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さすが大人!って素敵やん

 「私達はどうなるんだい?」


 ざわつく地下室内でひとりの女性が俺の方に進み出てきてそう言った。


 「自由ですよ。ここから逃げるも良し残るも良し。好きにして下さい」


 「わっ!」

 「やった!」

 「逃げられるのね!」


 室内に歓声が響き渡る。


 「ちょっと待って、逃げてもどうせあいつらが追いかけてくるに決まってるよ。それで捕まったら酷い目に遭わされるわよ。だったらここにとどまった方がいい」


 ひとりの女性が大きな声で言うと室内が静まり返った。


 「その心配ならありませんよ。バッドボーンはカイサン含め大勢がお縄につくでしょうし、ビッグプレイス商会にも捜査の手が入る事でしょう。心配なら今日は皆さんうちに来ますか?うちなら誰が来ても安心ですよ」


 「うちってどこです?」


 進み出た女性が俺に聞く。


 「ファルブリングカレッジですよ」


 俺はにっこり笑って言ってやる。

 室内にいた女性達はざわつきだした。

 急にやって来た謎の男が言い出した事だ、すぐに信用してくれっても無理があるかな。

 

 「ゼンや、この人は?あんたのいい人なのかい?」


 「そうじゃないけどお婆ちゃん。この人は私を助けてくれた人なの。信用できるし、他にも仲間がいるのよ」


 お婆ちゃんに聞かれてきっぱりと答えるジンジャー。いい人なのかい?ってな、なかなか趣のある言葉だけど、残念ながら違うのよお婆ちゃん。

 

 「わかったよゼン。私はこの人を信用する事にするよ!みんなもついてきな!」


 お婆ちゃんが大きな声で言うと室内の女性達はお互いに顔を見合わせて頷き立ち上がった。どうやらこのお婆ちゃん、この場所のリーダー的な存在のようだ。

 

 「そうと決まれば急ぎましょうクルース君」


 「おうさ」


 お婆ちゃんの手を引き言うジンジャーに俺は返事をし先頭で部屋を出る。


 「待てこらっ!」

 「テメこら!」

 「どこのもんじゃい!」


 空雷弾の威力が足りなかったのかそれとも電撃に強い体質なのか、回復した男達が武器を持ち俺を威嚇してくる。

 俺は両手で空雷弾を連発し男共ひとりにつき複数当てていく。

 

 「威嚇なんかしてる暇あったらかかってこいっつーの」


 俺は再びぶっ倒れる男共に言ってやる。


 「ゼンやこの人は悪い人じゃあないんだよね?」


 「そのはずだけど、ちょっと自信なくなってきちゃった」


 俺の後ろでお婆ちゃんとジンジャーが話している。う~ん、俺がいい人かと問われればそうですと即答は出来ないなあ、基本的に自分の気が済むかどうかで動いているからな。でも悪い人ってわけでもないとは思っているんだが、どうだろな?そういうのは自分が決める事じゃないからね。

 

 「ダッコラッ!」

 「にしとるんじゃいっ!」

 「ぶっころっぞ!」


 「はいはい、おやすみなさい」


 懲りずに起き上がっては襲い掛かる男共に空雷弾を喰らわして俺は店の奥から店内へと進む。

 店内に出ると店員がひきつった顔をして俺の顔を見る。


 「あ、お客さん達、ここで物を買うのはやめといたほうがいいですよ。ここの商品は立場の弱い人を強制労働させて作った商品ですからねー。みなさん、きちんとした場所で買う事で労働者を守ろう!労働者に適正な賃金を!」


 俺は店内のお客さんにそう言って右手を上げた。お客さんはヤバいものでも見る目で俺を見てそそくさと店を立ち去った。理由はどうあれここで買わなくなるならいいさ。

 俺は店を出てとりあえずシーマンの所に向かう事にする。

 このまま、みんなを引き連れて堤防に行ったらややこしい事になる。堤防から出た人骨の件ではさすがにビッグプレイス商会をかばう事は出来ないだろうが、まだまだビッグプレイス商会の息がかかった者がどこにいるかわからない。そんな奴らに妙な言いがかりをつけられて連れ出した人達の身柄の拘束でもされたら面倒な事になる。

 俺はこの人達に身の安全を保障したのだ。

 できる限りの事はさせて貰わないと気が済まない。

 本当なら、この店もしっかり天誅を喰らわせたいところだが、今は連れ出した人たちの方が優先だ。


 「え?何?」

 「どうゆう事?」

 「なんか、あの店で強制労働させられてたらしいよ」

 「なんか、怪しかったのよねえ。ゴミの出る量がやけに多かったし」

 「あそこで買うのやめた方がいいよ」

 「てか、犯罪じゃないの?」

 

 ぞろぞろと店から出てくる俺達を見て周辺の人達がざわついている。

 こりゃ、放っといてもこの店は潰れるかな。

 俺はひとまずシーマンの作業場に行った。

 状況を説明するとシーマンは目を潤ませて同情し、良かったね、これで大丈夫だねと言いジンジャーを抱きしめるのだった。

 俺は堤防の件も説明し、俺は様子見に行ってくるので一旦みんなをここで預かってくれないかシーマンに尋ねた。


 「勿論いいわよ~。全員ってわけにはいかないけど、良かったらうちで働いてもらってもいいのよ~?だって、今回の件でビッグプレイス系列のお店はダメージを受けるでしょ?そしたら忙しくなるもの~」


 ニンマリと笑って言うシーマン。しっかりしてるなあ、でも、そう言って貰えると助かるよ。


 「よろしくお願いしますよ」


 俺は頭を下げて作業場を出る。ジンジャーがついて来たそうにしていたが、俺はお婆ちゃん達と一緒に居てやってくれと声をかけた。

 ジンジャーはすまなさそうに頷くのだった。

 そういや馬をあの店に置いてきちゃったが、まあ、俺の馬じゃないしいっか。

 俺はゲイルダッシュを使って町を走り抜け堤防に向かった。


 「お疲れ、どうだ?」


 堤防についた俺は集まった人の波をかきわけて見つけたメイの声をかけた。


 「そっちはどうだったの?」


 心配そうに言うメイに俺は無事に済んだ事を伝えた。


 「そっか、良かった。こっちはちょっと面倒な事になっててね。あれ見てよ」


 ホッとしたような顔を見せたメイだったが、すぐにうんざりした表情になって視線を送った。視線の先に見えたのは衛兵に向かって食って掛かるベーやんとそれを止めようとするみっちょんとシーボーズの姿だった。


 「ありゃあ、どうしたんだ?」


 「それがね、人骨が見つかった事やそれを奪いに来たギャングがいた事よりも、私達が勝手に堤防を掘った事が問題にされちゃってるのよ。ベーやんはそんな理不尽許せないって怒っちゃって、それであんな感じになっちゃってるわけ」


 メイは肩をすくめてそう言った。


 「…っけんじゃないわよ!善良な市民が悪党の所業を通報しただけなのに、なんでうちらが罪に問われなきゃいけないのよ!それじゃあ、なに?悪党の悪事は見て見ぬふりしなきゃ罪だっての?冗談じゃないわよ!」


 「まあまあ、罰金だけで済むって言ってるんだし」


 「そう、お上に逆らっていい事なんて何もない」


 「いい加減にしないと罰金だけじゃ済まんぞ!」


 食って掛かるベーやん、そしてそれをなだめるみっちょんとシーボーズ。言われている衛兵は顔を赤くして怒っている。


 「あの~、すいません。私、彼女らの責任者のクルースと言います」


 「君が責任者?困るよ君っ!今までどこに行ってたんだね?」


 「あの罰金ってどういう事なんですか?」


 詰め寄る衛兵さんに俺は尋ねる。


 「はあ?堤防の破壊は水利妨害及び出水危険罪に該当するんだからあたりまえだろう?」


 「でも、人の死が絡んでいるんですよ?殺人ですよ?それで罰金が科せられるのはおかしくないですか?」


 「おかしいわけないだろっ」


 衛兵さんは俺の目を見ず吐き捨てるように言った。ふ~ん、この人、がっつり息がかかってる人だな?だったら、こっちにもやり方があるよ?


 「わかりました、それじゃあちょっと連絡させて貰っていいですか?」


 「どこに連絡しようと言うのかね?」


 「うちら学生なんで大人に連絡します」


 「ああ、そうしたまえ。そこを降りた茶屋に通話機がある、私も同行するから行こうじゃないか」


 衛兵さんは逃がさないぞとばかりに俺の背中を手に持った警棒で軽く小突きながらそう言った。その方が話が早くて助かるよ。

 

 「ジミっち!」


 「大丈夫、何も心配ないよ」


 ぶーたれたような泣きそうなような微妙な表情のベーやんに俺はなるべく優しく声をかけ、堤防を降りて行く。


 「まったく最近の若い者は礼儀も知らんし常識も知らんと来ている。まったく嘆かわしい」


 衛兵さんは警棒をパシパシ自分の手に打ちつけながら言う。何が常識だよ、大商会の犬が。大体、常識って言葉を軽々しく使う奴ほど常識がないものなんだよ。

 堤防を降りて少し歩くと小さな茶屋があり、店頭に通信機が置いてあった。

 俺は店のおばちゃんにお金を渡して通信機を借りると、ヘルマセール伯爵の所に連絡をつけた。一緒に行動した時に連絡先を教えてくれたのだ。

 なにしろ伯爵は義を重んじる人だからな、それに何と言っても各所の衛兵に顔が利く。

  

 「あ、お久しぶりですクルースです…あっはっは、そうですね、それほどでもなかったですね。スイマセン、実はちょっと相談したい事がありまして…」


 俺は今の状況についてザックリと説明した。


 「ほうほう、もっと早く連絡をしてくれ給えよ。面白い所はもう終わってしまったのか。うん、わかった。ビッグプレイス商会については私も良く知っているよ。いかがわしい噂もね。何とかしなければとは思っておったのだが、なかなか尻尾をつかませんでな。丁度良いからこれを機会にしっかりと手を入れるとしよう。ちょっとそこの彼に通話を代わってくれないかな?」


 「はい、お願いします。どうぞ」


 俺は通話機を衛兵さんに渡す。


 「お宅のところの学生さんがね……」


 高圧的な態度だった衛兵さんは一瞬にして青い顔になった。それから自分の名と所属部署を名乗った衛兵さんは背筋を伸ばして切れの良い返事をし、こちらに通話機を返す時にはげっそりとした表情になっていた。


 「クルース君か?一応、君達のおとがめはなくさせて貰ったよ」


 「ありがとうございます伯爵」


 「後の事は大人に任せて君は自分の事をしたまえ。ベリンボールの試合があるんだろう?私も見に行くからね」


 「ええ、是非来て下さいお待ちしています」


 俺はその後、今一度感謝と挨拶をして通話を切った。

 

 「じゃ、戻りますか。もう帰っていいですよね?」


 「…君、君はなんであんな人物と…」


 「人は見かけによらぬものって言いますでしょ?さ、早く戻りましょ」


 俺は憔悴する衛兵さんの肩を優しくポンと叩くとみんなが待つ場所へと戻った。

 青い顔の衛兵さんに再び確認を取った俺は、ベーやん達に罰金の件は無くなったしもう帰って大丈夫だと伝えシーマンの所へと戻るよう促した。

 作業所に戻る道すがら不思議そうな顔をするべーやん達に、ビッグプレイス商会の事はしっかりとした大人に任せたのでもう心配はない事を伝えた。急展開に事体が飲み込めない顔をしてるみんなに、俺はジンジャー達の事を更に伝える。


 「もう、何がなんだか理解が追い付かないけど、もう、大丈夫って事なのね?」


 「ああ、そうだよ。これからはベリンボールの事だけを心配すればいい」


 半ば呆れたような顔をして言うメイに俺は言ってやる。


 「それが一番問題」


 「そうそう、一番の問題ね」


 シーボーズとみっちょんが言う。


 「むぅーーーっ!!気に入らんなぁーー!!なんか納得いかないんだよなーー!!」


 「なんだよ?何が気に入らないってんだよ?」


 なぜか不満顔のべーやんに俺は尋ねる。


 「なんかわかんないけど、全部あんたにおんぶにだっこっぽくない?ジミっち、あんた一体なにもんなの?」


 べーやんが言いみんなの視線が俺に集中する。


 「冒険者もやってたからちょいと顔が広かったりするだけの話だよ」


 まあ、冒険者辞めた訳じゃないから一応現役ではあるんだけどね。


 「それで説明つくん?」


 シーボーズが首をかしげる。


 「どうなん、べー?」


 みっちょんがベーやんを見る。


 「な~るほどね~!だったら理解できる!冒険者って事は色々と冒険をして来たって事でしょ?冒険してきたならそれ位の事は出来るようになるはずだ!わかりみマックス!な・る・ほ・ど~、なるほどジミクルっち!」


 何言ってんだこいつは?おかしな事を言うべーやんを見て俺は若干引いた。


 「ベーが言うなら確か」


 「それな」


 シーボーズとみっちょんは納得してるようだ。なんだかわからんが、あまりツッコまれるのもめんどくさいからこれで良し。

 メイがジト目で俺を見るが、それ以上は何も言ってこないので放置しておく。

 作業場に着くとシーマンが連れ出したおばちゃん達と何やら話していた。

ジンジャーに何事か尋ねると連れて来たおばちゃん達はシーマンの提示した条件に非常に乗り気で、是非シーマンのところで働きたいが安全の保障がされないとシーマンの所にも迷惑がかかると言うので話し合いが進まなくなっているとの事だった。

俺はおばちゃん達にヘルマセール伯爵が介入してくれたのでビッグプレイス商会は適正な処分を受けるであろう事、そして向こうさんももう強引な手には出られなくなる事を説明した。


「…それでもまだ心配だと言う方は今日のところはファルブリングカレッジに来てもらって、安全だと思ったら好きにして貰うって事でも構いませんよ」


「そうね、そうして頂戴。私はいつでも歓迎するから、条件を変えるつもりもないしね」


俺の説明の後にそう言ってウインクするシーマン。つーか、ちょっとやそっとの相手ならシーマンが退治しちまいそうな気もするけどな。

そんな訳で俺達はファルブリングカレッジへと引き上げる事になった。

ファルブリングカレッジに帰ってから俺は学ウェッパー学長に今日の件を説明するため学長室に向かうと、そこにはマスターホフスとキーケちゃんがおり、その件ならすでにヘルマセール伯爵から連絡が来ており寝床は使用していない教室に用意してあり生徒会に話も通してあるよと教えられた。

さすがヘルマセール伯爵、仕事が早いし手回しも完璧だ。

皆の元に戻ると生徒会の手回しで何人かの生徒達がおばちゃん達に事の次第を説明している所だった。


 「はぁ~、これなら安心だねえ」

 「伯爵様がして下さったそうよ」

 「ありがたい事よねえ」

 「これならきっと信用できるわ」


 おばちゃん達の信頼もつかめそうだ。

 とりあえず食堂でご飯を食べて貰い落ち着いてからお部屋に案内しますという事で、食堂に案内されるおばちゃん達。

 自分達も腹が減ってる事に改めて気づき、俺達も食堂に行く事にする。


 「大丈夫でしたか?学長から話は聞きましたよ」


 食堂に着くとベリンボールチームのメンツが顔をそろえており、俺を見つけたケイトがそう声をかけて来た。

 

 「ああ、特に怪我人もなく済んだよ。そっちはどうだった?」


 俺はケイトに尋ねる。


 「こっちですか?それは、まあ…」


 言葉を濁すケイト。なんだ?練習試合の件、上手く行かなかったのか?

 俺は珍しくモジモジするケイトを見るのだった。


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