さらに進めドギューズって素敵やん
「皆さんに朗報があります!」
ランブルーズとの練習試合翌日。俺達はケイトに呼び出され部室に集まっていた。
「なに?ケイトちん?こんな朝早くから」とマー。
「う~、眠すぎる。目が重い」とみっちょん。
「それな、おやすみ」
「シーボー寝るなし」
同意して目を閉じるシーボーにツッコむベーヤン。
「み、み、皆さん!監督の話を聞きましょ!お願いします監督!」
ソロが言い、ケイトが頷いた。うむ、強くなったなソロ。
「本日、ミルコ学園と練習試合が組めました!」
「皆さん拍手!」
ケイトの発表にジンジャーが即答しみんなが拍手をする。
「やるじゃんケイトちん!」
マーがケイトに言う。
「実は昨日パーキンズ先生から連絡がありまして、練習試合の話をミルコ学園の友人に話したところ、是非にと言ってくれたそうでして。うちの運動場を使えるのなら今日にでもと話が固まりました。昨日の今日で大変でしょうけど、身体を壊さない程度にやりましょう。特に投手のメイさんは今日は肩を休めるためにポジション変更で行きたいと思います。それでいいですよねメイさん?」
メイが肩をさすりながら頷く。確かにメイは夜の賭けベリンボールで投げてはいたが、ひと試合フルで投げるような連投は普段しちゃあいなかったんだろう。前世で聞いた事があるのだがボールを投げる動きってのは人にとって不自然な動きなんだそうだ。特に投手の肩の動きってのは非常に負担がかかるのだとか。それを考えるとメイには無理をして欲しくはないな。メイはまだ若い、まだまだ幾らでも可能性があるんだ。
「え?マジで?それヤバくない?」
ケイトの話を聞いたべーやんがダルそうに言う。
「私とメイでポジション交換しようか。メイほどじゃないけど、少しは投げられるし」
「それがいいと思う、守備練習だと思って思い切りやろうよ」
ジンジャーの提案にメイが乗り、皆はそれならやってやると気合を入れたのだった。
俺達は試合場所であるミルコ学園へと一路向かう事となる。
なぜ向こうさんでやる事になったのかと言えば答えは簡単、うちの運動場はこの間の練習試合相手である地元子供ベリンボールチームのバンバンズに貸しているからなのだった。
そうして我々ドギューズのメンバーは昨日に引き続き魔導列車で移動する事となった。
今回は特急ではないので高級食堂車で奢る羽目にはならずに済んだ。
だが結局、食堂車はあるわけで俺はそこで奢らされる羽目にはなったのだが。
これじゃあ相撲の谷町だぜ。こいつら、なんでもかんでもごっちゃんですって飲み込んじまうんだもの。
ケイトやメイに、すぐに試合があるんだからあんまり腹を膨らませないように言われても、腹八分目にもなってないと言いながら連中はめっちゃ食いやがった。
ジンジャーまでが部員達と同じペースで食べたのには驚いた。
まあ、若者ががっつり食ってるトコを見るのは気持ちが良いもんだ。
そうして俺たちはミルコ学園に到着する。
「どうも~パーキンズ先生から話は伺ってます~。今日はよろしくお願いしますね~」
出迎えてくれたのはミルコ学園ベリンボールチームビッグフォールズの顧問であるリンダ・リヒテン先生だ。
大柄な女性の先生で何と言うか非常に貫禄のある先生であった。
リヒテン先生の案内で運動場へ向かった俺たちはグラウンドで練習を済ませると早速試合という運びになった。
「「「お願いしまーすっ!!」」」
並んだ選手たちがお互いに挨拶をする。心なしかドギューズの選手たちの目には相手を食ってやるという気概が感じられた。
ビッグフォールズの先攻で試合は始まる。
にっこりと笑ってピッチャーマウンドについたジンジャーは、キャッチャーポジションについたメイと何度かサインのやり取りをすると振りかぶった。
ジンジャーのピッチングフォームはグラウンドと投球する手がほぼ水平になっていた。いわゆるアンダースローって奴だ。
カッコイイ!野球に詳しくない俺でも少し憧れるものがある。
球は地面すれすれから放たれ登るようにホップし打者の臍下あたりで大きくアウト側に曲がった。
「ットライクッ!」
審判の歯切れの良い声が響く。
「やった!やった!」
ケイトが大喜びして手を叩く。子供みたいな笑みだ、なんだか監督をやってからのケイトは今まで見せた事のないような顔を良く見せるようになったな。
この経験はケイトにとってきっと良い物となるだろう。
ケイトの横顔を見て俺はそんな事を思うのだった。
相手チームもさるもので、最初の打者は打ち取れたものの次の打者はファールで粘った後にフォアボールで出塁。
三番打者はかなり大柄な選手で素振りも勢いがありいかにもな強打者。
ジンジャーの球はテクニカルではあったが球速がないので、力でねじ伏せるような戦い方はできない。
そんなスキを突かれたか、三角ベースでもっとも長い一、二塁間の盗塁を許してしまう。
序盤からピンチを迎えるドギューズ。
俺は思わず手に汗握ってしまう。
「あの~、スイマセン。クルースさんとはどなたですか?」
ハラハラして試合を見守っていると不意に声をかけられる。
「自分ですが?」
振り向くとそこにいたのは影の薄い丸眼鏡をかけたちょび髭のオジサンだった。
「ああ、良かった。来られてなかったらどうしようかと思いましたよ。失礼、私、管理技能員のライアンと申します、よろしくお願いします」
『ガッキン』
鋭い音を立てて打球が飛ぶ。
「あ!いや、スイマセン、ファルブリングカレッジのクルースですよろしくお願いします」
大きく伸びた打球は真っ直ぐにマウンドを抜けていく。きれいなホームランだった。先制二点を奪われてしまった。俺は気もそぞろでライアンさんに挨拶を返し握手をした。
もう、いったい何の用なのよ~?
「では早速なんですが、いくつかお願いしたい事があります。ご一緒願えますか?」
「え?あの~?なんの事でしょう?」
事態が飲み込めない俺はライアンさんに尋ねた。
「気にしない気にしない!切り替えて行こーー!!」
横でケイトが大きな声を出す。
「あれ?パーキンズ先生からファルブリングの生徒さんに施設維持管理の専門家が居ると伺ったのですが?」
「え?あ、あの~、え~と」
「ええ、彼がその専門家です。どうぞ、お好きにして下さい。よっし!!その調子その調子!ナイピッ!」
ケイトは応援のついでと言った様子でライアンさんに言い、俺を羽で押しのけた。くそっ!俺も試合観たいのに!
「ああ、良かった。では早速、こっちです」
俺はライアンさんに引きずられるようにしてグラウンドを後にするのだった。
どうやら俺の役割は谷町と試合の条件としての便利屋のふたつあるらしい。
やれやれだぜ。
「いやあ、本当に助かりますよ。まずは地下倉庫に巣くったスティングモスキートの駆除からお願いしますよ。どういう訳か勝手に湧き出して困っとったんです」
ライアンさんに連れられてやって来たのはおどろおどろしい地下室だった。
入り口からして苔むした石壁になんだか不気味な赤黒いしみが付いていてゴシックホラーテイスト満点だったし、地下は時折水滴が滴っておりいかにも何かがでそうな雰囲気だ。
スティングモスキートと言えば蚊の魔物だ。
「あの~、スティングモスキートって確か不潔な場所に湧くって聞いたんですけど、ここってかなり…」
「そうなんですよ~、随分人が入ってなくてですねえ。もう、中に何が入っているかもわからないんですよ~。困ったもんですよ、校長も蚊が湧くまでこんな所に地下倉庫があったなんて知らなかったって言うんですから」
ライアンさんはニコニコしながら言う。
「あの~、誰か中に入ったんですか?」
「いえ、誰も。確か、クルースさんはそうした事のエキスパートなのだとか」
おいおい、俺の事、どんなふうに伝えたんだよパーキンズ先生。特殊害虫駆除のエキスパートってか?
「ふう、わかりました。やりましょう」
こうなりゃヤケだ、ヤケのヤンパチ日焼けのなすびだ!やったろうじゃないの!
「ありがとうございます!いやー、本当に助かりますよ!これ地下倉庫の鍵です、どうぞ。ではお願いしますね!上で待ってますから」
俺がやると答えたとたんライアンさんは鍵を渡しそそくさと去って行った。ニコニコしていたがやっぱりこんな所に長居はしたくないようだ。
まあ、誰だってそうだろう、俺だってそうだ。
「ったく、ジメジメしてるしカビ臭いし身体に悪そうな場所だよ」
俺は湿った地下通路を歩く。地下の通路は先ほどライアンさんが入り口付近で何かの魔導器具を作動させてくれたので要所要所に明かりがともっており視界は効いている。
まあ、暗くてもライトの魔法を使えばいいだけの事なんだが、自前で使わなくてすむのは楽だから良し。
『ブイィィィィン』
通路の先から耳障りな羽音が聞えたかと思うと前方からスティングモスキートが三匹現れた。
俺は土魔法の鉄鋼散弾を連射。
向かって来たスティングモスキートは四散する。
地面に落ちた魔物を見る。魔物の大きさは段ボールほど。
口からはレイピアのような突起が幾つも出ている。しかもうち二本は側面がギザギザしておりこんなもので突っつかれてはたまったもんじゃない。
本当はこんな風に物理的ダメージで倒さなくても特殊な殺虫剤を噴霧すればキレイに倒せると聞くが、当然、俺はそんなもの持ってはいないので力でごり押しするしかない。
ひとまず通路に魔物はいなそうだ。
俺はそのまま進み重厚なトビラに突き当たった。
「頑丈そうに見えるけど、蚊が出てきてるんだからどこかに穴か隙間があるはずだよな?」
俺はトビラの周辺をくまなく探る。すると、トビラの下部石畳の一部が崩れているのが判明する。隙間の大きさはバレーボール大。スティングモスキートはこの穴より大きく見えるけど、羽や手足を折りたためば通れない事もなさそうだ。
と、思っていると突然隙間からスティングモスキートの刃物のような口がぬっと出てきてギョッとする。
観察していると口を突っ込んだスティングモスキートは、そのまま頭を穴にねじ込むとゴリゴリとこちらに向かって身をよじりながらやって来た。
「うえっ、気持ち悪っ」
俺は鉄鋼散弾を魔物に喰らわすと土魔法で崩れた床の石畳を修復する。こういうの久しぶりなんで、硬度的にどこまで丈夫かわからないがまあ、簡易的な補修だと後でライアンさんに言えば良いだろう。
俺はライアンさんから貰った鍵でトビラを開く。ゆっくりと。
トビラの向こうはライアンさんが言っていた通り確かに倉庫であった。
「しっかし、スゲー荒れっぷりだな」
そこかしこに崩れた棚が転がり、中に入っていたであろう何かが散乱していた。割れたガラス、ほぼ風化している本、砕けた石板等々。
「ズル……ズルズル」
生理的に嫌悪を感じさせるウェットな音。俺は呼吸を整え周囲を見渡す。何かの影が横切り崩れた棚の裏に隠れた。
なんだかわかんないけど、結構素早い動きに見えた。
俺は嫌な予感がして周囲の気配に気を配る。
先ほど、目視した棚の影には反応なし。何者かの反応はそこから移動しているようだ。
勘弁してくれよ。
俺は首筋に粟立つものを感じながら壊れていないテーブルの上に昇る。
何者かの気配は俺の周囲を回っていたが、その円は徐々に縮まってくる。
そしていよいよ、俺の足元近くに接近したその時。
「ピッギャァァァァァァ!!!」
ブクブクした奇妙な塊ががれきの間から飛び出し俺に襲い掛かって来る。
「うわっ!きもっ!」
俺は空雷弾を連射しとびかかる奇妙な生き物を迎撃する。空中で空雷弾を複数喰らったそいつはもんどりうって地面でぴくぴくと痙攣した。
「なんだこいつ?」
俺は地面に転がったやつをよく見てみる。
薄ら青い肌にヒダヒダ、膨らんだ下半身からは昆虫のような足が四対、更に毛むくじゃらの胴、そして目の無い頭部にはギザギザの歯が円形に生えた口。
何と言うか白アリのケツに獣の胴をつけその上にヤツメウナギをくっつけたようなキメラ生物であった。
「うわっ、マジキモ。なんなんだよこれ」
俺は痙攣している奇妙な魔物をひっくり返す。
う~む、キモイものってなんか目が離せないんだよな。
こいつ、ここでぶっ殺しといた方が良いのかな?一応、襲い掛かって来たもんな。
帯電させた空気塊をかなり喰らわしてやったが、こんな奇妙な生物がいつまで昏倒しているか知れたもんじゃない。
とは言うものの、ライアンさんには生きたままで見せた方が良いような気がしないわけでもない。
俺は昏倒している魔物の周りにある瓦礫をどかして、動き出してもすぐには隠れられないようにしておいた。
「しっかし、この部屋はなんの倉庫なんだ?」
俺は小山のようになった本だったものを足でつついてみる。風化してボソボソと崩れていく。これではどんな本だったのかもわからない。
「ブイィィィィィィィィン」
スティングモスキートよりも重い羽音がして部屋の隅から大きな球体状の物が浮かび上がる。
そいつはバランスボールサイズもあるハエ、アシッドフライだ。こいつは名前の通り強い酸を吐くのだ。ここにある崩れた物体の幾らかはこいつらの仕業か。
「ブシュッ」
アシッドフライが酸のヨダレを吐きかけてくる。
俺はゲイルでそいつを避けながら空雷弾でアシッドフライを撃ち落とす。こいつは身体を破壊すると周辺に酸をバラまくので注意が必要だ。
「バジジジジッ!」
空雷弾を喰らったアシッドフライは落下してひっくり返る。
虫系は電気が聞きやすい傾向があるような気がする。
俺は荒れ果てた倉庫内をくまなく探り隠れていた虫魔物もことごとく退治していく。
「いやあ、どうですか?おお!これはこれは、随分と沢山いたもんですねえ」
退治し積み上げておいた虫系魔物の山を見てライアンさんが声を上げる。
「ああ、どうしました?何かあったのですか?」
上で待つと言ったはずのライアンさんが現れたので俺は聞いてみる。
「いやなに、少し気になって来てたんですけど、おや?これは…」
ライアンさんは床に転がっている奇妙なキメラ魔物を見て考え込んだ。
「なんなんです?この魔物は?初めて見るんですけど?」
「これは……うん、間違いない。こいつはメイオニウステレピテウスですよ」
ライアンさんは何かに感銘を受けたかのように声を震わせてそう言う。よく見れば、手がワナワナと震えているよ。こいつが一体なんだってんだ?
「なんです?そのなんとかニウスってのは?」
「メイオニウステレピテウスですよ。絶滅したと考えられていた無顎類の魔物ですよ。ふうむ、これは実に興味深い、良くぞ生け捕りにして下さった。クルース君も生物学を?」
「いや、特に詳しくはないのですが、なんとなく生け捕っちゃいました」
「これは、凄い発見ですよ。今度の学会で発表すれば大変な騒ぎになりますよ。勿論、クルース君と連名で発表しますから安心して下さい」
ライアンさんは笑顔で言う。
「いや、それは別にいいんですけど、こいつ、どうするんですか?」
俺は床に転がるキモ魔物を愛おしそうに眺めるライアンさんに尋ねた。
「どうするって、勿論、飼うんですよ。見て下さい、なんと美しい生き物でしょうか、これこそ神が与えたもうた完璧なフォルムですよ。こいつが住めるのは流れが穏やかでキレイな川なんですよ、都市開発でそうした場所は少なくなり、残った場所での生存競争にも負け、そしてなにより味が良かったために乱獲され絶滅してしまったんです。実験室に空き水槽があったはずです、すぐにそこに移動しましょう。お願いします」
ライアンさんは倒れた棚から板を剥がすとその上にキモ魔物を寝かせ俺を見た。
俺は仕方なくキモ魔物の移動を手伝う事にした。
ライアンさんの案内で実験室に行くとそこには沢山の水槽が並べられてあり、その中には色々な水生生物が飼育されていた。
「すいませんねえ、そこの水槽に入れます」
「ええ、はいわかりました」
ライアンさんに言われた水槽に持って来たキモ魔物を入れる。ヌルリと水の中に入るキモ魔物。
うひぃ~、水の中に入ると灰褐色だった体色がピンクっぽく薄まり余計に気持ち悪いぞ。
「いやあ、ありがとうございます。地下倉庫の掃除共々、感謝致します」
「いやあ、お役に立てたならなによりです、ではこれで」
うっとりとした表情で水槽内のキモ魔物を眺めるライアンさんに挨拶をすると俺は急いでグラウンドに向かった。
「どう?試合は?」
「七対六でうちがリードしてます」
ベンチに戻った俺はケイトに聞きながらスコアボードを見る。最終回の裏、守備はドギューズでツーアウト、ランナー一塁。バッターは見るからに強打者の風格のある女生徒でツーストライクツーボール。
ジンジャーは大きく振りかぶりオーバースローで投げた。
「!」
バッターは驚きの表情を浮かべ振り遅れる。メイのミットにボールが吸い込まれる。
「ストラック!アウトーー!!」
審判が叫びゲーム終了、ドギューズの勝利が決定した瞬間だった。
「わぁーーっ!!やったぁぁぁーー!!」
ケイトが興奮して立ち上がり思わず叫んだが、すぐに俺を見て恥ずかしそうに座った。
気持ちはわかるが相手チームの目もあるし、何よりここは相手校のグラウンドだあんまり喜び過ぎるのもはばかられる。
「「「「あざーーっしたぁぁぁ!!!」」」」
整列した選手たちが一斉に挨拶をする。
「いやー、良い試合でしたよ~。ありがとうございました」
笑顔のリヒテン先生に話しかけられケイトは顔を赤らめて握手に応えた。
うちの選手たちは向こうの選手たちと健闘を称え合った。とても良い笑顔だ。青春だなあ、出来る事ならすべての試合を観たかった。次こそは全試合観てやるぞ。




