進めドギューズ!って素敵やん
「なんだ?相手が見つからなかったのか?」
俺はケイトに尋ねた。
「いえ、相手は見つかったのですが…」
「おお!やったじゃん!いつ?」
「明日なんですが…」
言い辛そうにしてたのは日程が急すぎたからか?
早いに越した事はないさ。
「お、おお、そりゃスゲーな。早いに越した事はないもんな。いいさ、練習試合なんだから、それが練習って事でやったったらいいさ」
俺はケイトを励ますように言う。こいつは監督としての責任感が強すぎていけねえなあ。
「そうそう!ケイトっち心配する事ないぜ!どうせ相手はガキなんだから」
マーシャルが飯をかっこみながら言う。
「ガキ?」
聞き間違いか?それともこのガキ的な口の悪い言い方か?
「実は、そうなんです…」
ケイトが説明してくれる。近隣の学園のベリンボールチームに声をかけたのだがこちらの人数が揃っていない事を理由にどこも受けてくれなかったと言う。それで途方に暮れたケイトの元にディアナが持って来てくれたのがジャーグル街の少女ベリンボールチームの話だった。
喜び勇んで練習試合の申し込みに行くとファルブリングカレッジの運動場を貸してくれるならという条件付きで了承してくれたので、ケイトは学園の許可を取り練習試合を決めたのだった。
練習風景を見て行きませんかという事で見に行ったケイトは驚いた。
なんせ相手の選手はみんなちびっこだったのだ。
「ちびっ子って具体的は何歳くらいなのよ?」
俺はケイトに聞く。
「四歳から十歳です」
「おいおい…」
俺は思わず頭を抱えてしまう。幾ら弱小チームだからってそんな子供相手に試合になるのか?
「ていうか、こっちの年齢はわかってるのかしら?」
「勿論、事前に説明してあります」
「それでも引き受けてくれたっていうの?そんなバカな」
ケイトの答えを聞いたメイが呆れたように言う。
「いや、全然ありえるよメー姉さん」
「そう、それだけうちは弱いチームで有名だって事」
ベーヤンが言いシーボーズが胸を張って言う。威張って言うような事か?
「ま、まあ、いいさ。新メンバーの呼吸合わせって事でやればいいっしょ。子供を泣かさない程度に手加減してさ」
「あのー、ごめんなさい…」
何とか場を取り繕おうとして俺が言うと、申し訳なさそうな顔をしてジンジャーが切り出した。
「さっきディアナちゃんと話したんだけど、明日、お婆ちゃんが職場を見せて貰えるって話になって。明日くらいはついていてあげたいなって。私も御厄介になる予定だし」
ジンジャーはいつの間にか隣に座っていたディアナをチラリと見て言った。
「あ、それは考えてなかったよ。勿論、構わないよ、な?みんな?」
俺はみんなの顔を見る。そりゃそうだよな、ジンジャーにしてみれば久しぶりの再会なんだから。
「当ったり前だよっ!やっと会えたお婆ちゃんなんだから!」
「そうそう、好きなだけ一緒に居たらいいと思うっす」
「気持ちはありがたいけど、これからは一緒に住む予定だからそんなに気を使ってくれなくって大丈夫よ」
ジンジャーは力強く言うマーシャルとソロニックに笑顔で答えたのだった。
「メー姉さんは?いいの?」
「うふふ、うちはいつも顔あわせてるから大丈夫。心配してくれてありがと、シーちゃん」
お姉さんスマイルを見せて答えるメイに何故か赤い顔になるシーボーズ。
「あれれれれ?シーボーズ顔赤いぞ?どした?」
「ジミーのくせに生意気。ジミーのが顔赤い、シーマンに恋してる証拠」
「おまっ!何をっ!」
「え?なに?シーマンって誰?」
慌てる俺の声を無視して興味津々のディアナがシーボーズに聞く。
シーボーズのやつは制止する俺の声も聞かずにガールズショップエルワイスの店長シーマンの事を説明した。
「やっひゃっひゃっひゃっひゃ!こりゃいいや!プレイボーイジミーもついにツケを払う時が来たか!」
「何がプレイボーイだよっ!人聞きの悪い事言わんといてくれ!」
大爆笑するディアナに俺は強めにいう。周りに他の生徒だっているんだから妙な噂たてんといてくれよな。学校ってなひとつ間違えるとあっつーまに四面楚歌になりかねんとこなんだからな。
「だーっはっはっは!ひーっひっひっひ!腹がよじれる!千切れるわっ!」
「おい、マー!お前、笑っとる場合ちゃうぞ?」
「は?マー?」
ポカンとするマーシャル。しかし、今、ツッコむのはそこじゃあない。
「明日の試合どーすんだっつー話。キャプテンだろ?こんな時どうするかでお前の腕が問われるぞ?」
「それなら簡単、頼むぜディアナっち」
「あーっはっは、任せなっさーい!って何が?」
爆笑しながら安請け合いしたディアナがハッと我に返る。
「良く聞かないで了承したんかい。助っ人の助っ人の件だよ」
「よっしゃ!決り!これで問題は全て解決!さ!飲も飲も!」
「明日試合だってーの!程々にしとけってーの!」
俺は豪快に笑うマーシャルにツッコむ。てか今からこいつはマーだがな。
「ズルくないっすか?」
「何がよ?」
拗ねたように言うソロニックに俺は聞く。
「だって、ベイカーさんはべーやん、シンプソンさんはシーボーズ、ミラーさんはみっちょん、マーシャルさんはマー。私だけ愛称がないっす。ズルいっす、ズルいっすよ~」
半泣きで言うソロニック。そういや、こいつだけ愛称を決めて無かったな。
「てか、私、シーボーズなんて呼ばれ方認めてないから。せめてシーと呼べ」
「お前もなかなかしつこいね。わかったよ、んじゃお前はシーボーな。そんでもってソロニックはソロ。お前は今日からソロだ」
思わずその場のノリでつけてやった愛称だったが、ピザみたいな形の宇宙船で密輸をしながら帝国軍と戦うイカした船長みたいな呼び方になっちまったぜ。
「ぶぅー」
「ふひっ!やったっすやったっす!愛称ができたっす!ふひっふひっ!」
不満顔のシーボーとは対極に大喜びするソロニック改めソロ。
「何がそんなに嬉しいのさ?」
べーやんが尋ねる。
「だって愛称ですよ?愛称すなわち親愛の気持ちを込めて呼ぶ特別な呼び方っすよ?」
「そういうもん?わかりみ浅いわ~」
ソロの説明に首をひねるベーやんだったが、そういうもんさ。お前さんもそれにはきっと気付いているはずだ。
俺は生暖かい目で皆を見た。
とりあえず、これでメンバーは揃った。
メンバーさえ揃えばこっちのもんだ、明日は助っ人の助っ人でディアナがジンジャーの代わりに入ってくれるけど相手はちびっ子軍団だって言うし、大丈夫だろう。
俺は軽く考えていた。
そして翌日。
「声出してっ!」
「ナイキャッ!」
「バッチ来いっ!」
「惜しい!球一個分ズレてる!」
「バンバンズーー!」
「おうっ!!」
ファルブリングカレッジの運動場に集合した我がドギューズのメンバーは、その光景に身体が硬直したままただ呆然とするのみであった。
「おはようございます!私はバンバンズの監督、チティ・ポッツです!練習場所として運動場をお借りできるそうで、ありがとうございます!おい!ベル!諦めずに最後まで球に喰らいつけっ!今日はよろしくお願いしますねえ。こらっ!コッパ!今のが全力か!なめてんのかっ!おほほほ、お手柔らかにお願いしますねえ」
ポッツと名乗った若い娘さんは俺達に挨拶をするしながら、凄い形相で練習してる子供たちに檄を飛ばす。
「なんで怒られてれんすか?」
「さっぱりわからない」
ソロの問にシーボーズ改めシーボーが答えるが俺もその気持ちは良くわかる。
練習している子供達は良く声も出ており気合十分に見えるし、投げれば球は一直線にビシっと飛ぶし、球のキャッチもとても子供とは思えないキレイなキャッチ。
俺達はとんでもない相手に試合を申し込んじまったんじゃないか?
「今から飲み込まれちゃダメよ!うちも練習しましょう!」
「そうだ!やってやるんだ!うちらの実力を見せつけてやるんだ!」
メイの声にマーが乗っかり部員に檄を飛ばす。しかし、他の連中は石でも噛んだような顔をしている。
「なんだよ、みんな、やる前からそんな顔しちゃダメだろ。どうせ練習なんだから勝ち負けは関係ないんだから」
ディアナの言葉もむなしく響くばかり。ケイトも部員たちを励まし力づけようと頑張るが、メイとマー以外のメンバーはどうにも意気が上がらない。
不安な気持ちを引きずりつつ、試合は始まったが当初の皆の不安を体現するような試合であった。
ずぶの素人の俺が見ても相手チームの子供達の方が技術もガッツも上であった。
「今のもっと突っ込んで!立ち直りもっと早めに!」
「はい!」
ポッツが大きな声を出し相手チームの選手たちは気合の入った返事をしている。
こっちから見れば完璧なプレーなのに、これだもの。
ベリンボールってのはベースがふたつで前世の三角ベースに良く似てる。俺は前世ではスポーツには縁がなかった。何か趣味を作ろうとサッカーチップスを買って選手カードを集めて見たりしたが試合を見ても面白さがさっぱりわからなかった。野球にしても子供の頃には人気スポーツでクラスメイトの多くは夢中になってはいたが自分はあまりハマらなかった。親のハマっていたカルトの教義で日曜日や放課後に自由がなかったり、禁止事項が多かったのも少なからず影響はしているが。
今となってはもう少し知っておけば良かったと後悔している。
そうすれば、今回の練習試合も少しは役に立てたんだろうけど。
俺はふがいなさを覚えたが、ケイトの方がもっと大変だった。
「あ~」
「頑張って…」
「気にしないで!」
「引きずらない引きずらない!次があります!」
必死で部員たちのやる気を維持させようとするケイトだったが、敵の得点はガンガン入りうちは三振の嵐。なんとか相手チームの投手の球にかすらせることができるのはメイくらいだった。
うちのチームの現状にさすがに驚いたメイは付け焼刃のバッティングコーチをするが、メイ自身ピッチャーなのでバッティングの技術論はあまり自信がないという事もあり、その上付け焼刃で何とかなるような連中ではないた め結果は散々であった。
まず、キャプテンのマーだがこいつはとにかく勝負に熱くなりすぎる。そしてカッカすればカッカするほどプレーが雑になり、しまいにはメイの助言にも食って掛かる始末。
みっちょんはなにしろはなからやる気がない。なんでベリンボールクラブになんて入ったのか不思議でならない。
ソロは気が弱い、弱すぎる。なにせ相手チームの子供のたどたどしいヤジに委縮するし、しまいにはマーの怒りにいちいち反応しビクついてバットを手放しちまう始末だ。
ベーやんは髪型と爪を気にしちゃってプレーどころじゃない。こいつもなぜベリンボールクラブに入ったのか謎だ。
一番の問題はシーボーだった。
「ふふふ、我が秘伝の球受けて見るが良い」
「バカっ!カッコつけてないでバックホームだ!」
守備につけばこの調子でまともに返球しないし、打席に立てばやっぱりおかしな事を口走りニヒルな笑みを浮かべるばかりでろくにバットを振りもしない。しまいには相手チームの子供はシーボーが打席に立つとゲラゲラ笑って石造魔神石造魔神とはやし立てる始末。
やじられても本人は『笑っていられるのも今のうち、せいぜい今を楽しむと良い』などと言って含み笑いをし、相手の子供達を喜ばせるばかりだった。
「「「「「ありがとうございましたーー!!」」」」」
結局一対二十三という大差で子供チームに大敗した我ら。しかもその一点はメイとディアナのおかげでやっと取れた得点だった。
「いやー、派手に負けちったね~」
「いつもの事っしょ」
「ふっ、今日は日が悪かった。奴らが笑ってられるのも今のうち」
練習試合後に食堂でベーヤン、みっちょん、シーボーが悪びれる事なくそんな事を言う。
ったく、熱血先生だったらお前らは一点の人間か!って張り手かましてるところだぞ?
「んっだよ!オメーら悔しくねーのかよっ!!相手はガキだぞ!ガキに負けてヘラヘラしてんじゃねーよ!」
お?マーが熱くなっとるぞ?よしよし、そのまま熱血路線で行け!そうすりゃ次はファルブリングいちのワルを部員にするから。
「まあまあ、一杯やって気を静めて。また頑張りゃいいじゃんか。ほら、あたしの奢り」
「ん?ディアナちゃんあざーっす!」
ディアナに酒を奢って貰い一瞬で熱が冷めるマー。こいつ熱するのも早いけど冷めるのも早いんだよな~。
「あ、あの、ちょっといっすか?じ、自分、もっと強くなりたいっす。試合らしい試合がしたいっす」
ソロがいきなり席を立ちそう宣言した。むむ、こいつのが熱いキャラだったのか?
「自分、もっと上手くなりたいっす!どうすればいいんすか!なんでもするっす!教えて下さい!」
ソロは半泣きになってメイに縋りついた。
「ん?みんなどうしたの?どうだった?今日の試合は?」
一瞬張り詰めた空気の中、ジンジャーが気の抜けた声を出しながらやって来る。
「あれ?どういう状況?私、お呼びじゃなかった?」
メイに縋りついて泣くソロとシュンとなっているみんなを見てジンジャーは昭和の喜劇役者みたいな事を言って俺を見た。
俺は今日の試合の事、そしてソロの意気ごみをジンジャーに説明した。
ケイトも一緒になってソロの熱い思いについて、そしてそれを見て密かに闘志を燃やしているであろう部員たちの気持ちについてジンジャーに熱弁した。つーか、ベーヤン達はどうなの?密かに闘志を燃やしてるようには余り見えないが。
「ふ~ん、そう言う事。良し、わかった。それじゃあここからはジンジャーおばちゃんが一肌脱ぎましょうかね」
ジンジャーはそう言って俺達を見まわしニンマリと笑った。
なんとも頼りがいのありそうな笑顔であった。




