まずはひとり!って素敵やん
「ね、ねえ、お金入れてっていいかな?後、家に寄っていいかな?」
「おお、俺もさせて貰ったしな、どうぞどうぞ」
震えた声で言うメイに俺は返事をする。
「ありがと!」
大金の入った袋を胸に抱え小走りで夜の街を行くメイ。俺はその後を追う。
先ほども寄った古物商でメイが入金している間、俺はちょっとした買い物をする。何度も利用させて貰ったのであいさつ代わりって意味もあるが、人のお宅にお邪魔するのに手もやげなしってのもはばかられたってのもある。
大金を入金し肩の荷が下りた風情のメイに俺はついて行き彼女の家に向かった。
メイの家は集合住宅で台所と寝室があるだけの小さな部屋だった。
「お帰りお姉ちゃん!」
「お帰りー!!」
少女ふたりが走ってやって来てメイに抱き着いた。
「なんだいメイ?お客さんかい?」
「起きなくていいよ母さん」
「お邪魔します、どうぞそのままで」
奥にひいた布団から起きあがろうとする母に声をかけるメイに続いて俺は挨拶をする。
「誰?姉ちゃんの彼氏?」
「わぁー!彼氏なの?お金持ち?」
メイに抱き着いた妹ふたりが俺を見て言う。
「残念ながら違うよ。お金持ちってのはあってるけどね」
「えーー」
「ぶーー」
「こら、挨拶なさい」
不満顔でぶー垂れる妹ふたりにメイが言う。
「マイタムです」
「モイタムです」
妹ふたりがペコリと頭を下げて言う。かわいいなあ、でもお母さん、似たような名前つけたなあ。
「トモ・クルースだよ、よろしくね」
俺はふたりの頭をくしゃくしゃとやって言った。
「これ、つまらないものだけど」
俺はマイタムとモイタムに先ほど古物商で買って来た土産を渡す。
「わぁ!かわいい!」
「かーわぁいいー!」
俺の上げたお人形を手に持ち嬉しそうに言うマイタムとモイタム。
「さっき何か買ってると思ったらそんなもの買ってたの?まったく、君って変なとこに気が回るのねえ、モテるでしょ?」
「うんにゃ、全然モテないよ。それより、これはお母さんに」
俺は人形と一緒に古物商で買って来た袋をメイに手渡す。
「何これ?」
「ヤグー茶のセット、つまらないものですが」
「あらぁ、ご丁寧にありがとうございます」
手に取ったメイの質問に答えると奥でふせっていたメイの母君が上体を起こして俺に言った。
「いえいえ、たまたまあったものですから」
俺はそう言って手を前に出し寝ていて下さいとジェスチャーする。母君は俺に一礼し少し咳をしてから再び横になった。母君はやつれ顔色が悪かった。どのような病かはわからないが、栄養状態が悪い事と衛生状態が悪い事だけはわかる。
「母さん、もうこんな苦労しなくって良いんだよ…」
メイは布団の近くにしゃがみ込み母君の手を取ると、これまでのいきさつを話し出した。もう、賭けボールは止める事、ブルーとはすっぱり手を切った事、そして新しい働き口を見つけた事を。
「…だから、母さん、もう何も心配いらないの。マイタムとモイタムの事も心配しなくていいわ、私の仕事が安定すればこれからは学校にだって通えるようになるわ、ね?クルース君」
「別にすぐにでもいいよ」
俺は答える。
「え?何が?」
「住処も学校も。住処ならうちは寮があるし、学校だって備品の搬入なんかもしてるから多少顔が利くしね。働きながらファルブリングの一般向け授業に出てる子もいるよ。なんならメイも受けてみれば?」
「そんな、夢みたいな」
メイが俺の提案に対してとても信じられないと言った顔をする。
「別に夢じゃないさ。従業員が教育を受けてくれるのはうちとしてもメリットがある事だからね。それで見識が広がればうちの仕事についても新しい見方を提示してくれるかもしれないでしょ?実際、そうして色々と提案してくれる従業員もいるんだよ。それに、見識が広がって別の世界を見てみたく成ればそれもそれで喜ばしい事だしね」
「なんで?従業員が減っちゃうじゃない」
メイがポカンとする。
「新しい場所で活躍してくれたらうちの良い宣伝になるじゃない?それに、もしかしたら良い取引先になるかもしれないでしょ」
目をまん丸くして口をポカンと開けるメイ。
「オホホホホホ。メイ、あなた本当に良い人と知り合えたのね。クルースさんと言われましたね?これからも、よろしくお願いします」
母君は再び上体を起こすと元気そうに笑い、俺を見てそう言ったのだった。
その後、俺とメイは具体的な話を詰めた。引っ越しの準備はろくに荷物もないのですぐにできると言うので明日にでもという事になった。学園に戻ってからディアナに話を通せば上手い事計らってくれるだろう。
メイは明日からでも働くと言うがこっちとしてはベリンボール要因としてスカウトした訳で、しばらくはそっちに付き合って貰う事になると説明した。
仕事もベリンボールも両立する今もそうしてるし、とメイは言うが文化祭当日の交流戦までそんなに日もないのでとりあえずはベリンボールに専念して貰う事にする。
その間の給金は俺が個人的に出すと言ったのだがそこまでして貰う訳にはいかない、ブルーの手切れ金もあるししばらくは大丈夫だと言いはるので、寮費と食費はこちらが出すという事でなんとか納得して貰った。
メイの家族に挨拶をし俺達は再び皆が飲んでる居酒屋へ戻る。
「遅かったじゃないか~!早くこっち来て座れ!一杯やれ!ほら!クルース!」
店に着くと顔を真っ赤にしたマーシャルが開口一番そう言って俺とメイにジョッキを振った。
「遅いっすよクルース氏ぃ~。マーシャルさん酒癖悪くって参っちゃいますよ」
「あん?あんだって?あたしがくせっ毛だってか?バッハッハッハ!そりゃそーだ!まあ、そーだわなあ!」
何が面白いのかジョッキをテーブルに叩きつけて爆笑するマーシャル。
「スマン、待たせ過ぎたみたいだな」
俺はソロニックとケイトに謝って席に着く。
「待たせすぎだっちゅーの、だっちゅーのっ!!バッハッハッハ!」
うっとおしい絡み方をしてくるマーシャルを手で遠ざけた俺はこれまでのいきさつをみんなに説明する。
「…てなわけで、明日からうちのチームに加わってくれる事になった。よろしく頼むよ」
「一生懸命頑張るよ」
俺の説明の後、はにかんだような表情で言うメイ。
「やったっす!強力な助っ人が手に入ったっす!」
「ヤッターヤッターヤッターーボン!バッハッハッハッハ!」
喜ぶソロニックと意味不明な事を言って爆笑するマーシャル。
「ふぅ、これであとひとりですね」
ケイトが深く息をつきそう言った。
「そうでした、あとひとりいないと試合できないっす」
ソロニックもそれに気が付き意気消沈した表情になった。
「なに?どういう事?」
怪訝そうな顔をするメイに俺はファルブリングベリンボールチームの窮状について説明する。
まったく今日は説明してばかりだな。
「って今まではどうしてたのよ?部員が足りないんじゃ試合もできないじゃない」
「他所のクラブから助っ人募ってやってたんすけど、今は文化祭なんで人手が足りなんすよ。面目次第もございません」
呆れたように言うメイにソロニックがまるで自分の責任かのように言い頭を下げた。
「にゃーんでお前が謝んだよ~、謝るんならあたいの責任じゃぞよ。なんたってワシキャプテンじゃもの!ばっはっはっはっは!」
胸を張って大笑いするマーシャル。
「威張って言うこっちゃねーべさ」
俺はツッコんどく。
こいつの酔っ払いっぷりはなかなかなもんだ、こいつは飲み会要員としては一流だな。
「なるほどね、それで後何人必要な訳?」
「あてでもあるのか?」
腕組みして言うメイに俺は尋ねた。
「う~ん、まあ、会ってみないとわからないけど心当たりはなくはないわ」
「「「マジ?」」」
思わず聞き返してしまったがケイトとソロニックとハモっちまった。ケイトは顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いてみせた。
「クスッ、あまり期待されると困るけどね」
メイは少し笑ってそう言った。この様子じゃうちの部員ともすぐに馴染みそうだな。




