次の助っ人を探せ!って素敵やん
メイが仲間になって翌日の朝。
俺は自分の部屋で昨晩のメイの話を思い出していた。
メイは母が身体を壊し職を失うまでは普通に学校に通っており、そこでベリンボールチームに入っていたのだそうだ。そこでのメイは地域でも名の知れた投手だったのだけど、チームの成績自体は芳しくなかったのだ。
なぜかと言えばそれはメイの球を受け止められる捕手がチームにいなかったからだ。
その頃、隣町のベリンボールチームに腕利きの捕手がいると聞いたメイはどんな選手か見に行った
その選手は走れば鳥のように速く、打てば場外へバンバン球が飛び、守ればその判断と肩の強さに驚かされたと言う。
メイ曰く、あの選手がうちのチームだったらと奥歯を噛みしめる思いだったそうだ。
ところがどうした訳かその選手は地区大会には出てこなかった。
風の噂で聞いたところ、その選手は両親を早くに亡くしお爺さんとお婆さんに育てられたのだったが稼ぎ頭だったお爺さんが亡くなり学校を辞め働きだしたのだそうだ。
その時はまさか自分も同じように学校を辞める事になるとは思わなかったけどね、とメイは笑って言った。
メイはずっとその選手の事が気になっていた。気にはなっていたのだが、自分も生活が苦しくなり日々の事に忙殺され昔の事、特に学校時代の記憶は薄れかけていた。
そんなある日、たまたま出かけた隣町でメイはその選手を見つける事になる。
賭けボールの貸しを取り立てに隣町の料理屋を訪れた時の事。
そこで、ボロキレみたいな服を着て店の親父に追っ払われている彼女を見かけたのだ。
取り立ての相手はその親父だったので、少しの動揺とイラつきを覚えたメイは容赦せずに全部の金額を取り立てると店の外で開店前の準備をしていたその店の若いのに彼女の事を尋ねた。
その若いのが言う事には、しばらく前から居ついた放浪者であちこちで残飯をたかっているのだとか。
それを聞いたメイは彼女を追いかけようと思ったけれど諦めたと言う。
今、顔を合わせるのは彼女の望みではないだろうと考えたのだ。
メイ自身も胸を張って昔の好敵手に会えるような生活をしているわけではなかった。
そんな訳で、心当たりはあるけど期待されると困るとと答えたのにはそんな訳があったのだった。
「うぅー、ちっと飲み過ぎたな」
俺は昨晩の事を思い返して頭が痛くなり水を飲んだ。まったく、マーシャルの奴は飲み会を盛り上げるけど飲み方が若すぎて参っちまうよ。とにかく浴びるように飲むし人にもガンガン進めるんだもんなあ。みんなも結構飲んでたから今日は二日酔いでキツイんじゃないかね?
『ガンガンガンガン!ガンガンガンガン!』
「勘弁してくれよ、二日酔いの頭に響くってんだよ」
突然嵐のように部屋のトビラが叩かれた。
俺は愚痴りながらトビラを開ける。
「クルース氏!いつまで寝てるんすか!もうメイ氏が来てますよ!」
扉の向こうにいたのはソロニックだった。
「いや、お前、大丈夫なのかよ?」
「何がっすか?うわ、めっちゃ酒臭いっすよ?早く顔洗って来てくださいよ」
「そんなに酒臭いか?つーか、お前、ホントに平気なの?昨日あれだけ飲んだのに?」
「何言ってんすか、あれくらいで。早くしてください。みんな部室で待ってるんすから」
「わかったわかった。手早く済ますから中に入ってちっと待っててくれ」
「え?部屋の中っすか?そ、それは、マズいっすよ、明らかにマズいっす」
「外に立たせとく方がよっぽど体裁悪いよ」
俺はキョドるソロニックの手をひっぱり部屋の中に入れると、速攻でシャワーを浴びる。部屋の外に女の子立たせてなんて他の生徒に知られたらなんて言われるか知れたもんじゃない。まったく、ストームの奴がいなくて良かったよ。あいつに知られると色々とめんどくさいからなあ。他に漏らす事もないし特になんとも言わないけど、何かの折に匂わせて俺を誘導しようとするからなあ。真っ当に頼まれればそうそう断りゃしないのにな。あいつなりの照れ隠しなのかもしれないけど、いちいち過去の恥ずかしい事を匂わされるこっちの身にもなって欲しい。
俺はシャワーを浴びながら歯磨きも済ませると素早く着替えてソロニックの元に戻る。
「お前、なにやってんの?」
「ぶふっ、いや、男子の部屋に来るの初めてなもので、作法がわかりませんで、はい」
「作法って、お前、その手に持ってるのストームの枕だぞ?」
「え、あ、はい。そのようで」
ソロニックは手に持っていた枕を急いでストームのベッドに戻すとあらぬ方を見てそう答えた。さっき枕に顔をうずめていたように見えたけど?こいつも結構ヤバい奴なのかもしれないな、ちょっと扱いには注意しないとまずいか?
「行こうぜ」
「はいっす」
俺はとっとと寮を出る事にした。このままこいつを部屋に置いとくと何されるかわからんからな。さっきの枕の件だって怖くて詳しくツッコめなかったもん。
つーかこいつどうやってここまでやって来たんだ?基本、男子寮は女人禁制なんだが。廊下に出た俺はふと思った。
「あ、自分、帰り道がありますんで」
ソロニックはそう言って廊下の突き辺りにある窓から身を乗り出すと、近くに生えている木にぴょんと飛び乗った。
「それじゃあ、部室で待ってますんでよろしくっす」
ソロニックは木の上でそう言うとスルスルと地面に降り小走りで去って行った。お前は忍者か。
俺は普通に寮を出てベリンボールチームの部室に向かった。
「おせーよクルース!何してんだよ!」
「別に遅くはねーだろーよ、つーかお前平気なのかよ?」
開口一番俺の顔を見てがなり立てるマーシャルに聞く。
「平気ってなにがだよ?」
「く、クルース氏は昨日の酒がまだ残ってるんす」
ケロッとした顔で言うマーシャルに先に着いていたソロニックが説明する。
「なんだよクルースちゃん、酒弱いなあ」
マーシャルが俺を見て笑って言う。
「俺が弱いんじゃない、お前らが強すぎるんだ」
「ぷっ、それカッコつけて言う事?」
「お、オハヨーさん」
笑うメイに俺は挨拶をする。相変わらず朝から妙な色気を発してるよこのお方は。
「コホン、早くお座りください」
「おはよケイト、それにみんなもおはよーさん」
俺はみなに挨拶をして部室のイスに座った。
「さて、それでは改めて皆さん、おはようございます」
「いいってケイトちん。挨拶も自己紹介もお先にお済ませしてんだからさークルーちんのぶんはもーいっしょ?いっしょいっしょ?いしょらんらん」
ギャル子ベイカーが言う。まあ、それはいいけど、こいつも相変わらず言ってる事が良くわからん。
「ちゅーかさー、ひとり増えただけじゃ試合もできないっしょ?どーすんわけ?」
「ホント、そう。浮かれてる場合じゃないと思う」
ミラーの後にシンプソンが言う。こっちも相変わらずのダルダルやる気無しモードにクールモード。
「だ、だから、探しに行くっす、最後の仲間を、探しに行くっす!」
「最後の仲間?」
「どこにいるってのよ?」
「しゅわしゅわちーっす」
聞き返すシンプソンに口を尖らすミラー、そしてベイカーはもう完全に意味不明だ。
「隣町っす」
ソロニックが答える。
「隣町ってどこよ?ベルツザルグ?だったらうち、ちょくちょく行くけど」
ベイカーが聞きソロニックはメイを見た。皆の視線がメイに集中する。
「ええ、そうよ」
「だったらうちも行くっしょ、ついでにエルワイスに寄ってつけ爪買うっしょ」
「お前なあ、遊びに行くのと違うんだぞ?いいか?事情を話して」
「いいわよ」
メイの了承を得て俺は隣町にいるかも知れぬ助っ人の事をザックリと説明する。
その助っ人の実力と現在の状況を。
恐らくのっぴきならない事情があるであろう事、そしてメイと会っても良好に再開を祝すとはいかないであろう事を。
「つまるところ、そんなに楽しい事にはならないと思うけども、それでも良ければどうぞって事なんだけどね」
メイがあっけらかんとした口調でそう言った。
「別にいいっしょ。ミっちんとシーボも行くっしょ?」
ベイカーが言う。
「えー、まあ、エルワイス寄るなら言ってもいいけど」
お?いつもやる気なしのミラーが了承したぞ?ふうむ、ベイカーの力なのかね?ああいうタイプって人の懐に入るの上手だったりするからなあ。
「私は彼を見てないといけないから、昨日の夜も色々と暴れたみたいだし」
シンプソンも了承する。動機が些か引っかかるがまあ、来てくれるならありがたい。
「自分も行くっす」
「ちょっと待て、お前とケイトッちと私は別件があるんだよ」
立ち上がろうとするソロニックの首元を引っ張ってマーシャルが言った。
「な、なんすか?なんの用事っすか?」
「そんなもん決まってんだろ!メンツが揃えば次にやるのは試合だろ!練習試合を引き受けてくれる相手を探しに行くのさ!な?行くぞ!」
マーシャルが言うとケイトは頷き俺の目を見た。はは~ん、マーシャルとソロニックは昨日の一件でメイと親交を深めてるから今回は残りの三人で親交を深めてくれってんだな?オッケーオッケーわかりましたよ。
俺はケイトにサムズアップする。
ケイトは頷いてマーシャル、ソロニックと共に部室を出て行く。なんの事かわからないソロニックは俺の方をチラチラと見ながら名残惜しそうに退出して行った。
「さてと、んじゃうちらも行くかみっちょん、シーボーズ、ベーやん行くぞ」
俺はメイと一緒に立ち上がり連中に声をかける。
「みっちょんて私?なにそれ?」
ミラーがキョトンとした顔で言いシンプソンを見る。
「シーボ。ズをつけないし伸ばさないし」
そう言うシンプソンの顔は表情の変化に乏しくわかり辛かったが、そこまで嫌がってはいないように俺には感じ取れた。
「ま、いっしょ。つか、うちなんてベーヤン?とかイミワカンネーし的な?ま、ちょっとカワイーかもしんないからいいけども」
席を立ち言うベイカー。
隣にいるメイが俺を見て少し笑った。
よし、今日はこのメンツで行くとしますか。
俺達はメイの案内で隣町のベルツザルグへと向かった。ベルツザルグは乗合馬車で行けばすぐの所で住宅地が多くファルブリングのベッドタウン的な位置づけで発展した町だという事だった。
「とりあえずエルワイス行くっしょ」
馬車を降りて開口一番ベイカーが言う。
「おい、遊びじゃないっていったろベーヤン」
「わかっとるちゅーに、ちゅーかクルーちんニャーニャーうるさいっしょ、猫ですか?」
「ニャーニャー」
ベーやんはそう言って笑いながらすたすた歩き、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべたみっちょんは猫の鳴きまねをしてそれに続いた。
「おい、って、もう、参ったな」
「なんか考えがあってやってるはず。ベーはそう言う奴、信じていこ」
シーボーズが俺の袖を引っ張りベーやん達に続いた。俺はメイの顔を見る。メイは俺の目を見て頷きシーボーズの後に続いた。
ビューティーでキュートなガールズのショップはここ、と大きく書かれショキングブルーの矢印の看板で示された店にはこれまたビビットなピンクでエルワイスと看板が掲げられていた。
「ちょりー。シーマンいる?」
軽い調子で店先にいる店員さんに声をかけるベーやん。
「あ、シーマイルズ店長なら奥です。お呼びしましょうか?」
「たのんまーし」
気の抜けた声で言い目の横ピースするベーやん。店員はすぐに店の奥に入って行った。なんなの?ベーやんってもしかしてこの店の上得意なのか?
「やだ~お久しぶりぶり~。ぶりぶりす~す~」
店の奥から出て来たのは白塗り厚化粧のステラーカイギュウみたいな顔をした大きな女性だった。つーか本当に女性か?
「ぶりす~」
良くわからない挨拶をして店長とハイタッチするベーやん。
「今日はど~したのかしらぁ~?お願いしてた新作ファンデカラーができたのぉ~?」
「それ、もちっと待っててぴょん。今日は別件別件、ベッケンバッケンボッケンケンで来たんよ」
「あらあら、それで大勢でいらしてくれたって事?」
「ま、そーなるっしょ」
「ふ~ん、ボッケンケンねえ。あんまし人と深く関わらないベエがねえ、珍しい。わかったわ、とにかくここじゃゆっくり話もできないわ、裏に私の作業部屋があるからそこで話を聞きましょ」
「悪いねシーマン」
「いいって事よん。あんたらもついて来な」
長い髪をなびかせ高いヒールの靴でカツカツと店の入り口に向かうシーマン。ううむ、この自信に満ちた振る舞い、いい女に見えてきちまうから恐ろしい。ステラーカイギュウなのに。
そんな訳で何が何だが良くわからないが俺達はシーマンの作業部屋とやらに案内される。
「どうぞ、お入りになって」
お上品な口調で言い俺達を小屋の中に入れるシーマン。
小屋の中には至る所に作りかけの服や帽子、可愛い小物なんかが飾ってありなるほどクリエイティブかつ職人的なお仕事をする部屋という感じ。
「ま、狭いとこだけど適当に座って頂戴。で?本題に入って頂戴」
「あんがとちゃー。んじゃ早速本題に入っちゃうけどね…」
ベーやんは探し人の事をシーマンに聞かせた。
「…ちょっち情報少なしだけど、シーマン顔広しっしょ?心当たりないかねえ?」
「あるわよ。でも、会ってどうするのかしら?そこんとこ次第よね」
シーマンは腕を組んで小首をかしげる。いちいちいい女にしか似合わないような仕草すんだよなあ、この人は。
そんでもって、いちいちそれが板についているのが腹立たしい。
「話していい?」
ベーやんがメイを見る。
「うん、お願い」
メイはそう言って頷く。
「んじゃ、話しちゃうけど…」
ベーやんはなぜ彼女を探しているのか説明する。
「ふ~ん、じゃあ借金取りってわけじゃあないのねあなた方は」
値踏みするような目をして俺達を見るシーマン。
「いや、どーみてもそんな感じじゃなくね?うちら」
「わかんないわよ~?最近じゃいいとこの学生さんが高利貸しやってるなんて話しも聞くし」
「ちっちっち!うちらにそんな甲斐性ないし」
指を振ってシーマンに答えるベーやん。
「べーやんならやりかねないし」
「ありえるね、べーなら」
みっちょんとシーボーズが言う。
「うっせーっつーの、てかその子、金貸しに追われている系?ヤバい系?」
「まーね。私らそっち系には顔効かないからさ、かばってやる事もできなくってね」
寂し気に言うシーマン。
「なに?シーマンその子に情が移った的な?」
「まーね」
「その子に昔の自分を見ちゃった的な?」
「まあ、そんなとこ」
「センチなのよねシーマンて」
「そーなのよ」
ベーやんとシーマンはふたりして遠い目をしてそんな事を言い合った。おいおい、ふたりともどんな過去を背負ってるんだよ?少なくともべーやんはファルブリングの学生なんだから、そんな壮絶な過去はねーだろ?そうだと言ってくれ。
「ま、そう言う事なら教えてあげる。ヨンタンゼーロの教会跡知ってるでしょ?」
「ああ、あの廃墟ね」
「昼間はあそこに隠れてるわ」
「ありがっちょ。行ってみるわ」
ベーやんは軽い調子でそう言うとスッと席を立った。
「この借りはいつか返すから、じーまーで」
「くすっ、いいから早いとこ新色お願いね」
「おまかー」
軽く手を上げると振り返りもしないで部屋の外に出るべーやん。こいつ、シブすぎるっしょ。
「おにーさんは残ってってもいいのよ~」
「し、しつれーしゃーーす!」
しなだれかかって来るシーマンを押しのけた俺はバネのように直立して一礼し部屋を出るのだった。
「ぷっ、クルちんやっとモテたんだから居れば良かったのに」
「そうそう、こんな機会はまたとない。てか、一生分のモテをここで使いきった」
みっちょんとシーボーズが言いメイもケラケラと笑った。
せいぜい笑ってくれ。
俺は肩をすくめる。
べーやんもいい奴っぽいし、みっちょんとシーボーズも無愛想だけど面白い奴らみたいだ。メイとも普通に会話をしているし、このベリンボールチーム良い奴ばかりじゃないか。
俺は前を行く連中を見ながらそう思うのだった。




