固まるチームって素敵やん
部員達の予想外の食欲にすっかり散財しちまった俺は、気分転換のために風が感じられる列車最後尾に居た。
魔導列車の最後尾はちょっとしたバルコニーのようになっており、普段は自由に出入りできるようになっているのだ。
「やせっぽっちソロニックが生意気じゃん」
「そうそう、生意気生意気」
「ちょっち教育してやったほうが良くない?」
バルコニーから女子の声が聞えてくる。ん?ソロニック?なんだか剣呑な雰囲気に俺はバルコニーへ急ごうとしたのだが、その俺の肩をグッと押さえる者がいる。
「なんだ?」
振り返るとそこにはメイがおり、声を上げる俺に鼻の前に指をやり静かにしろとジェスチャーする。
「なんで?なんかやばそうじゃないか?」
バルコニー席から聞こえてくる声の内容から、どう見てもソロニックが誰かにいじめられているようにしか思えない。俺はメイにボックス席に座らせられながらそう言った。
「いいから、あれを見て」
俺の肩を押さえながら小さな声で言うメイ。その視線の先にはバルコニーに向かうマーの姿があった。
「彼女たちの世界の事は彼女達に任せた方が良いわ」
メイは俺の耳元でそう言った。うう、そう言われちまうと確かにそうだけども。
「でもさあ」
「ここで男の子が出て言ったら余計拗れるわよ?ずっと付きっ切りで守ってあげるわけにはいかないでしょ?」
不安な気持ちに何かしら言い返そうと思った俺の言葉を切るようにメイはきっぱりと言った。確かにメイの言う通りだ。ここで俺が介入すればこの場は解決するかもしれないが、四六時中ソロを見張る訳にはいかないし後で余計陰湿な仕返しをされかねない。俺は何も言い返せなかった。
「ソフトクリームなんか食ってんじゃねーっての」
「生意気だっての」
「そんなに食いたいんなら顔で食えっての!」
ボックス席の隙間からバルコニーを見ると、ソロニックが持っていたソフトクリームを女子生徒が取り上げソロニックの顔にぶつけようとするところが目に入った。
思わず身を乗り出そうとする俺の肩をメイは再び押さえる。
マーがバルコニーに入った所だったからだ。
「あ?気にしないで続ければ?私は別に止める気ねーよ」
ソロを囲み取り上げたソフトクリームを手にした女生徒たちを一瞥しマーは言った。
「そんな事言って、後ろからなんかする気でしょ?」
イジメていた女子生徒がマーに言う。さすが、イジメなんかやってるだけあって卑怯な事には素人じゃないようだ。
「あ?やんねーよ」
マーは吐き捨てるように言う。
「嘘ばっか、だってあんたこいつの仲間でしょ?信用できない」
女子生徒が言う。さすが陰湿のプロそう簡単に信用しない。
「あ?仲間?そんなヘタレ仲間じゃねーよ」
マーの奴!そんな事、言うんじゃねーよ。俺は思わず身を乗り出そうとするが再びメイに押さえられる。
「大丈夫、マーちゃんは優しい子だから」
「だって、あんな事、言ってるよ?」
「いいから、見守ってあげて」
肩をグッとつかまれて俺は渋々身体を戻す。
「へえ、あんた言われてるよ?仲間じゃないってさ。やっぱあんたチームでも浮いてんだ?」
「あんたなんかどこにも居場所ないよね~」
「良かったじゃん、あんなダメチーム辞めたいって言ってたもんね~」
女子生徒達がソロを煽る。クソー、ムカムカが止まらないぞ!
「どうどうどうどう、落ち着いて」
メイが俺の背中をポンポンと優しく叩く。
「ダメチームじゃないっす!今日だって!今日だって負けちゃったけどいい勝負したんす!私をバカにするのは構わないっすけど、チームをバカにするのは止めて下さいっす!」
ソロが震えた声でそう言った。
「は?何ムキになっちゃってんの?バカなの?死ぬの?」
「マジ無理なんだけど?ボコしたほーが良くない?」
「汚ねーからこっちくんなっつってんだよ!」
ひとりの女生徒が手に持ったソフトクリームをソロの顔に投げつけた。
「オラッ!!」
突然マーがキレてソフトクリームを投げつけた女子生徒の背中を蹴った。
「痛っ!何すんのよ!」
「こいつやっぱやりやがった!」
「ざけんなよ!テメーどっちの味方なんだよー」
「元からテメーらの味方なんかじゃねーよ!」
マーは女子生徒に向かって怒鳴った。
「こいつなんか仲間じゃねーって言ってたじゃん」
ひとりの女生徒がマーに言う。
「さっきまではな。今は違う、こいつはもうヘタレ野郎じゃない。だから、仲間だ。仲間にチョッカイかけるやつはやっつけるんだよ!ソロっ!あんたも気合入れな!」
「わーーーーっ!!」
マーが言うとソロは頷き両手をパタパタさせていじめをしていた女生徒達に立ち向かった。
「テメーら覚悟しろ!」
マーが叫び女生徒達に向かってパタパタパンチを繰り出す。おいおい、お前もパタパタかい!
「なんだこいつら!やっちゃえ!」
「生意気なんだよ!」
「ゴミの癖に!」
女生徒たちはパタパタパンチを受けながら三人がかりでソロとマーをゴミ箱にぶち込んでしまった。
「ったく、手こずらせやがって」
「マジ最悪ぅ~」
「汚れちゃったじゃないのよ~」
女生徒三人は服の汚れを叩き落としながらバルコニーからこちらに出て来た。
こいつら、マジでムカつくな。
俺は席を立つ。
「どこ行くの?」
メイが俺に声をかける。
「奴らの借りを返すのさ」
「無茶しないでよ」
メイは席を立ち俺について来た。
俺は前を歩く三人組の行動を見る。こういう連中ってのは普段から素行が悪いもんだ。でもって調子に乗って世の中舐めてるからやってる事が雑だったりする。
前の三人が売店車両に差し掛かる。
俺は集中して彼女たちを見る。
女生徒は喋りながら普通の仕草で商品を取りポケットに入れる。しかも三人ともが慣れた手つきで商品を万引きした。それぞれ、入れた物の大きさで上着のポッケがパンパンだ。大方、どれだけ大きな物がパクれるかで競ってたりするんだろうな。ったく、ろくでもない連中だ。
俺は連中が車両を移るのを見届けると店員さんに万引きの事を伝えた。
店員さんは無くなった商品を確認するとすぐに女生徒達を追って行く。
「なんだよ!放せよ!」
前の車両で女生徒達がゴネているのが見える。
こんな閉鎖された空間で万引きするとか、やっぱり色々とバグっちゃってるな。
「あれ?ジミーどしたのよ?」
声をかけられ振り向くとそこには手を繋いだマーとソロの姿があった。
「あ?いや、こりゃ違うんだよ、こいつが転んじまったからさ。手を貸してたんだよ。それでそのままっつーか」
「何も言ってないだろ俺は」
ふと彼女たちの手に目をやったら聞いてもいないのにマーが言い訳をする。可愛いやっちゃなあ。
「あれ?彼女達どうしたんすか?」
前方車両で店員さんに説教をされている女生徒達の姿を確認したソロが俺達に尋ねる。
「ああ、なんか商品盗んだらしいよ。困ったもんだねえ」
「ぷっ、くっくっくっく」
「メー姉さん何笑ってるんすか?」
「はんっ!天罰てきめんってやつだな。いい薬だよ」
俺の説明に含み笑いが漏れるメイ。そして首をひねるソロに鼻息荒いマー。
「君達、次の駅で降りて列車公安官に引き渡すからね。とりあえず車掌室まで来てもらうからね」
「反省してまーす」
「初めてなんですよ~」
「出来心なんです~、ついお腹がすいちゃって」
「嘘をつくんじゃない!そんな子がこんなもの盗むか!まったく反省が見られないな!」
白々しい事を言う女生徒に盗んだ商品を見せて言う店員さん。手に持っているのは高価そうな香水の瓶とこれまた高価そうな酒の瓶、クリスタルの置物だった。う~ん、食べ物なんかなんもねー。転売目的じゃねーのかこりゃ?
店員さんに怒られてもそっぽを向いて不貞腐れる三人組。まったく悪びれる様子も見られない、こりゃ常習犯だな。
三人組はふてぶてしい態度のまま店員さんに引きずられるようにして去って行った。
「お前ら、まだ食えるか?甘いもんでも食うか?」
「ジミーの奢り?」
マーがくりくりした小動物のような目で俺を見る。そんな目で見られちゃおじさん奢るしかないじゃん。
「おう、奢っちゃる。食堂車行くか」
「やったね!んじゃさっき食えなかったキノコとエビのオイル煮食べたい!」
「あ!それ自分も気になってたっす!」
「おいおい、甘いのって言ってんだろ?」
意気投合しているマーとソロに俺は言う。
「勿論、その後に甘いのも食う!な?ソロ?」
「うぃっす!やるっす!」
「仕方ないな、ほどほどにしとけよ?帰ってから練習するんだろ?」
「練習するから力をつけなきゃいけねーのよ!」
「そっすそっす!」
マーとソロは弾むように言って駆けていった。
「おい!列車内で走るな!」
「へ~~い!」
「くすっ、ジミーちゃんってなんかお父さんっぽいよね」
ギクッ!中身は五十路のおっさんだもんなあ。やっぱりそういう目線になっちまうもん。
「あはは、なんでそんな顔するのよー。いいお父さんになれそうって言ってんのよ、別にオジサンっぽいって事じゃないからさ、そんな怒らないで。ね?私にもご馳走してくれるんでしょ?早く行こ」
メイは俺の腕をつかみ身体を近づけて媚びるように言う。
「ちぇ、なんか誤魔化されたみたいな気がするけど、まあ、いいや。メイにゃ色々と助けられてるからな。早く行かなきゃあいつら何を注文するか知れたもんじゃないからな」
俺はくっつくメイから身を離し、食堂車へと急いだ。
「そういうとこがお父さんっぽいのよねえ」
ため息のようにそうこぼすメイの言葉を背中に感じながら、俺は列車内を歩くのだった。




