのアニキは頭が切れますからねえ、バイの相手は金持ちの学生に限定すれば外に情報は漏れずらいし金の回収もしやすいってんでね。もう、ウハウハっすよウッハウハ」
満面の笑みで言う弟ぶん。こいつやっぱりアホだな、自分が置かれている状況がわかってないとみえる。
「へえ、そうなのか。そりゃあ、すげー」
「でしょーでしょー?」
やっぱこいつアホだ。仕入れの大元も供給担当も飛んでフリーになってるって言うが、そりゃ官憲の締め付けが厳しくなるからだって事がわかってない。
衛兵関係に情報源がないんだろうな。
なんにしてもこの程度のやつらじゃ、早い段階で捕まるか別の奴に取って食われるかの二択だろう。
「つっ、連れてきました」
さっきの生徒が管理技能員さんを連れて来たので俺は事情をすべて話した。
管理技能員さんからこの話を聞いた校長はすぐに衛兵隊に連絡をした。俺は隠ぺいしない事に驚いたが、さすがにこのレベルだと隠ぺいは無理か。
アニキぶんと弟ぶんは衛兵さんに連行され、倉庫内に置いてあったアエシュマは押収された。買いに来た生徒は実際にお金のやりとりは行われていなかったという事で厳重注意と事情聴取で済む事となった。相手がケチで良かったな。値上げせずにスムーズに受け取っていたら罪は重かったぞ?
生徒は十分に懲りたのだろう、項垂れ憔悴した様子であった。
俺は害虫駆除の仕事中に起きた事だという事で衛兵さんも疑う事はなかったが、こういう場合はすぐに衛兵に連絡するようにとたしなめられはした。
冒険者証を見せれば話は違ったかも知れないが、俺としてはさっさと仕事を済ませて試合を観たいので素直に謝っておいた。
そして、ネズミの駆除を速攻で済ませた俺は走ってグラウンドに向かった。
「どうだ?様子は?」
「それが、相手の投手がなかなかのものでして…」
歯切れの悪いケイトの言葉を受けてスコアボードを見ると、五回の裏ドギューズの攻撃、1対0でサウスレインボーズのリードとなっていた。
バッターは強打者のジンジャー、相手側の投手はかなりの長身だった。
「見ていて下さい」
相手側の投手が振りかぶるとケイトが静かに言った。
俺は集中して見る。
大きく振りかぶりかなりの高さからボールが放たれる。
ボールはすっぽ抜けたのかかなり高めに飛んできたと思ったら打者の近くでアウトよりの低い位置にズバッと曲がり落ちた。
「ットライックッ!」
審判が叫ぶ。
「凄い高低差です。しかも下がった後も球威が衰えません。あれはキツイですよ」
ケイトが難しい顔で言う。
「うちの選手たちも良い守備を見せているんですけどね。一点の壁が余りにも高いんです」
「なるほどな、確かにあの投手を攻略するのは難しそうだな」
相手側の投手の次の球は速球のストレート。ジンジャーはなんとかバットを当てるがうち遅れた球は一塁に鋭いライナーで飛んだ。
ファーストは危なげなく捕球、バッターアウトとなる。
むむむ、うち一番のバッターがこれではかなり厳しいぞ。
「あのーすいません」
いいところで声をかけて来たのは管理技能員さんだった。
「はい?どうしました?」
「衛兵さんが呼んでまして、すいません」
管理技能員さんがあまりにも申し訳なさそうに言うので俺は文句も言えず衛兵さんのもとに向かう事となった。
俺を呼びつけた衛兵さんはさっき話した人とは違う衛兵さんで、どうやら階級が上の人のようだった。
その階級上の衛兵さんは今まで聞かれたのとまったく同じ事を俺に聞き、俺はまったく同じ話を繰り返す羽目になった。
まあ、前世で空き巣に入られた時に通報した時もこんな感じだったからな。最初に到着したお巡りさんに微に入り細に入り、それこそこの家に最近出入りした人の事や自分の今日の行動に至るまで聞かれて話し、その後に来た刑事さんにもまったく同じ事を聞かれてまったく同じ事を話し、刑事さんが帰った後に別のお巡りさんにまた同じ事を話したりしたもんだ。
なぜそんなに何度も同じ事を聞くのか、後になって調べた所それにはきちんとした理由があった。供述の矛盾や嘘を見抜くため、何度も聞く事で新たな事実が出てくる可能性、供述調書の精度を高めるためなどなど、それは市民を守るためでもあったのだ。
結局たいしたものが盗まれていなかったからか、その後犯人がどうなったのかも知る事はなかった。
そんな経験もあるのでこうした事にも別に腹は立たない。
立たないが、試合が気になって仕方ないのは確かだ。
俺は丁寧に覚えている限りの事を話した。
階級の高い衛兵さんは幾つかの質問をすると、帰って良いよと軽い調子で言った。
俺はお世話様でしたと挨拶をして再びグラウンドへダッシュする。
「わぁ~、もう終わっちまったか~」
グラウンドでは選手たちが握手をし健闘をたたえ合っているところだった。
スコアボードに目をやると1対0でドギューズの負けであった。
「負けちまったか~。選手たち、へこんでなきゃいいけど」
「大丈夫です、ドギューズは強くなりますよ。見て下さい」
ケイトはグラウンドにいるうちの選手たちを見て言う。
「あなたのピッチングホントに凄かった。どうすればあんなにイキの良い球投げられるの?」
メイが相手投手に問う。
「あなたの球も良かったけど、思い切りが足りないかな~?」
「思い切り?」
メイは更に問う。
「そう、私ね毎回投げる時にね命を賭けて捻ってるのよ。もう、全身全霊を込めて曲がれって心の中で叫びながらね」
そう言って相手側の投手はメイのお尻をポンポンと叩いた。
メイは驚いて目を丸くした。
「うふふ、あなた良い投手になるわ。今よりもっともっと良い投手にね。またやりましょ」
相手側の投手はとびきりのスマイルでそう言った。
「私、メイタム・オルリッツ、メイって呼んで」
「ルイエット・カンパン。ルイでいいわ。また会いましょ」
くぅ~!痺れる!これよこれ!強敵と書いてともと読む!これでなきゃ!
グラウンドを見ると他の選手たちも同じような話をしている。あの内気なソロや無愛想なシーボーすら熱く話し合っている様子。
「確かに、強くなるな彼女たちは」
俺はケイトに答える。
ケイトは満足そうに頷くのだった。




