負けて得るものって素敵やん
香ばしい匂いをたてて景気よく虫の死骸を燃やしていると、ワイワイガヤガヤと騒がしい声がして女生徒の集団がやって来た。
「うわっ、これってもしかしてあの虫?」
「なんか美味しそうな匂いがしない?」
「やめてよー、もう!」
「みんな静かにしろ。ファルブリングカレッジのクルース君だ!全員、感謝!」
ワイワイ言ってる女生徒たちにやって来たパーキンズさんが一喝する。
女生徒たちは居住まいを正して一斉にあざーーっす!と声を上げた。
「中も一応掃除しておきました。もう虫は残っていないと思いますけど一応念のため各自で確かめて下さい」
「ありがとうございました。みんな!自分の道具を確認!」
俺の言葉にパーキンズさんがそう声をかけると女生徒たちはキャッキャッしながら部室に入って行く。
一応、ミットの中までエアーかけてるから虫が残ってる事はないと思うけど。
俺は虫の死骸に火魔法をかけながら部室に入った彼女達を眺める。
「キャーー!!」
絹を切り裂くような悲鳴が周囲に響き渡る。
クソッ!やっぱり残っていたか!
「大丈夫ですか!」
俺は声をかけながら部室に入った。
「これ見て!ずっと見つからなかったミニポシェ!ここにあったんだー!」
「良かったじゃなーい!それケイトモでしょ?なくしたらマジでショック強すぎでしょ」
「前彼に買って貰った奴だから別にいいっちゃいいんだけどさ、売れば結構するじゃない?良かったー!」
小さな封筒型のポシェットを手に持ちキャッキャッと騒いでいる女子生徒達。ううむ、お買い求めありがとうございますだけども。
俺は微妙な表情で部室を出た。
「あ!ケイトどうだったんだ?」
パーキンズさんと話し合っているケイトを見つけて俺は声をかける。
「ええ、こっち段取り完了です。こちらのグラウンドで試合をさせて頂けるという事ですので、部員達にはすぐにこちらへ向かうように連絡つけておきました」
「そいつは良かった。こっちも大丈夫そうだよ」
俺はほぼ燃え尽きている虫の死骸に目をやりケイトに答えた。
「それではドギューズの皆さんが来られるまで運動場で練習をしていますので、よろしくお願いしますね。みんなー!集合!」
パーキンズさんは俺達にそう言うと生徒に向かってそう叫ぶ。キャイキャイやっていた生徒達は小走りでやって来てキレイに並んだ。ううむ、しっかり統率がとれているなあ。
うちじゃあこうはいかないもんなあ。
「みんなにはどこで集合だって言ったんだ?」
「部室前でと言ってありますので先ほどの仮部室に来ると思います」
ケイトが答える。
「んじゃケイトはランブルーズの練習見ててくれよ。俺が連中を待ってるから」
「わかりました。お願いします」
ケイトは短く言うとパーキンズさん達を追いかけた。
俺は先ほどの仮部室前で暇をつぶす。
しばらくすると俺たちが乗って来たような小型の馬車が二台やって来る。
馬車からドギューズの部員たちが降りてきた。
「お疲れさん、ディアナは来なかったのか?」
俺はマーに声をかける。
「さすがに学園を離れるのは無理だってさ。おかげで馬車賃払えなかったからジミーよろしく」
「よろしくってお前らなあ」
俺は渋い顔をしてマー達を見ながら御者さんに金を払った。
「しょーがないじゃん、だって特急って食堂車が豪華なんだもーん」
ベーヤンが目の横ピースをしながら言う。
「安い弁当だってあったろうが」
「それじゃ特急乗った意味がない」
「そうそう、せっかくだもん」
「「ねー」」
俺のツッコミにシーボーとみっちょんが声をそろえた。お前らこんな時ばっかり良いコンビネーション見せやがって、そういうのは試合で見せてくれよなあ。
「す、すんませんす。じ、自分は家が厳しくてお小遣いが少ないんす。今度、ディアナちゃんさんとこでバイトさせて貰う事になったんですぐに返すっす」
「うちらも持ち合わせがなくってゴメンねえ、働いてすぐに返すから」
ソロに続いてメイとジンジャーが謝ってきた。
「いやいや、急がなくっていいよ。とにかく試合を頑張ってね」
「急がなくっていいってさ」
「ラッキー。んじゃある時払いでよろ~」
「お前らは今日帰ったらすぐに返せ!」
とぼけた事を言うみっちょんとベーヤンに俺は強めに言っておく。お前らは高い飯食って金が無くなったんだから自業自得じゃい!
「え~ケチ~、ケチケチジミー」
「メー姉とジー姉には甘い。ジミーはとんだドスケベ変態野郎」
「うっせ!いいから運動場に行くぞ!相手チームはもう待ってんだ!」
俺はベーヤンとシーボーに言う。みんなは頷き俺に続いた。
「遅くなりました!」
俺は大きな声で言って頭を下げる。
「いえいえ、やっぱりみんな自分の道具が一番しっくりくるみたいで、練習にも身が入ってますよ」
パーキンズさんはニコニコしてそう言った。
「ドギューズのメンバーです。よろしくお願いします」
「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」
ケイトが言うと部員達は帽子を脱ぎ声を揃えて挨拶をした。およよ?なんか体育会系っぽくなってんじゃん?
「こちらこそよろしくお願いします。いやー、みなさん良い目をしてらっしゃる。監督さんの教育の賜物ですなあ」
「いえ、私などなにも」
「いやいやそんなに謙遜されずに。ではドギューズのみなさん、ウォーミングアップされて下さい」
パーキンズさんはそう言うと運動場で練習している生徒達に大きく手を振って声をかける。
ケイトはパーキンズ監督さんに例を言うとドギューズのメンバーを運動場にやった。
ドギューズのメンバーたちは運動場をランニングすると、それぞれのポジションについてボールを回し始めた。
「お?なんか様になって来てるじゃないの」
「メイさんとジンジャーさんのおかげですよ」
「いやいや、ケイト監督の人徳あっての事じゃないの~?」
俺はケイトの横腹を肘でつつきながら言う。
「おやめなさい」
短く言って羽で俺の肘を払うケイト。ちぇ、つれないんだから。ちょっとでも緊張をほぐそうと思ったが、どうもこれぐらいではケイトの緊張はほぐれないようだ。
ウォーミングアップが終わり、両チームのメンバーはホーム前に並び練習試合の運びとなった。
審判は向こうの部員から出してくれるという事で助かった。うちにはそんな余裕ないもんなあ。俺がやれりゃあ良いんだけど、ベリンボールどころか野球のルールすらろくに知らないんだから俺は。
俺に出来るのは応援を頑張るくらいだ。
「かっ飛ばせーー!べーーやん!!」
「ピッチャービビってんぞーー!!」
俺はあらん限りの声を出して応援をした。初回はべーーやんが三振、二番のみっちょんは内野ゴロでアウト、三番のメイが鋭い当たりで一塁打で初の出塁を飾ったが四番マーが力んで外野フライでアウトで攻撃は終る。
それからはメイとジンジャーの強力バッテリーで無失点に抑えるがランブルーズの守備も固くこちらも点は取れずで試合は進む。
試合が動いたのは最終回九回の裏で、集中力と体力の切れたメイのピッチングの粗をつかれボコスカ打たれまくりあっさりさよならを決められ試合は終了した。
俺たちは意気消沈したまま帰路につく事となった。
帰りの列車はそれぞれ金がないという事で特急ではなく普通での帰宅となった。
「クソーー!!うちらがもっとしっかり守ってれば!」
マーが悔しそうに言う。
「ううん、今回は私のせいよ。もっと走りこまないといけなかった」
「いや、メー姉は悪くない」
「そっす!メー姉に負担をかけないようにもっと出来る事があったはずっす!」
「先に得点できてれば負担は減ったはず」
「つーかやっぱ悔しいよねえ」
「うん、悔しい。一回くらい勝ちたい」
おお!部員たちがやる気になってる!俺はケイトと顔を見合わせる。
「帰ったら、練習しよーぜ!監督っ!いいだろ?頼むよ!」
マーが言い、部員達も強く頷いた。
「いいでしょう。ですがオーバートレーニングにならないようにきっちり管理しますからね」
ケイトがにっこりと笑って言う。こいつも監督らしくなってきたようだ。
「よーし!そうと決まれば腹ごしらえだ!みんな奢っちゃるから軽く腹に入れとけ!」
俺は手を叩いて部員に言う。今乗っているのは普通車だからな、特急のように高級食堂は併設してない。それに、これから練習するってんならそこまでガッツリは食えないだろう。これでモチベが上がるなら安いもんだぜ。
ふっふっふ俺はそこまで計算しているのさ。伊達にケイトモ立ち上げてないもんね。
しかし、俺はティーンエイジャーの食欲を甘く見ていた。
連中はまあ、遠慮なく良く食うわ良く飲むわ。さすがに酒は飲まなかったが、きっちりデザートまで食ってたのだった。




