素早く片をつけろって素敵やん
「そもそもの話はお爺さんの工場周辺の土地が買い占められ始めた事によるのよ…」
ジンジャーの話は続く。
その当時ジンジャーたちが暮らしていた土地は大きな川が近くにあり、その川は雨が続く季節になると度々溢れる事から土地の値段は二束三文で貧しいものが暮らす地区であった。
そんな土地なのに、どういう訳かビッグプレイス商会が買い取りを始めたのだ。大した値は提示されなかったが、それでもそれまでの評価額に比べれば随分良いという事で大半の住人は立ち退きに応じたのだが祖父は代々この土地で木工場を営んでいたためそれに応じなかった。
ジンジャーが調べていくうちに木工場の経営状態が悪くなり従業員が次々に辞めていったのも、どうやらビッグプレイス商会が裏で動いていたためだという事がわかってきた。
最終的に祖父が亡くなりその土地はビッグプレイス商会の手に渡る事になったのだが、その直後に大きな川の治水工事が始まりその土地は浸水の危険がなくなり大きく値を上げる事となったのだ。
「…要するに治水工事の情報を事前に知っていたビッグプレイスが、その後の値上がりを当て込んで土地を買い占めたってわけなのよ。それを知った私はなんとかして復讐してやろうと考えた。でも、相手はあのビッグプレイス商会、そう簡単に倒せる相手じゃあない。でも、最近になってあいつに大きなダメージを与える凄い情報を仕入れたの。でもそれは、私にとってとっても辛い事でもあったのよ…」
ジンジャーは悲痛な表情で話を続けた。
彼女が得た情報とは治水工事の一部をビッグプレイス商会が請け負っていたという事、そして、その工事現場には当時立ち退きに応じず行方不明になった者が埋まっていると言うのだった。
「…私はその情報を知ってその場所を掘り返そうとした。だけど、私を追う者達の影も近付いていたの。今まではなんとかその手を逃れて来たけど、今日はついに追い詰められてしまった。そんな所にあなた達が現れたって訳なのよ。私の話はこれですべて」
ジンジャーはそう言って顔を上げ少し笑った。
みんなは何も言えず黙り込んでいた。
「それで、ジンジャーはどうしたいんだい?」
俺は彼女に尋ねる。
「それは、やっぱり堤防を掘り起こしたい。そこにお婆ちゃんがいるかも知れないし、居たらちゃんと埋葬してやりたい。それをやるのは命懸けだと思う。だから、それをやって、衛兵にそれを無事に見せる事ができたら、チームに入ってもいい」
「ジンジャー!」
決意に満ちた表情で言うジンジャーにメイが思わず声をかけた。
「どうするジミっち?」
ベーヤンがニヤニヤしながら俺を見た。
「ジミっちには無理かな~なんせ相手も大商会だもん。商売に差し障るんじゃないの?」
みっちょんが挑戦的な表情で俺に言う。
「ジミっちは帰った方が良い、根性なさそうだから」
シーマンがジト目で俺を見る。
まったく、こいつら俺を煽りやがって。わかったわかった、乗ってやるよ。
「こうなりゃヤケだ!ヤケのヤンパチ日焼けのなすび!色が黒くて食いつきたいがあたしゃ入れ歯で歯が立たないとくらあ!」
俺はおどけて啖呵を切る。
「ぷっ、なにそれ?」
「ふふっ、本当に変わった人ね」
ジンジャーとメイが少し笑う。
「んじゃ、やるんだねジミっち?やるなら早い方がいっしょ?ね?ジー姉さん?」
「ジ、ジー姉さん?え、ええ。本当は今日中にやるつもりだったけど、あいつらが来たから…」
べーやんに言われて目を丸くしたジンジャーはおずおずとそう答えた。
「来たからこそ早くやった方がいいんじゃないさぁ。あいつらどうせビッグプレイスの奴っしょ?証拠消される前にパパっとやっちゃうっかないっしょ?」
「早く行こう。ジミっちは途中で人数分のシャベル買うべし」
「つるはしもあった方が良くない?」
ベーヤンの言葉にシーボーズとみっちょんは答えて立ち上がった。
「シャベルもつるはしも裏にあるわ、持って行きなさい。あんた達、気を付けるのよ」
シーマンがにっこりと笑ってサムズアップする。う~ん、この全身から発する姐御肌のいい女ムーブ、やっぱりこういうのは自信を持ちかつてらいなくやるのがいいんだな。
俺達はシーマン姉さんに感謝をしありがたくスコップとつるはしを借りて件の堤防へ向かった。
勿論、人数分の道具は皆俺が持っている。
幾ら身体強化で力持ちだとは言え手の長さまでは変えられない。全部で七本持って行くのはなかなか厳しいものがったが、シーボーズとみっちょんが無理すんなひ弱なんだからとあからさまな煽りをしてくるので、俺はがんばってしまうのだった。
「この二本松周辺の工事はなぜか夜に行われてたんだって。だからあるとすればここのはず」
日も傾き薄っすらと暗くなる堤防の上でジンジャーは言った。俺は担いだ道具を地面に置く。
ジンジャーは迷うことなくつるはしを手に取り堤防に振り下ろした。
俺も残りのつるはしを手に取る。
ベーヤン達はそれぞれスコップを手にザクザクと掘り進めていく。
「ジミっち、男なんだからもっと頑張れ」
「頑張っとるっちゅーねん!」
シーボーズに言われて俺は言い返す。身体強化をフルに使ってガッツンガッツンつるはしを振る俺。前世にやったサンドボックス系ゲームのようにえぐれていく堤防。
「つーか、堤防壊してダイジョブなのかな?元に戻せる?」
「最悪俺が土魔法で戻すよ」
みっちょんの疑問に答える俺。まあ、人骨が見つかったらそれどころじゃなくなるだろうけどな。
それから俺達は一心不乱に堤防を掘り返した。
「あっ!あった!!あったよ!」
べーやんが大きな声を出す。
俺達はベーやんの元に駆けつける。
そこに見えたのはごっついバングルをはめた手の骨だった。
「これ、お婆ちゃんじゃない。お婆ちゃん、こんなブレスレットしてなかったもの」
骨を見たジンジャーはそう言って首を振る。
「確かにこれって男ものだよ」
べーやんはそう言って俺を見た。ベーやんはこういうアクセサリーとか詳しそうだもんな、こいつがそう言うならそうなんだろう。
「へっへっへ、わざわざ掘り返してくれてご苦労さん。手間が省けたってもんだぜ」
ふいに声がして複数の男達がこちらに近付いて来た。
「そいつは俺達のもんでな、こっちに頂くぜ。姉ちゃん達は外国でしっかり金を稼いでもらうかな。なーに、気持ちよく稼げる職場だ、心配いらねーよ」
集団の先頭にいる眉の無い男が言い、他の男達が一斉に下卑た声で笑った。
「パパに言うから!うちのパパ凄いんだからね!この間だって」
「ちっちっち!ハッタリは通じないぜお嬢ちゃん。こっちは手下から聞いてんだよ。ま、あいつらは根性ねえからシメといたがな。こんなお嬢ちゃん達のハッタリに乗せられてすごすごと帰って来ちまうなんてな、ちょっと考えられないと思わないかい?なあ?」
みっちょんの言葉に被せるように言う眉なし。顔の前で指を振って見せたり、指揮者のように手を動かして見せたり、この芝居がかった態度に妙にもったいぶった物言い。こいつ、自己顕示欲が強いと見た。この手の奴は前世でもよく見かけたが、上手い事くすぐってやれば聞いてもない事までペラペラしゃべりだすもんだ。
「兄さん、あの時の連中とは格が違うみたいですね。だいぶ頭が切れなさるようだ」
「当たり前だ、あんな使い走りと一緒にして貰っちゃこまるってなもんだ。おっと、自己紹介が遅れたな。俺はナーブ・カイサン、いいとこの坊ちゃん嬢ちゃんには聞きなじみないかも知れないが、そこの女は知ってるはずだぜ?しっかしお前、小ざっぱりしたら随分いい女じゃねーか?こりゃ、金になるなあ」
眉なし男カイサンはそう言ってジンジャーを見た。
「知ってるんですか?」
俺はジンジャーに尋ねる。
「ええ、ビッグプレイス商会子飼いのギャング団バッドボーンのヘッドよ。ビッグプレイスの汚れ仕事はみんなこいつらが引き受けてるって話だわ。あんた達がうちのお婆ちゃんを埋めたのね!許せない!」
ジンジャーはそう言ってカイサンを睨みつける。
「許せなきゃどうするってんだ?どうもできねーだろ?悔しいかい?悔しいだろう?そんない粋がっても何もできない、今更何をしようが何を言おうが何の意味もない。オーヨチヨチ、その慣れの果てがお前って訳だ。そうだよ、お前のババアを殺したのは俺だよ!ジジイも俺がやった。どうだ?どうする?殴ってみるか?ん?」
「この野郎!!」
首を伸ばしてジンジャーに見せつけるカイサンに躍りかかろうとするジンジャーだったが、すぐにメイが羽交い絞めにする。
「落ち着いて、頭に血が上ればあいつの思惑通りになっちゃうから」
わかってるじゃないかメイ。カイサンはなんだかんだ言って、今の位置からこちらに近付こうとしていない。恐らく、手下の言う事を信じちゃいないがこちらには何かしらの武力があるとは思い不用意に近づかないんだろう。
それで、こちらを挑発して自分から飛び込ませようとしているんだろう。
「どうせ僕たちは外国に売られちゃうんでしょ?だったら聞きたいんだけどさ、この骨の正体は誰?これ女性じゃないでしょ?」
「ふふっ、知りたいか?どうせお前らはこれから外国の変態のペットになる運命だ、そんなに知りたければ教えてやろう、新しい飼い主にでも聞かせてやればいい。その骨はな、堤防建設反対運動の首謀者の骨よ。住民をまとめて居座り値段を吊り上げようとしてたんでな、そこに埋めてやった訳よ。あの時は暇がなかったから取れなかったが今なら手首のバングルも楽に取れるなあ。いつか掘り起こす事があったら俺が頂こうと思ってたのさ。俺は、思った事は必ずやる男なのさ」
片方の口角を上げて笑うカイサン。ニヒルに笑ったつもりなんだろうが痙攣したようにしか見えん。
「それじゃあジンジャーさんのお婆ちゃんは?どこにいるの?」
「だからババアは殺したと言ったろうが」
「いやそれはジンジャーさんを煽るための嘘でしょ?ここに埋まってるのはこの人だけでしょ?だって、他にも埋まってるんだったら、それも掘り起こしてから声かければ良かったわけだし。本当の事を教えてくださいよ。どうせ僕たちが異国の変態に売られちゃうんだし」
「ひっひっひっひ、そうだよ、確かにそいつのババアは殺しちゃあいない。裁縫の腕が良かったんで働かせてるよ、最近じゃヤグー編みが流行ってるだろ?婆さん結構器用でな、そいつをやらせていい稼ぎになってるよ」
「どこで働いてるんです?ドンラックって店の地下でな、ま、幽閉っていうのかね、お姫様みたいでいいだろ?」
「その店が何処にあるのか知ってる?」
俺はジンジャーに尋ねる。
「うん、知ってる」
ジンジャーは目を潤ませてそう答えた。
「じゃあ、もう聞く事もないな。じゃあカイサンだけにここで解散!なんちゃって」
俺は大きな声で言ってやる。
「なんだあ?お前、なんか薬でもやってんのか?それとも恐怖にイカレちまったか?めんどくせー、お前らもういいや、飽きたわ」
カイサンはそう言ってダルそうに腕を振った。
男達が一斉に懐に腕を突っ込む。
「みんな!しゃがめ!」
俺は両手で空雷弾を連射しながら言った。
ベーやん達は手に持った道具を離し一斉にしゃがみ込む。
俺はゲイルで飛び奴らに突っ込む。
空雷弾を喰らってない奴らが懐から術式武具を取り出し発砲する。
俺は奴らの群れの中央を割るように飛んでいたため、術式武具から飛び出た氷の槍は味方同士に当たった。
「ぐあっ!」
「ぎあぁぁ」
「いてぇー!いてぇーよう!」
「があぁ!」
味方の氷槍を喰らった男共が悲鳴を上げて地面を転がりまわる。
「バカ野郎!仲間に当たる!飛び道具を使うな!!」
カイサンが叫ぶ。
「でも俺は使うけどね」
俺は奴らの中を飛びまわりながら空雷弾を撃ちまくる。
男達は懐から短刀を抜き俺に斬りかかる。
俺は地面すれすれに高度を落とし地面に背中を向けて奴らの足元を飛び回り、男達に片っ端から空雷弾を当てていく。地面をはいずってる相手と戦うなんて普段やったこともないんだろう。男達は刃物でついたら良いのやら蹴ったら良いのやら判断もできず、ギクシャクした動きのまま空雷弾を喰らってぶっ倒れていく。
最後の男をぶっ倒した俺はぼんやりしているカイサンの目の前に立った。
「部下の言う事も真面目に聞いた方が良いよ。そうすりゃ何かしらの対策をとれたかも知れないからね」
「こっ!こんのやろ!」
手に持った術式武具を振りかざすカイサンの腹に俺は空雷弾を連射する。
「にゃっ!!」
カイサンは身体を九の字に折り曲げ後方に吹っ飛んだ。
「以上、終了。んじゃ、ジンジャーさん、ドンラック行くよ。ベーやんは衛兵呼んで」
「おう、行ってらっさー」
俺はさっきゲイルで飛んだ時に見たすぐそばに停められている馬を引っ張って来る。恐らくカイサン達が乗って来た馬だろう。
俺は微妙な表情をしているジンジャーを乗せて馬を走らせる。
メイが何か言いたそうな顔をしていたが、ぶっ倒れた連中の上着を脱がせそれで拘束していたみっちょんに手伝ってくれと声をかけられて我に返ったのか、倒れた連中の拘束を手伝い出した。
まあ、話したい事も色々あるだろうが帰ってからに取っておいてくれよ。
俺はジンジャーに道案内して貰いながら馬を走らせる。
ドンラックというのは割と大きな衣料品店だった。
「こんちはー、地下室どこっすかー!」
俺は大きな声で言いながら店に入り、あっけに取られてポカンとなっている店員さんを後に店の奥にズカズカと入りこんだ。
「なんだテメー!」
「どこのもんだ!」
こんな店には似合わないガラの悪い男達が奥から湧き出てくるので、俺はそいつらに空雷弾を喰らわしながら奥へ奥へと向かった。
「まったく、道案内に湧き出てくるようなもんだな」
俺はガラの悪い男達に空雷弾を喰らわしながら進む。
「あなた、何者なの?」
「ベリンボールチームの…あれ?俺ってなんなんだろ?監督はケイトだし。だいたい女子チームだから俺の出る幕ないし。つーか、女の子ばっかりの中に俺なんかがいると邪魔になる事ばっかりだよなあ、俺ってやっぱ邪魔かなあ?男がいると言いにくい事とかもあるよねえ?あ~、なんか気が重くなってきちゃった」
俺はジンジャーに言いながら改めてベリンボールチーム内での自分の立ち位置に疑問と不安を感じてしまいながら、出てくる男に空雷弾を喰らわし地下への階段を下る。
「つーか、何人いるんだ?こいつら?」
「これまでに十人以上倒してるわ」
「まだいるし」
階段を降りた先に男が三人おり、こちらを見て剣を抜いて襲い掛かって来る。うんざりしながら俺はそいつらに空雷弾を喰らわすと腰についていた鍵束を取り上げる。
「これの鍵じゃない?」
奥にある大きなトビラを指差すジンジャー。
俺は急いでそのトビラの鍵穴に鍵をさす。
ガチャリと重厚な音がして鍵が開く。
俺はそっとトビラを開く。
その向こうにあったのは大勢の人が縫製作業をする姿であった。
「お婆ちゃん!ノブ婆ちゃんいますか!ゼンよっ!ゼンが来たのよ!」
「何?何なの?」
「もしかして助かったの?」
「あいつらは?あいつらじゃないの?」
「逃げられるの?」
ジンジャーが叫ぶと室内が一斉がざわついた。
「おお!ゼンかい?ゼンなのかい?」
「お婆ちゃん!」
ひとりの老女が前に出るとジンジャーはそう言って老女の下に走り出し強く強く抱きしめるのだった。
ひとまず、よかったよかった。




